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『その日常 』
佐倉 樹aa0340)&真壁 久朗aa0032)&セラフィナaa0032hero001)&シルミルテaa0340hero001

●非日常の扉
「また、呼ばれた……」
 外套を翻し、街を闊歩する真壁 久朗(aa0032)は、嘆息交じりにそう言った。
 学生帽の下にあるその威圧的な鋭い目には呆れの色もあるに違いない。
 そう思いながらも、セラフィナ(aa0032hero001)は力などなくとも分かり切った未来を問いかける。
「でも、行くのでしょう?」
「手がかりがあるかもしれないからな」
 深い深い溜息。
 気乗りはしないが、行くといった様子だ。
 その端正な顔を見上げ、セラフィナは星のような輝きを持つ瞳を笑ませた。
「そう言っている間に着きましたよ、クロさん」
 目の前には繁盛しているようにはとても見えない、胡散臭い骨董品店。
 久朗はまた、溜息を零す。
 道行く者が久朗を見るが、セラフィナには視線を遣らない。
 冴えた月明かりのような髪と星の輝きのような瞳のセラフィナは海の向こうからやってきたような装いで、人の目に留まらない訳などないのに。
 それもその筈、セラフィナは半透明……実体がなく、普通の者が見ることは出来ない。
 久朗と出会うまでずっと孤独にこの世界を彷徨い歩いていただけなのだから。

 扉を開ければ、非日常の世界が目に映る。

「セラフィナ!」
 店の奥から、少女が走ってきた。
 が、ただの少女ではない。
 純白と桃色のレェスも美しいボンネットからは兎の耳がぴょこぴょこ動き、仏蘭西人形のような装いとは裏腹の闊達さを見せる。
 そう、彼女、シルミルテ(aa0340hero001)はこの店の主ではなく、この店に住み着いてる妖かしの存在なのだ。
「くろー」
 店の最奥にその店の主、佐倉 樹(aa0340) がいる。
 見た目は女としての乱を身体に持たず、緩やかな平野しか持たないが、その分中身に乱を持つ女だ。
 手をひらひら振る樹を見、久朗は歩いていく。
「今日は何だ」
「何だとはお言葉じゃない?」
 樹が口に描くのは揶揄の三日月。
 彼らは、所謂腐れ縁だ。
 退魔士の家系である真壁、魔封じの家系である佐倉───似て非なるが、その家系の縁あってか幼少に顔を合わせていた。その後、魔を滅ぼすか、魔を封じるかという路線の違いもあって対立が進み、顔を合わせなくなっていたのだが、紆余曲折を経て、今ここにいる。
「デパァトに飾られてる骨董品を回収してきてほしくてね」
 樹から受け取った依頼書を手に取ると、久朗は表情を動かさず、内容を確認する。
 一読した印象では、ただの何てことのない回収依頼だ。
 だが、久朗は学習している。
「書いていない情報はないだろうな」
「嘘は書いていないね」
 久朗は樹を見る。
 答えていない。
 久朗は依頼書に記載されていない情報を確認しているが、樹は依頼書に書かれている範囲での答えしか言っていない。
 捻くれた性格だが、その身に魔を封じているとそうなるのかもしれない。
 それ以外にも、出会った時からさほど変化のない身体の曲線は、魔封じの影響で時間停止しているかもしれないが。
「くろー?」
「……受ければいいんだろう」
 久朗の空気を感じ取って、樹が彼を見上げると、久朗はそう切り上げる。
 どの道、受けるしかないのだ。
 見かけは例え絶壁であれ、年頃の女学生でも中身はそうではない樹の達者な口に勝てる筈もなく。
 そして、退魔士である自分には『目的』がある。
「朗報を、期待しているよ」
 見上げて、樹は笑った。

 そのやり取りをセラフィナが見ていた。
「話が終わったみたいですね。デパァト……どういう場所なんでしょう?」
 セラフィナは気がついた時には自分の名前以外の全てを忘れて彷徨い歩いていたから、デパァトがどんな場所か分からない。
 久朗の隣が今の自分の世界の全てでもあるので、彼が行かない場所は未知の世界なのだ。
「チョコレィトがアる場所?」
「チョコレィト?」
「甘クて美味シい、異国のオ菓子ヨ」
 ほわっとするシルミルテは食べたことがあるのだろうか。
 シルミルテもセラフィナと同じ非日常の存在だけど、セラフィナと違って実体を持っている。
 それがちょっと羨ましいセラフィナだけど、自分と同じ非日常の存在であるシルミルテがいると、自分だけじゃないと思えるし、久朗以外で認識してお喋り出来るのは嬉しい。
「オ土産に頼マないトネ」
 シルミルテがとてとてと最奥へ歩いていく。
 セラフィナもそちらへ視線を遣った。
 まだ、久朗と樹が言葉を交わしているのが見える。
 断片的に未来を視る瞳に映る樹は、何だか不穏で、けれど、はっきりした形になっていない。
 先見の力で見通し切れないのは、魔封じの血の所為かそれとも定まりきっていないということなのかは何とも言えないが、それ故にセラフィナは心配に胸を痛めるのだった。

