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『新春、迎春、春爛漫! 』
虎噛 千颯aa0123)&葛原 武継aa0008)&アーテル・V・ノクスaa0061hero001)&紫 征四郎aa0076)&白虎丸aa0123hero001)&御神 恭也aa0127)&大宮 朝霞aa0476)&ポプケ エトゥピリカaa1126)&古賀 佐助aa2087)&防人 正護aa2336

「それでは今年1年の健康と活躍を祈って! 乾杯!!」
「「「「「「「「「カンパーイ!!」」」」」」」」」
 幹事である虎噛 千颯(aa0123)の音頭を合図に、カチン、ガシャンとグラス同士のぶつかり合う賑やかな音が鳴り響く。それぞれ手に持っている色とりどりの飲み物が、オレンジ色の電球を反射してきらきらと光を振りまいた。
 時刻はものぐさな太陽が早々に姿を隠した夕刻。迫り来る夕闇など気にも留めず、一行は幹事虎噛の元、新年会という名の宴会を謳歌している。
「はいはい注目っ! 初めて会う人とかいるだろうし、先に軽ぅく自己紹介タイムいっちゃおうぜ!」
 パシッと手を叩いて座敷の注目を集める虎噛。口の端にビールの泡が付いているのはご愛嬌だ。
「まずは〜、俺ちゃんの相棒、白虎ちゃん!」
「俺でござるか?」
 虎噛が片手で勢い良く示したのは、すぐとなりに座っていた白虎丸(aa0123hero001)。今日も妙にリアルなトラの被り物がイカしている。その状態でどうやって飲み食いしているのかを考えてはいけない。
 被り物で表情は見えないはずなのだが、ジョッキ片手にきょとんとしているのが手に取るようにわかる。どうやらこうした集まりはあまり馴染みがないらしい。
「はいはーい、ホープ非公認ゆるきゃらの白虎ちゃんでーす! 虎の被り物してっけど怖くないぜ! ってわけで、白虎ちゃんからも一言どうぞ!」
 ガヤつく居酒屋にテンション高めな虎噛の声が響く。ご指名を受けた白虎丸は軽く頭を掻きながらそろそろと立ち上がった。
「今し方紹介に預かった白虎丸、でござる。こういった集まりは不得手でござるが、今日はよろしくお頼み申す」
 白虎丸が言葉少なに頭を下げれば、誰からともなく拍手が広がる。白虎丸は恐縮した様子で席につき、ジョッキに3分の1ほど残っていたビールをぐびりと飲んで緊張をほぐそうとしている様子。何故か被り物の頬がほんのり赤く染まっている気がするが、細かいことを気にしてはいけない。
「ありがとちゃん! そんじゃ次は……」
「はい!」
 元気よく手を上げたのは、今回の集まりにウキウキ気分で参加している葛原 武継(aa0008)。彼は夜間の集まりに心配顔をする相棒に「だいじょうぶです」と自信満々に宣言して参加している。10歳の葛原より小さい子もいるため、今日はしっかりと「お兄ちゃん」する気満々だ。
「おっ、元気だな武継ちゃん。じゃあ自己紹介いってみよう!」
「はいっ! 葛原武継、10歳です! 新年のほーふは、えいごのべんきょうをがんばることです! あの、今日はよろしくおねがいしますっ!」
 元気よく宣言して、葛原はぺこりと頭を下げた。これからの時間が楽しみで仕方がないと全身で表現している様は、なんとも微笑ましく愛らしい。本人に言うとほっぺたをぷぅと膨らませて抗議の意を示すだろうけれども。
「うんうん、お勉強は大事だよな! ありがとな武継ちゃん。次、征四郎ちゃん、よろしく!」
「は、はいっ!」
 同意するように何度か頷いた虎噛は、次いで葛原の隣でワクワクソワソワしていた紫 征四郎(aa0076)へと水を向ける。
