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『●お誘い 』
笹山平介aa0342)&真壁 久朗aa0032)&セラフィナaa0032hero001)&小鉄aa0213)&佐倉 樹aa0340)&シルミルテaa0340hero001)&柳京香aa0342hero001)&賢木 守凪aa2548
「皆さん、私と一緒に回転寿司屋さんに行きませんか?」
 笹山平介(aa0342)の言葉に、その場に集まっていた一同は一斉に視線を向けた。合計十二個の瞳に見つめられながら、平介はいつものようにトレードマークの青いサングラスの下で目を一層にこりと細める。
「臨時収入が入りましたので皆さんにおごりです♪ どんなものでも食べ放題! 好きなものや回ってないものでも頼めば握ってもらえますし、デザートもあります。どうですか?」
 平介はそこで皆の意見を伺うように小首を傾げた。ここでイエスをもらえなければ「計画」が破綻してしまう。平介はにこやかに、しかし猛烈な決意をもって再度仲間に問い掛ける。
「どうですか?」

●入店
 賢木 守凪(aa2548)は口をぐっと引き結び、拳を握り締めながら眼前にそびえ立つ平たい建物を凝視していた。お寿司。お寿司。皆でお寿司。ぼっち憧れのワードを平介からもたらされた守凪は、何とかしかめ面を保ちつつ喜び勇んで参加を決めた。出来る事ならこれをいい機会とし、この場にいる全員と何とか会話をしたいのだが……
「守凪さん、楽しみですか?」
 突然横から声を掛けられ、守凪の肩がびくりと跳ねた。しかし守凪はそれをおくびに出さず高飛車な態度で口を開く。
「そ、そんなことないぞ! 浮かれてなどいないからな! いや楽しみでないわけではないが!」
「そうですか、今日はいっぱい楽しんでくれたら嬉しいです♪」
 にこにこと言葉を返す平介に、面倒臭い否定が口をついてしまった守凪はぐっと言葉を詰まらせた。本当はこの中の誰よりもうきうきしている自覚があるし、本当はもっと素直にお礼だって言いたいのだが……普段からツンデレならぬぷんでれ(怒ったようにデレたりする)属性の守凪には素直の二文字が縁遠い。平介の事だって自分をよく構ってくれる優しい人だと思っているし、いつか名前で呼びたいものだと切望さえしているのだが……
「さ、皆さん、入って入って。高いものも遠慮なく頼んで大丈夫ですからね♪」
 デレるタイミングを完全に失った守凪は平介に促され、口を引き結びながら一先ず店内へと入っていった。真壁 久朗(aa0032)とセラフィナ(aa0032hero001)も回転寿司屋へと足を踏み入れ、はじめて見る空間にわずかに視線を彷徨わせる。セラフィナは寿司屋に来るのは初めてで、久朗も家族で外食した事が無いので実はこういう場所は初めてに近い。ペールグリーンのカーディガンに白いニットコートを羽織ったセラフィナは、平介に駆け寄りながら腕を伸ばしてハイタッチした。
「笹山さん、今日はよろしくお願いします」
「……すまない、世話になるな」
「笹山さん、京香さん、今日はご馳走になります」
 久朗とセラフィナに引き続き、佐倉 樹(aa0340)は黒い髪を揺らしながら平介達に頭を下げた。平介はにこにこと笑みで返し、後ろに控える柳京香(aa0342hero001) も微笑みながら片手を振る。うさ耳のついたシルクハットがチャームポイントのシルミルテ(aa0340hero001)と、現代社会では目立ちそうな忍び装束の小鉄(aa0213)もそれぞれ自分の席につき、うきうきわくわく浪漫たっぷりお寿司パーティーは幕を開けた。
