▼作品詳細検索▼  →クリエイター検索


『―夢と現実と・6― 』
海原・みなも1252)&瀬名・雫(NPCA003)

 街を離れ、広大なフィールド上で大きなグループを相手に戦いを繰り広げる、二人組のパーティーがあった。片やロッドから光弾を放ち上空の敵を駆逐するウィザード、そして片や地上の相手に対しクローと魔術を使い分け、上空に意識を集中しているウィザードを援護するラミア。そしてラミアを操るは、若干13歳の女子中学生である海原みなもである。
「!! ダメっ、魔術では威力がありすぎて、彼まで傷つけてしまう!」
 咄嗟の判断で攻撃方法を魔術からクローによる斬撃に切り替え、みなもはウィザードの背後を狙うグレムリンを引き裂いた。
「サンキュ! 気づいてはいたんだけど、上空から目を離せば此方がやられていたからね。助かった」
「お互い様! ……っと、今ので片付いたようね」
 一通り、見渡せる範囲の敵キャラを掃討して互いの姿を見ると、瀕死状態ではないが、かなりのダメージを受けている。衣服などは既にボロボロだ。
「一度、街に戻ろう。回復も必要だし、この格好を何とかしなくてはならない」
「賛成。此処にまた敵が来たら、今度は防ぎきれないからね」
 肩を並べ、周囲を警戒しながら、二人は安全地帯である街まで戻る。そこでの戦闘行為は一切禁じられているため、休憩中に襲われると云ったトラブルな皆無で、安心して回復に専念できるのだ。

***

 戦闘で受けたダメージは、宿屋で一度眠る事によって回復できる。RPGのお約束と云う奴である。だが、ボロボロにされた衣服については新調しない限りはそのままと云うリアルさもこのゲームの『売り』の一つだ。
「薄皮一枚傷つけられた、って感じかな。防護アーマーは無傷だ、買い替えはローブだけで済んだよ」
「いいなぁ。あたしなんか鎧が傷だらけだから、リペアに出さないとだよ。その間は無防備だから、スペアが欲しいなぁ」
「んー、その鎧は軽くて防御力もなかなかなんだけど、もうレベル的にもっと上質な鎧に変えた方が良いかもね」
「そうだね、今度のアップデートで新キャラ出るらしいし。強いんだってね」
 みなも扮するラミアが装備している防御装備は、竜の鱗を素材とした鎧と篭手のみ。敏捷性と攻撃特性を損なわぬ為に選んだものであるが、これから先に現れるであろう強敵を相手取って戦うには些か貧弱な装備だ。
 みなもはウィザードの忠告を素直に受け容れて、リペアを中止して鎧を新調する事にした。何しろ彼女たちは、暇さえあればプレイしに来られるようなヘビーユーザーでは無い為、レベル的には平均以下だった。稀有な敏捷性と絶妙なコンビネーションで格上の相手であっても互角以上の戦いを展開できる腕前ではあるが、一旦攻撃を受けてしまうと意外に脆いというのが弱点であった。それをカバーするには、強固な防御装備を身に着ける以外に手は無い。
 という訳で、彼らは揃って武器店の扉を潜った。
「頑丈なのはいいけど、重いと動きが鈍くなるし、疲れるんだよね」
「んー、なら金属製の物は駄目か。そうなると……」
「お客さん、軽くて丈夫な装備をお探しなら、お勧めなのがありますよ?」
 武器屋の店主が声を掛けてくる。その声に耳を貸し、お勧めとやらを見せて貰うと……それはチタンで出来た鎧であった。
 成る程、これならば銅や鉄の鎧に比して軽く、革や鱗などに比して防御力も高い。その分値は張るが、宿で回復したり、教会で復活させて貰ったりする回数が減れば経済面の不安はペイできる。
「これ良いね。見た目より軽いし、丈夫だよ」
「金属だから対電撃には弱くなるけど、当たらなければ良い訳だからね」
 こうしてみなもは、今まで使用していた鱗の鎧を下取りに出し、チタン製の鎧を新たに装備した。これまでのような部分防御ではなく完全に上半身を覆う重装備となったが、軽いので動きを損なう事は無い……のだが、関節部分の動きが制限される事が気になった彼女は、店主にカスタマイズを依頼する事にした。曰く、関節部分の切り込みを大きくして、互いに干渉しないよう加工して貰おうと云うのだ。そして空いた隙間はなめし皮で接合し、肌が露出しないよう配慮する事にしたようだ。