「今回ノ樹ノ依頼、いツもより大変ナんだッテ。頑張ッテ。……オ手伝い、大丈夫?」
「大丈夫だ」
「いってきます」
 シルミルテへそう言った久朗とセラフィナが店を出ると、店は再び樹とシルミルテだけとなった。
「教エなクテ良かッタの?」
 シルミルテは妖かしの存在だからか、不思議な声でどこかたどたどしく話すが、樹は気にならない。
 いつの間にかこの店に居ついたこの妖かしの魅力のひとつとさえ思える。
 この世界で最も気を許しているからというのも大きいだろうが。
「まだ断定情報じゃないからね。推測だけを教えても仕方ない」
 樹は本に挟んでいた紙を取り出す。
 記されていたのは、連続神隠し事件の行方。
 久朗がこの街を訪れた最初のきっかけは、セラフィナによく似た幼馴染が最後に訪れたのがこの街だからだ。
 この街で、久朗の幼馴染は神隠しにあったという。
 久朗の話を通してでしか知らない幼馴染そのものに樹は興味を覚えている訳ではないが、幼馴染の足取りを追う久朗、その力で彼をサポートするセラフィナ、セラフィナと一緒にいると大人しいシルミルテ……樹にとってどうでも良くない者達が捜しているなら、見つかるといいと思って神隠し事件を調べているのだ。
 そのことを知っているのは、まだシルミルテだけ。
「この世には妖怪や魑魅魍魎蔓延ってるけど……この街は多いね」
「ア」
 樹が呟くと同時にシルミルテが口をもぐもぐさせた。
 彼らが扉を開けて出入りしたから、『侵入者』がいたのだろう。
「マナァ違反ヨネ」
「美味しかった?」
「マァマァ?」
 封じるまでもないとシルミルテが喰らって呟くと、樹が問いかける。
 それに対してシルミルテは、魔を喰らって尚変わらない笑顔を向けた。

●魔を断つ
 デパァトに飾られた骨董の壷を見ると、病気になる。
 今は物置に隔離されたその壷を、傷をつけず回収するように。
 樹からの依頼はこのようなものだ。
「ぞわっとしますね」
 デパァトを見上げるセラフィナが小さく呟く。
 やはり依頼書に記されていない部分に危険はありそうだ。
 久朗は白い手袋を嵌め直し、外套の下に隠し持つ日本刀に軽く触れる。
 骨董の壷が呼び寄せた魔性はこちらが断たねばなるまい。
「大丈夫ですよ。僕も一緒ですから」
 セラフィナが久朗へ安心させるように笑う。
 初めて見せた笑みとは違う種類の笑みは、出会った日を思い出させる。

 常人には見えないセラフィナを最初見た時、魔性として刀を振り翳した。
 けれど、こちらに振り向いた顔が幼馴染にそっくりで、硬直してしまったのだ。
 魔性を断ち、成仏させるのが使命であるにも関わらず、躊躇した久朗へ、事もあろうにセラフィナは自分が見えていることに対して、嬉しそうに、涙さえ浮かべて笑った。
 幼馴染とは違う純粋無垢さ(幼馴染は日常がレビュウであるかのような振る舞いと共に振り回してくる)に、気づけば事情を聞いていて、非日常の魔性ではないなら何なのだろうという疑問を抱きながらも、その事情に同情し、断つことなく刀を鞘に収め───現在に至る。

(セラフィナがいたから、再会はあったんだろうが)
 久朗は今は相棒となっているセラフィナの横顔を見て思う。
 常人には見えないセラフィナがいたから、あの骨董屋に辿り着いた。
 顔を合わせたことがある樹もシルミルテという常人には見えない存在がいて、セラフィナと仲良くしてくれている。
(1番美味しそうという意味がよく分からないが)
 セラフィナがいいなら、いいのだろう。
 幼馴染の面影を持つセラフィナが、そこで足を止めた。
 隔離されている物置に到着したのだ。
「来ますよ」
「ああ。行こう」
 久朗は日本刀を鞘から抜き放つ。
 同時に闇から咆哮が轟いた。
「結構大物が引き寄せられちゃってますね」
「だろうと思った」
 セラフィナの言葉に嘆息した久朗はとんっと床を軽く蹴った。
 目視出来るそれは、大型の悪鬼とも言うべき異形。
 未来を視るセラフィナの言葉を感覚で反応し、闇ごと裂くようにしてセラフィナには振り下ろさなかった刃を振り下ろす。
 セラフィナの瞳の星とは異なる、鮮烈な星が滅びを与えるまで闇に降り注ぐ。

