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『少し早い春の宴 』
オリヴィエ・オドランaa0068hero001)&木陰 黎夜aa0061)&紫 征四郎aa0076)&伊邪那美aa0127hero001)&ファウ・トイフェルaa0739)&ルーシャンaa0784)&シキaa0890hero001

●集合は桜の木の下で
「ここの桜は、少しさきどりなのですよ。おとといよりも咲いているのです」
 紫 征四郎(aa0076)が桜を見上げ、嬉しそうに笑う。
 傍には、実の兄より兄らしいオリヴィエ・オドラン(aa0068hero001)。
「早く敷くぞ。皆来る」
「は!? じゅんび時間がなくなるところでした!!」
 オリヴィエから指摘され、征四郎はオリヴィエと手分けして持ってきたレジャーシートをごそごそし出した。

 H.O.P.E.東京海上支部近くにある、少し大きめの公園。
 船の形をした総合遊具もあったりするこの公園には、桜が植えられている。
 ここの所暖かい日が続いていたのと、少し早く咲く桜らしく、3月半ばの今、桜は満開とは行かずとも花開いていた。
 春はお花見。
 夜桜もいいけど、青空の下の桜も風流。
 オリヴィエは主に自身の能力者からウキウキと告げられ、ついでに征四郎の能力者からも季節の分からない子なんてつまんなぁいと揶揄されたこともあり、8割自身の能力者、1割征四郎の能力者がチラチラしてるのと、それから、残り1割ランドセルに物を入れたり出したりする征四郎が入学式は行けるかどうか、桜咲いているか、皆とも見たい、なんて言ってたり、彼自身も風流というのがちょっと分からないが、花見の誘いをメールで送った。
 真っ先に、行くという返答(返信ではないのがミソ)をした征四郎は顔を合わせない日の方が珍しく、この日の前日も研修とかで一緒になってお泊りとなり、一緒に早くやってきている。
 主催名目のオリヴィエは諸々の準備を買って出ていたからだ。

「オリヴィエ、こっちもしきおわったのですよ」
「解った」
 レジャーシートが十分に敷かれたのを確認し、オリヴィエが持ってきた飲み物をシートの上に運ぶ。
 シートも飲み物も重たい荷物……ということで、オリヴィエは年下、特に女子にはさせまいとしてこれらの準備を買って出ていたが、当然勘のいい大人達は気づいていて、征四郎に入れ知恵しており、ひとりにやらせるなんてことはさせないのだが。
「オリヴィエおにいちゃん、征四郎ちゃん、おまたせっ!」
 ルーシャン(aa0784) が、パタパタ走ってきた。
 公園の入り口で、ルーシャンを女王陛下と讃える彼女の英雄が恭しく頭を垂れて送り出し、歩き去っていく。
「早かったですよ」
「楽しみだったから、いつもより早くお家出たかも」
 征四郎が手招きすると、ルーシャンは靴を脱いで行儀良く揃えた。
 と、オリヴィエが視線をルーシャンの奥にやり、手招きをする。
「やっほー! 時間より早く来たのに、1番乗りじゃなかったー!」
「今準備整い終わったばかりだ」
 伊邪那美(aa0127hero001)が公園の別の入り口からパタパタ走ってきた。
 こちらの入り口の方が東京海上支部に近いので、多分彼女の能力者は東京海上支部にいるのだろう。
「今日はバッチリ早起きしたんだよ。……っていうか、一緒の時間に起きるなら早いんだよね。若さがないというか。本当に16なのかなぁ?」
