▼作品詳細検索▼  →クリエイター検索


『真紅に彩られた誓いの日 』
ヴィント・ロストハートaa0473)&ナハト・ロストハートaa0473hero001

 ヴィント・ロストハート(aa0473) が個人使用のスマートフォンのディスプレイにメール受信が表示されていることに気づいたのは、帰宅した後のことだ。
「……ま、大体予想がつくが」
 画面を操作すれば、やはり予想通りの名前が目に飛び込んでくる。
 送ってくれと一言も頼んでいないメールには、平和な時で締め括られた様があった。
 何もなければ連絡は不要と告げたのだが。
「律儀と言うか、何と言うか」
 口に出して言うものの、当然かとも思う。
 自身の英雄、ナハト・ロストハート(aa0473hero001)は、このメールを律儀に寄越した彼女の能力者とバレンタインデーのデートをしていたのだから。
 ヴィント自身も途中までそこに在り、ナハトが年相応の少女の表情でいるのを見守っていた。
 『あの日』を考えるなら、信じられないことだ。
 ナハト。
 誓約を交わし、己のファミリーネームを与えた少女。
 能力者と英雄の関係は人それぞれだが、少なくとも自分とナハトの間には主従のようなものも夫婦のようなものもない。
 互いの命を預け合う一心同体───それが、最も近いだろうか。
(あいつには戦場の赤より、陽だまりに咲く花の赤の方が似合うんだがな)
 けれど、今は戦わなくてはならない。
 何故なら───
 ヴィントの思考は、いつしか過去へと飛んでいた。

 雨は仕事をする上では助かる。
 痕跡が流され易い。
 ヴィントはターゲットを下水路に放り込み、雨の中へ消えていく。
 今日請けた仕事は、男女問わずレイプし、それを親の金と権力を使って、レイプされた方に罪を着せるクズの始末だった。
 顔の造作はいい部類なのだろうが、その皮膚の下には人は自分の搾取物であるという醜いものしかなく、自殺に追い込まれた被害者の遺族が無念で依頼してきた流れだ。
(リッター・クロイツ……騎士に十字架、名を裏切ったか)
 ヴィントは心の中でその名を反芻する。
 自身が殺した相手の顔と名は忘れず記憶する───それが、不要な殺しを行わず、ターゲットのみを痕跡残さず確実に殺すヴィントの矜持。
 降りしきる雨の中、自身の生活拠点へ戻ろうとしたその時だ。
 1人の少女が立っていた。
 だが、雨は少女を濡らしていない。
 その姿は実体がなく、ヴィントは少女が人ではない存在に気づく。
 この世界の者ではない存在───英雄。
 殺しを生業とする裏社会の住人にとって、世界蝕は他人事ではない。引き受ける仕事が報酬に相応しいかどうか嗅ぎ分けることも命運を分ける。
 その判断材料の重要なひとつに、この世界ではない存在が絡んでいないことが挙げられるのだ。……この世界の存在ではない存在は普通の武器で殺すことは出来ず、仕事失敗で下手をすれば命を落とす、そうした情報も得られないような者は裏社会で生きていけない。
 少女は雨に濡れていないが、泣いているように見えた。
 それだけでは、特に声を掛けようとは思わなかったかもしれない。
 他者と関わることが殆どなかったヴィントにとって、輝かしい英雄と誓約したいという発想が存在していなかった。
 だが、見るからにどこかの騎士といった姿の少女はそうした輝かしさなどなく、寧ろ───
「そこで立っていても消えるだけだぞ」
 ヴィントが声を掛けると、初めて自分に気づいた様子の少女は怯えた表情を浮かべた。
 2、3歩、拒絶するように後ずさりする。
「わ、私に近づいてはいけません……!」
 拒絶する声が震えている。
 身体が震えていれば、自分に怯えていると考えたかもしれない。
 だが、少女はそういう怯えをしてはいない。怯え、いや、何かを恐れている。
(そして、それは、俺だからではないな)
 ヴィントはほぼ、直感した。
 この少女の怯えは、彼女自身が抱える事情によるものだろう。
 その事情の詳細は彼女自身に聞く必要はあるが、その身に纏う血と死の香りによるものであろうと推測した。
 ヴィント自身、自らを狂人であると自覚している。
 内に在る破壊と殺戮へ強い衝動があるからこそ、今自分はここにいるのだから。
「来てはいけません。……私のことは忘れ、早く立ち去ってください」
「聞けないな」
 ヴィントがゆっくり足を踏み出した。
 少女が拒絶するようにまた1歩、後ずさりする。
「駄目……近づいたら、私はあなたを……」
 その先の言葉を想像出来ない程愚鈍ではないが、ヴィントは拒絶の言葉を意に介さず、ゆっくり、けれど、確実に近づいた。
 少女の目の前に立ったヴィントは確信を持って腕を伸ばし、少女の手を掴んで引き寄せる。
(やっぱりな)
 この世界に召喚された英雄は、実体を持たない存在でしかない。
 誓約を成立させ、この世界での実体を得るが、やはり相性というものはある。
 能力者でなくとも、誓約を成立させられる程相性が良ければ、目視も接触も可能───つまり、そういうことだ。
「……お前も独りなんだろ。判るんだよ、その身に纏う血と死の香りでな」
 この少女は自分と同じものを持っている。
 そう感じたからこそ、ヴィントは声を掛けた。
 同時に、誓約を交わせるだろうと確信していたのである。
「名前は?」
「……ナハト」
 ヴィントの問いかけに、ナハトは自分の名を教えてくれた。
「俺はヴィント・ロストハート。俺のファミリーネームをやる。……今日から、ナハト・ロストハートだ」
 そうして、ヴィントとナハトは誓約を交わし、互いの命を預け合う一心同体となった。

