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『思う相手は人ならずとも 』
慄罹(ia3634)

 そういえば世間一般ではバレンタインの時期だったな、と慄罹は思った。もっとも、彼自身にはそこまで思う人、というのは想像できない。鬼籍の両親や育ての親たち、それに未だ健在である師匠などへは感謝の思いはあるが、その人達に何かを、と言うわけでもない。
 ぼんやりそんなことを思いながら、彼は相棒達へのご飯をこしらえていた。
(そういえば、興覇ともずいぶん長い付き合いになるな)
 彼の最古参の相棒でもある鋼龍の興覇と出会った頃のことを思い出していた。
 
 
 開拓者である師匠とは、ずいぶん長いこと旅をしてきたようにも思う。
 そんな師匠と十六歳になる年の春、旅の途中に偶然訪れた山の中腹にある菜の花畑の中で、一匹の小柄な龍が傷を負った状態で啼いていたのだ。
 龍の行動には個体差がある。単独行動をするものもいれば、数頭での群れで過ごすものもいる。
 それでもたった一頭、しかも負傷しているその龍は、見たところまだ幼く、だからこそ不安を覚えて。
「こんなところに一匹で……親は、いないのか?」
 思わず手を伸ばそうとしたが、龍のほうは怪我をしていることもあってか怯えてしまっている。いや、突然現れた人間に、困惑しているというほうが正しいか。ギャース、と威嚇の声を上げてくる。
 鼻筋のあたりにある一文字の傷が痛々しいものだった。もしかしたら、この龍も慄罹と同じように、親を亡くしてしまったのかも知れない。
 もしそうだとしたら、これから一頭で生きていかねばならぬのではないだろうか。慄罹が自分の幼少期と思わず重ね合わせてしまうのも、無理がなかったのかも知れない。
 しかし不安と恐怖に戸惑っている龍のほうは、半分正気を失いかけていたのだろう。勢い余ったのか、がぶり、と慄罹にかみついてしまった。しかしその噛みつきようも力なく、このままだと衰弱死してしまうのではないか――そう思った。
「待ってろ、今何か食べられるもの作るから」
 慄罹は開拓者の卵だ。開拓者には必ず相棒が傍にいるし、はじめに開拓者の相棒になるのは殆どの場合が龍だ。だからこそ、余計に放っておけない。
 幸い龍の食事については慄罹にも知識がある。あり合わせのもので簡単にこしらえると、それを龍の前にそっと置いた。はじめはそれを見てもぷいと顔を背けていた龍だったが、慄罹が我慢強く傍にいること、そして何よりも空腹に勝てなかったのだろう、やがてがつがつと食べ始める。それに安心して、慄罹は一旦彼のもとを去った。
「また、来るから」
 師匠からはこの近くの村でしばらくの間逗留する予定だと聞いている。その間は毎日でも会いに行ってやろう、と考えたのだ。
 師匠もこの様子には納得したようで、慄罹も昔はああいう感じだったなあ、なんてことを言う始末。
「なんだか、放っておけないんで。……俺の小さい頃を見てるみたいで」
 慄罹の言葉に、師匠は目を細めた。彼らが出会ってもうそれなりの月日が経つが、慄罹の置かれていた状況を考えればそう考えても仕方がないのだろう。
 確かに、あの幼龍と慄罹は、どこか似たもの同士な感じだったから。
 
 それから、慄罹は毎日菜の花畑に赴いた。
 幼龍は相変わらず威嚇したりもするが、それでも慄罹が毎日飯を与えてくれたり、さらに傷跡を綺麗にぬぐってやったりしていくうちに、龍のほうにも少しずつ変化が生まれてきた。
 甘えてくることこそしないものの、慄罹が来ることを拒まなくなってきたのだ。
 悪い人間ではないと悟ったのであろう。
 素直にじゃれたりするような性格ではないが、手出しをすることもしない。そんな関係になっていっていた。
 
 
 ――その日も慄罹は、龍のための食糧を携えて菜の花畑に向かおうとしていた。
 しかし、そこに向かう途中で怪しげなものを持った数人の強面の男達を見かけた。彼らが手に持っていたもの、それは、
(……あれって……まさか、龍を狩る道具?)
 龍の鱗が高値で売れるというのは、天儀に住むものならよく知っていることである。そのために密猟者や密売人も裏社会には多くいるとも聞いていた。
 でも、このタイミングで現れる、と言うことは――
(もしかしてこいつらが、あのちび龍の親を……?)
 もしそうなら、あの龍に会わせるわけには行かない。少しずつ慄罹には心を開いてくれているとは言え、まだまだ人間への警戒心は強い龍である。
 そもそも幼い龍を更に捕えに来た可能性もある密猟者を放っておくわけにいかない。龍に近づけさせてはいけないと、そう本能的に感じた。
(ギルドへ連絡したほうが、良さそうだ)
 彼はそう結論づけると、その日は少し遠回りをしてから龍のもとに向かった。密猟者に、この龍のことを気づかれないように気をつけながら。
 それでも、密猟者のにおいがするのだろう。その日の龍は、いつもよりも更に落ち着きのないようすで、威嚇の声を上げそうになるのを何とか慄罹が押しとどめていた。声がすれば、きっと気づかれてしまうから。
 慄罹はその日、急いで近在の開拓者ギルドへの連絡を行なった。
 密猟者や密売人が、この付近に出没していることを報告する為だ。
 そう言う後ろ暗いことをしている面々というのは往々にして指名手配の対象になっているからである。ギルドの受付は密猟者の報告に感謝の言葉を述べ、すぐに開拓者を派遣して密猟者を捕えることを約束してくれた。
 
 
 数日後。
 開拓者ギルドというのは仕事が迅速で、あっという間に密猟者と密売人の摘発が完了したという話を聞かされた。
 よかった、と思うと同時に頭をもたげたのは、あの龍の処遇である。
 恐らく既に両親を喪っているであろうあの幼い龍は、これから先、一頭だけで生きていくのだろうか。折角少しずつ心を開いてくれていたところなだけに、切なさを感じる。
 と、その日の龍は大分体力も回復したらしく、菜の花畑から少し離れた場所に慄罹を案内してくれた。
 そこには、傷ついて既に事切れている龍の遺体が二つ。恐らくこの幼龍の親だろう。遺体は若干傷ついているが、密猟者が鱗を剥いだ痕跡は幸運にもなかった。
 慄罹は、彼らにそっと花を供えて火をくべる。龍と慄罹だけの、野辺送り。
 龍は、寂しげに一つ啼いた。
 
 
 それからもうずいぶん月日が経つ。
 幼龍は興覇と名付けられ、慄罹の相棒となった。
 多くの冒険をともにしてきた、頼もしい相棒だ。
 だから、彼には感謝をしたい。
 傍にいてくれるから、ここまで来られたのだから。




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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【 ia3634 / 慄罹 / 男 / 31 / 志士】



ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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このたびは発注ありがとうございました。
また天儀世界を書くことが出来て、嬉しかったです。
天儀での日々を、いつでも思い出してくださいね。

追記:お名前ミス申し訳ありませんでした……!
浪漫パーティノベル -
四月朔日さくら クリエイターズルームへ
舵天照 -DTS-
2016年04月04日

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