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『―流されて夢の島・9(Survive Ver.)― 』
海原・みなも1252

 ウィザードの女性は、みなも扮するラミアの適切な措置が功を奏したか、日に日に回復していった。
 折れている脚は時間が経たなければ如何ともし難いが、他の外傷はほぼ完治していると見て良い状態であった。
「丸二週間かぁ、結構あっという間に過ぎちゃったね」
「あと一週間もすれば、私も歩けるようになるでしょう。そうしたら、この島からの脱出を考えなくてはなりませんね」
 その一言は、みなもの表情に暗い影を落とす事になった。然もありなん、ウィザードは舟なり筏なりを拵えて、元来た方向へまっすぐ走っていけばいつかは大陸に辿り着き、元の生活に戻る事が出来るだろうから、その発想が自然に出るのだ。しかし、完全にラミアと化してしまったみなもはそうは行かない。大陸では自分のような幻獣は『魔物』として忌み嫌われ、退治される可能性が極めて高かったからだ。
「……ラミアさん?」
「えっ? あぁ、うん。そうだね。舟は作るのが大変だから、筏の方が良いかも。島の反対側には、未だ材木が採れる森があるから、それを切り出してきて縄で繋いでいけば、形にはなるよね」
 もし、自分が大陸に渡ったとしたら……それを考えて、みなもは暫し放心状態に陥っていたようだ。上手く誤魔化したつもりではあったが、何となく様子がおかしいという事はウィザードには分かっていたようだ。
「独りで海に出るのは、大変危険なんです。一緒に行きましょう、ね?」
「き、決まってるじゃない。あたしだって、こんな絶海の孤島で一生を終えたくはないから」
 取り敢えず出た、という感じの返答であった。が、この時点では未だみなもは迷っていたのだ。例え魔物として退治されたとしても、この島で孤独に朽ちていくよりは幾分かマシかな……と、そんな事を考えていたらしい。
「そうと決まれば材料集めだね。貴女は休んでいて、材木の切り出しぐらいなら一人で出来るから」
 笑顔を作り、みなもはウィザードを安心させた。此処で不信感を抱かせ、不穏な空気になったら、彼女を一人で送り出すにしても、その間の生活がギスギスしたものになってしまうだろう。それを危惧しての措置であった。

***

「はぁっ!」
 光の矢を何本も放ち、適当な太さの木を何本も切り倒していく。上部の枝葉は邪魔になるので、幹だけ残して丸太を作る。
 これを、山を越えた島の反対側まで持ち運ぶのは流石に困難を極めるので、海まで転がして両腕で抱え、泳いで運んでいく。一度に二本しか運べない不便さはあったが、適当な大きさの筏を一つ作るだけならそんなに数は要らない。但し単に丸太を横に並べて縄で連結しただけでは、床がグニャグニャした大変乗り心地の悪いものになってしまう。なので、前後に一本ずつ、横向きの筋交いを噛ませる必要があった。これは強度さえ確保できていれば、それほど太い材木でなくとも大丈夫だ。
「帆があると良いんだけどね」
「あと、船底に転覆防止用のバラストがあると良いですね。薄い板を縦向きに取り付けると良いと思います」
「え? 石でもぶら下げたら良いんじゃないの?」
「それでも良いと思いますが、単なる錘では舟が前進するのを妨げてしまいます。それに、板状のものが船底に付いていれば、直進安定性が確保できるんです」
 なるほどな、とウィザードの説明に耳を傾ける。何しろ、みなもは舟に関する知識は皆無。此処は一日の長であるウィザードの助言を素直に聞いた方が良いだろう。
 しかし、食糧や水の確保に関しては、サバイバル経験の長いみなもの方が上手だった。保存の利く、長旅に適した干物などを大量に作り置きし、洞穴に貯め込んでいく。これを、舟が出来たら積み込めば良いのだ。

