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『飛び立つ真似事 』
ナハティガル・ハーレイka0023

●連れ出せる立場

 待ち合わせ場所は森の外、通い慣れたマーフェルスの近く。
「おぅユレイテル、しっかり休みは取ってきたんだろうな?」
 身軽な旅装束で来いよと、そう指定したのはナハティガル・ハーレイ(ka0023)自身だ。だから伴うのは愛用の武器防具。対するユレイテル・エルフハイムも最近では珍しい、ラフに近い格好だ。
「約束したからな」
 違えるわけにもいかないだろう、と生真面目を崩さないエルフの友人。
「結構じゃねぇか」
 その頭一つ分ほど低い肩をがっしと巻き込んで、ナハティガルはにししと笑う。
「むっ」
「眉間、まぁーだ皺寄ってんぞ」
「……地だ」
 ぐりぐりとからかってやる。ユレイテルの表情筋もわずかに緩んだ。
「それじゃ行くか」
「あぁ」
 ちらりと森を振り返る仕草に気付くと同時に、チリチリとした緊張感のようなものが向けられている感覚。
(心配性だよなァ)
 思うが言葉にはしない。そう言う立場になったのだという事は、つい先日の芋掘りの時に重々理解しているつもりだ。
(それでも許可だしたんだろーが)
 この休みをとるためにどれだけの労力を費やしたのか、ナハティガルには想像することしかできない。立場の重さも、本当に理解することはできない。
 それでも、自分はこの友人に休みを作らせ、連れ出すことを約束した。
 それだけの価値がある時間をやるからと言葉を尽くした。
 友人と呼ぶこの男に、どこか過去の自分を重ねているから。
 休みの過ごし方を知らない彼に余暇の使い方を教えると約束した、酒場でのあの日。
「街で過ごすだけが遊びじゃねぇってことくらいわかってるだろうに」
 ちゃぁんと、ここに連れて帰るからよ、安心して待ってろよ。森に向けて呟く。きっと耳を澄ましているだろうから。
「ナハティガル、行先はこちらでいいのか?」
 先に歩き出したユレイテルの声に呼ばれ、振り返る。

●不利を補って余りある

「……」
 どんな表情をしていいのかわからないって顔してんな。
「素直に言っていいんだぜ?」
 ここに他の奴いねぇし。その言葉に眉間の皺がまた、解れる。
「やればできるじゃねぇか」
 そういう顔もできるんじゃないか。少しだけ踏み込んだ言葉は言うべきなのか少し迷う。
「不快だな」
「そんなにか」
「そんなにだ」
 負のマテリアルを感じ取りやすいにしたって、ここまでか。変えられない種族の差が2人の間に横たわっている。それは今更な事実だけれど。自分が言った通り素直に答えた友人に、やはりどこまでも生真面目なのだと口元が緩んだ。
「悪いなぁ連れてきて」
「思うなら何故こんな土地に」
 ユレイテルの言葉が微かな物音に遮られる。
「そりゃ答えは一つだろ」
 ギラリ
 テンポの良い言葉のラリーは最後まで続かない。ナハティガルの得物が影を貫く。
 ユレイテルも体の向きを変え、影に向けて得物を構えていた。
 ドサッ
 ゆっくりと倒れる音。
 人を襲う野生動物にしては小柄な体躯。けれど迷わずに二人に向かってきたという事実。
 四足歩行の獣。人によっては、食卓でよくお目にかかることもあるだろう、食べられる筈の……
「こりゃまた結構な上物だな」
 獲物の体格にひゅぅと口笛を鳴らすナハティガル。
「消えない……?」
 対してユレイテルは訝しげに眉を顰める。倒した歪虚の行く末はそれこそ無に帰るだけだというのに。
「前も見ただろ?」
 芋の時によ。短い説明で理解の色が浮かんだ。雑魔になりたてならば、その体は後に残るという話。
「だがあれは」
 まだ信じたくはないという様子ではある。あまりにも手軽に来れる場所過ぎて。
「実際見たろ?」
 足を掴んで持ち上げる、ぷらんと目の前に差しだそうとすれば。片手で押しとどめられた。今はもう雑魔でもない、小動物だった体。
「……近い」
「そりゃそうだ」
 獲物そのものはもう、負のマテリアルで不快というわけでは無いと分かっている。だが首を落とされた動物の遺体を近づけられて嬉しいものではない。
「でもまだ少ないだろ? もう少、し数稼ぐぞ」

