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『 アンラッキーカラー【銀】 』
シリューナ・リュクテイア3785)&ファルス・ティレイラ(3733)


 その建物は、魔法陣や古文書、魔法の遺跡の守護の彫像をモチーフにした外観であった。だがそういう魔法的な、この世界ではファンタジーととられるような雰囲気の品物を扱っている店――にしては規模が大きい。まるで、魔法文明の遺跡を復古させたような圧倒される建物だ。ただ、郊外にあるとはいえ周囲の建物との調和を考えると、流石に浮いてしまってはいるのだが。
「お姉さま、今日はこの美術館でお仕事ですね」
「そうね、ここの館長からの依頼よ」
 赤い瞳を隣のシリューナ・リュクテイアに向けて、ファルス・ティレイラが問うた。シュリーナはその答えに更に続けて。
「ここの館長が知り合いなのよ。直接依頼されたら流石になんとかしてあげないとね」
「館長さんですかぁ。きっと知識豊富なおじいさんとかでしょうねぇ」
「あら、ここの館長は女性よ?」
「えっ」
 なんとなく、美術館や博物館のたぐいの館長というと、壮年の紳士か老齢のおじいさんを想像してしまう事はままあるだろう。ティレイラもそんなイメージで勝手に館長を男性だと思い込んでいたものだから、シリューナの告げた事実に驚いてしまった。
「女性ですかー。こんな大きな美術館の館長なんてすごいですねー。どんなものが収められているのでしょう?」
 きらきらと期待で瞳を輝かせるティレイラ。そんな彼女をシリューナはそっと窘める。
「私達は、この美術館の美術品を盗み荒らしている魔族を捕まえに来たのよ。美術品に見とれて目的を忘れないようにね」
「……!! は、はいっ! 頑張ります!」
 心の中にいっぱいの、美術品への興味を読まれたように感じて、ティレイラは思わず背筋をピンと伸ばした。



 美術館内が広いことは外観から想像できていた。シリューナとティレイラは手分けをして問題の魔族を探すことにした。魔族というだけでどんな姿をしているかもわからない。決して油断しないようにとシリューナに言い含められ、ティレイラは気合を入れて捜索を開始した。
(音を立てないように近づかないと、相手に気づかれてしまうかもしれません)
 今日は休館日であり、客や職員もいない。問題の魔族にしてみれば絶好の盗み日和だ。抜き足差し足、まるで自分が泥棒になったような気分になりながら、ティレイラは展示と展示の間を進んでいく。綺麗な絵や置物などをじっくり見たい思いに駆られるが、頭を振ってその考えを振り払った。
 そして、次の展示コーナーへ足を踏み入れようとしたその時。


「きょーうはこれーにしようかなー♪」


 歌うような調子の声が聞こえ、ティレイラは壁の影に身を隠した。そしてそっと展示コーナーを覗き込むと……岩に腰をかけて歌う人魚のオブジェの入ったガラスケースの向こうに見えたのは、少女――否、少女の姿をしたあれが魔族だろう。
(見つけました……!)
 ティレイラはギュッと拳を握りしめる。頑張ってあの魔族を捕まえれば、お姉さまも館長も喜んでくれるだろう。魔族はティレイラに気がついた様子はなく、呪文のようなものを唱えてガラスケースの中へと腕を突っ込んだ。すると手がガラスを通り抜け、その手に掴まれた人魚像もまた、ガラスを通り抜けて外へと出てきたではないか。
「キヒヒ……や〜ったぁ!」
「!」
 魔族は像を抱えて小走りでその場から離れようとした。流石にじっくり鑑賞するのはねぐらに持ち帰ってからにするのだろう。その様子を見て、ティレイラは慌てて動いた。
「待ちなさい!」
「!?」
 突然現れたティレイラに魔族が注視したのは一瞬だけ。こういうことも慣れているのだろう。すぐに走り続ける。
「待てと言われて待つバカが……」
 しかし、そこまで言った所で、魔族は逃げに徹したことを後悔する事になる。
「これでもう、逃げられませんよね?」
 尻尾と翼を生やしたティレイラが、強引に館内を飛行してあっという間に魔族に追いついたのだ。後ろから羽交い締めするように抱きついて、動きを止めた。
「ちょっ、離せよ!」
「離せと言われて悪人を離すバカはいませんっ!」
 魔族の使った言葉を言い換えて、嬉しそうに言い返すティレイラ。
(これでお姉さまに胸を張って報告できます!)
 心の中には嬉しさと誇らしさしかない。だから腕の中の魔族がジタバタと動かなくなったことに気がついたのは、しばらくしてからだった。
「観念したのですね」
「……バーカ」
 じっとしてそうポツリと答えたのが観念している証のように思えた。
「盗んだものを返して、ちゃんとごめんなさいしてくださいね」
 だがそう告げて魔族の顔を覗き込んだその時、少女の姿をした魔族は観念とは程遠い、ニヤニヤとした笑いを浮かべていたのだ。
「えっ……?」
 一瞬、その表情の意味がわからなかった。けれど観念したと思った魔族のあの表情、気になる。そして漸く気づいたのは、尻尾の違和感!
「……!」
 振り返ってみけば、ティレイラの尻尾は魔力を帯びた銀色の金属質な物体に変化しており、その侵食は腰へと広がってきていた。
「いやぁっ!」
 思わず魔族を捕まえていた腕を離し、抵抗を試みる。が、炎の魔法でも魔力をぶつけても、事態は一向に介抱へ向かわない。
「なんで……」
 思い返しても自分が金属に変質していく原因がわからない。ただひとつ気になるといえば、魔族を捕まえたことに安堵して、目を離してしまった時間があったということ。
 実はティレイラの視線が離れた隙に、魔族はなんとか懐から取り出した魔法道具に魔力を込めて、ティレイラの尻尾に変質の魔法をかけていたのだ。
「やっぱあたしよりお前のほうがバーカ♪」
 束縛から逃れた魔族は嬉しそうに笑い、足先から首元まで金属に侵食されたティレイラを見て嗤う。
「う、うう……」
 もはや動けぬティレイラは、悔しそうに声を漏らすことしかできない。
(油断しないようにって心に決めていたはずなのに……)
 もはや悔しさしか心にない。ティレイラはそのまま銀色の金属の像として固まってしまった。
「わーい、今日一番の戦利品だ! コレクションに加えてやるからな」
 魔族が隅から隅までティレイラの像を眺めてそう呟いた時、何者かが近づいてくる気配がした。魔族はとりあえず展示台の影に隠れて、その相手をやり過ごすことにする。



