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『エンドロールは終わらない 』
メグルaa0657hero001)&齶田 米衛門aa1482

 ドン、と目の前に置かれた一升瓶を見て、メグル(aa0657hero001)はぱちくりと目を瞬かせた。
 ついと視線を上げれば、ニコニコと笑う齶田 米衛門(aa1482)の姿が。
「飲んでるッスか?」
「……ええ、それなりに」
 おちょこに半分ほど残っていた日本酒をクッと煽って、メグルは若干座った目を齶田に向ける。白い頬がほんのりと赤く染まり、とろりと潤んだ瞳は、「ほろ酔い」より1段階上の酔いを如実に表していた。
 英雄は普通の酒に酔わない。つまり、まぁ、「酔っている」と感じているのはメグルの錯覚なのだが。
 ヒトは、場に、酔う。そういう意味では、正真正銘の酔いどれである。
「それはよかったっす。日本酒ッスか?」
「ええ、まぁ」
 にこにこと屈託のない齶田に対し、メグルはいつもの仏頂面だ。酔っているためか普段より読み取りやすい表情には、ありありと「一人で飲みたい」と書いてある。
 だが齶田はそんなあからさまなメグルにも怯まない。
「おっ、もう杯がカラじゃないッスか! ささ、どうぞ一献」
「……どうも」
 自然な動作でメグルの杯に追加の酒を注ぐ齶田。ガラス製の徳利に残っていた透明な液体が、とぷとぷと小気味良い音を立ててまっしろなぐい飲みに注がれる。酔っているせいか若干判断力の低くなっているメグルは特に不審がる様子もなく杯を受けていた。
 クッ、と日本酒を煽る。口の中を潤して喉に流れ込む清い酒精はどこか甘い味がする。ふぅ、と息を吐きだせば、鼻腔をくすぐるのは華やかな米の香り。
 旨い酒だ、とメグルは思う。そして、良い酒だとも。
「良い宴会ッスね」
 こぼされた言葉を些か鈍った頭で拾い上げて、メグルは齶田の顔を見上げる。
 宴もたけなわ、やんややんやと騒がしい会場には自分たちの相棒の姿も見える。メグルの相棒は未成年であるため酒は飲めないのだが、笑いすぎで真っ赤にした顔をしており、雰囲気に酔っている様子。齶田の相棒はと言えば、飲むよりも食べる方にご執心であるらしい。
 まぁ、どこを見ても笑顔しかない宴会である。メグルはあまり「宴会」というものに縁がなかったのだが、これが顎田の言う通り「良い宴会」であることだけは感覚でわかった。
「酒が旨い、というのは、こういうことなんですね」
 吐き出す息に酒精が混じる。それは齶田も同じであるはずなのだが、彼は酔いを感じさせない口調でへにゃりとした笑みを浮かべる。
「よかった」
「?」
 笑うと、齶田の目尻がほんのり紅く染まっているのがわかった。ああ、とメグルは胸中でごちる。ああ、彼はこんな顔もするんだなと、短くはない付き合いの中で仲間の新しい一面を垣間見た気がした。
「メグルさん、眉間にしわ寄ってたッスから、お酒美味しくないんじゃないかって心配してたんスよ」
 そう言って、齶田は持参した一升瓶を傾けて、かなり大きなぐい飲みに酒を注ぐ。香りからして日本酒だろう。わずかにとろみのついたそれは、花に似た芳香を周囲に振りまいている。
「酒が旨いのは良いことッス」
 宣言するだけあって、齶田の飲みっぷりは清々しい。酒を、まるで水か何かのようにするすると飲み込んでしまうのである。
 ぐい、と口元を手の甲で拭う姿は勇ましい。
 ただ、その姿がなぜか酷く寂しげに見えて、メグルは思わず言葉をこぼす。
「……飲み過ぎは身体に障りますよ」
「はは、メグルさんもッスな」
 へにゃり、と目尻を垂れ下げる齶田に普段と変わった様は見られない。
「……お酒」
「へ?」
「お酒。齶田さんは、お酒、お強いんですね」
 出会った時から、彼は何も変わらない。それなりの時間を、それなりの修羅場を、それなりの想いを共に過ごしてきたはずなのに、彼は出会った時と変わらない顔で笑っている。
 不思議なヒトだと思う。同時に、彼のことをもっと知りたいとも思う。久しく感じない感覚だった。
「酒ッスか? そうッスなぁ、出身が出身ッスから、それなりには飲めるッスよ」
 一升瓶を抱えてヘラリと笑う様は飲兵衛のそれだ。が、言うほど齶田が酒に口をつけている場面を見ない。目減りした一升瓶の中身のほとんどが、他人の盃に注がれていたのを知っている。
「……齶田さんは」
「ヨネ」
 不意に、強い眼光がメグルを貫いた。
 言わずもがな、齶田から発せられたもの。目尻はふにゃりと垂れ下がっているくせに、なんとなく有無を言わせない瞳をしている。
「ヨネって呼んで欲しいッス」
「……そう、ですか」
 ああ。
 どうやら自分は彼のお眼鏡に叶ったらしい。
 齶田の持つ一升瓶から注がれた、花の香りを振りまく酒を口にして、メグルはふっと視線を下げる。
 きっと、今己が齶田に問おうとしたものは彼の根幹に関わるものだったのだ。だから彼はメグルを認めたし、認めたが故にそれ以上の発言を許さなかった。
 だとしたら。
「……ヨネ、さんは……酒の席は、好きですか」
 そう問えば、齶田は一瞬だけ目を細くして、そうして何事もなかったかのように、常のふんにゃりとした彼らしい笑みを浮かべる。
「モチロンッスよ」
「……見たままですね」
「ははは、オイだばそんたわかりやすいッスかね?」
「ええ、とても」
 後頭部に手をやって「たはー」と笑う齶田にわかりにくい微笑を向けて、メグルはほぅとひとつ息を吐く。
 だとしたら。
 彼は自分と、とてもよく似ている。


