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『Happiness day 』
シルミルテaa0340hero001)&真壁 久朗aa0032)&セラフィナaa0032hero001)&小鉄aa0213)&稲穂aa0213hero001)&佐倉 樹aa0340)&笹山平介aa0342)&柳京香aa0342hero001)&賢木 守凪aa2548)&カミユaa2548hero001

●やってきました!
「今日はお誘いありがとうございます♪」
「オ構イなク〜♪」
 笹山平介(aa0342)がシルミルテ(aa0340hero001) へ頭を下げると、シルミルテは大きなリボンがついたシルクハットが落ちないよう押さえながらぺこっと頭を下げる。
 セラフィナ(aa0032hero001)と一緒に遊園地に行きたい。
 佐倉 樹(aa0340)はシルミルテがそう願ったと軽く説明するのみだが、平介はそのお願いを聞いてくれる樹に感謝し、そのセラフィナとお馴染みのハイタッチ挨拶。
「この遊園地にはどういうのがあるんでしょう?」
「以前プレオープンの際に足を運んだ遊園地とは違うものはあるだろうが……」
 シルミルテとお揃いになるようにと白兎のカチューシャをセットしつつセラフィナが見上げる先、真壁 久朗(aa0032)はパンフレットに目を落とす。
 エージェントとしての初任務は……正確に言えば、イレギュラーに発生したものだが……遊園地に逃げ込んだ従魔の討伐だった。
 緊急のアナウンスが流れるまで久朗はセラフィナと遊園地を巡───巡る?
(同じものに乗るのは、巡ると言うのだろうか)
 久朗の脳内で再生されたのは、絶叫系アトラクションマラソン(巡回)で、セラフィナが楽しそうにしていた手前悲鳴も堪えてその恐怖に耐えた自分。
「乗り物沢山乗ロうネ!」
「ですね!」
 シルミルテへセラフィナも目を輝かせている。
「今日はアナウンスは流れていないでござるな」
「ごめんなさいね、こーちゃん、夏に初遊園地邪魔されたことがあって……」
 小鉄(aa0213)が半券を手に感慨深げに言うと、稲穂(aa0213hero001)が何とも言えない苦笑と共に従魔に邪魔された初遊園地事情を簡単に話す。
 すると、腕を組んだ賢木 守凪(aa2548) が言い放った。
「ふん、浮かれ過ぎだな」
「あら、私は楽しいわよ? 遊園地に皆で、なんて楽しいもの。あんたはどう?」
 柳京香(aa0342hero001) が守凪へ笑みを向けると、守凪はぷいっと顔を向け、
「ふ、ふん。俺は誘導尋問に引っかからないからな。初めての遊園地だからと言って、楽しみにしていなかった訳ではないが、はしゃぐなどということは……」
「昨日の睡眠時間はぁ?」
「待ち遠し過ぎて寝られる筈もって、貴様ぁ」
 カミユ(aa2548hero001) の質問に正直に答えてしまい、自爆した。
 が、守凪の怒りなどどこ吹く風、「遊園地かぁ」なんて、カミユは周囲を見回し出す。
「沢山乗ロー!」
「……おー」
 シルミルテが元気良く拳を突き上げると、インスタントカメラを持っていた樹が軽く突き上げる。
 セラフィナ、平介などは応じてくれているが、久朗は戸惑っているように見えた。
「クロさん!」
「お、おう」
 セラフィナに促された久朗、拳を上げてみた。

 という訳で、遊園地を楽しみ始めよう!

●素晴らしき速度
 久朗は、そのジェットコースターを見上げた。
 本日のメインジェットコースター、さっきまで乗っていたジェットコースターとはレベルが違う。
 どっかの国の会社が日本にも世界をとかで考案したらしいが、久朗としてはそんな考案要らないだろうと言いたい。
 3秒で最高速180km/h……そこから一気にファーストドロップの到達点180mからの角度80で捻りながら落下、セカンドドロップは垂直上昇垂直落下、高低差あるループもビル並み……しかも、全長約2kmとか。
「これは楽しそうだねぇ」
「カミユさん頼もしいですねぇ♪ 怖さとかは特に?」
「特に感じないねぇ」
 カミユが平介にのんびりと答える。
(寧ろ懐かしいよねぇ)
 カミユはそう思ってから、懐かしいと思う自分に気づく。
 そう思うのも何だか不思議な感覚だ。
 ……というのを、猫のような表情に隠し、カミユは「くふふ」と笑って、守凪を見た。
「これも今まで乗ったみたいな奴なのか?」
「そうですね。きっと1番楽しいですよ!」
「乗ロー乗ロー」
 守凪は、セラフィナとシルミルテの言葉に「本当に楽しませてくれるんだろうな」と言いながらもうきうきした様子だ。
「私は下で待ってるわ。荷物番必要そうだし」
「それなら、私も」
 それまでの絶叫系同様稲穂が申し出ると、記念撮影担当を申し出ていた樹が今回は辞退と続いた。
 ぶっちゃけると、アトラクション系自体、樹はシルミルテのついでの感覚であるし、今までは初遊園地組もいるということで徐々にという平介の意見が取り入れられ、優しいジェットコースターで大丈夫そうだったが、久朗は多分これで脱落するという想像余裕である。ということで、飲み物位は速やかに確保して『やろう』という慈悲の精神(多分)だ。
 特に反対も出ず、2人を近くのベンチに残し、残る8人はジェットコースターへ。
「くろー、自分もって言う選択肢思いつかなかったねー」
「え、苦手だったの?」
 稲穂が樹の呟きを耳に拾って、思わず久朗と樹を見比べた。
 久朗はセラフィナのはしゃぎに水を差すなんて考えもしなかったのである。
「だ、大丈夫、かしら?」
 おろおろし出す稲穂。
 見た目は春らしい白い小花を散らした薄紅の紬姿の少女だが、中身は年下系おかん。
 心配されていることなど気づかない久朗は、地味に必死密度高い空気と共にジェットコースターの列の中へ消えていった。