 名前を呼ばれた紫は、ぴょこんと立ち上がると気を落ち着けるためか、すぅとひとつ深呼吸。くりくりとした目を興奮気味に瞬いて、少しだけ上擦った声を発した。
「紫征四郎、7さいなのです! 今日はよろしくおねがいするのです!」
 ぺこりと頭を下げる様は可愛らしく、歳相応に見える。普段は大人びて見える紫だが、慣れぬ席に緊張して一杯一杯な姿を見れば、まだ幼気な少女であることが一際際立つ。
「征四郎ちゃんありがとな! そんじゃ、隣のポプケちゃんいってみよう!」
 いそいそと席についた紫にねぎらいの言葉と視線を投げかけて、虎噛はテンション高めにポプケ エトゥピリカ(aa1126)を指名する。
「んっ!? わ、わらわか?!」
 それにビクっと身を竦ませるポプケ。そわそわと落ち着かないのは緊張しているためだろう。涼し気な白い髪の隙間から、紅梅色に染まったほっぺたが見え隠れしている。
「オホン! わらわの名はポプケ・エトゥピリカ。よろしくたのむ」
 ひとつ咳払いして気合を入れなおしたものの、ポプケの語尾は段々と小さくしぼんでいった。緊張している、というより、こういった場に慣れていないのだろう。急に不安が押し寄せてきたようで、自分に注目する皆をおずおずと見渡し、きゅっと唇を引き結んで静かにその場に腰を下ろす。
「エピトゥリカ……?」
 急に元気のなくなったポプケに、隣りに座る紫が心配そうな声をかける。同い年であるためか、人見知りの気があるポプケも紫とは比較的気安い間柄だ。見知った人物の気遣いに、ポプケの緊張も多少和らいだ様子である。
「なら次は俺が」
 そう言ってすっと立ち上がったのは、眼帯の青年、アーテル・V・ノクス(aa0061hero001)。なかなかにパンクな見目をしているが、その所作と物腰はやわらかい。
「……おれ?」
 ふと、白虎丸が、被り物の向こうでくぐもった声を発した。他にも幾人かが、アーテルの一人称に若干の疑問をいだいたような、奥歯に物の挟まったような顔をしている。それに気が付いたのか、アーテルは整えられた眉を八の字に下げて苦笑のような顔をする。
「アーテル・ウェスペル・ノクスです。皆さんが知ってる俺は、――そうね、こうやってオンナコトバで喋ってる姿だと思うわ」
 声のトーンを変え、口元に指を当てて微笑むアーテル。彼を知る者は、その姿に自分の知る「アーテル・ウェスペル・ノクス」の面影を重ね見る。同じ人物であるのだが、声のトーンや仕草が違うだけでかなり印象が変わるのだ。例えば町中で「今」の彼に話しかけられたとして、それがアーテルだとすぐには気付けないだろう程度には。
「このキャラは、私の相方のために演じてるだけなのよ。知ってる人もいると思うけど、あの子もイロイロあってね……――だから素の俺は、まぁ至って何の変哲もない普通の男なんですよ」
 少しだけ照れくさそうに髪を撫ぜるアーテル。よく知る「普段」とのギャップに、既知である者は少々面食らっている様子だ。白虎丸に至っては、ぽかんと口を開けたまま若干茫然自失となっていた。それにしても表情豊かな被り物である。
「でもどっちも『アーテル・ウェスペル・ノクス』であることには変わりないので。今日はどうぞよろしくお願いします」
「うんうん、ありがとなアーテルちゃん! 俺ちゃんはどっちのアーテルちゃんもイイと思うぜ!」
 丁寧な所作で頭を下げたアーテルに、場の空気を払拭するような虎噛の言葉が重なる。向けられたキラリと光る白い歯と豪快なサムズアップに、アーテルは知らず緊張していた胸をホッとなでおろすのだった。
「よーしじゃんじゃん行こう! 次、恭也ちゃん!」