「それでは笹山殿、ありがたく御馳走になるでござる。山奥の寒村ゆえ海鮮系を口にする機会はなかなかなくて……しかし回る寿司とはすごいでござるな」
 覆面の下で礼と感心を同時に述べつつ、回転寿司に興味津々忍者・小鉄は早速皿をレーン上から自身の手元へ引き寄せた。ウニ、マグロ、ウニ、マグロ、ウニ、マグロ、ウニ、マグロ……小鉄の横で段々と皿がタワーをなしていき、小鉄が掴んだ端から次々寿司が消えていく。そして寿司を食べているはずの小鉄は黒い覆面で口を覆ったままである。一体どうやって食べているのか……と普段から謎に包まれた小鉄の食事風景を、こちらはサーモン・炙りサーモン・焼きハラス等、サーモン、サーモン、ひたすらサーモンを狙いながら樹は密かに観察していた。そんな二人の中心辺りで久朗はエビの皿に視線を止め、右から左に流れていく皿をそのまま静かに見送った。
「真壁さん、好きなものを取っていいんですよ?」
「す、すまん、取ろうかどうか悩んでいる間にあっという間に流れてしまった……」
「全く仕方ありませんね、どうぞこれでも食べて下さい」
 平介の言葉に零すように返した久朗のすぐ手元へと、カウンター上を絶妙な力加減でスライドしてきた納豆巻きが現れた。納豆巻き。この甘酸っぱい白米とねばねばっとした豆が絶妙なハーモニーを奏でる細長い食べ物は、実はこの目付きの鋭い朴念仁が苦手としているものである。久朗が視線を右に向けると、セラフィナとシルミルテのさらに向こうで樹が満足げな顔をして久朗の手元を眺めていた。おのれ貧乳。おのれ平たい胸族。絶壁でもすっとんとんでも直滑降でもなんでもいいが、とりあえず目の前の物体をなんとか処理しなければ。
「真壁さん、もしかして納豆巻きはあんまり得意じゃないんですか?」
 セラフィナの殺人料理を思い出し、それを口にする時と同等の決意を久朗が密かに固めていると、後ろからひそりと囁かれ久朗は声を振り返った。見れば平介が、先程レーンの彼方に消えたはずのエビ皿を持って立っている。
「でしたら私に頂けませんか? ちょうど納豆巻きが食べたい気分だったんです。さすが佐倉さん、とってもおいしそうな納豆巻きです♪ 代わりにこちらのエビをどうぞ」
「真壁殿は遠慮がちな所も見受けられるでござるからな……そこが長所でもあるのでござるが、こういう所でまで遠慮のし過ぎはいかんでござる。これも旨かったでござるゆえ、どうぞ隊長」
 平介が納豆皿を取り上げ代わりにエビ皿をことりと置き、小鉄がウニとマグロの皿をエビの横へと追加した。紺のチェスターコートと白のスキニー姿の朴念仁が二人の顔に視線を合わせ、「ありがとう」と無愛想なりに零すように礼を述べた。こうして久朗が納豆巻きの脅威から逃れエビを口へと運んでいた頃、ぷんでれ……もとい守凪も顔に出さずに困っていた。ぼっち・ぷんでれとすでに属性が二つもスロットインしている守凪は、さらにとある裏組織の事実上の跡取り、という属性までも持っている。そのせいかどうかは定かでないが、好きなネタはトロやサーモンなど、しかも一皿に一つしか乗ってないような上等な物が中心。しかし、途中で金が平介の財布から出ている事を思い出し、店員に頼む手が完全にストップしてしまった。「皆でお寿司」、その素敵なワードは孤独なぼっちの記憶を奪っていくのに十分過ぎたようである。恐るべし皆でお寿司。強力過ぎる皆でお寿司。それはともかく、これを機会に安価なものに手を出そうかと一念発起してみたのだが、庶民の味が未知数過ぎて何を頼めばいいのか分からない。
「賢木さん、よろしかったら玉子をお一つどうですか?」
「守凪チャン、これオイしいヨ。勇気ヲもっテ食べテみテ」
 そんな守凪の後ろから、渡りに船とばかりに二人分の天使の声が響き渡った。守凪が後ろを振り向くとそこには天使……ではなく天使のごとき笑顔を浮かべたセラフィナとシルミルテが二人仲良く立っている。
