▼作品詳細検索▼  →クリエイター検索


『はとコン狂騒曲 冬の陣 』
砂原・ジェンティアン・竜胆jb7192)&和紗・S・ルフトハイトjb6970


 冬は寒い。
 当たり前だが寒い。

 太陽は遠く、その温もりも地表まではなかなか届かない。
 風は北から冷気を連れて来て、僅かに残った身体の熱さえ奪い去って行く。

 砂原・ジェンティアン・竜胆(jb7192)にとって、太陽とは大切なはとこ、樒 和紗(jb6970)のことだ。
 そして北風は太陽を遠く連れ去り、あまつさえ僅かに残った体温さえ奪い去ろうとする……「奴」だ。

 人はそれを「冬休み」と呼ぶ。


「どうして学校には冬休みなんてものがあるんだろうね……」
 大抵の学生は休みを喜ぶものだ。
 それが長期になればなるほど嬉しいものだし、寧ろ毎日休みでも構わない。
 しかし、彼の場合は違っていた。
 決して勉強熱心なわけではない、と言うか熱心であるはずがない。
 学校が好きなわけでも……いや、まあ、それは好きだけど。
 だって学校には可愛い女の子がいっぱいだし、それに何より大事なはとこにばったり(という名の故意で)会えるじゃないですかー。
 その機会を奪う長期休暇、許すまじ。
「だいたい学生は勉強が本分なんだから、休みなんかなくてもいいんだよね」
 教師は労働者だ。
 労働には休暇が必要であり、それを取得することは当然の権利だ。
 しかし学生は違う。
 何の為に勉強するのか――全ては自分の為だろう。
 ならば一分一秒を惜しんで勉学に励むべきだ。
「学校は生徒を甘やかしすぎなんだよ」
 どの口が言う、というツッコミはナシで。
「春休みと夏休みはまだいいんだ」
 季節的に明るく活力に満ちて、気分が落ち込む要素が少ない。
 しかし冬休み、お前は何という人でなしだ、元々人じゃないけど。
 ただでさえ寒くて人肌が恋しい季節に、初っ端からクリスマスというぼっちとって最大の試練をぶつけて来るって酷くない?
 それをどうにか乗り切ったと思ったら、今度は正月だ。
 着飾ったリア充達が連れ立って初詣に行く様子を、鳥居の影からそっと見つめるあの寂しさときたら……!
 そんなことを考えていると、眠れなくなる。
 お陰で毎晩寝不足だ。
 それもこれも、全部冬休みが悪い。

 そして今日も、お隣さんからは何の気配も感じられなかった。
「冬休みくらい帰って来てくれてもいいのよ?」
 そう呟きながら、しかし本人には言えず、ただハンカチぎりぃしながら枕を濡らす日々。
「お店は夕方からしか開かないし、それまでの時間をどうしろと?」
 もっとも起きたのは昼過ぎで、ベッドでゴロゴロしているうちにそろそろおやつの時間だけれど。
 起きられないのは仕方ない、目覚ましが電波の届かないところに行ってしまったのだから。
「せめてもの救いは、バーが年中無休で正月もやってることだね」
 それはつまり、大事なはとこも年中無休で先輩バーテンダーの彼と一緒にいるという事だが、その事実には気付かなかったことにしておこう。

 やっとの思いで起き上がり、のそのそと仕度をして外に出る。
「さむ……っ」
 北風が身に染みる。
 心にも染みる。
 冷たい空気を押し退けるように、やって来たのは例の店。
 薄暗い店内を覗き込むと、掃除に精を出す和紗の姿があった。
 手を振ってみる。
 反応はない。
 カウンターを拭く手も止めずに、顔を上げることもせずに。
「気付いてるよね、絶対気付いてるよね」
 でも無視するんだ。
「偉いなあ、ちゃんと職務を優先してるよ、さすがはとこ殿」
 超ポジティブに解釈し、あからさまに視線を外されても気にしない。
 本当は気になるけど気にしない。
 冷たい目で見られても、見てくれないよりはずっといい。
 寧ろご褒美。
 メゲない負けない泣かない。
 でも寒い。
「寒いなぁ……あったかいコーヒー飲みたい」
 店の前で膝を抱えて座り込み、聞こえよがしに呟いてみた。
 もちろん、まだ開店前であることは「CLOSED」の表示を見なくてもわかっている。
 店の防音効果は抜群で、この状態ではどんなに大声で叫んでも中にいる和紗には聞こえないこともわかっている。
 でも、声は聞こえなくても通じ合う何かがあるって信じてる。

