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『恐怖! おわかりいただけただろうか……オブザデッド 』
ガルー・A・Aaa0076hero001)&紫 征四郎aa0076)&虎噛 千颯aa0123)&白虎丸aa0123hero001

 年も明けて二〇一六年、エージェントにも束の間の正月休み。

「おじゃまします」

 がらがら。昭和を思わせる日本家屋の戸が開いて、丁寧な挨拶と共に顔を覗かせたのは紫 征四郎(aa0076)。彼女に続いて、英雄ガルー・A・A(aa0076hero001)が「どーも」とラフな挨拶を。
「おー! ガルーちゃん征四郎ちゃんいらっしゃーい」
「良くぞ参られた」
 二人を出迎えたのは、三歳になる息子を抱えた虎噛 千颯(aa0123)、そしてその英雄白虎丸(aa0123hero001)。
「新年あけましておめでとうございます、今年もよろしくおねがいいたします」
「うむ、征四郎殿。明けましておめでとうございます」
 深々とお辞儀をし合う征四郎と白虎丸。一方でガルーと千颯は年末に観たテレビの話を他愛もなく交わしている。

 ここは千颯が妻子と四人で暮らしている家屋、駄菓子屋『がおぅ堂』。
 今日はそこに、征四郎とガルーが泊まりで遊びに来たのだ。

 集ったリンカー達は二階の住居スペースへ。
 古き良き畳の部屋。
 ちゃぶ台を囲んで駄菓子をつまんでお茶をして、師走の思い出話に花を咲かせて。

 さて――一段楽したところで、ガルーが持参した荷物をごそごそと漁った。
 そう、今日は皆でDVDを観ようという話になっていたのだ。
「DVD! 楽しみなのです」
 征四郎がうきうきとした目を向ける。DVDを観る、とは伝えられていたのだが、肝心のDVDについては何を観るか知らされていなかったのだ。曰く、「ネタバレになったら面白くないだろ?」と。
 だからこそ征四郎はうきうきしていたのだ。どんな映画なんだろう――ガルーがどこか楽しそうにしていたので、きっと面白い映画に違いない! と。

 かくして。
 ガルーが鞄から取り出したDVDは。

 恐怖! 人喰い悪魔昆虫
 祟り〜呪われた館〜
 本当に学校であった世にも奇妙な怪談

 などなど。

「え」

 つまりは、ホラー映画三昧。

「……え?」
 征四郎は真っ青な顔、ギギギとロボットのような動作でガルーへ振り返った。
「お前さんは苦手なものが多すぎる。これじゃ戦場で生き残れねぇんだよ」
 いつも通り。ガルーは平然と答えながら、淡々とDVDのセットを行ってゆく。
「ちょ、あの、え、がるー、」
 既に茫然自失とした状態で言葉にならぬ言葉を吐く少女は、そう――虫とお化けが大の苦手なのだ。そのような標的が存在する依頼の度々ビクビクしながら、それでも「恐れて足を止めないこと」という誓約を守る為に奮闘している。
「はい、テレビは離れて観ようなー」
 凍り付いている征四郎を抱っこして持ち上げて、テレビから適宜な距離、座布団の上に座らせるガルー。その間、彼女は完全に虚無の顔で無抵抗だった。
「征四郎ちゃん何歳だっけ? R15GとかR18G系はダメだぞー?」
「ああ、もちろん大丈夫なやつだ」
 流石はリアルパパ、まだ幼い征四郎を気遣う千颯の言葉。ガルーはパッケージを彼に見せる。確かに、こう、チープというか、ガチのやつではない。図書館の子供用コーナーにあるホラー系の本レベルだ。
 ちなみに、先ほどまで千颯がだっこしていた彼の幼い息子は妻と別室にいる。問題なし。
「映画はフィクションでござるよ征四郎殿、画面を突き破って襲ってはこないのでござる。テレビってすごいのでござる」
 正座のまま石になっている征四郎に、白虎丸が優しく微笑みかけた。「もしも襲ってきたらこの白虎丸が退治してみせるでござるよ!」と、なんとかして征四郎のド緊張を解そうと頑張っている……。
「従魔や愚神を相手にすんのにこれ位は耐えてくれよ、征四郎」
 ピッ。ガルーによって無慈悲に押される再生ボタン。
 決して、ガルーは征四郎を虐めたいのではない。このホラー特訓会は、ガルーなりの征四郎への思いやりだ。本当は甘やかしたい、でも、これも彼女のため。そう思って、英雄は努めて厳しく征四郎に接する。
「ん〜、大丈夫征四郎ちゃん? 無理して観ることないからなー?」
「恐ろしい心地になったらモフモフしても良いのでござるよ!」
 既に涙目な征四郎の両隣、千颯と白虎丸の二人がぽんぽんと肩を叩く。