「!」
 虎噛の呼びかけに、ちびりちびりと烏龍茶を舐めていた御神 恭也(aa0127)が「俺?」とでも言いたげな顔をする。ぱちくりと目を瞬かせる様がまるで驚いた猫のようだ。
 若干面倒そうな雰囲気を醸し出す御神だったが、虎噛がイイ笑顔で無言の圧力をかけ始めたため、慌てて立ち上がってぺこりと一礼する。
「御神恭也、だ。料理が得意だから、今日は厨房を借りて何かつまみでも作ろうと思っている。……よろしく頼む」
 多少ぶっきらぼうだが、控え目な様は立派な好青年然としている。つまみ、との言葉に成人組がぴくりと反応を示した。
「なら私はお料理とか運ぶの手伝いますよ」
 御神の言葉を引き継いですっと立ち上がったのは、ハーフアップにした髪をさらりと揺らす大宮 朝霞(aa0476)。
「こんにちは! 聖霊紫帝闘士ウラワンダーの中のヒトこと、大宮朝霞です! 新年の抱負はウラワンダーを全国区ヒーローとして認知されるようますます頑張ることです。白虎丸さんのゆるキャラ全国展開にも負けませんよ? 今日はよろしくお願いしますね!」
「おっと朝霞ちゃん言うねえ! 俺ちゃんだって負けないぜ〜?」
 人懐っこい笑顔でぺこりと頭を下げる大宮。白虎丸ゆるキャラ化計画を目論んでいる虎噛は面白そうな顔で笑っている。渦中のヒトであるはずの白虎丸はよくわかっていない表情できょとりと目を瞬かせていた。被り物がなぜそう細微な動きを見せるのかを考えてはいけない。いけないったらいけない。
「はいはい! 俺のことも忘れないでくれよなー!」
 しゅたっと手を上げて立ち上がったのは、ワクワクと楽しげな表情を浮かべた古賀 佐助(aa2087)である。
「古賀佐助、じゅーななさいでっす! 今年の抱負は、みんな無事に1年過ごして、今みたいにみんなでわいわいすること! ちなみに、そこにいる正護さんの英雄ちゃんと付き合ってまーす!」
「おいこら古賀、勝手に俺を巻き込むな」
 オーバーな動作で己を指し示す古賀に、防人 正護(aa2336)は露骨に嫌そうな顔をする。
「元気だねぇ佐助ちゃん。俺ちゃんの仕事奪われてない? まぁいいんだけど。じゃ、最後に正護ちゃん、自己紹介お願いしちゃっていい?」
 己が紹介するまでもなくトントン拍子で進んでいく自己紹介に、ほんの少しだけ苦笑を滲ませた顔で笑う虎噛。そうしてその苦さを隠すように、仏頂面でビールを口に運んでいた防人に話題を振った。
「あー……防人正護だ。よろしく頼む」
「えっそれだけ?」
「黙れ古賀」
 プークスと煽ってくる古賀の頭をぺしり、と表現するには些か強い力で叩いて、またむっつりとビールに口をつける防人。叩かれた古賀は何故かとても楽しそうだ。
「よっし、これで全員自己紹介したよな? そんじゃ改めまして! 今夜の司会はこの俺ちゃんこと虎噛千颯がお送りするぞ! 皆、今日はじゃんじゃん飲んで騒いで、思いっきり楽しんでくれよな!!」
 そう言って振り上げられた虎噛の手に応えるように、座敷は賑やかな喧騒に包まれるのであった。


「そんじゃいくぜ!! チキチキ、恨みっこなしのビンゴ大会!」
「「「「「「「「「いえーい!」」」」」」」」」
 テンションの振り切れた歓声が上がる。
 時刻はすでに宵の口をとうに過ぎた頃。宴もたけなわに達した中弛みの時刻。
 そんな折に虎噛が取り出したるは、昔懐かし、把っ手を回して番号の書かれた球を排出するタイプのビンゴマシーンであった。金網の中に入ったプラスチック製の小さな球たちが、じゃらじゃらと耳慣れない音を奏でている。そこはかとなく安っぽさが漂っているが、余興にしては本格的な代物だ。
