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『誇り、伝達、お礼。 』
千獣3087)&エディオン(NPC0197)


 石屋エスコオドの扉には「OPEN」の札がかかっている。かかっているにもかかわらず、店内に人が複数いる気配はない。
 千獣は、扉を軽くノックしてから開く。様々な石が並べられている店内に、やはり客の影はない。
「おや、千獣さん。いらっしゃい」
 店の奥から、にこやかにエディオンが現れた。
「今、大丈……夫?」
「もちろんです。紅茶でも入れますから、ちょっとだけ待っていてくださいね」
 エディオンはそう答え、再び店の奥へと消えた。千獣はこくりと頷いたのち、あたりを見回した。
 色とりどりの石達が、所狭しと並んでいる。それぞれが色んな意味があり、様々な用途がある。
(この石……みたいに)
 懐に忍ばせた石を、思う。傷の入った真っ青な石は、守りの石から誇りの石に変わったという。
「お待たせしました」
 千獣は、エディオンの声にはっとする。見れば、湯気の昇るティーカップを二つ盆にのせ、エディオンがやってきていた。
「こちらへどうぞ」
 定番の位置となっていたテーブルへとエディオンが誘う。千獣は、こちらも定位置となってきた椅子に、ちょこん、と座る。
「甘い……香り」
「今日は、ベリーの紅茶にしてみました」
 エディオンはそう言い、千獣の前にティーカップを置いた。ベリーを思わせる赤紫の紅茶から、甘酸っぱい良いにおいが立ちあがっている。
「これ、は?」
 千獣は、テーブルの真ん中に置かれた菓子の載った皿をさす。
「今朝、カップケーキを作ったんです。ちょうど千獣さんがいらして、良かったです」
「いただき、ます」
 千獣はそう言って、紅茶に口をつける。匂いは強いのに、味はちゃんと紅茶だ。甘酸っぱさはほんのりしかなく、匂いから想像すると幾分拍子抜けするくらいだ。
「不思議……」
「ふふふ、驚きましたか? 匂いから想像していたら、分かりませんよね。実際に口をつけてみて、味が分かるんですよ」
 悪戯っぽく笑うエディオンに、千獣は少しだけ顔をほころばせてから、ティーカップをソーサーに戻した。
「あの……ね、エディオン」
「はい」
「傷、ついても、守れた、こと……誇らしいって……ちゃんと、伝わった、か……わから、ない、けど」
「はい」
「伝えて、みたよ」
 千獣は、エディオンを見つめる。エディオンは穏やかに笑んだまま、千獣の次の言葉を待っている。決して急かしたりはしない。千獣のペースで、言葉で、話してくれることを待っている。
「そうしたら……『ありがとう』って……言って……くれた」
「それは、良かったですね!」
 心底嬉しそうに、エディオンは答える。千獣はちょっと照れたようにはにかみ、それからきゅっと手を握り締めた。
「私も……エディオン、に……ありがとう」
「僕に、ですか?」
 小首をかしげるエディオンに、千獣はこっくりとうなずく。
「傷つく、ことは……傷、つける、ことだと、ばかり、考えて、いた、から……そんな、風に、考え、られた、のは、エディオンの、おかげ……だから」
 千獣は、まっすぐにエディオンを見つめ、すっと椅子から立ち上がる。
「ありがとう」
 深々と、千獣はお辞儀する。エディオンは面食らったようにお辞儀をする千獣を見つめたのち、ふふ、と小さく笑ってから立ち上がる。
「僕の方こそ、ありがとうございます」
 エディオンはそう言いながら、千獣に顔を上げるように促す。
「僕の言葉を聞いてくれて、伝えたいと思ってくださって、実際に伝えて下さって。嬉しいです」
「エディオン、も?」
「はい。千獣さんが僕にお礼を言いたいとおっしゃるのならば、僕も千獣さんにお礼を申し上げたいのですよ」
「エディオン……難、しい」
「そうですね、僕もなんと言っていいのか分からないんです。ですが、やっぱり僕は千獣さんにお礼を返したいんです」
 千獣は顔を上げる。目の前にあるのは、エディオンの穏やかな笑みだ。
 千獣は、その顔をじっと見つめる。エディオンもじっと見つめ返している。
