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『繋がる古き楔の中で。 』
邦衛 八宏aa0046

 彼、邦衛 八宏(aa0046)が幸せな子供時代を過ごしていたのかと言えば、それはきっと否なのだろう。もちろんこんな時代に不幸話なんて、笑い話にもなりはしないだろうけれども。
 それでも八宏には八宏なりに、決して長くはないだろう人生の中で、それなりに様々の出来事を抱えて来たものだ。良いものも、悪いものも、恐らくは――否、願わくは平等に。

「――例えば」

 八宏の父は、彼がまだ幼い頃に自ら命を断った。それからの人生を八宏は、時には父を亡くした子と憐れむ眼差しを向けられながら、残された母と共に生きて、来て。
 それはきっと、ありきたりかもしれないけれど、十分に不幸な生い立ちと言えるのではないかと、思う。

「……でも」

 そこでふと言葉を途切れさせ、八宏は小さく苦い笑みを零した。ふいと遠くを見つめた眼差しを、ここではない遠い過去へと馳せる。
 けれども、だから八宏が不幸な子供時代を過ごしていた、と断ずるのもまた間違いだという事だって、八宏はよく知っていた。だって彼は父を亡くしてからだってずっと、母や親戚達に可愛がられて育ったのだから。
 可愛がられて、可愛がられて、可愛がられて――けれども。
 それでいて八宏は幼少期の殆どを、外界とは殆ど関わることなく暮らしていた。彼の世界は決定的に不幸ではないまま、叶う限りの完全さで、内に向かって閉じられていた。

「……と言っても、昔からそうだった訳ではない……のですけれど」

 過去を見据える眼差しを現へと引き戻し、八宏はそう首を振る。彼の世界は最初からあんなにも、こんなにも内に向かって閉じられ、外に背を向けられていたわけではなかった。
 じゃあ一体いつから八宏の世界が閉じていたのかと、思い出してみればそれは――

「多分、あの時」

 いつ、という頃合いは定かではないけれど。ある日を境に『不思議な人間』を目にするようになった頃から、八宏の世界は外から閉ざされ始めたのだ。
 『不思議な人間』の事を、八宏は今ならもっと違う言葉で、明確に説明する事ができる。けれども当時の八宏は幼くて、今よりももっと語彙も知識も少なくて、けれどもそのつたない知識と言葉で自分の見えたものを語って聞かせた八宏に母は、しばらく黙りこくった後で、こう言った。

『いい? これからはお母さんと、親戚の人達以外には、近づいたらあかんのよ。とおく、とおく距離を置きなさい』

 その母の言葉に、最初は何を言われているのかよくわからなくて、きょとんと目を瞬かせたように思う。そんな八宏に母は事あるごと、周りから距離を置きなさい、と言い聞かせたもので。
 もちろん、いきなりそう言われてもはいそうですかと納得できるはずもなく、当時の八宏は何度も母や親戚に向かって尋ねたものだった。

『どうして? どうして、みんなに近づいたらあかんのん?』

 けれども、そんな八宏の幼い疑問に、満足な答えが帰ってくることは一度もなかった。母は八宏にそう尋ねられるたびに、静かな面持ちで『八宏は何も悪いことはしていないのだけれど、貴方も巻き込まれてしまっているから』と語るのみで。
 そんな事を幾度も繰り返していれば、幼く、そして何も知らされていなかった八宏にだって、見えてくるものがあった。
 例えば、八宏が『どうして?』と尋ねた時の、母や親戚の表情。困ったような、申し訳なさそうな、そしてどこか憐れむような声色。
 八宏の疑問に応えようとする時、母は決まって彼をまっすぐ見つめて、けれども時折堪えかねたように眼差しをかすかに伏せたものだ。そんな時には大抵親戚の誰かしらがさり気なく、または露骨に話題を全く別のところに運ぼうとして、それに母は救われたようにほぅ、と安堵の息を吐く――
 そんな事が幾度も繰り返されれば、いくらなんでも『何か』が見える。

「だから、黙ってようと思った……」

 これ以上この事を聞いては、口にしてはいけないのだと幼心に理解して、八宏は母達に言われるがまま、周囲からそっと距離を取るよう努めた。そうして外で遊ぶような事もせず、内へ、内へとこもっていって。
 そんな日々を過ごしていけば、自然、友達と呼べるような相手が出来るはずもない。だから八宏の遊び相手はゲームの類だけとなり、幸か不幸か八宏自身もそれらのゲームを好むようになったがため、ますます周りからの距離は遠ざかり。
 ずっとそうして1人のまま、いわば引き篭もりのように生きてきた。いつの頃からか半ば本気で、自分は永遠にこうして1人で歩んでいくのだと、焦がれるように思っていた。
 ――その頃の八宏は、まだ定かには知らない。彼の祖先が犯した罪を。その罪が、今なお邦衛の一族の中に染み付いている事を。明治時代から続いている家業の葬儀屋すら、根底にはその罪が根付いている事を――
 知らないままで、それでも。生きた人に触れる事は禁忌なのだと、いつの頃からか思いはしても。

(生きた人間に触れずに、人を愛したい)

 八宏がそう願うようになったのは、心の底の底には寂しさがあったのだろうか。それとも、一族に染み付いた罪ゆえの歪んだ願いに繋がっているのだろうか。
 ――そう、思いながら八宏はふいと口を閉ざし、知らず遠くなっていた眼差しを眼前へと引き戻した。語るともなく語った言葉を、聞くともなく聞いていただろう相手を、見て。
笑う。

「……埒もない話、でしたね。それより、先日作った新作ホットケーキ……食べませんか? 今度はちょっと自信作なんです……」

 そうして八宏は立ち上がり、キッチンへと足を向けた。ほんの少し足早に、過去の名残を振り切るように。





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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【整理番号 /  PC名  / 性別 / 年齢 /   職 業   】
 aa0046  / 邦衛 八宏  / 男  / 28  / 人間・命中適性

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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初めまして、蓮華・水無月でございます。
この度はご発注頂きまして、本当にありがとうございました。

息子さんの遠い過去を振り返る物語、如何でしたでしょうか。
子供の頃の出来事は、良くも悪くも深く胸の底に沈み込んで、知らず知らずのうちに今を形作っていたりするものだと思います。
息子さんのこれからが、痛みはあれども幸いであられれば良いのですが。
もしイメージと違うなどあられましたら、いつでもお気軽にリテイクをお申し付けくださいませ(土下座

息子さんのイメージ通りの、過去の痛みを抱いて進むノベルであれば良いのですけれども。

それでは、これにて失礼致します(深々と
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2016年03月28日

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