「おっ、ケッコー本格的じゃん?!」
「それはなんなのだ?」
 古賀とポプケがほぼ同じタイミングで声を発する。他のメンツの反応も、面白そうな顔をしているか不思議そうな顔をしているかのどちらかに分類できた。
「おっとっと、知らない人もいるカンジ? なら軽ーく説明しとくかね」
 片手に余るサイズの軽いそれをじゃらりと鳴らして、虎噛はにっかりと人好きのする笑みを浮かべる。
「はいちゅーもーく! 今からみんなにこのカードを配りまーす!」
 ひらひらと閃かせながら掲げているのは、カラフルなビンゴカード。5×5マスの一般的なそれは、白虎丸がせっせとその場の皆に配布していく。
「んで、俺ちゃんがこのビンゴマシーンをガラガラ回してこん中に入ってる球を取り出しまーす。それに書かれてる数字を読み上げるから、みんなは手に持ってるカードからその数字探して、ちょちょっと穴開けてねー。そんで、1列全部穴が空いたら『ビンゴ』! あといっこでビンゴになる時は『リーチ』って宣言してくれ! あ、真ん中の『FREE』って書いてるとこは先に穴開けといていいぜ!」
 説明する虎噛の声をバックミュージックに、配られたカードを不思議そうに眺めている者、さっさと真ん中の「FREE」部分にぶっすりと指を突き刺している者、これから行われるゲームにワクワクと胸を躍らせている者と、三者三様の表情を見せる参加者たち。
「ちなみにちなみに! 見事『ビンゴ』した人には! なんと!! 俺ちゃんセレクトの豪華賞品が当たります!!」
『『『!!』』』
 ばっ、と虎噛が示した先には、白いシーツに覆われた「豪華賞品」の姿が。中身は「ビンゴ」が出てからのお楽しみということだろう。豪華賞品、の言葉に、何名かの目の色が変わった。
 そうしてはたと、賞品など関係なくキラキラした目をしている年少組に視線が集まる。なんだろうね、なんでしょうね、そう語る瞳のなんと純粋なことか。
 今、年長組の心が一つになる。
 守りたい、この笑顔。
「ま、やってみた方が早いな。つーわけで! 最初の数字はーっと」
 かしゃらんかしゃらん、と軽快な音を立ててビンゴマシーンがくるくる回る。葛原や紫、ポプケの視線はマシーンに釘付けだ。何故か白虎丸の視線も釘付けだ。
「ダラララララララ、じゃん! 14ばーん! カードに14があった人は、そこにぽちっと穴開けてな」
 口頭ドラムロールの後、カラカラと快活な音と共に排出された小さな球を掲げる虎噛。
 述べられた数字に、ただ淡々とカードに穴を開ける者、目を皿のようにして数字を探し、あったなかったと一喜一憂する者、あまり興味なさげに飲み物に口をつける者、それぞれが反応を示している。
「チハヤ! つぎ、次はせーしろーも、せーしろーもそれやりたいのです!!」
「えっ!? あっ、う、わらわも!!」
 さて、ここで手を挙げたのはビンゴマシーンが出てきた瞬間からうずうずとしていた紫とポプケの二人である。二人共アルコールは1mlたりとも摂取していないはずだが、場酔いしたらしく目がとろりとしており顔が赤い。普段は生真面目であったり人見知りの気があったりする少女たちだが、こう言った宴会の場に在ることで自制心と羞恥心のタガが外れかかっているらしく。
「えー! 二人だけずるいです!! 虎噛さん、僕もやりたいです!」
 それは、敬語少年葛原にも適用されるようだ。
「モチロンいいぜ! でも一人ずつ順番、な」
 からりと快活に笑う虎噛、歓声を上げる年少組。視界の端で白虎丸が若干羨ましそうな目をしていた気がしないでもないが、虎噛は意識して視線を逸らした。年少組優先である。
