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『おまもりをかいに 』
猫野・宮子ja0024)&ALjb4583


 猫野・宮子(ja0024)は不幸体質ではない。
 ない、はずだ。
 けれど何故かこのごろ、外に出かけると何かしらのハプニングに見舞われることが多くなった気がする。
「ねえALくん、どうしてだと思う?」
 冬のある日、AL(jb4583)に尋ねてみた。
 宮子にとって、ALは可愛い後輩……という認識からレベルアップして今では大切な友人、いや、それ以上の存在だ。
(「でもそれ以上って何だろう、親友かな?」)
 うん、きっとそうだ、よく二人で一緒にお出かけするし、時間があればいつもこうしてお茶とか楽しんでるし。
 世間ではそれをデートと呼ぶのだが、宮子はそのあたりのことは今ひとつよくわかっていない様子。
 それはともかく、この前のクリスマスも二人で歩いていたら店先に積まれていたケーキの箱が崩れて、危うくケーキまみれになるところだった。
 いや、実際そうなった――身を挺して庇ってくれたALが。
 その後も年末の買い物に出かけた先で福引きの特等を当てた――までは良かったのに、コロンと転がり出た玉がどこかへ行ってしまった。
「あの時は係のおじさんもちゃんと見てたのに……証拠がないからって、ティッシュしかくれなかったんだよね」
 三泊四日の温泉旅行、行きたかったのに。
「ええ、あれは残念でしたね」
 とは言うものの、ALとしては半分くらいほっとした気分だ。
(「お泊まりとかまだ早いですし……いえ、お誘いいただけるなら、ボクも男として覚悟を決めますが!」)
 そうでなくても、執事としての随伴ならワンチャン……!
「どうしたのALくん、顔赤いよ? 熱でもある?」
「い、いえ、何でもありません、大丈夫です」
 それで、何の話だっけ……そうそう。
「確かに不運続きと言うか、ハプニングが絶えませんね」
 幸いどれも笑って済ませるようなことばかり。
 ALとしては、その程度なら二人の関係をより深める為のちょっとした刺激として、歓迎しても良いくらいだけれど。
 しかし宮子が不安になっているなら、それは徹底して排除すべし。
「ですが理由はボクにもさっぱり……」
「そうだよね、わかんないよね」
「すみません、お役に立てず」
「わわわ、ALくんが謝る事じゃないんだよ!」
 へにょんと耳を伏せて項垂れたALを見て、宮子は慌てて首を振る。
「世の中にはわけがわからないことなんて、いっぱいあるんだよ?」
 幽霊とか神隠しとか、オーパーツとか……おじさんが魔法少女になっちゃうとか。
 それを人は不可思議現象、或いは呪いと呼ぶ。
 だから――
「ALくん、初詣ついでに買い物にいくんだよー」
「お買い物、ですか? それは構いませんが、一体何を?」
「え、買うもの?」
 初詣のついでに買うものと言ったら決まってるじゃない。
「もちろん……御守なんだよ!」
 それは呪いを打ち破り、不可思議現象に対抗するための唯一の手段である。多分。
 普段から神社などで販売されてはいるが、新年の初詣の際に手に入れたものが最も効力が強い、ような気がするから。

 そして新年。
「明けましておめでとうございます。今年も宜しくお願い致します、宮子様」
「こちらこそよろしくなんだよ、ALくん」
 きちんと挨拶を交わし、約束の初詣へ。
 お正月モードで綺麗に着飾った宮子は……あれ、普通だ。
 普段と変わらないスカートと上着、そして足元にはグリップの効いたブーツ。
 それもそのはず、その日は朝から大雪だった。
 既に止んで青空が見えてはいるが、足元は膝丈ほどもある雪で覆われていた。
「電車もバスも動かないなんて、やっぱり呪われてる気がするんだよ(汗」
「大丈夫です宮子様、神社でお守りを手に入れればきっと!」
「そうだよね、ありがとうだよALくん!」
 よし、じゃあ歩こう。
 少し遠いけど他に手段がないし。
「では宮子様、どうぞボクの後ろに」
 本当は手を繋ぎたいところだけれど、雪の積もった場所では前を歩いて道を作ってあげるのが男の子。
 雪かきの済んだ大通りに出たら、今度は手を繋いで並んで歩く。
 車が通る道では、もちろんALが車道側だ。
 それは車道側のほうが交通事故に遭う危険が高いために、男性が敢えて危険な側を歩いて女性を保護する――という考えから来ているらしい。
 とは言え、守ると言っても普通の人間は車に勝てない。どう頑張っても一緒に跳ね飛ばされるか、自分だけが轢かれるのがオチだ。
 だからその気遣いは殆ど気分だけの問題なのだが、それが雨や雪の日の場合は実利が伴い合理的な行為となる。
「宮子様、危ない!」

 ばっしゃあ!

