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『その間柄に浪漫はなく 』
オリヴィエ・オドランaa0068hero001)&ガルー・A・Aaa0076hero001

 オリヴィエ・オドラン(aa0068hero001) がその薬屋の、自動でもないドアを開けると、そこに目的の人物の姿はなかった。
 人通りの少ない路地にある店とは言え、ドアに鍵もなく、無用心という他ない。
 盗まれるような物はないだろうが、と思いながらも、オリヴィエは軽く息を吐き出し、店を出た。
 帰るのではなく、裏手へ回り、どこで油を売っているのかとその姿を探し始め───程なく、空気を裂く音が聞こえてくる。
「……」
 オリヴィエは音の主が捜している人物、ガルー・A・A(aa0076hero001) であることを確信し、歩を進めた。
 聞こえてくるのは裏庭の一角──生垣の向こうを覗くと、予想通りの姿がある。
(鍛錬していたのか)
 オリヴィエは心の中で呟き、じっと見る。
 ガルーは木の棒を用いて、突きの型や守りの型を確認しているが、これは彼が槍の扱いに長けるからだろう。
「……っと、何だ、来てたんなら声掛けろよ」
「店に鍵が掛かっていなかった。無用心だ」
 ガルーがオリヴィエに気づき動作を停めると、オリヴィエは店の無用心さを咎めた。
「心配してくれてる? オリヴィエちゃんはいい子だなー」
「……泥棒を支援するつもりがないだけだ」
 オリヴィエは溜息を吐きながら、裏庭へと足を踏み入れる。
 1階部分こそ店舗スペースがあるが、2階部分は住居スペースとなっているこの家屋の裏庭は適度なスペースを生垣に囲み、居住者のプライバシーを守り、且つ、癒しとなる空間を作り出していた。
「預かってきた」
 オリヴィエがガルーへそれを差し出すと、ガルーはすぐにオリヴィエの能力者のお使い物と理解して受け取る。
 シンプルな紙袋に入っているそれを見、オリヴィエを見、ガルーが小さく吹き出した。
「……?」
「何でもねぇ。……なぁ、オリヴィエ、折角ここまで来たんだし、相手しろよ」
 相手というのは、言うまでもなく手合わせだろう。
 オリヴィエがこの世界に降り立ったその日から面識があるこの男は相棒を別とすれば、この男とこの男と誓約を交わしているまっすぐな瞳をした少女が最も長くいる存在だろう。自分の『過程』も知る男の意図が読めない程愚鈍ではないつもりだ。
「意味が解らない」
「オリヴィエちゃん、冷たーい、俺様涙出ちゃう。オリヴィエちゃんをそんな風に育てた覚えないのにー」
「育てられた覚えもないが」
 オリヴィエは、ガルーのバレバレな嘘泣きに呆れる。
 が、ガルーも嘘泣きを引っ張るつもりはないのか、あっさり止めた。
「別にたまにはいいだろ?」
「意味のない道楽には付き合わない」
「なら──俺様とひとつ勝負をするか?」
 ガルーがにやりと笑ってみせると、オリヴィエが胡乱げにこちらを見た。
 外見に見合わぬ冷静さを持つこの見掛けは少年は、表情が豊かな方ではない。が、死に絶えている訳ではなく、呆れたり困ったり、それから、子供扱いすると意外にムキになったりと、普段が普段だからこそ見せるものが可愛く感じる。
 可愛いから、わざと子供扱いしている所もある。
 それは、この世界に召喚されたばかりの頃、『人』とは言い難い時期を知っているからだろう。
 出会ってから今日までの軌跡の中に、『人』になっていく過程も存在していたから。
 だから、こう持ち掛けてやるのだ。
「勝ったら普段の子供扱いも改めよう。どうだ?」
 数秒の静寂の後、オリヴィエが上着を脱いだ。
「その言葉、違えるなよ」
 了承の返事だ。
 それまでいつもの表情で眺めていたガルーは木の棒をあっさり手放した。
「本気で来いよ、オリヴィエちゃん?」
 その言葉と同時に余裕ある親しき笑みがガルーから消えた。
 代わりに浮かぶのは、戦いを妥協なく愉しみ、けれども、負けるつもりなど微塵もない好戦的な笑み。
 口は笑んでいるのに眼は笑っておらず、その色もない。
「……」
 オリヴィエは携帯しているナイフの刃を抜き、構えた。
 ガルーが木の棒を放棄したからと言って、自分が合わせる必要はない。
 大人の余裕? 出せると思うな。
 オリヴィエは滑るようにして地を駆ける。
 ガルーと力勝負をしても勝ち目はないが、スピードと軽さはこちらが上だろう。
 ならば、それを活かし、一撃で──
「!」
 オリヴィエは咄嗟にバックステップで攻撃を回避した。
 向かおうとしていたその空間をガルーのローキックが鋭く切り裂いている。
 ガルーもオリヴィエが体格差を考慮した戦いを来ると見越しており、間合いに入り込む動きに対して容赦がない。
 が、オリヴィエもそこで諦める訳ではなく、間合いを保とうとするガルーの攻撃を見つつ、機を伺う。
(隙は、攻撃直後。回避に徹すれば隙は生まれる)
 間合い的にまだ蹴り技中心だが、更に接近すれば打撃技もあるだろう。
 と、ガルーが機を見たのか、オリヴィエへ回し蹴りを繰り出してきた。
 オリヴィエは横に跳んで回避すると、低空から間合いを詰め、ナイフへ急所を狙おうとし──
「ハズレだ」
 ガルーに腕を掴まれていた。
 直後、オリヴィエの身体が宙を舞う。
(フェイクか)
 オリヴィエは空中で体勢を整え降り立つと、ガルーを見遣った。
「ここが戦場なら終わりだったぜ!」
 投げる瞬間に奪われたナイフが地面に転がされ、オリヴィエは拾う。
 研ぎ澄まされたナイフの刃に映る己を見、軽く一息吐いてから、ガルーへ視線を移した。
「勝ち逃げはしないだろう」
「いいぜ?」
 拒否は認めない意向確認にガルーは笑う。
 内心は笑ってなどいられないのだが、オリヴィエに見せてやる程大人ではない。
 掴んだ瞬間、腕の細さに驚いた。
 投げた瞬間、身の軽さに驚いた。
 普通なら受身を取ればいい方なのに、空中で体勢を整えて着地した姿は、信頼する実力の通りのもの。
 速さもそうだが、自分が作った隙を見逃さない機転の良さは素直に舌を巻くのだ。
 ガルーはそれを見せないだけ大人であり、それを見せたくないだけ大人ではなかった。
 そして、オリヴィエはそれらに気づかないだけ、心が幼かった。
(同じ手は通用しねぇだろうな)
 ガルーは分析しながら、リーチを保つべく蹴りを放つ。
 オリヴィエは徒手戦闘は得意ではない為にナイフを持っているが、そのナイフがあってもリーチの有利はこちらにある。
 ガルーは、今度は攻撃をわざと単調にし、隙を大きくすると、オリヴィエは誘いに乗ったかのように懐へ飛び込んでくる。
(珍しく誘いに乗ったか?)
 ガルーが掴もうと手を伸ばした瞬間───オリヴィエがその掌を掴んだ。
 いや、掴んだというのは語弊があるだろうか。
 指と指を絡めるように密着させる、俗に言う恋人繋ぎ。
「え?」
 オリヴィエとは付き合い短くないが、どこで覚えた。
 ガルーの声に動揺が走った瞬間を、オリヴィエは見逃さなかった。
 オリヴィエは捻るように腕を動かし、強制的な体重移動を誘発させ、足払いで地に転がす。
 反撃を防ぐように体重を掛けて乗り、半ば首に抱きつくようにして、脊髄へ爪を押し当てた。
「イーブンだ」
 ガルーは、オリヴィエの声で我に返る。
 手は相変わらず恋人繋ぎのまま。
 それがおかしくて、思わず声に出して笑った。
「何がおかしい」
「まさかこう来るとは思わねぇよ、参った参った!」
 そして、ガルーは恋人繋ぎのことを言ってやると、拘束技と勘違いしていたオリヴィエは彼にしては珍しい苦虫を噛み潰した表情を浮かべた。
 この勝負、引き分けだ。