「ぼ、僕はお兄ちゃんですから! 最後でいいです!」
 順番、の言葉に真っ先に反応を示したのは、年少組最年長、葛原だ。ほんの少しだけ唇を歪めて「お兄ちゃん」であろうと背伸びする様は庇護欲を誘う。
「おっ、偉いね武継ちゃん!」
 虎噛が満面の笑みで葛原の頭をかいぐりかいぐりする。撫でられる葛原は目尻をほんのり赤くしてご満悦だ。騒がしかった座敷にほんわかとした雰囲気が漂っている。
「わ、わらわも、後でよいぞ!」
 主張するポプケだが、その表情はどちらかといえば不安気。その場のノリとテンションで引っ込み思案な部分を吹っ飛ばしているが、やはり「一番手」は少々怖いらしい。
「ならセイシローがいくのです!」
 ふんす、と鼻息荒くビンゴマシーンに手をかける紫の背は、ポプケの目にとても頼もしく映ったことだろう。場酔いしてか、多少舌ったらずな口調となっているが、そんなものは些事だ。
 からからから、ぽとん。
「出ました! えーっと、……さんじゅうにばん、です!」
 小さな手に小さな球を持って天井に掲げる紫。残念ながら、引き当てた数字は己のカードには記されていなかった。ちょっぴり残念そうな顔をして、次手をポプケに譲る。
「こ、こうか?」
 おっかなびっくり取っ手を回すポプケ。及び腰だからか、球がなかなか出てこない。半泣きになる寸前でやっと出てきた球を、しかし回すことに満足してしまい確認まで至らない。
「ありがとちゃん、26番だぜー!」
 さりげない気遣いも忘れない、できる司会虎噛であった。
「えと、じゃあ僕も」
 しゃらしゃら、かつり。前二人を見ていたからか、スムーズな手付きで取っ手を回す葛原。
「19番でした!」
 プラスチックの球を大切そうに拾い上げ、書かれた数字を読み上げる。はち切れんばかりの笑みだ。誰かが小声でつぶやく声が聞こえた。なんだこの空間尊い。その通りだと思う。

 そんなこんなで和気藹々とゲームは進み。
「りーちしたぞ!」
 カードとにらめっこしていたポプケが嬉し気に歓声をあげた。
 隣に座る紫はしかめっ面をしている。その手に持つカードに開く穴は少ない。ポプケの逆隣に座る御神は意識してポーカーフェイスを保ちながら内心で冷や汗を流している。
 ビンゴは運がモノを言うゲームだ。こればっかりは周りがやきもきしてもどうしようもない。
「おっ、リーチでた? この調子でどんどん行くぜ!」
 年少組から抽選役を譲渡された虎噛が手慣れた様子で数字を読み上げる。その場には興奮と期待とほんの少しの不安が漂っていた。
「お。俺もりーち? でござるな」
「俺ちゃんもリーチ!」
「おお!? もう一個リーチが増えたぞ!!」
 白虎丸、虎噛、ポプケが順にリーチを宣言する。ポプケは早くもダブルリーチだ。紫の機嫌は目に見えて急降下していた。
「征四郎ちゃん? 大丈夫?」
「なにがですか? せーしろーはぜんっぜん気にしてないのですよ?」
 むすくれる紫を心配したアーテルが気遣わし気な声をかけているが、若干意固地の入った紫はむくれるばかりだ。
「たいしょー、生おかわりなのです」
「む? ああ、オレンジジュースのお代わりでござるな?」
 ずずい、と差し出されたグラスを、白虎丸はひとつ頷いて受け取る。残念ながらツッコミはいない。
「ん? エトゥピリカ、ジュースが減っていないのですよ!」
「む……では有難く頂こう」
 機嫌はよくないが気遣いは忘れないのが紫征四郎という少女である。口をつけられた形跡のないポプケのオレンジジュースが入ったコップを手渡して、にっこりと笑う。
 乾杯の時に飲んだウーロン茶とは異なった色合いのそれに口をつけて、ポプケはぱっと目を見開いた。
