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『酒の肴に相棒を 』
ガルー・A・Aaa0076hero001)&アーテル・V・ノクスaa0061hero001


 早々と陽の落ちた年の瀬の町は、すっかり暗くなって――いや、街路灯や店から漏れる光、通りを彩るイルミネーションなどのおかげで、昼間よりもずっと明るく見える気がする。
 見上げた狭い空だけが黒く染まったその下を、誰も彼もが忙しそうに足早に歩いていた。
 まるで、すぐ後ろから何かに追い立てられているかのように。
「借金取りかねえ」
 人混みの中でふと立ち止まり、ガルー・A・A(aa0076hero001)は口の端を僅かに上げる。
 その後ろから、誰かが肩にぶつかった。
「バカヤロウ気を付けろボケ!」
 その誰かは舌打ちと共に悪態を吐きながら人混みの中に消えていった。
「道の真ん中にボサっと突っ立ってんじゃねぇよ、邪魔だ!」
 別の方角からはそんな声も聞こえる。
「おっかねぇな」
 苦笑いをしながら肩を竦め、ガルーは人の波に乗って歩き出そうとした。
 しかし、足を踏み出しかけてからふと気付く。
 今の言葉は、どうやら自分に向けられたものではないらしい。
「俺様の他にもいやがんのか、このクソ忙しい師走の町でぼんやり立ち止まってる阿呆が」
 呟いて、見るともなく視線を彷徨わせる。

 いた。

「どうも、すみませんでした」
 地面に唾を吐きながら立ち去る男の背中にペコペコ頭を下げている。
 艶やかな黒髪を腰まで伸ばした、黒ずくめの――男? 女?
 どちらかわからないが、その後ろ姿にはなんとなく見覚えがある気がした。
「あんた、なにもそんなにヘイコラするこたねぇだろ。つーか、ぶつかって来た方が悪いだろうがよ、どう考えても」
 思わず声をかけたガルーに、その相手は柔和な笑みを見せながら振り返る。
 黒髪がさらりと音を立てた。
「ええ、それは承知しております。でも、こうして謝ってしまえばそれで済むことですから」
 にこりと笑った右の目は眼帯で隠されている。
 それは、やはり知った顔だった。
「アーテルさん、あなたでしたか」
 急にガルーの口調が変わった。
「ええ、そうですが――」
 その黒髪美女(推定)アーテル・V・ノクス(aa0061hero001)も、どうやら自分のことを知っているらしいこの男に関して記憶を辿ってみる。
「ああ、確かガルーさんと仰いましたね」
 思い出した、何度か仕事を共にしたことがある男だ。
「今夜はおひとりですか?」
 お互い普段は「英雄」として、契約を交わした「能力者」と共にある。
 だが今はそれぞれプライベートな時間であるようだ。
「今日は裏の用件でね。クライアントがこの近くだったもんですから」
「なるほど。私も仕事帰りなんですよ」
 ガルーは作った薬を納品した帰り、アーテルはバイトを終えて、やはり家に帰るところだった。
 とは言え夜もまだ早いし、二人とも特に急いで帰る用事はない。
「うちの子は知り合いのところに預けてありましてね」
「私も今日は少し散歩でもしてから帰ろうかと思っていたところです」
 イルミネーションがとても綺麗だったからと、アーテルは微笑んだ。
 それで少しゆっくり見ようと立ち止まったところ――後は知っての通り。
「アーテルさんにも、何と言うか……可愛らしいところがあるんですね」
 ガルーは少し眩しそうに目を細めた。
「ほら、一見すると知的で冷静って言うか、情に流されず心を惑わされることもないクールビューティって感じで」
 もっともそれは外見の印象であって、仕事で実際に接した時に感じたものとは違う。
 柔らかくて温かいと感じた自分の感覚は、どうやら間違ってはいなかったようだ。
「そういうことなら」
 ニカッと笑い、ガルーは片手で猪口を傾ける仕草を見せた。
「この辺にいい飲み屋があるんですが、アーテルさんも一杯どうです?」
 場所はちょうど、このイルミネーションを抜けた先。
 ゆっくり眺めながらのんびり歩けば散歩にもなるし、冷えた身体にキュっと一杯は堪らない。
「良いですね、お付き合いさせていただきましょうか」
 穏やかに微笑みながら、スマホを取り出したアーテルは相方の番号を呼び出す。
 遅くなるお詫びに何か土産でも買って帰ろうか、それとも無駄遣いはするなと怒らるだろうか――