 そしておどろおどろしい音楽と共に、おどろおどろしいフォントのタイトルがテレビに浮かんで、……







「ぎぶあっぷです」

 正座の姿勢から崩れ落ち、畳に突っ伏し、座布団の下に潜り込んだ征四郎が弱弱しく呟いた。
「おいおい征四郎、まだ一本目の後半にも突入してないぞ」
 片眉を上げたガルーが、座布団饅頭と化した征四郎を見やる。饅頭はぷるぷると震えて答えない。
「……やれやれ」
 本当にもう無理なようだ。そう察したガルーは仕方なしに停止ボタンを押して、ホラー映画の再生を中止する。
「さっき白ちゃんが言ってたろ、従魔は兎角映画はフィクションだ、作りモンだ」
 怖がる理由なんてない、結論付けながらリモコンを置いたガルーは座布団にどっかと座り直す。それを横目に見ていた白虎丸が少し声を潜めて、
「ガルー殿、ハシタナイでござるよ」
「へ?」
 白虎丸はガルーのことを、とある出来事から魔法少女だと信じているのだ。
「……白ちゃんさぁ、」
 ガルーは肩を竦める。
「俺様どう見ても男だろ……?」
「そういう問題ではないでござるよ!」
「いやそれじゃどういう問題!?」
 注意、白虎丸はドッ天然のドッ純粋である。なお無自覚。


 一方で、座布団饅頭と化した征四郎。彼女の丸くなった小さな小さな身体を、千颯は座布団越しにぽふぽふ撫でる。
「ん、んーーー。征四郎ちゃんは頑張ったな! うん! はなまるぴっぴだ!」
 歳が息子に近いからか、千颯は征四郎をどうしても親の目線で見てしまう傾向がある。ホラーが苦手なのに、むしろ中盤まで良く頑張った。なでなでと褒める。
「う、うぅ〜〜〜……チハヤ〜〜……」
「うんうん、征四郎ちゃんは頑張った、頑張った。ほらっ、飴ちゃん食べて元気出して!」
 座布団の隙間のちょっと前にまぁるい飴玉を置いて、征四郎を釣り出そうと試みる千颯。ややあって、ようやっと征四郎が座布団の下から顔を上げた。涙目。

 ぐすんぐすん。
 零れそうになる涙を頑張って我慢しながら、飴玉をカラコロ頬張る征四郎。
 その隣では白虎丸が、ヨシヨシと彼女を慰めている。
 ちなみに今、部屋の中にガルーはいない。「煙草吸ってくるわ」と表に出ているのだ。小さな子供もいる虎噛宅だからの配慮である。
「うーーーーーーん」
 そんな二人の様子を眺め、千颯がふと口を開いた。
「ガルーちゃんは、征四郎ちゃんにもーーーちょっと優しくしても良いよなぁ……」
 あのホラー映画鑑賞会は、ガルーによる『征四郎のオバケ怖いを克服しよう特訓会』だったことを知り。苦笑しながら千颯は続ける。「無理な特訓は流石に可哀想じゃない?」と。
「です! なのです!」
 勢い良く、征四郎が答えた。
「……ガルーにも、少しだけ征四郎の気持ちがわかって欲しいのです!」
 その言葉を聴いて。
 千颯と白虎丸は顔を見合わせる。
 寸の間の沈黙。そして、切り出したのは千颯であった。
「――それじゃこんなのどうかな?」
「「こんなのって?」」
 征四郎と白虎丸の声が被る。ふふん、千颯が得意げに含み笑った。