 速度も落とさずに走り抜けた車が、溶けかかった泥まみれの雪を跳ね上げて行った。
 しかし、宮子の身にも及ぶ勢いで跳ねたそれを、ALが自分を盾にして防ぐ。
 そう、これこそが男が車道側を歩く真の意義なのだ。
「ALくん大丈夫? びしょぬれだよ!?」
「心配ありません宮子様、さあ気にせず先を急ぎましょう」
 しかし、そう言われても放っておくのも忍びない。
 どこか服を乾かせる場所はないものか――
「あっ、ALくんあそこ!」
 指差した一帯には雪がない、どうやら融雪装置のようなものがあるようだ。
「ほらここ、下から温かい風が出て……」

 ぶわぁっ。

 ここでスカートがふわりと捲れ上がるのはお約束。
「きゃぁっ!?」
 慌てて押さえて、ALを見る。
「……見た?」
「いいえ、ボクは何も見てません!」
 ええ、何も!
 鼻から滴る赤いものはイチゴシロップですから!

 そんなハプニングを乗り越えて、漸く辿り着いた神社の参道。
 大雪が積もって交通事情が厳しい中でも、周囲は初詣の客で溢れていた。
 その財布を目当てに屋台もずらりと並んでいる。
 中には甘酒や豚汁を無料で振る舞ってくれるところもあって、宮子は思わずそちらに引き寄せられそうになるが――
「今は御守を手に入れるのが先なんだよ!」
 後ろ髪を引かれる思いでその場を離れ、いざ神社の本殿へ。
 それは山の上、延々と続く階段の先にあった。
「ずいぶん高いところにあるんだよ……」
 散々歩いて疲れたところに、今度は階段。
 エスカレーターはないものか。
「でも宮子様。苦労して辿り着いたほうが、より御利益があるかもしれませんよ?」
「それもそうだね、よし、がんばるんだよー!」
 えいえいおー!
 しかし、雪の積もった石段は滑る。
 大体は雪かきがしてあったが、ところどころに残った半端な雪が悪さをして――
「わわわわ!?」

 つるん!

 足が滑った。
「わわわわ、落ちる、落ち――」
「宮子様!」
 咄嗟に下に回ったALが、その身体をしっかりと抱き止め、止め……止まらない!?
 しかし、ここで一緒に転がり落ちるわけにはいかない。
 翼を広げ、その浮力で落下を防ぐ。
「あ、ありがとうなんだよー」
 危機一髪、セーフ。
「え、えと……も、もう大丈夫だよ?」
 だから、もう離してくれるかな?
「あ、失礼しました!」
 安全な場所にそっと降ろして手を離す。
 再び階段を上がり始めた二人の顔は、湯気が立ちのぼりそうなほどに赤くなっていた。

 辿り着いた境内にも多くの屋台が並んでいる。
 けれどまずはお守りだ。
「いろんな種類があるね、どれを買えば良いのかな?」
 お守りと聞いて誰もが思い浮かべるようなスタンダードなものから変わった形のもの、可愛いマスコットが付いたものや、プラスチックのプレート、中にはスマホにDLして使うアプリ型のお守りなんてものもある。
 よくわからないけど、とにかく全部買っておけば間違いないかな?
(「宮子様、はりきっていらっしゃいますね……」)
 お守りの大人買いなんて初めて見たと、ALはその様子をじっと見守る。
(「本当に、厄除けとなってくれれば良いのですが……」)
 ちょっと心配だから、きちんとお参りもして神様にしっかりお願いしておこう。
 それからおみくじを引いて……
「大吉だよ! さっそく御利益あったのかな?」
「それはよかったですね、宮子様」
 おめでとうございます、と言いつつALは自分のおみくじを丸めてポケットに入れる。
(「大凶なんて、そんな縁起の悪いものを宮子様にお見せするわけにはいきませんからね」)
 お参りが済んだら絵馬に願い事を書いて、破魔矢に達磨、熊手や羽子板などの縁起物を片っ端から買い込んで。
 荷物持ちはもちろんALの仕事だ。
「次はどうなさいますか、宮子様?」
「お腹すいちゃった、何か食べるんだよ?」
 空いた方の手を繋ぎ、食べ物の屋台にエスコート。
 まずはアツアツのたこ焼きを買って、近くのベンチに腰を下ろす。
「はい、宮子様、口を開けて?」
「じゃあALくんも、あーん?」
 お互いに食べさせ合いっこをして、良い感じの恋人気分に――と思ったら。

 どざざー!