「玉子……と、なんだ、それは」
 守凪は緩みそうになる表情を無駄に引き締めてしまいながら、シルミルテの持っている寿司皿へと視線を落とした。何か黄緑色の食物が、白米に乗って黒い海苔で巻き巻きされているのが見える。……それは普通サラダかなんかに入れるものじゃないだろうか……
「何事モチャレンジだヨ、守凪チャン。勇気ヲもっテ食べテみよウ。ネ?」
 シルミルテの歌唱用合成音声に守凪は眉間にシワを作った。ここで断る事は簡単である。「そんなワケの分からんものは食べたくない!」、一言そう言えばいい。
 だが、ここでぷんを発動してしまったらせっかくの会話の機会まで逃す事になりかねない。何よりわざわざここまで来て勧めてくれている訳だし……守凪はまず、二つで百円そこそこの玉子寿司へと箸を伸ばした。甘くてふわふわ。おいしい。続いて黄緑色の食物をまといし軍艦巻きにも手を伸ばした。新食感! なんだこの味は! 口でとろける! おいしい。
「ヨク勇気ヲ出しマシタ!」
「ふ、ふん、このぐらいの事は何でもない! な、なかなかおいしいじゃないか……」
「良かったらデザートも一緒に食べませんか? みんなで一緒に食べたいなあって思ってるんです! でも、もう少し後の方がいいですかね?」
 みんなでデザート! その素敵な単語にぼっちの心は激しく動いた。だが守凪にくっついたぷんでれ属性は寿司のようには流れていかない。
「ふ、ふん! お前達がどうしても一緒に食べたいのなら付き合ってやらない事もないぞ! ところで一体何があるのかな……アイス……プリン……チョコレートケーキ……」
「あら、水出し緑茶なんてものもあるのね。誰か欲しい人はいるかしら」
 皆の様子を微笑みながら静かに眺めていた京香は、席から少し離れた所にポットがある事に気が付いた。人数を確認し、水出し緑茶をポットが置いてあるテーブルまで取りに行く。一つ目のコップに緑茶を注いだ所で久朗が一人で近付いてきた。
「手伝おう」
「あら、ありがとう。真壁さんはお寿司はエビが好きなのね」
 何気ない京香の言葉に、久朗は自分の事のはずなのに不思議そうな色を浮かべた。自分の席の皿を眺め、顎に指を当てて考え込む。
「俺はエビが好きなのか? そう言われてみるとさっきからエビばかり食べている気がするが……京香はガリやかんぴょう巻きが好きなのか? さっきからそればかり口にしているみたいだが……」
 久朗の言葉に京香は苦笑いを浮かべてみせた。真実を誤魔化すためにそれとなく肯定する。
「ええ、ガリやかんぴょう巻きが好きなのよ。あと小食でね。そんなに多くは食べられないのよ」
 皿の少なさを誤魔化すためにそう付け足してしまったが、少々わざとらしかっただろうか。しかし自分の気持ちにも、好物にも中々自覚出来ない鈍い久朗がそれに気付く事はない。
「そうなのか……ともあれ、今日は誘ってくれてありがとう。誘ってくれでもしなければ、こうしてみんなで寿司を食べるような機会も持てはしなかっただろう」
「お礼を言うのはこちらの方よ。今日は平介に付き合ってくれてありがとう」
「おごってもらった上に礼を言われるとは奇妙な感じだ。こんな所で言う事ではないかもしれないが、これからもよろしくな」
「か、からいです! マグロさんが辛いです!」
 会話に一段落をつけるように、おっとりだが切羽詰まったボーイソプラノが聞こえてきた。見ればセラフィナが白い両手で鼻と口を必死に押さえ、天の川のような緑眼にじわりと涙を浮かべている。
「わさびが多かったみたいですね。セラフィナさん、こちらのサビ抜きと交換しましょう。わさび入りは私が頂きます。マグロの赤身が好きなのでありがたく食べさせて頂きますね♪」