「その名も! 『ガルーちゃんを怖がらせよう作戦』!!」

 どーん。
「「ガルーちゃんを怖がらせよう作戦?」」
 同時に首を傾げる征四郎と白虎丸。人差し指を立てた千颯が、H.O.P.E.オペレーターを真似て説明をしてみせる。
「つまり、ガルーちゃんを怖がらせれば、征四郎ちゃんの『怖いモノは怖い』って気持ちが伝わるんじゃない? ってこと!」
「な……成程! チハヤは天才なのです!」
「むむむ……それで、つまり、何をするのでござるか、千颯?」
「よしよし。まぁ、ガルーちゃんが帰ってくるまで、作戦会議ってことで!」
「はい! 征四郎はがんばるのです!」
「む? うむ、俺は征四郎殿の手伝いを致すでござるよ!」







「ふーーー……」

 がおぅ堂が面する通り。紫煙を吐き出し、ガルーは一息。
(特訓は失敗か……)
 やれやれ、あの調子なら克服にどれだけ時間がかかることか。
「……」
 紫 征四郎。まだ十にも満たない幼い子供。であるからこそ、年齢相応に自由に生きて欲しい気持ちがある。
 紫 征四郎。彼の相棒リンカーでありH.O.P.E.エージェント。であるからこそ、戦場で共闘する強い相棒になって欲しい気持ちがある。

 つまりは、板挟み。

 どうしたもんかねぇ――結論の出ない思考を巡らせ、携帯灰皿に煙草を押し付けて。さて。そろそろ戻ろうか。踵を返した。

 がら。

 玄関の戸を開ける。
 瞬間。
 ガルーの顔面目掛けて何かが飛んできて……

「――!?」

 咄嗟にかわした。なんだ、これは。ガルーに飛び掛るも命中しなかったそれは、宙をぶらぶら――
「……こんにゃく?」
 こんにゃく。そう、こんにゃくだ。糸で天井から吊るされたこんにゃく。
(なんでこんにゃくが……)
 よくよく見ると、玄関を開けると作動するチープな仕掛け。なんだこりゃ。煙草を吸いに外に出た時はこんなのなかったのに。
 と――更にどこかから不思議な音が聞こえてくる。

 ひゅーーーどろどろどろどろ……

 うー らー めー しー やー。

「……」
 ガルーは黙って靴を脱いで、それを揃えて、スリッパを履いて、平然とした顔で「ひゅーどろどろ」の音がする方へ向かう。トイレ。の、予備トイレットペーパーを遠慮なくどかす。そこにはスマホ。音声をループ再生するようにしてあったスマホ。指先一つでストップ。うらめしやがミュート。
 だが、間髪入れずにだ。

 グルルルルルルルル……

 どこかから聞こえてくる、不気味な唸り声。まるで獰猛な獣のような。
「白ちゃん、カーテンの後ろに隠れてるのバレバレだぞ」
「グルル…… えっ!!?」
 馬鹿な、という表情でカーテンから顔を出したのは音源こと白虎丸だ。
 更にそこへ。

「オバケだぞーーーーーーー!!!」

 どーん。
 白いシーツを被った人影がガルーの目の前に躍り出る。
「……ああ、そーだな征四郎」
「なっ!? なっ、なっ、なぜ正体が!」
 後ずさるシーツオバケこと征四郎。
「いやバレバレだからな?」
「くっ!」
「つーかなにしてんだ?」
 征四郎からシーツを剥ぎ取りながら、先ほどから口調と表情筋がブレぬガルーが問う。
「あと 千颯ァ! そこでなに撮影してんだ!」
 そして振り向きざま、物陰へとブラッドオペレート(スリッパ投擲)!
「ほがぁ!」
 物陰から一連のやりとりを撮影していた千颯の眉間に、スリッパがスパァーーン。
「いっててててて……あれ? ガルーちゃん怖くないの?」
「は? え? あれ怖がらせようとしてたの? 逆に感心するわ!」
 どういうことだ? ガルーは何とも言えない表情で征四郎と白虎丸へと振り返った。
「むぅ……手強いでござるな……!」
「一体どうすれば……!」
「この期に及んでまだやろうとするかお前ら……。なんだ、怖がらせたいのは分かったが、一体急にどうした? 肝試しの時期でもないのに」
 ガルーの言葉に、ぐ、と征四郎が声を詰まらせる。
 そこへ割って入ったのは千颯だ。
「ねぇねぇねぇ、てゆーかさ、怖くなかったの? ガルーちゃんはオバケとか怖くないわけ?」
「寧ろこっちが聞きたいが……なぜ怖がる必要性があるんだ? オバケはいない。それが事実だ。いないものを恐れる必要なんかないだろ?」
 オバケはいないと信じて疑わない。だから怖くない。ガルーはそう主張する。
 なんとまぁ……千颯は苦笑した。ちなみにだが、これらの『ガルーちゃんを怖がらせよう作戦』は千颯の妻子がいない状態(タイミングよく妻は息子を連れて夕飯の買出しにいった)で行われた。後が怖いからね!