「……おいしい」
「それはよかったのです」
 うんうん、と頷く紫に、くぴくぴとオレンジジュースを飲み込むポプケ。微笑ましい姿を見て、密かに紫の心配をしていた御神がほっと胸をなでおろす。
 そんな微笑ましいやりとりを挟みながら、読み上げられる数字はどんどん増えて行き。
「やった、リーチ!」
「おっ、朝霞ちゃんもリーチ? そろそろビンゴ出るか?」
 小さくガッツポーズした大宮を見て、虎噛がくるりと周囲を見渡した。
 各々手に持ったカードはいい具合にスカスカになってきている。
「そんじゃ次ぃ、42番!」
「あ、ビンゴです!」
 その声に、一同の視線が集中する。
 手を挙げたのはつい先ほどリーチを宣言したばかりの大宮だ。
「……むぅ、わらわの方が早かったのに」
 ぷぅ、と頬を膨らませたポプケを、葛原がまぁまぁと慰めている。ほんの少し不機嫌さを増した紫の隣には、手作りの軽食を差し出しながらわたわたと慰めようとしている御神の姿が。紫のカードはまだ半分以上閉じていた。こればかりはどうしようもない。
「よし! 一人目のビンゴも出たし、賞品のお披露目、行っちゃおう!」
 微妙な雰囲気が漂い始めた場を切り替えるように虎噛が声を張り上げる。賞品、の言葉に気を取り直したのを確認して、虎噛は賞品を覆っていた白い布をばっさりと取り払った。
「わぁ……!」
 歓声を挙げたのは誰だったか。
「へへっ、俺ちゃん大奮発しちゃったからな!」
 鼻の頭をこする虎噛は満足げな表情である。虎噛の懐事情を知っている白虎丸は心の内側で「千颯、天晴れでござる」と惜しみない賞賛を送っていた。被り物の目元がキラリと光っていた気がするが気のせいだろう。気のせいに違いない。なんだあの被り物高性能だなとか思ってはいけないのだ。
「わっ、すごいですね」
 商品の前に案内された大宮は、思っていた以上に豪華なラインナップに驚きの声を上げている。
 一際目を引く大きな白い虎のぬいぐるみは、虎噛がゆるキャラ化を狙っている白虎丸を模しているのだろう。なにせ大宮の両手でやっと抱えられる程の大きさだ。隣に並んでいる白と黄色の虎のぬいぐるみが小さく見える。それだって両手に余る大きさをしているのに、だ。
 他にも、プラモデルセット、抱えるほどの量のお菓子詰め合わせ、明らかに場違い感の漂う熱燗セットと、集まったメンツのニーズに合わせたラインナップである。
 のだが、しかし。
「ぷはっ! 虎噛さんサイコーっすね!!」
 古賀が机を叩いて笑っている。
「だろ?」
 ニヤリと笑う虎噛。悪い顔だ。とてもイイ顔だ。
 さて、古賀が(雰囲気に酔っているとはいえ)呼吸困難一歩手前まで笑い転げている要因であるが。
「ピンクのナース服とか、わかってるぅ!!」
「だろぉ? しかも男女兼用フリーサイズだぜ!」
「ひぃ」
 古賀が沈んだ。南無。
 そう、お察しの方もいるだろうが、古賀が笑い転げている要因とは、安っぽいピンクのナース服と、お約束のミニスカメイド服である。しかもご丁寧にハンガーに吊り下げて展示されている。
「うひ、お、オレ、あれ狙いでいきますぅ」
「おい古賀、まさか妙な事考えてないだろうな」
「ヤダナァショーゴサン、ソンナワケナイジャナイッスカァ」
 そしてこの棒読みである。防人は嫌な予感から全力で目を逸らすことにした。ちなみに、自分に何か不利益があったら力付くで拒否する気満々である。
「さてさて、朝霞ちゃん! 好きなの選んでくれよな!」
「んー、どうしよう、迷っちゃいますね」
 むむ、と悩み顔の大宮。とはいえ、何を選ぶかは大体決まっている。