「見た目と実際の年齢に差異がないとしても、精神の成熟は別だろうな」
「若さがない発言がここにも」
 伊邪那美はオリヴィエの発言に泣き真似。
 露骨過ぎる泣き真似である為、オリヴィエは軽く息をついて肩を竦めるのみ。
「って、あ! こっちだよー!!」
 伊邪那美がぱっと顔を輝かせ、手を大きく振る。
 彼女の視線の先には、きょろきょろと周囲を見回すファウ・トイフェル(aa0739)の姿が。
「Guten……じゃなかった、コンニチハ」
 ドイツ語で挨拶しようとして言い直したファウは、伊邪那美に教わる形で靴を脱いでレジャーシートの上に上がった。
「日本も春の花が沢山あるんだね……。あ、オハナミってお花を見るの?」
「そうなのです。日本のフゼイがここにつまっているのですよ」
 そわそわした様子のファウへ征四郎がえへんと胸を張った。
 と、そこへ、木陰 黎夜(aa0061) がのんびり歩いてくる。
 すぐさま、征四郎と伊邪那美が手を大振りにして、こっちだと指し示した。
「うち、遅かったか……。時間通りに出たつもりだったんだけど」
「いや、これでも待ち合わせより早い」
「なら、いいか」
 黎夜が遅刻しただろうかと心配するも、オリヴィエが公園の時計を指し示す。
 視線を移せば、待ち合わせの10分前。
 寧ろ優等生的に早く来ていたが、それ以上に皆が早かっただけだと安心した。
「お花見……誰かとするの、初めてだから……楽しみで……」
「ボクはオハナミが初めて……。サクラっていうと、サクランボの木ってイメージが強いし」
 そう漏らした黎夜へファウがおずおずと申し出る。
「サクランボ? ドイツもあるの?」
「あるよ。Schwa……サクランボのケーキもあるけど、お酒使ってるから、ボクはまだダメって」
 伊邪那美が目敏く聞きつけると、ファウがドイツでは有名なトルテについて話し始める。
 ヨーロッパにも品種は違うが桜はあり、サクランボはやはり日本のものとは違うが、存在している為、伝統のお菓子にサクランボが使われているということもあったりするのだ。
 そう話している内、もうそろそろ待ち合わせ時間。
 と言っても、来ていないのは、シキ(aa0890hero001)だけなのだが───
「まったくあれはわかっていないね」
 シキ(aa0890hero001)が大層不服そうに歩いてきた。
「わかれがたいだろうとなぐさめてやったのに、あいつめ、さっさといけといったんだ。しばらく、かえってやるものか……!」
 ぷーいっとしているその向こうにシキの能力者が歩き去っていくのが見えたので、公園まで送ってくれた能力者は寂しがりもせずに送り出そうとしてシキの不興を買ったのだろう。
「そもそもふくにあうくみひもはどれかときいたのに、これにすればというてきとうさはいろけがわかっていないとおもわないかね!」
「とりあえず、落ち着け」
「これがおこらずにはいられるかね」
 オリヴィエがぷんすか怒るシキへシートへ上がるよう促すと、シキは怒りながらもシートの上に上った。
 スッと差し出されるはオレンジジュースが入った紙コップ。
「オリヴィエはわたしをきずものにするだけではないようだな。せきにんはとらせるが」
 シキは紙コップを受け取ると、こくこく飲み始めた。

 ……ということで、全員集合、遅刻者なし!