「早く持っていってあげた方が良さそうね」
「そうだな」
 久朗はわずかに頭を下げると、鼻つーんにいまだ苦しむ相棒の元へと水出し緑茶を持っていった。京香も緑茶を人数分持って戻ると、樹が席を移動した守凪にレクチャーを施していた。
「守凪さん、食べたいお皿があったら直接取ってもいいんですよ?」
「そうなのか!? で、では納豆巻きとやらを……ん! んん!? ……あ、おいしい……」
 京香は微笑みながら二人の手元に水出し緑茶をことりと置き、続いて黙々と寿司を食べ続ける小鉄の元へと歩いていった。イケメンらしい素顔を隠したままの覆面忍者は、相変わらず覆面のまま皿タワーを建設している。
「どうぞ」
「む、かたじけないでござる。いやあ、寿司は旨いでござるな。食べる機会がそうないからか、食べても食べてもいくらでも入っていってしまうでござる。そう言えば任務の調子はいかがでござるか?」
「まあまあっていう所かしら。そういう小鉄さんはどうなのかしら」
「む、拙者でござるか? ぼちぼちといった所でござるよ。忍びらしい任務は余り無いのが不服でござるが……」
 小鉄はそう零した後困ったように頭を掻いた。最初の席順はすでに崩れ、それぞれ空いた席に座り寿司と会話を楽しんでいる。京香も小鉄の隣に座り、せっかくなので小鉄の食事風景の謎でも解いてみようかと観察をし始めた。小鉄は覆面をしたまま黙々と寿司を消す作業を続行している。
「樹、これオイシいヨ。セラフィナも一個ドウゾ」
「ありがとう」
「ありがとうございます、シルミルテさん。シルミルテさんも玉子どうぞ。あーん」
「アーン」
 シルミルテはほたてやイカを思う存分堪能した後、皿を五枚ごとに重ねたり、生モノじゃない変わり種を食べてみておいしかったら一貫あげたりと、主にセラフィナのサポートをしながら回転寿司を楽しんでいた。その最中にふと、寿司を食べるのをすっかり止め、にこにこと皆を眺めている平介の姿に気が付いた。シルミルテは一計を案じると130cmの小柄を活かし、気付かれないよう180cmの背中へそろりと近付いた。
「笹山サン、ちゃんトお寿司食べテる?」
 急に後ろから声を掛けられ、平介は思わず振り返った。そして可愛らしい魔女の姿を認め一層笑みを深めてみせる。
「シルミルテさん、いっぱい食べてますか?」
「もちロン! 笹山サンこそ、ちゃんト食べテる?」
「私ももちろん! ですよ♪ でも、そろそろお腹いっぱいになってきたかも……お手伝いして頂けますか?」
 平介の言葉に、シルミルテは明るく可愛らしい笑みを浮かべた。そこに二人の会話を聞きつけたセラフィナと守凪も集まってくる。
「もちロン、手伝うヨ」
「僕もお手伝いさせて欲しいです」
「ふ、ふん! 俺も手伝ってやらない事もない! この後デザートを食べるんだから、ギブアップなんかしたら許さないからな!」
「じゃあ、一緒にデザートを食べましょうか。一体どれがいいですかね」
 平介はメニューを広げ、子供達三人と相談をし始めた。微笑ましいその光景を、京香は頬杖をついて少し離れて眺めている。
「京香さんもデザート食べませんか?」
 そこにセラフィナが声を掛け、宝石のような瞳で自分の事を見つめてきた。京香は「事情」に想いを馳せつつ、こっそりと自分を見ている平介の笑顔に頷き返す。
「そうね、何がいいかしら」
「ドウセなラ全部頼もうヨ! そしテみんなデ分けヨウヨ!」
「ふむ、拙者まだまだ入るでござるよ!」
「よくそんなに食べられるな……」
「パンケーキもありますよ」
「パンケーキ!」
「俺は何にしようかな……みんなでデザート……みんなで……ふふ……」