「んんん……これにします!」
 しばらく悩んだ末、大宮が手に取ったのは一際目立つ白虎の巨大ぬいぐるみ。今回の目玉賞品である。一抜けの大宮が選ぶのが妥当だろう。メモリーに入れておけば邪魔にもなりにくい。
「おめでとちゃん!! この調子でどんどん行くぜー!!」
 盛り上げる事に必死な虎噛はまだ知らない。
 この後白虎丸と自分が連続でビンゴしてなんとも言えない気まずい空気が流れる事を。

「あっ! り、リーチなのです!!」
「おー! おめでとう征四郎ちゃん!」
 さて。
 白虎丸が2番目にビンゴを、続けざまに虎噛が3番目のビンゴを掻っ攫った後。
 ダブルリーチの後なかなかビンゴを引けなかったポプケが4抜けし、小さな虎のぬいぐるみ(白色)を抱えご満悦に浸り、古賀が5抜けし宣言通りピンクのナース服を入手し、6抜けの葛原が紫を心配しながらも嬉しそうにプラモデルセットを受け取った頃。
 段々と涙目になっていた紫に、やっとリーチがかかった。
 だいぶ前からリーチのかかっていたアーテル、御神、防人がほっとした顔をしている。特に真横に座っている御神は気が気ではなかったようで、かなりあからさまに表情を変えた。
「商品の残りも僅かとなってきました! うっし、ラストスパート行くぜ!」
 からからとビンゴマシーンが軽快な音を奏でる。年長組は確率の神に祈った。
 どうか自分がビンゴしませんように!
「次、48番!」
「!! ビンゴです!!」
 さても、確率の神もそこまで非常ではなかったらしい。
 紫が、本当に嬉しそうな顔で一列穴の空いたビンゴカードを掲げる。
 座敷に祝福と開放感が満ち満ちた。御神が安堵の溜息を吐き出している。彼のカードは既に4つリーチがかかった状態にあった。御神の執念勝ちだ。何に勝ったのかはわからないが。
「あ、俺もビンゴです」
 さて、紫が上がったことにほっと息を吐いた残留組であったが、ようよく己の手元を確認してみれば、アーテルが紫と同時にビンゴしていたらしい。
「ノクスもビンゴなのですか! 征四郎とおんなじです!!」
 一番ではなかったが、ビンゴできたことが嬉しい紫はご満悦でアーテルの元へと走った。ぴょんぴょこ飛び跳ねるオプション付きである。年相応の可愛らしさに、年長組の頬が知らず緩む。
「はいはーい、ビンゴした人は好きな賞品を選んでくれ!」
 虎噛に促されるまま、紫は紅葉したように真っ赤な頬で景品の元へと走って行った。そうして迷わずに抱きしめたのは。
「これにします!」
 黄色い虎のぬいぐるみであった。
「エトゥピリカとおそろいです!」
「!!」
 さて、この愛らしさをなんと表現したものか。
 えへへ、と笑う紫。ふへぁ、と嬉しそうに恥ずかしそうに表情を崩すポプケ。
 楽園はここにあった。そうに違いない。
「ノクスは何を選んだのですか?」
「ん? 俺はこの、お菓子の詰め合わせです。相方に持って帰ろうと思って」
 こてりと小首を傾げた紫に、アーテルはそこそこ大きなお菓子の袋を掲げてみせる。
「さすがノクスなのです!」
「ふふ、ありがとう」
 何が「さすが」なのかはイマイチ察し難いが、紫がとても楽しそうなので特に追求せず微笑むアーテル。紳士である。
「さてさて、これで残りの賞品は二つ!」
 ニヤリ、と笑みを浮かべた虎噛に、残留組がはっと何かを察した。
 白虎丸が熱燗セットを、虎噛がお菓子詰め合わせを選んでいたため、残りの景品はお菓子詰め合わせラスイチと――そう、御察しの通り「ミニスカメイド服」である。
 御神と防人は静かに視線を合わせた。
 負けられない戦いの火蓋が今、切って落とされる――!!