 その時、奇跡が起きた。
 ドアが開いて、そっと無言で差し出されるコーヒー。
「ああ、やっぱり僕達は互いに通じ合っていたんだね!」
 でもちょっと待って。
 これってなんか違くない?
「え、あの」
「コーヒーです」
 ただしお湯で溶かすタイプのスティックコーヒーだけど。
「竜胆兄が飲みたそうにしていましたので……違いましたか」
「いや、ビンゴだよ。さすが和紗だね、ありがとう」
「どういたしまして。では、俺は仕事がありますので、これで」
「ちょ、待って、お湯とカップは!?」
 いや待て、これは「お湯とカップは店の中に用意してあるから、そんな寒いところにいないで入ったらどうですか」という意思表示か。
 きっとそうだ、そうに違いない。
 それならそうと言えばいいのにまったく照れ屋さんなんだから、可愛いなあもう(末期
 しかし、返って来たのは真冬の外気よりも冷たい視線と、尖ったツララのような言葉だった。
「コンビニは24時間年中無休です」
 つまり、行けと。
 邪魔だと。
「そうかー。うん、そうだね、コンビニならカップ麺用にとか、お湯が用意してあるもんね。さすが和紗、目の付け所が違うなー」
 でも買い物をしない客にも提供してくれるのだろうか。
 あ、そうか、紙コップを買えば良いんだね!
「でも、そんな遠くまで行かなくても店の中にお湯はあるよね? マイカップもキープしてある筈なんだけど」
 抵抗する竜胆に、更に冷たさを増した声が刺さる。
「退去を命じることなく、暗に仄めかす程度に留めている俺の気遣いを理解しませんか、竜胆兄」
 気遣いだったのか、これ。
「でも、べつに邪魔してるわけじゃないんだし……」
 竜胆は抵抗を試みる。
 開店前から待っている客がいれば、通行人は「ああ、あの店は人気なのだな」と判断するだろう。
 そんなに人気があるなら次は入ってみようか、ということになるかもしれない。
 つまり、これも立派な宣伝活動。
 スティックコーヒー1本どころかギャラをもらってもおかしくない――まあ、別にお金には困ってないけど。
 寧ろ和紗のバイト代は全部自分が払うから、雇い主の特権として24時間年中無休で店にいさせてくださいとか言いたいけど。
 流石にそれは自重している。
 今だって開店前の待機を一時間程度で我慢しているのだ。
 出来れば店の前にテントと寝袋を持ち込んで貼り付く程度の鬱陶しさは発揮したい。
 でも、そんなことしたら絶対に出禁くらうし。
 そうなったら死活問題だし。
 だって夕飯はここでしか食べないって決めてるんだから。
「あ、ここにいるのが邪魔なら店の掃除でも手伝おうか? それとも買い出しに行く? 荷物持ちなら――」
 しかし、アピールを続ける竜胆の目の前で、ドアは無情にも閉ざされる。
 彼の手にはただ、1本のスティックコーヒーが残されていた。

「……うざ……」
 閉じたドアを背に、和紗は思いきり溜息を吐いた。
 彼は日を追うごとに鬱陶しさのレベルを上げていく。
 その成長(?)ぶりは、冬休みに入ってから特に顕著になった。
「休み中に積みゲーを一気に消化してる中学生ですか」
 休み中は毎日のように……ように、ではなく実際一日も欠かさず開店前からドアの前で待っているとか、どんな忠犬だ。
 銅像にでもなりたいのか。
 折角の休みなのに、他にする事はないのだろうか。
「竜胆兄が他にすることと言えば……」
 ナンパ?
 それくらいしか思い付かない。
 勉強している姿に至っては、記憶の引き出しのどこを探しても見付からない。
 特にここ数年の分に関しては。
「このままだと鬱陶しさが増していくばかりですね」
 彼は確かに最も信頼する人物ではあるが、それでもはとコンはうざい。
 はとコンのレベルがこのまま上がり続ければ、いつかやってしまいそうで――怖い。
 何を?
 それはご想像にお任せします。