 シルミルテがみんなでシェアを希望し、聞きつけた小鉄と久朗もデザートの輪に入ってきた。樹がパンケーキを発見しセラフィナが目を輝かせ、守凪はその素敵な単語をひっそりと呟き続ける。平介はそのにぎやかな光景を、海のように青いサングラスの向こうから眩しそうに眺めていた。一瞬、小さな子供が三人、笑いながらテーブルに集まっている光景が脳裏に強く浮かんだが、平介は目を伏せてその光景を瞼の奥へと沈ませる。
「とりあえず一つずつ頼みましょうか。すいません、デザートのメニューを一つずつ全部お願いします♪」
「おお、笹山殿太っ腹でござるな!」
「お礼ってワケじゃないですけど、今度忍者の術を教えてくれたら嬉しいです♪」
 平介は笑いながら小鉄に忍術のお願いをし、京香はそんな平介を見て複雑そうに微笑んだ。程なくしてカウンターにショートケーキ、チョコレートケーキ、プリン、アイス、パンケーキなどが並べられ、一同は改めて両手を合わせる。
「いただきます!」
「オイシイね!」
「おいしいです!」
「ん……ふん! まあまあだな!」
「デザートまで食べられるとは、回転寿司とはすごいでござるな!」
「食べろ、まな板。もしかしたらその乏しい板が少しは進化するかもしれないぞ」
 納豆巻きの因縁を晴らそうとした久朗の一言に、デザートを挟んで仁義なき腐れ縁バトルが勃発した。平介は久朗と樹の意外な関係に少しだけ驚いたが、それさえも楽しいと言わんばかりににこにこと笑い続けていた。
 
●それでは、また
「笹山殿、今日は御馳走して頂き本当にかたじけのうござる。この恩は忘れないでござる」
「ご馳走様でした。どうもありがとうございます。今日も6皿しか食べられなかったのと小鉄さんの食事の謎が解けなかったのがやや不服ですが、お寿司はおいしかったですし、守凪さんの面白い挙動が見れたのでよしとする事にします」
 平介と京香に小鉄が神妙に手を合わせ、その隣で樹も二人に向かって頭を下げた。ちなみに樹の後半の呟きは誰にも聞かれなかったものとする。
「俺達も楽しかった、今日は本当にありがとう」
「ま、また機会があったら来てやらない事もないぞ! そ、その、今日は誘ってくれてありがとう……」
 久朗もいつもは固い表情をやや和らげながら礼を述べ、守凪は安定のぷんでれ節を披露した。小声ながらも礼を言えたのは称えるべき進歩だが、普通に会話し、平介を名前で呼べるようになるまでもうしばらくはかかりそうだ。
「こちらこそ、今日は付き合ってくれてありがとうございました」
「くれぐれも気を付けて帰ってね」
 平介と京香は六人の背中を見送った後、二人並んで反対方向にある我が家へと歩いていった。セラフィナとシルミルテは一度振り返って二人の背中を認めると、顔を見合わせて楽し気にくすくすと笑みを零しあった。

●そしてこの手に残るもの
「あー、楽しかった♪」
 何処となくわざとらしさの漂う平介の発言に、京香は人前では決して見せないひどく苦い笑みを浮かべた。平介は常に礼儀正しく丁寧な態度で人と接する、にこにこと笑みを絶やさない印象のある男だが、勘のいい者であればその笑みに何処かわざとらしさを感じるだろう。本心から笑っていないと言うか、無理をして笑っていると言うのか……京香は胸に小さな針が刺さったような想いのまま、天井へと腕を伸ばす相棒へと問い掛ける。
「楽しかった?」
「とっても♪ 臨時収入じゃないって事、黙っててくれてありがとう」
 平介は京香と二人だけの時のみ使う砕けた口調でそう答えた。実は今回平介が皆を回転寿司に誘ったのは、臨時収入が入ったから……ではなく、密かに皆の行動パターンや人間関係、好きな物を調査するためだったのだ。京香は当然それを知っていたのだが、平介に頼まれて一度も口には出さなかった。