 オリヴィエは、沈黙のままガトーショコラを食べていた。
 普段食事も睡眠もしないオリヴィエが少量ながらも食べているのは、使いとして届けた物が自分達の能力者から日頃の感謝を込めたバレンタインの贈り物だったからで、オリヴィエが感謝を無碍にするような性格の持ち主ではないからだ。
 そのオリヴィエへ、ガルーがガトーショコラ片手に恋人繋ぎ勘違いをずっと笑っている。
「いやー、俺様もあれは予想外だった。オリヴィエちゃんには恐れ入るなぁ!」
「……それなら、本来の使い方をすればいいのか?」
「は?」
 オリヴィエの反撃にガルーの時が停まり、大人の余裕とやらが崩れた。
 自分を子供扱いは気に入らないが、自分が取る行動やこうした言動でその余裕が崩れるのは、何となく気持ちがいい。
 珍しく、口元を少し上げて、オリヴィエは「冗談だ」と言ってやった。

 家族のような、友人のような、形容し難い男。
 この男への感情に名をつけるなら、情? 愛? 大事? 敬慕?
 どれが正しいのか解らない。

 オリヴィエが解らない間も、ガルーは信頼出来る戦友であり、家族であるとオリヴィエへ笑みを向けるだろう。
 浪漫とは違う間柄、けれども、彼らは彼ららしい思いを抱いて、共に贈られたガトーショコラを食べている。 

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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【オリヴィエ・オドラン(aa0068hero001)  / 男 / 10 / ジャックポット】
【ガルー・A・A(aa0076hero001)  / 男 / 30 / バトルメディック】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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真名木です。
この度は発注ありがとうございます。
付き合いが長く、気の置けない英雄同士、年の差こそあるものの信頼関係がある間柄特有の空気が出るよう心がけて描写させていただきました。
浪漫パーティーノベルはバレンタイン関連という色合いもある為、今回はお届け物が能力者からのバレンタインの贈り物をオリヴィエさん自身が知らずに届けていた(ガルーさんは中身を見てリュカさん、征四郎さんの意図に気づいた)、最終的にその贈り物を一緒に食べたという形にさせていただいています。
戦友のような家族のような、そういった間柄の彼ららしさが少しでも出ていれば嬉しいです。
浪漫パーティノベル -
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2016年02月22日

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