 シキが落ち着いたら、昼食にいい時間だし、お弁当を披露し合おうじゃないか。

●美味しいお披露目
 全員揃ったということで、持ち寄ったお弁当を披露することとなった。
 お弁当もお菓子も食べられる量を好きに持ってくる、というのがルールだけあり、そんな不自然な量を持ってきた者は誰もいない。
 まず、ファウが、魔法使いである母作のサンドイッチを披露する。
「色々な種類、あるよ。沢山作って貰った、から……」
 聞いたことがない名前におおっという声が上がり、ファウはそれだけでちょっと照れてしまったり。
「征四郎が作ってもらったサンドイッチとちがうので、たくさんたのしめそうなのですよ!」
「ボクは手まり寿司持って来たよー。折角だから皆で交換しやすくて、可愛いのがいいかなって思って!」
 征四郎が彩りも考えられたサンドイッチと玉子焼きのお弁当を見せると、伊邪那美が和洋折衷といった手まり寿司のお弁当をぱっと披露。
 伊邪那美としては最近頑張っている料理の腕を振るいたかったが、まだまだ腕前は未熟……ということで、手伝いはしたが、主な部分は能力者にお願いしたとのこと。洋の要素がある手まり寿司に驚かれたそうだが、レシピのお陰で事なきを得たそうだ。
「うちはおにぎりとか、色々。相方と作った」
「私もおにぎり。す、少しだけど、手伝ったの。……玉子焼き、ちょっと形が変、だけど」
 黎夜とルーシャンはおにぎり組だ。
 相方と作ったと話す黎夜は三角の形をしたおにぎり、甘めという玉子焼き、から揚げ、ポテトサラダ、アスパラのベーコン巻き……とシンプルだが手が込んでいそうなお弁当。続く、ルーシャンも俵の形をしたおにぎり、カマンベールチーズのフライ、桜の花びらの形をしたチーズが乗せられたミニハンバーグ、野菜が沢山入ったサラダ、それからちょっと形がいびつな玉子焼き……と渾身の作。
「ほう、みな、なかなかじゃないか。さて、わたしのはどうであろうか」
 満を持して、といった様子のシキが作って貰ったというお弁当を開けると、にゃんこの形をしたおにぎりが姿を見せる。
 だいぶ苦労したのではないか、と思うのは、可愛いにゃんことちょっと崩れてるかもしれないにゃんこがいるからだろう。
「ちゅうもんどおり、かわいいおべんとうだ」
 シキは満足したように頷く。
 おべんとうは2段……では、おかずの方はどうだろう?
 開けて、シキは「センスがないね……」と大袈裟に言い出したので、皆覗き込んで見る。
 お弁当箱の中には、玉子焼きとから揚げしかなく。
「ち、力尽きたんじゃないかな……」
 手まり寿司のバリエーションで無茶振りしたことを棚上げし、伊邪那美が言って見る。
「でも、皆で食べるから、沢山あったほうがいいの、かも?」
「なるほど。ファウ、じつにけんせつてきないけんだ。あれがそこまでかんがえているとはおもえないが、ものはかんがえようだ」
 ファウが首を傾げながら言うと、シキはうんうん頷き、センスのなさについては不問とすることにしたようだ。
「そういえば、オリヴィエ、きみはまだじゃないか」
「オリヴィエは皆のを食べるだけでいいというのですよ……」
 シキが責任の一環としてオリヴィエの弁当を所望するも、征四郎が首を横に振る。
 基本的に寝たり食べたりはしないオリヴィエ、勧められたら食べる程度であるからか、その許容量は大変少ない。
 なので、自分の分のお弁当は必要なく、お裾分けして貰うだけで大丈夫だと判断したらしい。
 ……なんて、見透かされているから、征四郎のお弁当が征四郎の希望より多めというオチはあるが。
「花を見に来ているしな」
「オリヴィエはいろけづいているということか」
 花より団子ではないとオリヴィエが言うも、シキが予想外の切り返しをして微妙に時間を停める。
 ともかく、折角作ってきたのだから、皆で食べようとなり、紙コップに好きな飲み物を注いで、いただきます。