 店の暖簾をくぐった頃には、良い具合に夜も更けていた。
 年の瀬だというのに家に帰りたくない様子の勤め人達に混じって、二人はカウンターの席に着く。
「オヤジ、いつもの頼む」
 慣れた様子で頼んでから、ガルーはアーテルを見た。
「アーテルさんはどうします、いけるクチですか?」
「ええ、弱くはないと思いますよ」
 なお好みは辛口だが、最初の一杯はガルーに付き合って同じものを。
「ところで……」
 妙に甘ったるい熱燗をちびちびと舐めながら、アーテルは少し笑いを含んだ声で言った。
「ガルーさん、貴方は何か勘違いをしていらっしゃいませんか?」
「ん? 勘違いとは?」
 何のことだろうと首を傾げるガルーの耳に、予想外の言葉が突き刺さる。
「私は――」

「なぁぁにぃぃーーーーーっ!?」

 思わず、口に含んでいた酒を噴き出した。
「おま、ちょ、お前っ!」
「はい」
「なんだお前男かよ!!!」
「はい、あの子の前ではあんな口調ですけどね」
 にっこり。
「じゃ、あれか、オネェってやつか!」
「それは違いますね」
 口調は確かにオネェだが、それも相方に対する時だけだ。
「普段は普通に敬語で話していますよ。貴方にもそうだったでしょう?」
「ああ……言われてみりゃ、そうか」
「貴方こそ、急に口調が変わりましたよね」
「あたりめーだ。野郎に使う敬語はねぇよ、もっと早く言えっての」
 くすくすと笑われ、ガルーは杯に残った酒を一気にあおる。
 言えない、さっきイルミネーションの下を並んで歩いていた時に、ちょっぴりときめいてしまったなんて言えない。
「すみません、言うタイミングを逃してしまいまして」
 それとも言わないほうが良かっただろうか。
「私はもう慣れてしまいましたから、特に訂正する必要も感じないのですが……それに、彼女の前では勘違いされていたほうが良い気もしますし」
「彼女ってのは、相棒のチビ助か。なんか事情がありそうだな」
 ガルーは手酌で杯を満たしながら尋ねる。
「ああ、いや……言えねぇことなら黙ってて構わねえよ。詮索するつもりじゃねぇんだ」
「いいえ、大丈夫ですよ。それに、これからも一緒に仕事をする機会があるでしょうから、知っておいて頂いたほうが良いでしょう」
 アーテルは辛口の酒を注文し直すと、それを飲みながら話し始めた。