***

「仕上がりに3日ほど掛かります。またおいで下さい」
 鎧の仕上がりを待つ間、二人は戦闘行為は避ける事にした。代わりに、今度のアップデートで加えられる新機能について討論する事にしたようである。
「新キャラが出るのは知ってるけど、あたし達に直接影響する変更って何なの?」
「んー、メルマガによると……職種も増えるし、レベルの上限も引き上げられるようだよ。今までの99から、999まで拡張されるらしいね」
 それはつまり、更なる上位種族の登場とステージの拡張、そして『簡単にはエンディングを見せない』と云う開発陣の意図が見え隠れしていた。
「長く楽しめるのは嬉しいけど、そんなにのめり込んでる訳でもないからね」
「うんうん。強さより楽しさを重視してるからね。みんなでワイワイ、ってのがモットーだし」
 しかし、アップデートの実行予告日は目前だ。それまでに、知識だけは付けておかないと改良後に混乱を招くだろう。二人はチュートリアルを熟読しながら、改良される点について対策を練っていった。
「マップが拡張されて、難解ダンジョンも増えるようだね。この雲に隠されている部分、怪しいよ」
「多分ここはボスキャラの居城と、そこに至るまでの迷路だね。コレを公開しちゃったら面白さ半減だし、良いと思うな」
 これまでは無かった『海洋』と云うフィールド。そして、その向こうにある新大陸。今までは一つの大陸だけで完結していたマップが、数倍の規模に拡張されているのだ。これは携帯ゲーム機の性能向上に伴うソフトウェアのバージョンアップも兼ねてのアップデートと云えるだろう。
「海を渡るって事は、船が必要になるね。多分、それをゲットするにもクエストをクリアする必要があると思うよ」
「しかし、難解になり過ぎて、付いて来れなくなるユーザーも出て来るんじゃないかな?」
 ウィザードの懸念は尤もだった。だが、先刻みなもが呟いたように、強敵に挑む事だけがこのゲームの楽しさではないと云う点が、幅広いユーザー層に受け容れられ、絶大な人気を誇っているこのゲームの強味でもある。
 緩く楽しみたい者はそれなりに、ガンガン攻め入ってくる強者は更なる境地を目指して頑張ればいい。そして、ヴァーチャル空間を利用してのコミュニケーションも、このゲームの楽しみ方の一つだ。みなも達のプレイスタイルが、その好例である。
「SNS代わりに利用しているユーザーも、少なくないらしいしね」
「ある意味、コスプレパーティーみたいなものと考えれば、それもアリだね。俺たちもその部類に入るだろうし」
 フィールドに出ての戦闘も勿論楽しい。だが、彼らの場合は専らデートの場として、このゲームを利用している節が強かった。現に今も……
「あ、ほっぺたにクリームついてるよ?」
「え? やだ、どこ?」
「動かないで……」
 傍から見れば、砂を吐くようなデートシーンである。これをRPGの中で展開してしまうのだから、彼らもかなりのツワモノと云えるだろう。しかし、これもまたこのゲームの楽しみ方の一つなのだ。

「さ、もう遅くなる。続きは明日にしようか」
「だね。じゃ、またね!」
 挨拶を交わし、ログアウトしていく二人。ゲームは時間を守って、程々に……である。

<了>
PCシチュエーションノベル(シングル) -
県 裕樹 クリエイターズルームへ
東京怪談
2016年03月14日

投票はログイン後にできます。

ログインはこちら












©Frontier Works Inc. All Rights Reserved.