●皆のお弁当
「わ、美味しい……!」
 ルーシャンの顔がぱっと輝く。
 お弁当の中身交換が活発に行われ、ルーシャンのお弁当もお裾分けのもので沢山だ。
 今食べたものは伊邪那美の手まり寿司。具はスモークサーモンとクリームチーズであった。
「それはボクが形作ったんだけど、ぼろぼろじゃなくて良かったー!」
「私の玉子焼きの形……大丈夫、だった? 変、だったから……ごめんね?」
「大丈夫! 美味しかったよ!」
 窺うように見たルーシャンは伊邪那美の言葉に安堵の微笑みを浮かべた。
「ファウのサンドイッチ、パンとチーズもそうですけど、ジャガイモとベーコンもおいしいのですよ」
「おかあさんは魔法使い、だから……」
 征四郎がファウのサンドイッチに感嘆すると、ファウは嬉しそうにはにかむ。
 そのファウの手には征四郎が持ってきたサンドイッチのひとつ、カルボナーラサンドがあり、口にして「カルボナーラってこうやって食べられるんだ」なんて感心した。
「から揚げ、玉子焼き……やっぱり味付けは違うもんだな」
「きみのいえのからあげ、こっちのほうはちょっとあじがちがうきがするぞ」
「あ、そっちは柚子胡椒。大家さんがお土産にくれたから」
 黎夜が玉子焼きとから揚げを食べ比べて、ちょっとした味付けの違いを口にすると、シキが貰ったから揚げのひとつを指し示した。
 同じ味付けというのも、ということで、少し前に大家から旅行のお土産とかでくれた柚子胡椒の味付けのから揚げを加えており、シキは馴染みがない味に興味津々と言った模様。
 黎夜が柚子胡椒を教えると、「こういうきびがあるものはいいね」と頷いたので、帰ったら、お求めになる可能性があるが、その辺はお家の経済事情と相談していただくとして。
「うちは玉子焼き甘く作るけど、出し巻き玉子だったり、洋風だったり……奥深いよなぁ」
「いろいろな味があって、なんかすごいよね」
「バリエーションというやつだよ。サンドイッチもパンやチーズだけでかおをかえるだろう?」
 黎夜とルーシャンがうんうん頷いていると、シキがどやっとしてファウのサンドイッチをもぐもぐ。
「家で見ない料理も結構ある、かな……。アスパラガスって、白いイメージ強いし、こういう風に食べたことないかな……」
「え、アスパラガスって白いの?」
 アスパラガスのベーコン巻きを食べていたファウへ、カマンベールチーズのフライを食べていた伊邪那美が驚きに目を瞬かせる。
「征四郎も白いアスパラガスははつみみなのですよ!」
「春にしか食べられないけど、ね」
 征四郎も黎夜作チーズおかかのおにぎりを手に興奮すると、ファウがこの少し先に市場へ顔を見せるというシュパーゲルについて話し出す。
「ところで、オリヴィエ。きみはちゃんとたべているかい?」
「たべている」
 こちらはルーシャンが持ってきた鶏肉の炊き込みご飯のおにぎりを手にしたシキがずっと黙っているオリヴィエへ話を振ると、にゃんこおにぎりを手にしたオリヴィエが軽く肩を竦める。
 オリヴィエが黙っていたのは、ごく普通に桜の花を見ていたからで、天気がいい日が続けば満開はいつだろうと団子より花を優先させた考えだったからだ。
「オリヴィエ、大丈夫です? 全部食べられなかったら、むりしなくていいのですよ」
「大丈夫だ、無理はしていない」
 お裾分けの量が多かったのではと征四郎が気遣うもオリヴィエは大丈夫と返す。
 世話焼きママ(?)のお陰か、食べる量が少しだけ上がっていたそうで、ギリギリ許容範囲内だそうだ。
「しかし、結構あったのにあっという間に減った気がするな」
「美味しかったからね。皆美味しかったし」
 黎夜が空となったお弁当箱を見ると、伊邪那美が笑う。
 伊邪那美としては個人的にお勉強になり、大変満足といったところなのだろう。
「ちびはたくさんたべねばおおきくなれないからね」
「チビじゃないのです、チビじゃ!」