「……人間は、難しい……優しい、と思えば、残酷、で」
「はい」
「賢い、と思えば、愚か、で……難しくて……わから、なくて……人間の、こと……どうしようも、ない、ほど……嫌い、に……なる、ことも、あって」
 千獣は、言葉を紡ぎながら思い返す。
 今まで出会ってきた、人間という存在達。種々様々なその存在達は、言葉でまとめようとしても困難なものだった。一言では済まされず、かといってバラバラに区分することもままならない。
「でも……エディオン、みたいな、人も、いて……嫌いに、なり、きれなくて……もう少し、信じて、みようって、思う」
 千獣はそう言うと、エディオンは満面の笑みを浮かべた。心底嬉しそうに。
「千獣さんが、そう思ってくれる原因の一つに、僕がいるんですね?」
 エディオンの問いに、千獣はこっくりとうなずく。
「やっぱり、エディオン、には、ありがとう、だね」
 千獣は、顔をほころばせる。エディオンの笑みに、呼応するかのように。
「ありがとう……人間を、信じたいって、思わせて、くれて……」
「こちらこそ、ありがとうございます」
 エディオンは微笑みながら答え、椅子を促す。
「僕は、実はすごく長い時間を過ごしていましてね。人と関わることは好きでしたけれど、人に影響を与えられる存在だとは思っていなかったんですよ」
「エディオン、が?」
「はい。巨木を見て、長い時間を過ごしてきたことはわかるでしょう? ですが、巨木はそこにあるだけです。木陰で休む人の心を癒しはしても、人と積極的にかかわることはありません。ただ、見守るだけです」
「そう、思って、いたの……?」
 千獣の問いに、エディオンは微笑みながらうなずいた。
「ですが、千獣さんは、僕と関わることで一つ前に進むこととなった、とおっしゃられたでしょう? 僕にお礼を言いたいと、おっしゃったでしょう?」
 エディオンはにこやかに笑う。あまり見たことのない、照れを含んだ笑みだ。
「僕は、ただあるだけだと思っていました。だから、こうして千獣さんがお礼を言ってくださって、本当に嬉しいんです」
「エディオン……」
 エディオンは「ふふ」と照れながら笑い、紅茶を口にした。それにならい、千獣も紅茶を口にする。
 紅茶は、すっかり冷めてしまっていた。
「冷めてしまいましたね。もう一度、淹れなおしましょうか」
「ううん、これ、飲む……」
 冷めた紅茶は紅茶で、ベリーの香りが穏やかになって紅茶の味が生きている。また違った楽しみ方ができるのだ。
「お代わり、ありますからね」
 エディオンの言葉に千獣はこっくりとうなずいたのち、カップケーキに手を伸ばした。一口齧ると、中からチョコレートの塊が出てきた。
「あ、チョコ……」
「ああ、千獣さん。それ、当たりですよ」
「あたり……?」
 並んだカップケーキは5つ、千獣が持っているのを合わせて6つだ。
「一つだけ、チョコレートを入れていたんです。他のには入っていないんですよ」
「あたり……あてた、ね」
 千獣は小さく笑い、チョコレートを口にした。
 ほろ苦く甘いチョコレートは、とろ、と千獣の口の中でとろけていく。
「エディオン……また、遊びに、きても、いい……?」
「もちろんです。大歓迎ですよ」
(大歓迎……)
 甘酸っぱいベリーの香り、一つだけのあたりを当てたカップケーキ、エディオンの歓迎。
 そのどれもが嬉しくて、千獣は今一度エディオンに向き直る。
「……ありがとう」
「どういたしまして。僕からも、ありがとうございます」
 お礼の言い合いも、何度目だろうか。
 それに気づいた千獣とエディオンは顔を見合わせて、顔をほころばせた。
 優しい日差しが窓から差し込み、エスコオドの中を緩やかに温めるのであった。


<穏やかな話は続き・了>
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聖獣界ソーン
2016年03月30日

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