 頭の上にせり出した木の枝から、雪の塊が降ってきた。
「大丈夫ですか宮子様!」
「うん、平気……冷たいけど払えば落ちるから」
 そうしているうちに、たこ焼きが冷めてしまった。
「でも冷めても美味しいです」
 ALのたこ焼きには肝心のタコが入っていなかったけれど。
 気を取り直して次は甘酒で身体を温めながら、お好み焼きを半分こ。
 お土産にべっこう飴と、正月の屋台ではお馴染みの七味唐辛子、七福神の置き物に、招き猫などなど縁起の良さそうなものを、両手に提げた紙袋にいっぱい。
 既に手を繋ぐ余裕もなかった。
「宮子様、そろそろ買い物はお終いに……」
 あれ?
「宮子様?」
 いない。ついさっきまで隣を歩いていた筈なのに。
 迷子? それとも、まさか誘拐された?
「ボクが手を離したから……!」
 どうしよう、どうしよう、どうしよう。
 荷物を全部片手で持ってでも、しっかりと手を繋いでおくべきだった。
 心臓の鼓動が高鳴り、耳にザーザーという血流の音が聞こえて来る。
 呼吸は浅くなり、目の前が真っ暗に――

「ALくん!」
 その声に、頭をガツンと叩かれた気がした。
 振り向くと、すぐ後ろに宮子が立っている。
「宮子様、ご無事でしたか!」
「なに言ってるのALくん? ほら、落とし物だよ?」
「え……?」
 その腕に抱えているのは、先ほど買ったばかりの縁起物の数々。
「どうして、宮子様がそれを?」
 荷物は全部、自分が持ったはずなのに。
 状況の理解に苦しむALに、宮子が笑いかけた。
「もう、ALくんってばどんどん先に行っちゃうんだから」
 何かをじっと見ている視線の先を辿り、ALは手にした紙袋に目を落とす。
 その底には大きな穴が開いていた。
「すみません、気が付きませんでした!」
「気にしなくていいんだよ、全部拾っておいたから」
 それにしても……
「うーん、こんなに御守買ったのに結局色々おこっちゃった気がするんだよ(汗」
「そうですね、御利益がなかったのでしょうか」
 ALが腕を組み、首を傾げる。
 と言うかこれまでのハプニング全て、標的は自分であった気がするのだが。
「言われてみれば、そうかも(大汗」
 宮子がひとりで出かけた時は、特に何か起こった記憶はない。
「それじゃもしかして、全部ALくんが引き寄せてた?(滝汗」
 だとしたら、お守りを持つべきはALのほうだ。
「ALくん、山分けするんだよ!」
「そうしましょう宮子様!」
 少し疲れたし、そこのお店に入って休むついでに。

 軽食のセットを注文した二人は料理が出て来るのを待つ間に、買って来たお守りをテーブルに広げてみる。
「まずはどんな御守があるのか、確認してみるんだよ」
 何も確かめずに大人買いしちゃったからね!
「えーと、健康祈願に病気平癒、長寿祈願……?」
 まあ一応、健康長寿を願うならハプニングに巻き込まれることも防いでくれそうな気がする。
「金運上昇、商売繁盛、出世成功……これも悪いことが起きないようにってことになるかな?」
 合格祈願と学業成就も学生には必要だろう。
 家内安全、交通安全、旅行安全も役に立ちそうだ。
 けれど――
「これは……れ、恋愛成就、ですか」
 欲しい、気がする。
 ALとしては恋人のつもりだけれど、宮子のほうはそれ未満だと思っているらしい。
 友達以上、恋人未満、でもかなり恋人寄りのポジション。
 ならば、ほんの少しの後押しがあれば、晴れて恋人に昇格できるかも。
(「こんな時こそ、お守りの出番ではないでしょうか」)
 しかし次の瞬間、ALの目はピンク色のお守りに釘付けとなった。
「宮子様、それは……」
「これ? 安全祈願なんだよ。これはALくんが持ってたほうがいいかも?」
 と、宮子は言うが――よく見てください。
 一字違いですけれど、意味はとんでもなく違います。
「え……あ、安産、祈願……?」
 こくりと頷いて、ALはもうひとつのお守りを差し出した。
「こ、子授けのお守りも、あ、あります、が」
 どうしましょう宮子様。
「ど、どうって言われても……どうしよう、なんだよ!?」
 そして出来上がる、茹で蛸ふたつ。

 あれ、でも肝心の厄除けのお守りが見当たらないんだけど。
 え、神様にはそれぞれ得意分野がある?
 厄除けのお守りが欲しいなら厄除け神社に行け?

 それ、早く言ってよ!


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ja0024/猫野・宮子/女性/外見年齢14歳/天然お猫さま】
【jb4583/AL/男性/外見年齢13歳/天然お狐さま】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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お世話になっております、STANZAです。
お待たせしました&ご依頼ありがとうございました。

タイトルは、猫さんと狐さんということで何となく童話「てぶくろをかいに」を連想した結果です。
御利益があると良いですね。

口調や設定等、齟齬がありましたらご遠慮なくリテイクをお申し付けください。
初日の出パーティノベル -
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エリュシオン
2016年03月22日

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