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『薄暮の貴公子達 』
ジャック・J・グリーヴka1305)&クローディオ・シャールka0030

 平坦な草原に2つの影が揺れ動いていた。
 吹き抜ける風が乾いた草を撫で、一斉にわななく中に男が2人、遥か広がる青空を見上げて大の字に寝転がっていた。
 どのくらいそうしていたのだろう。
 強敵から逃れ、敵の追撃が止んだことを知り、崩れるように倒れてからしばらく。
 数分か、数十分か、はたまた数時間か――流れる時間の概念すらも忘れて、ただ頭を空っぽにして見上げる大空。
 流れる雲を眸に映してただ風の音に耳を傾けると、先ほどまでの戦火の中で滾りった血がすぅっと引いて行くようで。
 ほてった身体もまた、心地よく冷めて行くのを全身で感じていた。
「――おい」
 爛々とした緑の瞳で1つ大きく息を吸ったジャック・J・グリーヴ(ka1305)はぽつりと、誰に宛てるでもないかのように淡白に、その言葉を発していた。
「――生きてるか?」
 次いで響いたその一言は今度こそ明確に人に宛てられたもので、確かに、そして力の篭った言葉としてもう一方の男の耳へと届く。
 青眼の男――クローディオ・シャール(ka0030)はその問いかけに音に響く大きな呼気を吐き出すと、耳を澄ますかのようにそっと瞳を閉じていた。
「聞こえている……そう大きな声を出す必要は無い」
 頭を突き合わせて転がる2人。
 その距離は決して離れている訳ではない。
 とは言えジャックも耳障りなほど大きな声を上げていたわけでもなく、仮にそう聞こえていたのであればそれはきっと靡く風の声を聞き取るがためにその意識を研いでいたに他ならない。
「はっ、くたばり損ないやがったか。頑丈なヤツだぜ」
 ジャックは口元を吊り上げながら小さな笑みを1つ浮かべて、右手で乱雑に前髪をかき上げた。
 さらりとした黄金色の髪がかき上がると、吹き抜ける風が汗ばんでいた額を優しく撫でて心地が良かった。
「死んだと……思ったんだがな」
 瞳を開いて、自分の耳にだけ聞こえるように口にした言葉。
 忘れていたかのように疼き出した左腕に思わず眉をしかめるも、それ以上にその痛みが、自分がまだ生きている事を如実に物語っていた。
「何か言ったか?」
「よく生きていたものだと、そう言ったんだ」
 見上げるような視線で問いかけるジャックに、含んだような笑みを浮かべて返すクローディオ。
 また拾ってしまったか――
 代償はあった。
 腕一本、人の生として見れば大きすぎる代償だ。
 それでも自分の命に比べれば如何ほども小さなもので……それを誰よりも知ってるがこそ、自分自身へと向けた憐情の笑みであった。
「相変わらずスカしてやがるな。いてぇなら素直に泣き喚いたっていいんだぜ」
 ジャックの言葉に、クローディオは思わず噴き出していた。
 決して大笑いではない、小さく吐息を漏らすようなそれであったが、明確に自分が笑われた事を察したジャックは憤るように眉を顰める。
「んだよ、思う事があるなら正々堂々と言えよな。男なんだからよ」
「いや、そういうつもりじゃないんだ……誤解を招いたならすまない」
 唇を尖らせて言うジャックに、クローディオは僅かに頭を振って答えていた。
「相変わらずだな、その直線的な物言いも」
 だから若いと言うんだ――その言葉は余計に話を拗れさせる事が分かっているので、口には出さずに胸の奥へとそっと飲み込む。
 ジャックは分かっているのかいないのか、どうにも腑に落ちない様子で眉間に皺を寄せていた。
「痛いさ。ああ、痛い。だがこの痛みこそが生きている事だと思えば……どこか寂しくもあり、痛みなど思慮の外に放り出してしまうものだ」
「寂しい……嬉しいの間違いじゃねぇのかよ?」
「痛みを嬉しいと思うのも、それはそれで偏った思考だと思うが……」
「そうは言ってねぇだろうがよっ」
 ゴツンと、クローディオの額をジャックの右手の甲が小突いていた。
 その直情的な行動に思わず再度噴出してしまい「しまった」と思うクローディオであったが、幸い2発目の鉄拳が飛んで来る事は無かった。
「……しかしよ、驚いたぜ。自分で自分の腕をちぎり飛ばすなんてよ」
 代わりに漏れた言葉に、風がひと吹き2人の間を駆け抜けていた。
「そうする他なかったから、そうしただけだ。でなければ私は今ここには居ない」
 あくまで意識を強く、淡々と語るクローディオ。
 事実、その言葉にウソ偽りは無く――そうしなければ、自分は※されていたハズだった。
 そう思ってふと、彼は自分の中の矛盾に気づいた。
 いや、気づいてしまった。
 何故だろう、その疑問の原因も答えも知りはしない。
 それでも『腕一本失っても生きる事を選んだ自分』に、彼は確かに違和感を抱いていたのだ。
「そうは言ってもよ、そうできる事じゃないぜ。なんつうかよ……」
 そこで、ジャックの言葉が濁る。
 自分の気持ちを表す言葉を選ぶかのように、喉の奥で低く唸った。
「……意外だったぜ。素直によ」
「意外……か」
 違和感の答えがそこにあるような気がして、クローディオはその言葉を噛み締めていた。