「あ、もうこんな時間ですか」
 そろそろ買い出しに行かなくてはと、和紗は外の様子を伺ってみた。
 伺うまでもない気がしたけれど、念の為に。
 でも、やっぱり伺うまでもなく、竜胆はそこにいた。
 スティックコーヒーそのまま舐めてるとか、どんだけなの。
「表は危険です、裏から出ましょう」
 同行する先輩バーテンにそう告げて、こっそりと裏口へ回る。
 しかし、そんな小細工で騙される竜胆ではなかった。
「はとコンレーダーの感度、舐めんなよ?」
 地球の裏側にいても行動が筒抜けになるレベル――というのは大袈裟だが、汎用品として実用化されれば世界各国の軍事組織から引き合いが殺到することは間違いない。
 実用化なんてしないし無理だけど。
 そんなわけで、尾行開始。
 物陰に潜んでハンカチぎりぃしながら――
 あ、怪しい人じゃないから通報は遠慮してね。
 人畜無害なただの痛い人ですから。

 何の役にも立たない尾行を終えれば、そろそろ開店の時刻。
 ドアのプレートが「OPEN」に返されると同時に、寧ろ自分で返して、時報と共に店内へ走り込む。
「いらっしゃいませ」
 和紗の超低音で迎えられるのも、近頃では快感になってきた。
「うん、いつものちょーだい!」
 それとカップとお湯が付いた温かいコーヒーね、出来ればスティックじゃなくて、ちゃんと淹れたのが良いんだけど。
「かしこまりました」
 超低音でも、言葉だけは丁寧に。
 店に入ってカウンターに陣取った以上はお客様ですから、ええ。
「ねえ和紗、知ってる?」
「何をですか」
 食事をしながら話しかけて来た竜胆に、和紗は忙しく手を動かしながらも一応は丁寧に受け答え。
 お客様ですから、ええ。
「近頃はこの店、和紗を目当てに来る客が増えてるんだよ。可愛いバーテン見習いが入ったって……」
 そう、例えばこんなふうに色目を使う客が。
 良からぬ思念をキャッチして、竜胆はふらりと立ち上がる。
「お前、僕のk」
 皆まで言わないうちに、何かが頭の脇を掠めて飛んで行った。

 どすっ!

 物騒な音を立てて、壁に突き刺さるアイスピック。
「お客様、営業妨害です」
「和紗、アイスピックは投げるものじゃないと思うな」
「そう思うなら大人しく食事を続けてください」
 あ、壁に開いた穴の修理費は今日の請求に上乗せしておきますから。
「……はい」
 やばい。
 これ以上怒らせてはならない。
 頭の中に真っ赤なランプが点灯し、警報が鳴り響いていた。
 仕方ない、ここは引いてやろう。
 でも勘違いするなよそこの客、お前に負けたわけじゃないんだからな!
 和紗に対する配慮と保身のためだからな!

「いい加減負けてください、竜胆兄」
 でないと次は命中が良い仕事をしそうなんですけど。
「それは出来ない相談だね」
 いくら冷たくされても嫌われてる訳じゃないのは知ってるし。
「でしたら、次からは回避か防御を上げて来てください」
 救急箱くらいは用意しますから、店の義務として。



 そして今日も静かな(?)夜が更けていく。
 開店したら閉店まで居るのは常識、寧ろ常連客として当然のマナー。
 明日もきっとこんなことが繰り返されるのだろう。
 それはそれで恐らくは平和で充実した毎日、だと思いたい。

 でも、早く終わって冬休み。
 僕は学校が大好きです。


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛

【jb7192/砂原・ジェンティアン・竜胆/男性/外見年齢22歳/レベル99イタメンはとコンストーカー】
【jb6970/樒 和紗/女性/外見年齢18歳/堪忍袋の緒に切断注意報発令中】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛

お世話になっております、STANZAです。
いつもありがとうございます、毎度ながらお待たせして申し訳ありません。

レベル99以上はカウンターに表示されない模様ですが、内部における経験値の蓄積は続いています。
でも、これ以上にウザいレベルって……あるの? あるなら書きますよ!(

では、お楽しみ頂ければ幸いです。
リテイクはご遠慮なく!
初日の出パーティノベル -
STANZA クリエイターズルームへ
エリュシオン
2016年03月01日

投票はログイン後にできます。

ログインはこちら












©Frontier Works Inc. All Rights Reserved.