「あの子は男性恐怖症なんですよ。最初はそれを知らずに、普通に話しかけてしまって……」
 その時は生死の境を彷徨っていたため、相手が男だと気付く余裕もなかったのだろう。
 しかし薄れ行く意識の中でも、あの子は差し伸べられた手をとった。
 生きたいかと問われて、しっかりと頷いた。
 そして、契約を交わした。
「あれから、もう少しで四年になりますか」
 最初の頃は話しかける度に凍り付いたように思考も行動も停止してしまい、意思の疎通も難しかった。
 それでも少しずつコツを覚え、互いに理解を深めていった。
「それで、この形に落ち着いたのです。私が女言葉で話せば、あの子は怖がらずに済む……それでも、まだ固いところはありますけどね」
 最初はアーテルも嫌々で、まるで台本でも読んでいるような棒読みだったが、今ではすっかり慣れたもの。
「言ってみれば、相方に近付く為の手段にすぎないってわけね。でも、これもなかなか便利なのよ?」
 オネェ言葉でそう言い、笑う。
「この喋り方だと相手が油断してくれるのよ。誰かさんみたいに勝手に勘違いして、勝手に色仕掛けにかかってくれる事もあるし……ね」
「お、俺様は違うぞ! 確かに勘違いはしたが、それだけだ!」
「わかってるよ、そうムキになるなって」
 あれ、また口調が変わった。
「アーテル、お前……酔ったか?」
「酔っちゃいないが、これが素だ。俺はこんな風に喋るんだぜ? 驚いたろ」
「ああ、驚いた。違和感なく似合ってるんでな」
「そっちかよ!」
 しかし、これが素ならオネェ言葉に慣れるのに相当の苦労を要したであろうことは想像に難くない。
「まあ、でもな……あいつは優しい子なんだ。優しいから深く傷付いて、その傷で身動きがとれなくなっちまう」
 それに、優しさは弱さでもある。
「けど、あいつはそれを克服しようと努力してる。今の誓約を言い出したのも俺じゃない、あいつだ」
 男性恐怖症克服の為に努力をする、それが現在の誓約だ。
「簡単な事じゃねえよ。それでも努力し続けようとする姿を見せられちゃ、俺だって何もしないわけにはいかねえだろ」
 力になりたい。
 守ってやりたい。
 でも、それだけじゃない。
「あいつは俺にとって守るべきものではあるが、同時に戦友でもある」
「ああ、それはわかるぜ」
 ガルーが甘い酒を飲みながら苦い顔で笑った。
「俺様んとこも、ちいと似てっかな」
 彼の相棒はまだ七歳の女の子。
 出会った時は五歳だった。
「その歳のガキにゃ重すぎる、色んなモンを背負って……背負いすぎてやがる」
 けれど、降ろすことは出来ない。
 降ろしてしまったら、自分の存在そのものがなくなってしまうから。
「俺様にも、そんなもんがあったからな」
 この世界に来て初めて出会ったのが彼女であったことも、何か引き合うものがあったからだろうか。
「ホラーが苦手で怖い話でも聞いた日にゃ一人でトイレにも行けやしねぇ。虫も苦手で、台所に黒いアレが出ただけでピーピー泣きやがる」
 どこにでもいる、ただのガキだ。
「戦いに出るにはちいとばかり弱すぎる」
 なのに。
「それでも、あいつは足を止めねぇんだ。恐れて足を止めたことは一度もない」
 どチビのくせに。
 ヒョロッヒョロで、ちょっと小突いただけでポッキリ折れそうなのに。
 自分に向けられた目は、誰よりも強い輝きを放っていた。
「あの強さは、どっから来るんだろうな」
 だが、どんなに強くてもまだ子供だ。
 守り支えるべき存在だ。
 相棒であり娘のようでもあり――
「ただ、一度娘なんて思えば戦場に出すことは出来ねぇから」
 そこは心を鬼にして。
「守りたいなら戦いから遠ざけりゃ良いんだよな、普通は」
「ああ、普通ならな」
 アーテルが頷く。
「だが能力者である時点で、彼女達は普通ではない」
 それぞれが背負ったものを降ろさない限り、普通の子供にはなれないのだ。
「その為に戦いが必要だと言うなら、俺達にそれを止める権利はないし、止めようとも思わない」
 ただ、共に戦うだけだ。
「わかってるさ」
 ガルーは酒臭い溜息を吐き出した。
 少し目が据わっている。
 話に夢中になりすぎて、少々飲みすぎただろうか。
「だから、あいつにゃ厳しく接しているつもりなんだが……これが何とも、なあ」
 最近はどうにも、甘やかし過ぎている気がしてならないのだ。
「あんた、意外に子煩悩だな」
 アーテルがくすりと笑う。
「最初は少し気難しくて怖そうな奴だと思ってたが」
 話してみれば、その正体は気さくな親馬鹿だった――と、相手も同じように思っているかもしれないが。
「まあ、誰でもうちの子が一番可愛いものだし、それで良い……そうでなければ互いに命を預ける事など出来はしないからな」
 それを聞いて、ガルーは満足げに頷いた。
「お前は最初に思った通りの奴だったな、アーテル」
 女だと思っていたことは置いといて。
 柔らかで温かく、優しい人。
 それだけではなく、懐の深さも持ち合わせている。
 能力者の境遇にも似たところがあった。
「今後とも仲良くして貰えたら幸いなんだが」
「そうだな、子供達同士も気が合いそうだし……何より、あんたと飲む酒は美味い」
 アーテルは目を細める。
 誘いを受けたことも、久々に素の口調で語れたことも嬉しかった。
「実はな、ガルーさん。俺の相方も虫とホラーが苦手なんだ」
「本当か」
 ご機嫌な二人の酔っ払いは、互いに顔を見合わせる。
 それだけで何かが通じ合ったようだ。


 よし、夏になったら皆でお化け屋敷に行こうか――


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【aa0076hero001/ガルー・A・A/男性/外見年齢30歳/親馬鹿まっしぐら】
【aa0061hero001/アーテル・V・ノクス/男性/外見年齢21歳/親馬鹿予備軍】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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お世話になっております、STANZAです。
お待たせしました&ご依頼ありがとうございました。

どこの世界でも、娘は可愛いものですよね。

口調や設定等、齟齬がありましたらご遠慮なくリテイクをお申し付けください。
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2016年03月08日

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