「普段スカした野郎だがよ、熱いとこもあるのな」
「戦場の熱に当てられたのだろうかな。それとも――」
 ああ――と、そこまで言ってとんと自分の右手で額を小突く。
 先ほど当てられた額の中心をなぞるようにして、コンコンと何度か、同じように手の甲で叩いていた。
「――直情的になるものだ。傍の誰かを、手本としてしまうとな」
 至った答えに、思いのほか納得している自分が居て、どこか微笑ましく口の端を僅かに歪める。
「誰だよ、んなバカみてぇなヤツはよ!」
 ハハッと笑みを漏らしながら、心底可笑しいように自らの太ももを何度か叩いて見せたジャック。
 お前の事だと、クローディオは言いはしなかったが、逆に他の誰とも答える事もしなかった。
「だけどよ、嫌いじゃないぜそういうの」
 言いながら「よっ」と反動をつけて、横たえた身を起こすジャック。
 薄暮の風にさらされて、金色の髪がさっと舞う。
「やりたいことがあるなら、為し得たい事があるなら、遠回りなんてしてる場合じゃねぇぜ。遠回りして右往左往している間に、求めていたものが指の間から零れて行く事を考えたらな」
 言いながら、自身へと向けて見つめた手のひらをぐっと握り締める。
 その手に何を掴もうとしたのかクローディオは知る由も無かったが、彼もまたその身を起こしてじっと残された右の手のひらを見つめていた。
「なら……なおさら感傷に浸っているヒマなど無いな」
「あん?」
 クローディオの言葉に思わずジャックは振り向いていた。
 幾度と無く吹いた木枯らしにクローディオの細い髪が舞い上がり、それが夕日に照らされて紅く光り輝いていた。
「願いを掴む手はもう1つしかない。零れ落ちないように残されたこの手で掴まねばならないわけだ」
 言いながら右手を閉じたり、開いたり。
 残されたこの手で何を掴む事ができるのだろうか。
 それでもこの手で、掴むしか無いのだ。
「だからそう言うのがよ、スカしてるって言うんだぜ」
 心の不意を突かれて、クローディオは跳ね返るようにしてジャックの方を振り向いていた。
 その時の彼の表情は、彼が背にした沈みかけの夕日に遮られてよくは分からなかった。
 ただ真っ直ぐにこちらを見つめている、その強い視線だけは確かに感じていた。
「零れそうなら誰かに持ってもらえば良いじゃねぇかよ。行き先が一緒ならな。旅は道連れってヤツだ」
 その言葉に、どうリアクションを返したらよいのかも分からず、ただ逆光に眩しそうに目を細めるクローディオ。
 そんな彼は気にせずに、ジャックは言葉を続けていた。
「向かう方向が違うならよ、それは知ったこっちゃねぇがな。少なくとも俺ならそうするぜ。ひいては俺様の利益にだって、繋がるかもしれねぇんだ」
 最後の言葉はどこかはぐらかしたように、付け加えるようにして語ったその姿。
 逆光のせいだろうか、ただひたすらに真っ直ぐなその瞳に、クローディオは思わず直視を憚られながらも、その視線を外せずに居た。
「――おっと、ようやくか」
 先にジャックの視線が外れ、遥か遠い地平の向こうへと緑の瞳が向かう。
 それに釣られるようにしてクローディオもまた地平の向こうへ視線を走らせると、こちらへ向かってくる一団の姿――撤退部隊を回収する、軍やハンター達のそれが瞳の中へと飛び込んできていた。
「さて、帰るぜ。腕よこせよ」
 言いながら差し出した左腕。
 その意味を僅かばかり推し量り、やがて頷き返すクローディオ。
「ああ、すまないが肩を借りるぞ」
「構いやしねぇよ。てめぇ1人溢すほど、俺様の器は小さくねぇ」
 当たり前のように語ったそれに、クローディオも思わず笑みを溢していた。
 なんて真っ直ぐで、澱みの無い男なのだろう。
 嗚呼、だからきっと眩しいのだ――
 
 最後に吹いた冷たい風が、2人の男の新たな船出を祝うかのように強く、追い風となって吹き抜けていた。
 
 ――END

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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ka1305 / ジャック・J・グリーヴ / 男性 / 20歳 / 闘狩人】
【ka0030 / クローディオ・シャール / 男性 / 26歳 / 聖導士】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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お待たせいたしました、のどかです。
イラストをベースにお話を書くのは初めてで、とても楽しく書かせて頂きました。
ふわっと友情的なもの……を感じて頂けるか分かりませんが!(
2人の歩み寄る距離感を演出できておりましたら幸いです。
ご利用、まことにありがとうございました!
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ファナティックブラッド
2016年02月24日

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