「もうちょっと食べないと大きくなれないかな……」
 シキへ即反応する征四郎、身体をぺたぺたするルーシャン……反応は全く違う。
 賑やかなやり取りをオリヴィエがちょっと呆れたように口出しし、止めに掛かる。
(皆と交換出来てよかった……)
 そんなやり取りを見つつ、ファウが心の中で呟いた。
 実は、ファウはここへ来るまでの間、皆と交換出来たらいいけど、皆も家族やパートナーに作って貰ってくるかもと思ったら言えないんじゃないかと思っていたのだ。が、伊邪那美が交換目的でお弁当を作ってきたのを紹介してくれたこともあり、皆で味の紹介をし合って食べることが出来て、それが嬉しかった。
 だって、お弁当の交換とか、同い年の友達じゃないと、出来ないし。
「ありがとう」
「何の! ボクも美味しかった!」
 ファウのお礼を知ってか知らずか伊邪那美は楽しそうに笑う。
「おいしいのは大事なのですよ。とは言え、あれを許すとチコクしそうだったのです」
「……料理の腕はいいが、卵は体積から気にして測り出す。適量が出来ないそうでな」
「それは……大変そうというか……」
 征四郎が重々しく言うのをオリヴィエが補足、意味を理解した黎夜がスムーズだった自分達の制作現場とは違う何かを想像し、それでも、穏便な感想を伝えた。
「計量は大事とは教えてもらったけど、でも、そこまでは聞いたことなかったかも」
「おかあさんも天秤は使ってなかったような?」
「特殊な例だ、参考にしなくていい」
「フゼイもなにもないのですよ」
 伊邪那美の感想にオリヴィエ、征四郎が口を揃えるので、伊邪那美も黎夜と同じで自分の知りえない料理現場があるのだと想像し、ファウは天秤を使わなくていい母親はやっぱり魔法使いなんだと改めて実感した。
「ふぜいといえば、ルーシャンのおべんとうにあったハンバーグはふぜいがあったね。チーズがさくらのかたちとはこころにくい」
「えへへ、桜を見に行くのだから、って言ってくれたの」
「そのきづかい、じつにいいね。みならわせたいよ」
 やれやれ、と溜息をつくシキ。
 そうは言うが、にゃんこのおむすびについては、「かわいくつくってくれた」と満足そうであったので、シキもそこは合格を上げているだろう。
 まだお腹いっぱいだし、お菓子を食べるのは後にして。
 ひとまず、食後の休憩。
 咲き始めの桜は、皆の頭上で風に揺れている。

●見上げる先には
 桜の紅茶が注がれていく。
 こちらの提供は、ルーシャンから。
 彼女の騎士が桜の花見ならばと用意してくれたものだとか。
 飲み物自体、オリヴィエ以外にも黎夜、征四郎が温かいお茶を持ってきていて、こちらは既に振舞われている。
「わ、本当に桜の香りがする……!」
「いいね。こういういろけはじつにすばらしい」
「きれいな桜の下で桜のこうちゃ……ふうりゅうってやつなのです!」
 伊邪那美が香りを嗅いで感心すると、シキが鷹揚に頷く。
 新たに注がれた紅茶と桜を見比べ、征四郎も難しい言葉を使ってどやっ。
「さっきのお茶も温かかったけど、この紙コップ、ちゃんと持てる……」
「私もビックリしちゃった。オリヴィエおにいちゃんが持ってきた紙コップすごい!」
 ファウが紙コップを両手で包み、感心すると、ルーシャンもちょっとはしゃぎ気味。
 そう、オリヴィエが持ってきた紙コップは断熱加工のものだ。
 ただの紙コップだと熱くて持てなかったり、熱さに驚いて落として火傷する可能性なども考え、準備しているのだが、オリヴィエ的にはパートナーのアドバイス聞いただけだし、それなら当然と思っているので、それが気遣いだという感覚はない。
 征四郎から言わせると、そういうの所が無自覚でも優しいという所なのだが。
「まだ本格的に咲いている訳じゃねーけど……、桜が咲くと、春だって感じがするな」
「征四郎としては、梅からはじまるのですよ」
「梅は、うちの感覚だと冬の終わりの方かも……」