 とは言ったものの、4リーチかかっていた御神の方が圧倒的に有利だったわけで。
「あの、それ、防人さんが着るんですか?」
「……いいや」
 子供の純粋な瞳ほど突き刺さるものはないな、と防人は若干思考を遠くに飛ばした。おろおろしている、だが好奇心に負けた葛原に罪はない。あるとすればビンゴゲームの景品によりにもよって男女兼用のミニスカメイド服とピンクナース服をぶっこんできた虎噛だ。そしてなんだかんだでくじ運の悪い自分だ。
「正護さん正護さん」
「ん?」
 思考を遠くへ飛ばしていたため反応が遅れる。振り返れば、なんとも言えない表情をした古賀の姿が。
 嫌な予感がする。防人は反応の遅れた数秒前の自分を殴り飛ばしたくなった。
「これ、英雄ちゃんによろしくたのんますね!」
 とても、とてもいい笑顔で古賀が差し出してきたのは、てらてらした安っぽい記事のピンクナース服。
「あっ、モチロン正護さんが着てもオッケーっすからね!」
「……」
 この場で古賀を殴り飛ばさなかった自分の自制心は褒められてもいいと防人は思った。
「……いいか坊主、覚えておけ」
「へ?」
 困った顔で二人のやりとりを見上げていた葛原の頭に、防人は己の手を乗せる。そうして微妙に苛立ちのこもった手つきで葛原の小さな頭を前後に揺すった。安心してほしい、いじめではない、撫でているのである。
「男にはな、ぐっと堪えてやり過ごさなけりゃならないことが多々有る。だが安心しろ。報復の機会ってなぁなんだかんだで訪れるもんだ。それまでじっと耐えてやり過ごすんだ」
 幼い双眸を覗き込む防人と、よくわかっていないながらも神妙な顔で頷く葛原。横で聞いていた古賀は気が気ではなかったらしいが、折角の楽しい宴の席である、詳細描写は割愛しよう。
「みんなちゃんと景品とった? うっし、とったな? これにてビンゴゲーム終了だ! おつかれちゃーん!!」
 虎噛がジョッキを持って労いの言葉を投げかける。
 多少ハラハラする場面もあったりしたが、催しは概ね成功だ。貸切の座敷には、そこかしこで楽しげな笑い声が聞こえて来る。
 宴もたけなわ。
 楽しい時間は、もう少しだけ続きそうだ。

━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛
【aa0123/虎噛 千颯/男性/23歳/生命適正】
【aa0008/葛原 武継/男性/10歳/攻撃適正】
【aa0061hero001/アーテル・V・ノクス/男性/21歳/ソフィスビショップ】
【aa0076/紫 征四郎/女性/7歳/攻撃適正】
【aa0123hero001/白虎丸/男性/45歳/バトルメディック】
【aa0127/御神 恭也/男性/16歳/攻撃適正】
【aa0476/大宮 朝霞/女性/19歳/防御適正】
【aa1126/ポプケ エトゥピリカ/女性/7歳/生命適正】
【aa2087/古賀 佐助/男性/17歳/回避適正】
【aa2336/防人 正護/男性/20歳/回避適正】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛
 どうもでっす!
 この度はご指名ありがとうございました! 楽しんでいただければ幸いです。
 今回、このノベルを書くにあたって実際にビンゴゲームをやってみました。一人で10人分のカードを埋めていく作業、思っていたよりもキましたね。はい。
 あれは大人数でわいわいやるから楽しいのですね。皆様がわいわいゲームをしている様を想像して「ふふっ」てなりながら10枚のカードをぽちぽちぽち……。……端から見たら私単なるイタい人でしたね。はい。楽しかったのでいいのですけれども。ええ。
 それではまた、いつかの機会に。
初日の出パーティノベル -
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2016年03月28日

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