●魔を封ず
 西洋椅子に腰かけ、足をぷらぷらさせていたシルミルテの兎の耳はぴくりと動く。
 本を読んでいた樹は、久朗とセラフィナが戻ってきたのだと判った。
 扉が開くと、予想通りの姿が見え、シルミルテがセラフィナを労いに走っていく。
 シルミルテにとって、清涼な空気そのものといった所なのだろうか。
「依頼の品だ」
 樹の前に、回収の壷がどん、と置かれる。
 魔を引き寄せる原因となったそのと壷は……なるほど、業が深い。
 憑かれたと目算していたが、定着している。
「ありがと、くろー」
「念の為に聞くが、それは……」
「そうだけど」
 樹は久朗の言葉の先をあっさり認めた。
 魔封じの家系、佐倉家。
 具体的にどう魔を封じるかというと、その身体に閉じ込めるのだ。
 佐倉の血を持つ者の血肉には魔の者を縛る力がある為、そして、その血肉を維持する為、その身に魔を取り込むという。
 断つ力を持つ真壁家は、それ故に対立しているが、久朗も断つだけで全ての魔の存在へ滅びを与えることは出来ないだろうと思っている。
 神格を持った邪悪な存在と断つ力の源、神の威は相性が悪い。その場合は、佐倉の力が必要であることもあるだろう。
 ただ、それでいいとは思わないだけで。
「魔を封じ続けているから、背丈は伸びても、身体の時が停止しているんじゃないか?」
 最後に会った日から月日が流れ、その日よりも背丈は伸びているし、年頃の女になっている。
 けれど、けれど───その胸だけは、そのままじゃないか。
 本人的には真面目だが、大変空気が読めない言葉を聞き、樹が本の角で久朗をどつく。
 どうでもいい奴に言われても雑音にしか聞こえない樹、久朗へ誰にも任せたことがなかった仕事を任せる程度に信頼している分、雑音ではない為、捌きを与える。気にしていないから言っていいということではないのだ。
「ちんちくりん感があるのは、魔性を封じているからじゃないのか」
 樹の裁きは再度下された。

「ンモー、ホントぼくねんじん」
 シルミルテが久朗とセラフィナを見送り、やれやれと溜息をつく。
 久朗と樹がやり取りしている間、セラフィナとはあやとり、お手玉、おはじきに蹴鞠、と沢山遊べたから、いいのだけど。
 美味しいごはんの素をくれるセラフィナの相棒は、本当に朴念仁だ。
「ね、どう思う?」
 樹が壷を軽く叩く。
 壷の方も久朗がいなくなるのを待っていたのだろう、何もないのに音を立てて揺れている。
 シルミルテは兎の耳をぴこぴこさせつつ、樹の所まで歩いてきた。
 封じるまでもない、ではなく、封じるには少々───
 シルミルテが言葉を発するよりも早く、壷が砕け散り、醜悪な顔をした蛇が這いずり出てきた。
 姿が大きい蛇に骨董の品々がぶつかり、床に落ちて割れる。
 こんな悪い子、樹の身体にいらない。
「イタダキマス」
 シルミルテの口がぱかりと開いた。

 骨董屋から離れていた自分達の耳にも届くレベルの物音を聞いて引き返した久朗とセラフィナが戻ってきた時には、樹が掃き掃除を始めていた。
「……何が、起きたんだ?」
「判りません」
 久朗とセラフィナが顔を見合わせるが、椅子の上に座るシルミルテはふうと息をついただけ。
 まだお腹に入るけど、中々美味しかった。
「くろー見てないで手伝ってよ」
 樹に言われた久朗が文句を言いながらも手伝い始めた。
 割れたものを運ぶ振りをしてやってきた樹が小さく耳打ち。
「ありがとう、シリィ」
 魔を食らう妖怪もどきの自分を対等に扱う、それが樹。
 美味しいごはんを分けてくれるから、だけじゃなく、思うことは───