 征四郎がそう言ってここには植えられていない梅へ言及すると、黎夜は梅も捉え方によってはそうなるか、なんて思ったり。
 と、少し強めの風が桜の枝を揺らす。
 咲き始めである為、桜の花びらはほとんど散らないのだが、風の強さからか、花びらが1枚、ルーシャンの紅茶の水面へ舞い降りてきた。
「さくらもきびというものがわかっているね。かんしゃしなさい」
「えへへ、桜さんありがとう。シキちゃんもありがとう!」
 素敵な偶然に顔を輝かせるルーシャンへシキが言うと、ルーシャンは桜だけでなく、そのことを言ったシキにまでお礼を言う。
「咲きはじめだと、花びらあまりおちてこないのです」
「あいつにみやげができないじゃないか」
「スマホで写真を撮ったらどうだろう」
 征四郎とシキはこの時は同調し、桜を見上げる。
 そこへ黎夜がスマホで撮影を提案、なるほどとスマートフォンをごそごそし出した。
「あ、あと、ボク、他の花も撮ろうかな」
 桜の幹に抱きついてみていたファウがぱっと戻ってくる。
 元々植物が大好きなファウ、日本の春の花を撮影し、母親にも見せたいようだ。
 公園である為か花木も多く、ファウは雪柳や辛夷といった見頃の花も頑張って撮影している。
「春っていいよね。……桜イメージでひとさし……」
 伊邪那美が立ち上がると、ふわっと舞い始める。
 軽やかな桜の花びらを思わせる舞は、征四郎が言うには日舞、とのこと。
 闊達な印象の伊邪那美もこの時は静の印象強く、ちょっと大人っぽく見えた。
「征四郎はこっちはあんまり、でしたが、見るのはすきなのですよ」
「何でも出来るようになったらつまらないだろう。誰も必要なくなる」
「……そうですね」
 征四郎はこういう時、実の兄よりオリヴィエの方がずっと優しくて、兄らしいと思う。
 オリヴィエは兄がくれなかったものを、不器用でもくれる。
 本当のお兄ちゃんなら、いいのに。
「お花の妖精さんみたい!」
「ふむ、なかなかだったよ」
「桜が散っていく中だと、風情があったかもしれないけどね」
 ルーシャンがはしゃぎ、シキがまずまずと評価を下すと、伊邪那美はちょっと照れ笑い。
「日本のダンスって何か不思議……こう、ふわっとしてる感じ?」
「あっちだとバレエとかだったか。うちには爪先立ちとか厳しいけど」
「ばれえ? それどういうの?」
 ファウと黎夜の会話に伊邪那美が参戦、最終的にルーシャンも加え、バレエの話へ。
「あと、外国だと、ぶとうかいというものがあるのですよ」
 征四郎が伊邪那美へ舞踏会について教えるが、オリヴィエは情報ソースが童話であることは知っていたので、正確性についてはどうなんだろうとこっそり思っていると、ルーシャンが近くにやって来た。
「今日はたくさん準備してくれてありがとう。えへへ、メール貰って嬉しかったの」
「ああ」
 促されまくったとはそこで言えないオリヴィエはルーシャンのお礼を少し戸惑い気味に受け取る。
 傍目から見るとぶっきらぼうで愛想のない対応だが、ルーシャンは気にしない。
 ルーシャンにとって、オリヴィエは沢山お喋りしなくても優しいお兄ちゃん。お友達という認識だ。オリヴィエは猫が好きだし、猫もオリヴィエを嫌ってなかった。だから、優しい人。動物が好きだから、きっとそうと思っているから。
「そろそろ、おかしのじかんになるべきだとおもわないかね」
「うち、紅茶のクッキー作ってきた」
「ボ、ボクも、Mohnschnitte、あ……ケシの実のケーキ持って来たよ」
 シキが見回すと、黎夜が軽く手を挙げ、春の花を撮影していたファウも相棒が持たせてくれたというドイツでは馴染み深い焼菓子持参を明かした。
「ほわぁ! ボクの知らないお菓子! 凄い、この黒いの餡子じゃないの!?」
「違うよ。ケシの実を牛乳で甘く煮詰めるんだよ」
「日本だとあんま見ないよな。……外国のケーキっていうと、もっとしつこい甘さだと思った」
