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『獏のネリネ 』
蓮城 真緋呂jb6120


 私の雨は――止んだ……?





 赫い埋火の、童歌。
 音が、言葉が、灰へと変わる映像すらも――。不協和音の如き悲鳴で五線紙に羅列されていく。

 誰(た)が為に争うのと、
 肉親が殺された。

 穢れのないあたたかな想い出にと、
 友人が殺された。

 愛を紡いだ声と腕に抱(いだ)かれながらと、
 恋人が殺された。

 あの日。
 終と始の日。
 彼女は――蓮城 真緋呂(jb6120)は知らなかった。故郷を襲う惨劇を。自分の愛する者達が冥魔によって惨たらしく殺されていくことを。血の果てで、天涯孤独となる身を――。

「憎い」

 真緋呂は縋るようにそう、“祈った”。
 何故、自分が此れほどの苦難に遭わなければならないのか。
 何故、大切な者達が生きとし生けるモノの所業とは思えぬ残酷さでもって奪われなければならなかったのか。

「憎い――……」

 鬼首花が揺れる。
 二度と戻れない奇跡を想って、真緋呂の心も激しく揺れた。
 始まりの種火をその手に掲げ、零れ落ちる雨に眩暈し、濡れた瞳で“渇き”を砕く。未来――酷く不確定で、鮮やかな輝きの中、真緋呂は“彼女”と出会った。

 天魔によって故郷も家族も失い、自らの両の脚も奪われ、車椅子での生活を余儀なくされた女性。

 彼女は想いをそっと水に浸したように、穏やかに笑んでいた。
 過去も境遇も受け容れ、全ての苦悩に心で応えたのだろうか――明日も希望も在るから、と、そんな笑顔をしていた。

 重なっていたのは境涯。
 外れたのは、ココロの置き場。

 真緋呂は彼女に興味を持った。
 故に、知りたいと思った。彼女の声も、立場の温度も、世界も――。

 あの日に残された自分の想い。

「私は何故、受け容れられないの?」

 憎いと殺した最後を探しているのは、どうして?

「私は何故、分け隔てなく笑えないの?」

 失ったのは言葉と、自覚?

 心根の傷が疼くのは、今も冥魔を憎んでいるから。
 重く背負っているのは、学園を共にするはぐれ悪魔も受け容れられないから。

 彼女とは、違う。

「何が……違うの? 私は――」

 その矛盾に自然と自嘲が込み上げる。
 本当は誰の内にもあるのではないのだろうか、と。酷く単純な想いが。願いが。

 天魔とも手を取り合い、どんな時にでも自分を信じてくれる家族を、その子供達を、世界を――護っていける未来。

 求め、繋げて。
 友人達が目指すその未来を、真緋呂も――自分も共に願い、響き合えるのではないのだろうか。そんな、“これから”を。

「――……」

 張り詰めてゆくのは滅びの記憶。
 哀しみに囚われて、苦しみに縛られて、人はそう簡単に、安易に、変わることなど出来はしない。けれど――、

「……変わって、いく。私は……変わっていけるの……?」

 苦々しくそう呟きながらも尚、真緋呂は速さを増していく己の鼓動を切に感じていた。入り交じる期待と不安。しかし、それ以上に強く込み上げてきたのは、





 烏の鳴く――雨。





『いてくれる、それだけで良かったんだ』





 溢れ出た答えは彼女の“言葉”と共に、真緋呂の胸にも芯と零れた。
 ――開けた。

「私は……」

 閉ざされた扉を開けば、真実に在った愛情も憎しみも織り成してしまうのではないのか――と。真緋呂は意識のない懸念をしていたのかもしれない。

 惑い、歪み、乱され。
 狂えるあの日(じかん)が己を呪縛して、やまない――。そう、囚われた夢を見ていた。
 だけれど、
 真緋呂は彼女に出会い、調べを得る。

 ――嗚呼、
 何て“簡単”であったのだろう。

「それだけで……――それだけで、私は良かった」

 脚を音が駆け、
 胸が言葉を感じ、
 頬を映像が撫でた。

 織り成したのは、恵み降る雨で満ちた交響曲。

 結んだ手と手。
 共に笑い、共に歩み、共に在ってくれた友人達。
 大好きな本に挿む四葉のクローバーのように、指先で触れた大切な縁。挿んだ幸せは、いつだって傍に在ったのだ。

「私がこれまで生きてこられたのは、あなた達のおかげ。“当たり前”の空気は、温度は、本当は“奇蹟”だったのかもしれないのよね。うん、ありがとう。……ありがとう」

 心の空が曇らずに済んだ。
 憎しみの帳に包まれずに済んだ。
 絶望という名の波紋に、沈まずに済んだ。



 ――ありがとう。



 どうか、彼女にもこのココロが届きますように。

「だから私、目指すよ」

 真緋呂は歩き出す。
 雨音に誘われなくても、歩き出せば無限が広がっているから。

「――うん。“それだけ”の未来を、共に目指そう」

 その未知なる世界に恐ろしさと好奇心を抱いて、真緋呂は円らな濃紺を、そっ、と、伏せた。
 さあ、“現実”と“日常”を奏でるとしよう。















 ――ホワイトノイズは、もう聞こえない。


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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【jb6120 / 蓮城 真緋呂 / 女 / 16 / Thuleヲ夢ミル 】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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平素よりお世話になっております。
愁水です。

此度のご依頼は彼女のターニングポイントであった“現実”の“ココロ”描写、と受け取らせて頂きましたが宜しかったでしょうか?
このような大切な想いと意の執筆をお許し頂きましたことに感謝を。
彼女の意に反しない表現であれば非常に幸いに思います。どうか、今後の彼女の生が鮮やかで心地の良い奏でとなりますように。

ご発注、誠にありがとうございました!
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エリュシオン
2016年03月07日

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