(誓約を交わした時……ナハトの呪いは俺に及んだ)
 ヴィントはナハトの手を初めて掴んだ手を見、呟く。
 ナハトは絶望して愚神と化した女神より受けた『一度剣を抜けば、敵味方問わず等しく死を与えるまで止まらない』呪いがその身を蝕んでいた為、敵ではないヴィントを殺してしまう恐怖に怯えていたのだ。
 呪いがあるから、ナハトは永く独りだった。
 ヴィントはそんなナハトを受け容れ、誓約を交わした。代償としてナハトの呪いを受け、自我を蝕むレベルで生来からの衝動を強めたが、ヴィントの強固な意志と矜持はそれを支配している。
 勿論、それだけではない。
『信を置く者には剣の誓いを、非道なる者には剣の死を』
 それがナハトとの誓約。
 『信を置く仲間の剣となり、仇名す者に死を与える』という意味である誓約を破ったら、ナハトの呪いを解放する力など得られる訳がない。
 この呪いがあるからこそ、呪いを奪い尽くすだけの力を得る道が開ける。
 奪い尽くして、解放することが出来る。
 最も効率の良いルートは愚神をより殺せるエージェントになること───経歴を問わないH.O.P.E.へ登録することに躊躇いはなかった。
 ヴィントは自身が決めた道を譲るつもりはないからこそ、呪いを支配出来るだけの意志の強さを示せるのだ。
 ナハトと呪いを分かち合うヴィントはナハトの孤独を知り、同時に温もりに飢えていることを誓約を介して蝕んだ呪いで理解した。
 ナハトは、輝いた道を歩いた英雄ではない。
 陽だまりに恋焦がれるたったひとりの少女。
 蝕む呪いがこの身に走るからか、ヴィントはその愚かなる女神の言葉を感覚で知っている。
 その感覚が全身に走る度、まるで初めて恋をした小娘がその相手へ想いを馳せているかのような胸の高鳴りを覚える。
 殺してやりたかったよ。俺が。
 狂おしい位の殺意、憎悪。
 全部くれてやるから、飢えを満たせて、啼けばいい。
 奪い尽くすまで可愛がってやるぜ? 子猫ちゃん。
 ヴィントはそれを思い描き、喉を鳴らす。
 楽しみだ、その顔に恐怖を刻んでやる日が。

 と、家のドアが開いた。

「ただいま」
 ナハトがデートから帰ってきた。
 表情を見れば、メールに嘘偽りなどないと聞かずとも判る。
 一心同体のようなものだとは言え、ナハトのプライベートへ干渉するつもりはない(仕事の勘を鈍らせない意味で尾行し、内密に垣間見たが、それはご愛嬌だ)
「思ったより早かったな」
 ヴィントはそれだけ言った。
 すると、自分に割り当てられた部屋には戻らず、ナハトはリビングのソファに腰掛ける。
「……楽しかったよ」
「そうか」
 尾行されているとは気づいていないナハトが充実した1日の感想を口にすると、ヴィントは簡素に返す。
 ナハトもそれ以上を求めて口にした訳ではない。
 ただ、言っておきたかったのだ。
 あの時、ヴィントが自分と同じであると手を掴んで引き寄せてくれなかったら、受け容れてくれなかったら───今、ここにいない。今日がとても幸せなものだったと感じる自分を知らないまま、人知れず消えていただろう。
 独りぼっちの闇に今いないのは、誓約によって呪いを分かち合ってくれるヴィントと出会えたから。
「ヴィント、ありがとう。おやすみなさい」
 それだけ言いたかったと微笑み、ナハトは自分の部屋へ引き上げていく。
 ヴィントはもう1度、彼女を初めて掴んだ手を見た。

 紅き誓約の日からどれだけの時が過ぎ去ろうとも。
 奪い尽くす力を得、この手に解放を掴んでみせる。
 いつか、ナハトが血濡れの戦場に立つ必要がなくなるように。

 故に、彼は恐怖を刻む者。
 けれども、矜持と誓約を抱き、己を侵蝕する呪いを支配している。

━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛
【ヴィント・ロストハート(aa0473) / 男 / 18 / 能力者】
【ナハト・ロストハート(aa0473hero001) / 女 / 18 / ドレッドノート】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛
真名木です。
この度は発注いただきありがとうございます。
血と死の臭い、孤独を理解し、受け容れることが出来たからこそ成り立った誓約の絆が出るようにと描写しました。
行き着く先に解放の未来があることを願っております。
WTツインノベル この商品を注文する
真名木風由 クリエイターズルームへ
リンクブレイブ
2016年02月29日

投票はログイン後にできます。

ログインはこちら












©Frontier Works Inc. All Rights Reserved.