 とにもかくにも、『ガルーちゃんを怖がらせよう作戦』は失敗だ……。

 と、思いきや。

 がた。
 がたがた、がたん。

「?」
 遠くで窓が震える音がした。
 一同が音の方へと振り返る。

 がた。がた。ばん。

 例えるなら、外で誰かが窓を叩いているような音。
 件の窓はカーテンで見えない。
 その間にも、音がする。

「……おい、まだ怖がらせようと――」
 言いかけて、ガルーは口を噤む。征四郎と千颯と白虎丸が目を丸くして顔を見合わせているからだ。
 それも演出か? その言葉はガルーの口から放たれなかった。
 なぜならば。
「え……ちょっと、あの仕掛けしたの誰?」
「俺じゃないでござる。俺は千颯の指示通り、あそことは別のカーテンの裏で唸っていたでござるよ」
「征四郎も、あそこの窓には細工をしていないのですよ……?」

 ……。

 じゃあ

 あれ


 なに?


「――――!!!」
 オバケだ。間違いない。そう判断した千颯の行動は早かった。
 つまりは悲鳴を上げて失神。バターン。
「遅くまでお勤めご苦労様でござる」
 うむ、と白虎丸は労いの言葉と共に怪現象へ一礼を。最近お化け屋敷に行ったのでスタッフと勘違いしてるのだ。なぜだ。こんなところにスタッフがいるわけないのに!
 一方でガルー征四郎コンビは……。
「     」
 征四郎は絶句中。
「や、何かカラクリがあるはずだ……従魔か? 愚神か?」
 ガルーは動揺を隠しきれていない。一人でブツブツ「従魔ならばうんぬん〜」などと推理を呟きまくっている。自分を落ち着かせるかのように。
 彼は解明できない類に直面したことがない。だからこその動揺だ。とはいえ――それを踏まえても、千颯のように卒倒はしなかったが。
「……!」
 征四郎はそんなガルーを見上げ……彼が冷静さを欠いているのを見て逆に冷静になってきた。
「……っ!」
 ぐっ、と唇を引き結ぶ。
 近くにあった箒を掴んで、征四郎は一歩、前へ。
 そして、直後。

「……何奴っ!!」

 大きく踏み出しつつ、カーテンを勢い良く開け放った!
 ガタガタ音を鳴らす窓。
 そこに、いたのは……


 にゃー。



「ねこ」
「ねこ、だな……」
 窓の外から窓をぺしぺししてた、にゃんこ。







「なるほど、お化け屋敷のスタッフの正体は猫だったのでござるね」
「いや白虎ちゃん、ちょっと……いやかなり違うと思うな〜?」
 また先ほどの畳の部屋。もう外は夕方で、茜色の陽光と共に夕飯のにおいが漂ってくる。
 いつも通り、明後日の方向の発言をした白虎丸に、千颯がけらけらと笑う。
 テレビがついていた。だが流れているのはホラーではなく、子供向けの夢と冒険のアニメーションだ。
 その画面、征四郎は瞳を輝かせている。隣にはガルー。一緒に観ている。
 エンディングが終わって……。ふと、征四郎が口を開いた。「ガルー」と、英雄の名を呼んだ。

「……征四郎は、ちゃんとガルーを英雄にするのです。今は駄目だけど、絶対に、もっと強くなってみせますから」

 彼を見上げる少女の瞳には、凛とした強い光が宿っていた。
「そうかい」
 ふ、とガルーは微笑み、征四郎の頭をわしわしと撫でた。

(……無理な特訓は逆効果かもな)

 なんて、密かに改心したところで――一階から千颯の奥様の声。晩ご飯だそうです。



『了』



━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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ガルー・A・A(aa0076hero001)/男/歳/バトルメディック
紫 征四郎(aa0076)/女/7歳/攻撃適性
虎噛 千颯(aa0123)/男/23歳/生命適性
白虎丸(aa0123hero001)/男/45歳/バトルメディック
初日の出パーティノベル -
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リンクブレイブ
2016年02月25日

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