▼作品詳細検索▼  →クリエイター検索


『―― どんな貴女でも大好きです ―― 』
サクラ3853)&エスメラルダ・ポローニオ(3831)

「……」
 サクラは窓の外の景色を見つめながら、小さなため息をつく。
(まだ、エスメラルダには私がセイレーンだと気づかれていない……)
 エスメラルダ・ポローニオ、彼女はサクラにとって深く心を許せる女性だった。
(エスメラルダちゃんも、私がセイレーンだと知れば他の人と同じようなことをするのかしら)
 かつて、サクラには親友、恋人と思っていた人がいた。
 けれどサクラがセイレーンだと知ると、欲望に駆られ、生け捕りにしようとした者もいた。
 そのせいか、サクラは他人に完全に心を許すことに、僅かな恐怖を覚えている。
(エスメラルダちゃんに限って、と思いたいけれど……その確証がないから、怖い)
 セイレーンは不老長寿の美女、血も肉も霊薬になり、全身が金のなる木とも言える。
 だからこそ、余計に人々はセイレーンに対して欲望のまなざしを向けるのだろう。
「……セイレーンである自分を否定するつもりはないけど、ね」
 本来の姿を鏡に映し、サクラは苦笑した。
「……サクラ?」
 そんな時だった。
 迂闊にも鍵を開けたままにしており、タイミング悪くエスメラルダがやってきたのは。
「エスメラルダ、ちゃん……」
 自分を見て、驚いた表情を見せるエスメラルダに『やっぱり』という気持ちがこみあげてくる。
(……そうよね、私はセイレーンだもの。心から私を見てくれる人なんていないんだわ)
 諦めにも似た感情でため息をついた時「綺麗ね」とエスメラルダが言葉を投げかけてきた。
「え……?」
「今までサクラの本当の種族は知らなかったけど、人魚? セイレーン? なのね」
 今までと変わりない笑顔を見せながら、エスメラルダはサクラへと近づいていく。
(もしかして、私を油断させるための……?)
 どうしても過去の出来事から、サクラは完全にエスメラルダを信じきれない部分がある。
「漆黒の鱗が綺麗ね、この姿だと余計に真珠とか珊瑚が似合って見えるわ」
「……エスメラルダちゃん?」
「何? あ、もしかして少し馴れ馴れしすぎたかしら、ごめんなさい」
 エスメラルダは慌てて謝った後、少し距離を取る。
「いえ、そういうことじゃなくて、まさか、これも作戦のひとつなの?」
「……作戦?」
「私を生け捕りにしたりするんじゃないの?」
 サクラの言葉に、エスメラルダはポカンとした表情を見せた後――……。
「あはははははっ! 何それ、あたし、どれだけ悪い奴に見られちゃってるのかな!」
 エスメラルダはお腹を抱えながら、大きな声で笑い始めた。
「確かにサクラがその姿になってるのを見た時は驚いたよ、でも利用しようとか、サクラが言うようなことは絶対考えてないから安心して」
 サクラはエスメラルダの言葉の意味が分からず、首を傾げる。
「どうして? 私を売り払えば三代は遊んで暮らせるお金が手に入るのよ?」
「……サクラはあたしに売り払って欲しいの? それに、あたしは大事な人を売り払ってまでお金が欲しいなんて、絶対に思わない」
 真っすぐ見つめられ、サクラも言葉を失う。
「むしろ、その姿のサクラを見て納得しちゃった。サクラの歌声が美しい理由。一房の金髪と、マリンブルーの瞳。今までどうして気づかなかったんだろうってくらいだよ」
 エスメラルダはニコニコと微笑みながら、サクラの手を取る。
「……っ」
 エスメラルダに手を取られ、サクラは僅かに身体を震わせる。
「怖い?」
 エスメラルダの問いに、サクラがピクリと反応した。
 それが肯定なのか、否定なのか、恐らくサクラ自身にも分かっていない。
「大丈夫だよ。あたしはずっとサクラと一緒にいる。過去に何があったかなんて、あたしには分からないけど……怯えないで。そんな人達と、あたしを一緒にしないで」
 少しでも過去の傷が癒えるように、優しく諭すように言葉を投げかける。
「……エスメラルダちゃん、ごめんね。別にあの人達と貴女を一緒にしているわけじゃないんだけど……それでも、その、やっぱり思い出しちゃうっていうか……」
「うん。分かるよ。だから無理に忘れてなんて言わない。ただ、あたしを見てくれればいいの。あたしは絶対にサクラを裏切らない。傷つけない。ずっと傍にいて守ってあげるよ」
 エスメラルダの優しい声に、サクラは少しだけ泣きそうになっていた。
(心の全部を預けられる人なんて、絶対に出会えないと思ってたのに、そうじゃなかった……)
 サクラが気付かなかっただけで、こんなにすぐそばにいたのだと嬉しさがこみあげてきた。
(私は、自分の愛情をすべて向けてもいいって人に出会えたんだ……)
 利用としてしか見てもらえなかった今までの中、光が差したようにも思える。
「エスメラルダちゃん」
 サクラはエスメラルダの手を握りしめながら、にっこりと微笑む。
「これからも、どうぞよろしくね?」
「……う、うん! こちらこそ!」
 お互い照れくさそうに微笑み合いながら言葉を交わす。
 この日、ふたりは本当に心を通い合わせることになったのだった――……。

―― 登場人物 ――

3853/サクラ/女性/27歳(実年齢72歳)/歌姫(吟遊詩人)

3831/エスメラルダ・ポローニオ/女性/20歳(実年齢20歳)/冒険商人

――――――――――

サクラ 様
エスメラルダ・ポローニオ 様

初めまして、今回執筆させて頂きました水貴透子と申します。
今回はシチュノベツインのご発注をありがとうございました。
ちょっとしんみりした内容になっておりますが、いかがだったでしょうか?
気に行って頂ける内容に仕上がっていますと幸いです。

また、機会がありましたら宜しくお願い致します!
今回は書かせて頂き、ありがとうございました!

2016/2/22
PCシチュエーションノベル(ツイン) -
水貴透子 クリエイターズルームへ
聖獣界ソーン
2016年02月23日

投票はログイン後にできます。

ログインはこちら












©Frontier Works Inc. All Rights Reserved.