●豪快の皮を被った繊細な

 ジビエは血抜きが大事だ。
 狩ってすぐ、もしくは狩るために頭を落とすのはそのためで、雑魔ではなくなった瞬間、早いうちに足を掴んで吊るす。
 その血の匂いは死の匂い。もしくは二人のハンターがまとう正のマテリアルが目印になっているからか。
 雑魔は面白いように次から次へとやってきた。
「絶好の狩場なんだぜ?」
 穴場とでも言えばいいのだろうか。小一時間ほど過ごしただけでも十分な肉が確保できている。
「十分わかった。だが。多くないか?」
 その半分でも良かったのではないのかと、ユレイテルの顔には書いてある。
「食料の持参は要らないと言っていた理由は十分わかったが」
 2人で食べるには多すぎる量だ。
「俺一人なら、それでもいいけどよ」
 人里に近い場所まで戻り、歪虚が来てもすぐに対応できるよう二人だけの陣は組んである。
「面白かっただろ?」
 エルフハイムでも肉料理はあった。それは今の獲物と似たようなものだけれど。食べる為の必要最低限しか狩らない、そんな話だった気がする。
 食べる為ではない狩り。それは趣味として数えてもいいはずだ。
 普段から仕事のことばかり考えていると言っていた友人には、『必要ではない行動』をする楽しさを教えたい。
 前は目的のない買い物という名の、街や店の冷やかしだった。半日あるかどうかの、偶然の出会いから生まれたその機会だけでは、教えるには不十分だとずっと感じていた。
 ユレイテルは獲物を捌く作業を続けながら、じっと考えているようだ。こういう時にどう答えればいいのかわからないとでも思ってるんだろうな。それだけでも意味はあるはずだとナハティガルは思う。
(もっと離れた場所で息をさせてみたかったんだろうな、俺も)
 街を歩くだけでは、常に考えているようなことは頭から離れない。棲家から少しでも距離を取って、人の目を減らして。身体を動かさなければいけない状況に置いて、ただ剣を振るう。
(何も考えてない状況ってやつをよ)
 いつも考えすぎるきらいがあるからなあ、こいつは。
 後から無駄な殺生をしたと悔やまない様にとも、配慮はしているつもりだ。そのために相手は歪虚に絞った。
(確実に美味いものにありつけるってのも肝心だが)
 自分も作業の手は止めない。結構な量の肉が出来つつある中、特に食べごろと思われる肉に香草を挟む。こ元雑魔の時点で、熟成された旨みは保証されているはずだ。だがそれよりも、味を良くする努力は無駄じゃない。香辛料も表面に刷り込んでいく。
「……肩が軽くなった、というのが近いか」
 ぽつりと声がする。別の肉を食べやすい大きさに切り分けながらなので表情は見えない。見つけた果実を絞って漬けるのだと言っていた。慣れている様子にやっぱりなと頷く。
「真面目に考えすぎなんだよ」
「性分だ」
「知ってるけどよォ」
「それはなによりだ」
 会話がぽんぽんと続く時は気安い時間だと互いにわかっている。
(それで十分かもな)
 何処まで行っても真面目な奴だなと笑ってやることにした。

●見慣れた天井

「……残ったら、土産にしてやりゃ……」
 ごろり
「……美味かったんだしよ……」
 ごろ
「……ん」
 寝ちまってたのか、すまねェな火の番任せちまって。時間はまだ大丈夫か?
 何なら一緒に怒られてやっても……
 ……ん?

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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ka0023/ナハティガル・ハーレイ/男/24歳/闘狩人/長老の友】
【kz0085/ユレイテル・エルフハイム/男/26歳/機導師/維新派長老】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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このノベルはおまかせ発注にて執筆させていただいたものになります。
おまかせ第1号ですね。
ご発注ありがとうございました!
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2016年03月14日

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