「まぁ……」
 そこに現れたのはシリューナだった。別の階を探索していたので騒ぎに気づくのが遅れてしまい、なんとか音を拾いつつこの展示コーナーまで辿りついてみると。
「なんて素敵なの、ティレ」
 仄かに魔力を帯びて光る銀色のティレイラ。シリューナの心はひと目で奪われてしまった。
「素晴らしいわ。この躍動感あふれるフォルム。振り返りざまの捻られた腰のラインがとてもいいわ」
 まだ少し暖かい金属質のティレイラの腰のラインを指先でなぞっていく。なめらかな曲線が、シリューナをゾクゾクさせる。
「ああ、この絶望したような表情もいいわね。いつも素敵よ、ティレ」
 今度はティレイラの頬を両手で包み、そして顔を近づけてうっとりと眺める。シリューナの興奮はほぼマックスだ。
 髪の波打つライン、乳房の躍動、スカートの翻り。「はぁ」とか「あぁ」など艶めかしいため息を吐きながら、シリューナはティレイラ像の鑑賞に夢中になっていた。
(戦利品がもう一つ増えるな!)
 展示台の影。隠れていた魔族は新しく来た女性が自分を探すそぶりがないとわかると、再び魔法道具を取り出し魔力を込める。そして像に陶酔しているシリューナの脚に魔法道具をつけた。だが、シリューナはそれに気づかぬほど、ティレイラの像に夢中だった。
「ヒヒヒヒ……」
 その様子を展示台の影から見つつ、魔族は小さく嗤った。このまま行けば、ふたつ目の像が出来上がるのも時間の問題。
 シリューナが自身の体の変化にがついたのは、顎のあたりまで銀色の金属に変えられた時だった。
「……! 私としたことがっ……!」
 かろうじて動く口で呪文を唱える。
「今更何したって無駄さ〜♪」
 勝ったとばかりに姿を現した魔族に冷たい視線を投げかけた。その視線のあまりの冷たさに魔族が思わずすくみあがったその時、シリューナの呪文が完成した。

 ――!

 大きな魔力がシリューナに降り注ぐ。色にすると透明感を持つパープル。魔力の雨に打たれた部分が、銀色から回復していく……!
「油断するなんて、私もまだまだね」
 この手の魔法道具には精通している。そんなシリューナにとって解除なんて容易いこと。ちらりと魔族に視線を向ければ、何故術が解けたのかわからず、混乱しているようだ。
「悪い子にはお仕置きしないとね」
「えっ……」
 魔族が状況を理解する前に、シリューナは魔族へと魔法を放った。瞬く間に魔族の小さな身体が石化する。
「ただ、一つだけ褒めてもいいかしら」
 石化して動かなくなった魔族に、かけるのは声だけ。視線も指先も、銀色のティレイラに向けている。
「ティレを素敵なオブジェにしてくれて、ありがとう。上出来よ」
 ふふふ、微笑みながらティレイラのいたるところを撫でていくシリューナ。再び、気分が高揚していく。

 静けさを取り戻した美術館内に響くのは、シリューナの悩ましい溜息と、ティレイラの像に対する賞賛の言葉だけだった。






                 【了】




■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■

【3785/シリューナ・リュクテイア様/女性/212歳/魔法薬屋】
【3733/ファルス・ティレイラ様/女性/15歳/配達屋さん(なんでも屋さん)】


■         ライター通信          ■

 この度は再びのご依頼ありがとうございました。
 お届けが遅くなりまして誠に申し訳ありませんでした。
 ティレイラ様のがんばりと、シリューナ様の陶酔ぶりをかかせていただくのがいつも楽しいです。
 少しでもご希望に沿うものになっていたらと願うばかりです。
 この度は書かせていただき、ありがとうございました。
PCシチュエーションノベル(ツイン) -
みゆ クリエイターズルームへ
東京怪談
2016年03月10日

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