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『大好きなあなたと…… 』
ローズマリー3825)&レイン・フレックマイヤー(3836)

 エルザードの城下町は賑わい、多くの人が行き交う。大通りに並ぶ店には色とりどりの花々や武器や防具等が並べられ、冒険者や街人たちがその店主と談笑していた。
 近々祭りでも行われるのか、一層の賑わっている街角にレインとローズマリーの二人が偶然居合わせた。
「え、あ、マ、マリーさん」
「あら、レインさんこんにちは。こんなところで逢うだなんて奇遇ですね」
 ローズマリーは小さな紙袋を手に、にこやかな笑みを浮かべて挨拶をした。
 レインにとって、ローズマリーは憧れの女性以外のなにものでもない。年上で、知性派で、お嬢様系……。まさに彼のど真ん中だった。
 奇遇とはいえこうして意図せず逢えた事に、彼は緊張をあらわにした。
「どちらへ行こうと思っていたんですか?」
「あー……えっと、ボクは近くの本屋に行ってきた所です」
「本屋さん? まぁ、流石は学者さんですね」
 微笑んでいるローズマリーに、レインの僅かに紅潮した頬が更に赤みを増した。
 レインはさっと目を逸らし、前を見つめながら訊ね返す。
「マ、マリーさんはどこへ?」
「私はお嬢様の所要で買い物に行って来ました」
「そ、そうだったんですか。ボクと同じで、買い物帰りだったんですね」
「ふふふ。えぇ、同じですね」
 赤い顔をしながら緊張したまま歩くレインを見ていたローズマリーは、柔らかな笑みを浮かべながら見つめていた。
 自分よりも年下で、可愛らしく思ったレイン。そこに恋愛と言う名の感情はなかった。ただ弟のように可愛いとそう思っていたのだが……。
 一体いつからだっただろうか。弟のようだ、と言う枠を超えた何か違うものが胸の奥に芽生え始めていることに、ローズマリー自身気付いていた。
 他愛ない話に花を咲かせながら街中を歩いていると、ふとレインは思い出したように路地を指差した。
「そうだ、マリーさん。ボク、こっちに少し用事があるんです」
「えぇ。じゃあ私もお供しても構いませんか?」
「と、と、共だなんて! でも、一緒に行ってもらえるなら嬉しいです」
 レインは朗らかな笑みを浮かべながら路地へと入る。
 大通りから外れたせいか、人通りは比較的少なくいくらか歩きやすい。
「こちらにどんな用事があるんですか?」
「あ、いえ、研究に必要な材料が売っている店があるんです」
「ほんとに研究熱心ですね」
 感心したようにローズマリーがそう言うと、レインは顔を赤らめたまま恐縮していた。
 そんな彼の姿さえも可愛らしく思えて仕方がない。
 どんどん路地を進んでいくと、閑散とした場所にぽつんと建っている小ぢんまりとした店が出た。
「ちょっと買ってきます。すぐ出てくるので待っててください」
「はい」
 レインに言われるまま、ローズマリーは店の前で待っていた。
 人はほとんどいない。こんな寂しい場所に隠れ家のようにして建っている店があるなど知らなかった。
 彼の買い物が済むまでの間、ぼんやりと立っていたローズマリーの足元に一匹の白猫が現れ擦り寄ってくる。
「あら、可愛い」
 その場にしゃがみこんで、やたらと人懐っこい猫の頭を撫でてやると、猫はゴロゴロと甘えたように喉を鳴らしながら目を細めた。
 ローズマリーはそんな猫をなでながら、ぼんやりとふわふわで柔らかな耳を見つめレインの事を思い出す。
 レインにもこんなけも耳がついている。だから可愛いだとか、そう言う意味ではない。
 女性に不器用なのに紳士的に振舞おうと、ちょっとした背伸びをする。しかし、やはり年相応の反応を見せたり、急に大人びたようになったり……。
 頼れる時もこれまでに何度かあった。
 気付けばいつの間にか、彼の事を気に入ってしまっている自分がいる。
 妖精族であるローズマリー。妖精族は気に入ってしまえば相手が坊やであろうと無かろうと、年齢も性別も関係はなかった。
「レインさんは、私の中では可愛くて可愛くて仕方がないんだわ」
 可愛くて仕方がない……それを他の言葉に置き換えるなら「恋愛」と言う感情に近いだろう。
 心の中でそう再認識した時小さな軋みをあげながら店の扉が開き、買い物を済ませたレインが現れる。それと同時に白猫は驚いて人気のない路地を駆けて行ってしまった。
「すいません、お待たせしました」
「いいえ、大丈夫ですよ」
 ゆっくりと立ち上がりながら微笑むローズマリーに、レインは周りを見回して何かに勘付いたように顔を赤らめ恥ずかしそうに視線を逸らした。
 突然の彼の様子に不思議そうな目を向けると、レインはモジモジとしながら一生懸命取り繕うようにしながら口を開く。
「そ、それじゃ行きましょうか」
「?」
 ローズマリーはぎくしゃくしながら歩き出したレインに、ふと周りを見回して気付く。
 周りに人が誰もいない。それ故に二人っきりになっていた。それに気付いたレインが一人恥ずかしそうにしていたのだ。
 前を歩くレインを追いかけ、ローズマリーは思わずクスッと笑ってしまった。
 彼は極力いつもと変わらないよう装っているのだろうが、全てバレてしまっている。しかし、彼がそれを隠したがっているのであれば、自分は気付かない振りをしなければ……。
 何でもない風を一生懸命装うとする彼もまた愛しい。
 二人が大通りまで出てくると、少しばかり緊張感を解いたレインがこちらを見上げてきた。
「そ、それじゃあボクはここで……」
「えぇ。帰り道に気をつけて下さいね」
「は、はい。じゃあ、また……」
 レインは気恥ずかしそうにしながらくるりと背を向けた。その瞬間、ローズマリーは無意識にも手が伸びる。
「あ……」
 しかし、伸ばした手はレインに届かず、彼はこちらの事に気付かないまま人ごみの中に隠れてしまった。
 ローズマリーは触れる相手を無くした手にきゅっと拳を作り、浅くため息を吐く。
 別れ際に、衝動的にもぎゅっと抱きしめたいと想った。無意識に伸ばされた手はその証。
「ふふふ。やだわ。私ったら……」
 クスッと微笑むと抱えていた紙袋をぎゅっと抱きしめ、レインが去った方とは逆の方向へ歩き出した。
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聖獣界ソーン
2016年03月14日

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