***

「何とか形にはなったけど、最後の課題……船底の板が無いの。流石に一枚板が作れるほどの大木は無いし、薄く削り出すのも無理だから」
「だとすると、丸太を割って板状にして、組み合わせるのも無理なんですね……とすると、ラミアさんの案を採用する方が良いのかも……」
 二人は暫し考えた。と、みなもの頭にある記憶が蘇った。
「そうだ、板ならあるよ!」
「え? ど、何処に!?」
「海の中!」
 その回答に隠された真意を、ウィザードが理解するのには説明が必要だった。が、タネが分かれば『あぁ!』と納得するほど、単純な思い付きだったのだ。
 そう、彼女の存在を予測するに至った切っ掛けは、浜に流れ着いた木片。あれは数枚の板が組み合わされた、人工的なものだった。そしてそれは、彼女が乗ってきた船が難破した際に船体から脱落して流されたもの。だとすれば……
「成る程、沈没した船の甲板を利用すれば!」
「そ。しかも、かなり大きな船だって聞いてるし、運は良ければ帆もまだくっ付いてるんじゃない?」
 まさに然り。そして、船体の殆どは深いところに落ちてしまったが、マストや船橋は海底で見た記憶がある。潮に流されていなければ、未だそこにある筈だ。
「そうと決まれば、善は急げ! 流されちゃわないうちに、確保できるものはぶん取って来るよ!」
 そう言うと、脚の回復までにまだ少しの時間が必要なウィザードを残して、みなもは海の底深くへと潜っていった。そして、彼女が再び浮上してきた時、その両手には大きな合板と布が握られていた。

***

「舟も出来たし、食糧も水も積み込んだ! ……で、どっちに進めば良いワケ?」
「えぇと、太陽の昇る方向が向こうだから……その反対向きに進めば良い筈です。港に着くのは無理でも、大陸は広いですから。必ず何処かに接岸できると思います」
 ウィザードが生まれ育った街がある、東の大陸アルマーナ。多少針路が狂っても何処かに着くという、その果てしない大きさに、みなもは思わず目を見張った。が、それも束の間の事。直ぐに表情を元に戻し、住み慣れた洞穴に背を向ける。
「何気にあの温泉、気に入ってたんだけどなぁ」
「大陸にも、温泉ぐらいありますよ。また、一緒に入りましょうね」
 そうだね、と苦笑いを作りながら出来立ての筏に近づく。先にウィザードが乗り、外洋に出るまではみなもが船尾から押す格好で推進力を得て、あとは帆の角度を調節し、必要に応じてパドルで漕いで方向を微調整する、というプランだった。
「じゃ、行くよ!」
「準備OKです、では出発!」
 明るい声で音頭を取るのは、筏の船長を任されたウィザードであった。みなもはその指示通りの方向に泳ぎ、筏を前進させた。
 島がどんどん小さくなっていく。そして岩礁を越えると、そこはもう外洋だ。
 此処で、みなもが不意に声のトーンを落として寂しげに呟いた。
「あとは、一人で行けるよね。あたしはやっぱり、島に残るよ」
「なっ……何故!? 一緒に行くって約束したじゃないですか!」
 予想外の展開に、ウィザードは顔を青くして叫んだ。が、みなもはこう答えた。曰く、大陸に行けば自分は人間の敵。一緒にいる貴女まで巻き込みかねないから、と。
「そんな事はありません! 実際、幻獣をパーティーに組み入れている魔王討伐隊も居るんですよ!?」
「……え? それ、ホント!?」
「冗談でこんな事は言いません、本当です!」
 意外すぎる事実に、今度はみなもが驚く番だった。なら、あたしが悩み抜いた意味は何処へ……と云う感じであろうか。
 ともあれ、懸念は全て払拭され、二人は揃って島を出る事になった。

<了>
PCシチュエーションノベル(シングル) -
県 裕樹 クリエイターズルームへ
東京怪談
2016年03月22日

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