 伊邪那美へファウが説明していると、黎夜が食べてみて、素朴で優しい甘さと感想を漏らす。
 すると、その話を聞いた征四郎も食べてみて、「初めて食べる味なのですよ」とやっぱり感動。
「日本のクッキーって、甘くてサクサクして新鮮……。香辛料あるイメージだから」
「そうなのです?」
「あと、クリスマスになると沢山焼いて、少しずつ食べるよ」
「すこしずつ! すぐにたべおわってしまいそうだよ」
 ファウが黎夜の紅茶クッキーを美味しそうに食べていると、征四郎とシキがファウの話に興味津々。
 日本とドイツではクリスマスと新年の迎え方も違う為、アドベントの過ごし方からして興味深いようだ。
「日本だとシュトレン食べるってのはあるけどな」
「日本でも最近買えるよね。色んな国のクリスマスが味わえるの」
 黎夜がクリスマスを思い返すと、ルーシャンも楽しそうに笑う。
「今だと、やっぱり桜の菓子だけど、桜餅とか以外にもケーキやクッキーもあるしな」
「桜餅! ボクこの前美味しいお店の食べたよ。日持ちしないお店のらしくて、すぐに食べちゃったけど」
「わぁ、美味しそう!」
「この桜がお餅、えと、お団子みたいなのだよね、それになるの?」
 黎夜に伊邪那美が反応すると、ルーシャンが目を輝かせるが、ファウはそもそも桜はサクランボ、黒い森のケーキのイメージが強い為、結びつかないらしく、首を傾げる。
 そこでまた、桜餅談義が始まる。
「これ、ちびたち、いまのよのなかにはいちごがあふれていることもわすれてはならないよ。いちごはあかいほうせきのようだ」
「征四郎もイチゴはイチゴ大福もケーキもそのまま食べるのも美味しいと思うのですよ」
「なかなかわかっているじゃないか」
 桜を見上げるオリヴィエはお土産に桜餅フラグとイチゴ大福フラグを感じ取り、帰り道はどこを歩けば揃っている店があるか頭に思い浮かべる。
 シキの方は……このフラグ以外にも柚子胡椒フラグなんかもあるので、頑張っていただこう。一緒に帰るのが確定事項の征四郎は自分自身が頑張るとして。
「そろそろ後片付けしないと、帰る時間に間に合わない」
 オリヴィエが腰を上げると、公園の時計はもう4時を指している。
 あと、30分で帰るメロディーが鳴ってしまう!
 皆、帰り支度を整えることにした。

●またね
「花は綺麗だし、食べ物も飲み物も美味しかったし。まさに桃源郷って感じだったよね〜」
「だからあんなにたべたのか」
「甘いものは別腹なの!」
 伊邪那美がせっせと紙コップを回収していると、一応お裾分け用の紙皿の回収を手伝ってやっている(本人が言うにはちびたちだけやらせていてはじぶんがわるいやつらしい)シキがクッキーとシュニッテンを1番食べたことに言及すると、甘いものは大食漢枠の伊邪那美は他はそんなに食べてないと主張する。
「あ、オリヴィエおにいちゃん、これ燃えるゴミ」
「燃えるゴミはこっちの袋だ。燃えないゴミは黎夜が持ってる袋だ」
 ゴミ分別するオリヴィエがルーシャンから燃えるゴミを受け取ると、お礼を言ったルーシャンは燃えないゴミを黎夜へ持っていく。
 年長の黎夜はゴミの分別もちゃんと分かっているので、オリヴィエを手伝ってくれているのだ。
 その間にファウが皆の荷物を纏め出し、征四郎がせっせとレジャーシートを畳んでいる。
 大きいのを1枚ではなく、そこそこの大きさのものを複数用意した為、嵩張りはするが力仕事としての負担は軽減されているので、オリヴィエもやると主張する征四郎へダメだと強固に言い張ることはしなかった。……最後に持つのは譲らないけど。
 全て後片付けを終えると、ちょうどメロディーが鳴る5分前。
 皆で、改めてまだ満開ではない桜を見上げた。
「満開になったら、もっと綺麗なのかな」
「キレイなのですよ! またおはなみしてもいいくらいなのです!」
「おっ、いいねぇ。こういうのは何回あってもいいよね」