 今度も一緒にいようね。

 今日も明日もこれからもその先もずっと。
 こんな日常が続いていく未来がいい。
 セラフィナの瞳に不安が映ろうと、未来もその先もまだ何も起こっていないのだから。

 シルミルテが見る先には樹と久朗が憎まれ口を叩き合っていて。
 それを見ていたセラフィナと目が合ったので、シルミルテは大好きの気持ちを込めて笑みを返した。

 これは、ある時代、妖怪と魑魅魍魎が牙を剥く世界の片隅の話───

●その日常
「クロさん、研修終わったそうで、食堂に向かってるそうですよ。メール来ました」
 久朗は、セラフィナの声で我に返った。
 セラフィナとシルミルテのお願いでH.O.P.E.東京海上支部での研修後、近くのショッピングモールで買い物をすることになったのだが、樹の方の研修が職員の資料準備が遅れたとかで開始が遅れた関係で終了も遅れるとかで、久朗とセラフィナは食堂で待っていたのだ。
 その間、久朗はたまにはと思って購入した小説を読み耽っていた。
 ちょうど、読み終えた小説を閉じると、食堂に樹とシルミルテが入ってくる。
「そういえば」
 久朗が小説に目を落とす。
 彼女の名も、『樹』ではなかったか?
「くろー、どうかした?」
「いっちゃんもまさか……」
 樹が小説を手に考える久朗に何事かと顔を向ける。
 が、久朗はしばし考えた末、こう言った。
「いっちゃんも、その身に何か封じているから……。この平たい胸にも使い道があったのか……」
「くろー?」
 セラフィナとシルミルテが顔を見合わせる中、樹は久朗の足を盛大に踏んだ。
「あ、もしかして……」
 セラフィナが久朗が小説を読んでいたと思い出し、手をぽんと打つ。
「小説?」
「実は───」
 シルミルテが何の話と尋ねてみれば、セラフィナが2人が来るまで読書していたと話す。
 久朗は件の小説、セラフィナは子猫の写真集だった、と。
「事実ハ小説よリ奇ナりッテいウノニネ」
 大体把握したシルミルテがそちらへ顔を向け、セラフィナも顔を向ける。
 久朗と樹の憎まれ口の応酬という日常がそこにあった。

 とは言え、脈絡もなく、何か封じてるから胸が育たないが、封じていることで助かる存在があるなら、平たい胸にも使い道があるなどと考察されて、黙っているような樹でもなく。
「食べろって言ってないよね」
「でも、ちょっと、に、匂いが……」
 ショッピングモール、食事にと入ったオムレツ専門店で樹は久朗の正面で納豆オムレツ注文。
 食べろと強制はされていないが、匂いはまともに喰らう。
「セラフィナ、こッチ食べテみテー」
「では、僕のも」
 シルミルテとセラフィナは平和にオムライスの味を交換して、和んでいる。
 目の前の平たい胸族の魔女王は納豆オムレツ。
 久朗は退魔士の青年が自分と同じ名であることを思い出し、頼んだオムレツを咀嚼した。

 小説のような非日常は目の前にあり。
 久朗は退魔士の青年のように振り回されることもあるけど。
 今の日々を愛している。
(そういえば、彼の幼馴染は見つかったのだろうか)
 小説にも記されていなかった神隠しの行方が少し気になる。
 続編を見つけたら、読んでみよう。

 納豆オムレツを食べる樹は、久朗を見る。
 見た目は平野で乱知らず、内に乱を持つが、親愛なる宿敵はどうでもよくない存在。恋愛とは違う腐れ縁の存在。
 いや、ある意味───
(セラフィナって小惑星が宇宙にはあったけど、くろーにとっての星は、人を結ぶ輝石なんだろうね)
 自分にとってシルミルテはいなければ生きていけない半身。
 久朗にとってセラフィナは闇を照らし、時を動かす星そのもの。
 だから、同士として、これを日常として聞いてやるのだ。
「で、くろー、何を読んでたの」
 久朗の口から語られる、まるで異なる世界で自分達が生きているかのような話を楽しんでやろう。

 これもまた、ひとつの浪漫。

━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【佐倉 樹(aa0340) / 女 / 19 / 能力者】
【シルミルテ(aa0340hero001)  / 女 / 9 / ソフィスビショップ】
【真壁 久朗(aa0032)  / 男 / 24 / 能力者】
【セラフィナ(aa0032hero001) / ? / 14 / バトルメディック】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛
真名木です。
この度はご発注ありがとうございます。
浪漫PCツインピンナップを基にした話、大正っぽく、そして妖怪、魑魅魍魎が出る世界として描写しました。
雰囲気を壊さないよう、らしさを失わないよう心掛けて執筆しました。
少しでもお気に召していただけたら幸いです。
浪漫パーティノベル -
真名木風由 クリエイターズルームへ
リンクブレイブ
2016年04月01日

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