「騙したようで申し訳なかったけれど、でも、楽しかったなあ。皆の幸せそうな姿や、おいしい! っていう姿をいっぱい見れて良かったよ。また、機会があったら誘ってみんなで遊びに行きたいなあ……」
 満足気に答えた平介の脳裏に、一瞬、かつて失った大切な子供達の姿が思い浮かんだ。何よりも大切で、そして守れず失ったもの……しかし、平介は笑顔という名の牙で浮かんだ感情を噛み殺した。「喜」と「楽」の感情以外を表に出す事のなくなった男……笹山平介は意味もなく口元の笑みを深め、羽織っていたコートを脱ごうとして、コートの違和感に気が付いた。
「あれ?」
「どうしたの?」
「コートに何か入ってる……」
 平介は奇妙な感触を伝えるポケットへと手を差し入れ、それを右手に取り出した。大きな手のひらの上にあるのは回転寿司屋に置いてあった、包装された魚のキーホルダーと、こちらは手作りのものらしい刺繍入りの小さなリボン。そして二つのメッセージ。
『ありがとう』
『魔女ノお礼ノお守りダヨ!』
「これ、セラフィナさんとシルミルテさんの字……いつのまにポケットの中に入れたんだろう……」
 恐らく、平介が会計をしている隙に、協力しあってこっそりとコートの中に入れたのだろう。平介はその光景を無意識に思い浮かべ、思わずプレゼントの乗っている右手をぎゅっと握り締めた。レーンに乗ったお寿司に目をきらきらと輝かせながら、一番好きな玉子寿司をそっと取っていたセラフィナ。お皿を五枚ごとに重ね、デザートや変わり種をみんなに勧めていたシルミルテ。納豆巻きに目を白黒させながらおいしいと言っていた守凪。覆面のまま食事をするという妙技を見せ続けた小鉄と、その不思議を虎視眈々と眺め続けていた樹。普段は威圧的な無愛想を、和らげて礼を言った久朗。胸の詰まるような光景と感情に、それでも平介の瞳から涙が零れる事はなかったが、わさびに当たった訳でもないのに鼻がツンと痛んだ気がした。わずかに、けれど確かに様子の変わった平介に、京香は少し目を見開き、そしてふっと笑みを深めた。先程と言葉はほとんど同じ、しかし意味合いを全く変えて、京香は平介に言葉を贈る。
「楽しかったわね」
 それに平介は、心からの笑みでこう答えた。
「うん」

━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【笹山平介(aa0342)/ 男性 / 24 / 能力者】
【真壁 久朗(aa0032) / 男性 / 24 / 能力者】
【セラフィナ(aa0032hero001) / ? / 14 / バトルメディック】
【小鉄(aa0213) / 男性 / 24 / 能力者】
【佐倉 樹(aa0340) / 女性 / 19 / 能力者】
【シルミルテ(aa0340hero001) / ? / 9 / ソフィスビショップ】
【柳京香(aa0342hero001) / 女性 / 23 / ドレッドノート】
【賢木 守凪(aa2548) / 男性 / 18 / 能力者】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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こんにちは、雪虫です。
この度はご指名頂き、誠にありがとうございました。
うきうきわくわく浪漫たっぷりお寿司パーティー! を頑張って書かせて頂きました。
おいしく楽しいひと時をお楽しみ頂けたなら幸いです。

浪漫パーティノベル -
雪虫 クリエイターズルームへ
リンクブレイブ
2016年03月09日

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