「うちも……楽しい花見なら、歓迎……。今日、楽しかったし……」
 ファウに征四郎が笑うと、伊邪那美と黎夜が賛成と彼らの会話に加わる。
「ちびたち、そんなにわたしとあいたいのか。しかたないな。くみひもとようふくでまよってしまうが、まんかいのはなみもやぶさかではない」
「シキちゃんの今日の組紐みたいな色の桜が沢山だともっと楽しいと思うの!」
「今日の組紐みたいな色……桜染め?」
 ポジティブに突っ走るシキへルーシャンが笑い掛けると、オリヴィエが彼女の言葉でシキの組紐を見、自身の能力者が確かそんなようなことを話していたようなとぽそりと呟いた。
「……さくらぞめ……。なるほど、あれもいろけというものをりかいしていたということか」
 シキが満足そうにうんうんと頷く。
 ちなみに、組紐を買った本人は桜染めであることなんて知らなかったので、大暴投と言っていいのかバントがホームランになったと言っていいのか判断に困る所だ。
 ここで、お開きのメロディーが鳴った。
「少し待たせたかもな」
「待っててくれてありがとうって言わなきゃ!」
 タイミング良く登場した自身の英雄を見た黎夜が呟くと、自身の騎士が待っていることを確信していたルーシャンが手を振る。
「ゴミ、持って帰る」
「うちが持ってく。皆で楽しんだし。……手分けして持つから」
 オリヴィエが黎夜が持つゴミ袋をと言うが、黎夜は大丈夫とお礼を言ってから、英雄の元へ歩いていった。
「今日は知らない料理たっくさん知っちゃった。ありがとう! ……作って貰ったり、作るのは流石に難しそうだけど」
「あ、今度、お母さんにレシピあるか聞いてみる」
「ホント? やったぁ!」
 伊邪那美とファウもそんな会話と共にお迎えの元へ歩いていく。
「シキちゃんも一緒に行こっ。お迎え来てるもの」
「むかえか。やはりさびしかったということか。しかたないやつめ」
 ルーシャンに引っ張られるようにしてシキも歩いていく。
 勿論、皆、またねの言葉と共に。
「征四郎たちもかえるのですよ!」
「だな」
 笑う征四郎へオリヴィエは軽く頷いた。

「ところで、オリヴィエ。たのしいのはおすそわけがだいじだと思うのです」
「……駅前の和菓子屋なら、桜餅もイチゴ大福もあるだろう。白餡は売り切れてるかもしれないが」
「どうみょうじは?」
「それは店で確かめろ」

 冬と違って陽が高い帰り道。
 けれど、皆と過ごした楽しい余韻は冬と同じ。
 その余韻は、等しくパートナーにもお裾分けするのも同じだ。

 また楽しく過ごせるよう。
 その余韻を話すことが出来るよう。

 少し早い花見には、華やぎが宿っている。

━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛
【オリヴィエ・オドラン(aa0068hero001)  / 男 / 10 / ジャックポット】
【木陰 黎夜(aa0061)  / ? / 13 / 能力者】
【紫 征四郎(aa0076) / 女 / 7 / 能力者】
【伊邪那美(aa0127hero001) / 女 / 8 / ドレッドノート】
【ファウ・トイフェル(aa0739)  / 男 / 6 / 能力者】
【ルーシャン(aa0784) / 女 / 6 / 能力者】
【シキ(aa0890hero001)  / ? / 7 / ジャックポット】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛
真名木です。
ご発注ありがとうございます。
冬に続き楽しく書かせていただきました!
浪漫パーティノベル -
真名木風由 クリエイターズルームへ
リンクブレイブ
2016年03月29日

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