 飛び交う笑い声。
 どこからか立ち上る、聞き覚えのある歌。
 身じろぎすれば隣人の腕に肩が触れ、それを笑って許しあうような宴の場。
「メグルさん、楽しんでるッスかー!!」
「ええ、とても。ですからそう何度も訊いてこなくて構いませんよ」
「たはー! これは失敬いたしたッス! お詫びにこれをどうそ!」
「そんなに注がれたら溢れてしまいますってば」
「ダイジョーブッス!!」
「……ヨネさん、相当酔ってますね」
「酔ってないッス! ひゃははは!!」
 飲めや歌えや、どんちゃん騒ぎ。
 場に酔う。ヒトに酔う。雰囲気に酔う。
 酒以外にも沢山のものに酔いどれているから、そういう意味では二人とも立派な「酔いどれ」だ。
 そのくせメグルのぐい飲みに酒を注ぐ齶田の瞳には確固たる理性の光がきらめいていて、どうしたってこの人は酒に酔わないのだろうと諦める他ない。
「ヨネさんこそ、楽しんでますか」
「モチロン楽しいッスよ!! 当たり前じゃないッスか! こんなにいい宴の席、オイばひっさしぶりに見たッスよ!!」
 楽しいのならば、まぁ、いいか。
 相変わらず花の香りのする酒を含んで、メグルは隣で杯を振り上げる齶田を盗み見る。
「ん? どうかしたッスか?」
「……いえ、なんでも」
 首をかしげる齶田に、メグルはゆったりと樹上に寝そべる豹の姿を幻視した。隙だらけに見えて隙がない。今だってさりげなく宴会場に気を配っている。だのに、メグルの視線には気付くのだ。
 野生動物のような人だなと、思う。
 そんなところも、よく似ている気が、した。
「……ずっと、メグルさんと友達になりたいと思ってたッス」
 メグルが、思考の海に沈みかけたのを悟ったのか。
 齶田が妙に凪いだ口調で言葉を紡いだ。
 見やれば、足の間に抱えた一升瓶の上で両手を組み、その上に顎を乗せた体制で、騒がしい宴会場を見つめる齶田の姿がある。
「だから、この宴会はすごくありがたかったんスよ。こう言うとあれッスけど、メグルさんと話せるいい機会だったッスから」
 次の瞬間にはにぱっと明るく笑うものだから、一瞬の静けさが妙に浮き彫りになった気さえした。
「……僕も、ヨネさんとは、仲良くなりたいと思っていました」
「ほんとッスか!? 嬉しいっすなぁ!! メグルさんもオイとおんなじだったんスか!」
「……ええ、そうですね。おんなじです」
 ふ、と微笑めば、齶田はとてもとても、嬉しそうに破顔するのだった。

 僕たちはきっと、終わってしまった物語のエンドロールを歩いている。
 そんな僕たちを無理矢理舞台上に押し上げるのは、唯一無二の相棒たちで。
 彼女たちがいるから、僕たちはヒトのままで在れるのだろう。
 僕と彼は、とてもよく似ている。

(似ているからこそ、僕は彼が、少しだけ、怖い)

「これからも、よろしくお願いしますね、ヨネさん」
「モチロンッスよ、メグルさん!」
 かち合った陶器が、キンと澄んだ音を響かせる。
 酒は飲め飲め、呑まれるな。
 呑まれた先に何があるのかなど、誰も知りはしないのだから。


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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【aa0657hero001 / メグル / ? / 22 / フィスビショップ】
【aa1482 / 齶田 米衛門 / 男性 / 21 / アイアンパンク】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 どうもでっす!
 この度はご指名ありがとうございました! 楽しんでいただければ幸いです。
 あれ、おかしいな、もっと「宴だわっしょい!!」みたいな話にする予定だったのに……。どうしてこうなってしまったのでしょうか。しかし書いていてとてもとても楽しかったです。
 文中でメグルさんが若干不穏なこと言ってますが、私としては二人がとてもとても仲良しだと思って書きました。伝われこの思い!!
 それではまた、いつかの機会に。
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2016年03月07日

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