 何だかんだで、ジェットコースターの番が回ってくる。
 今回はメインということもあり、籤を使って座る組み合わせが決めてたりしていた。
「1番前ー!!」
「クロさんはすぐ後ろですね」
 運良く一緒になったシルミルテとセラフィナは1番前。
 はしゃぐシルミルテと同じ位嬉しそうなセラフィナは、守凪と乗ることになった久朗を見た。
「かなり高い所から落ちるみたいだから、気をつけろ」
「僕は大丈夫ですが、クロさんは大丈夫ですか?」
「大丈夫だ」
 久朗が気遣うセラフィナへそう言ってみせると、セラフィナはシルミルテと共にシートへ乗り込んだ。
 それを見てから久朗が後ろへ乗り、守凪が続こうとすると、カミユが声を掛けた。
「ボクはボクで楽しんでくるねぇ」
「勝手に楽しめばいいだろう」
 守凪の返答に笑みを零したカミユは平介の隣へ腰を下ろす。
 平介はサングラスを外し、上着の内ポケットへと入れていた。
「外れたら大変ですからね♪」
 楽しそうな平介の顔はサングラスを外しても変わりない。
(それだけの人には見えないけどねぇ)
 今聞くことでもないけど、とカミユが呟く。
 その後ろから「ぐらぐらしてるでござるよ?」という小鉄の不安そうな声の後、京香が「走り出す時にはがっちりホールドされてるわよ」と諭している声が聞こえる。
 彼にとってはおかんな稲穂がいない為京香が世話を焼いているようだ。
 ジェットコースターの安全を係員が確認していき、コースターを作動、始まりの余韻もなく、疾走開始。

「嘘! 速過ぎ!!」
「柳殿落ち着くでござるよ」
 京香が珍しく叫んでいる。
 怖いと言うより驚愕しているようで、声にその驚きがかなり含まれていた。
 多分、乗ったことがないのだろう。
「この風になる感覚は中々のものでござるよ」
「余裕過ぎるわよ!?」
「忍者でござるからな!」
 小鉄の定義する忍者とは、一体どういうものか。
 残念なことに、おかんが一緒ではないし、皆色んな意味でそれどころじゃない。

「……っ」
 久朗、悲鳴を必死に堪えて耐える耐える。
「これは速い! ぐるぐる回ってるのに落ちないのも凄いな!!」
 守凪は素直に驚いて、喜んでいる。
 遊園地の予備知識がなかった分恐怖よりも新鮮さが上回るのだろう。
……というのを、久朗は文字にして考えられない。
 悲鳴を上げたら、前にいるセラフィナが心配して楽しめなくなる。
 ……というのも、久朗は文字にして考えられない。
 無我夢中で悲鳴を出さず、この時間を耐えている。忍耐力あるから気絶出来ないのが悲劇だ。
「こう速いと景色も見ている余裕がない……! ぐるんっと回っている間の逆さの景色は面白い……!」
 はしゃいでいる守凪はそういう自分をガッツリ記憶されている相手が隣じゃないから、助かるかもしれない。

「守凪さんは楽しそうですね♪」
 笑顔で、落下の時は手なんか上げちゃってる平介は守凪の声に微笑ましいものを感じているようだ。
 後方の京香の驚きの声は新鮮らしく、後で感想を聞くそうだが。
(カミナと仲良くしてくれてるみたい、なんだけどねぇ)
 カミユは少し、平介が引っかかっている。
 守凪を見る時、話す時の平介の視線が気になるのだ。
(カミナいない時に話を聞いてみよぉかなぁ)
 今は一応いる時カウント。
「カミユさんも一緒にばんざーいしましょう♪」
「いいよぉ」
 ということで、次のドロップで2人してばんざーい。

「落チる角度スゴーイ!」
「今樹さんと稲穂さんが」
「あットいウ間ネー」
 シルミルテとセラフィナ、楽しみながらも見守る樹と稲穂のベンチが見えたことに気づいていた。
「それにしても、このコースターは凄くて……!」
「風ニなッテル感じダよネ」
「風!」
 セラフィナの言葉を拾ったシルミルテが言うと、セラフィナが少年漫画的な響きを感じ取って目を輝かせる。
 さぁ、次が最後のドロップ。
 最後まで風として駆け抜けよう!!
 ……でも、久朗が静かだから、セラフィナは(クロさんもこういう時は喜んでいいのに)とちょこっと思っていた。(ただし久朗は今試練タイム真っ最中なのでそれどころではない)

 やがて、コースターが終わりを迎える。

「柳殿、ビックリしたでござるよ」
「え、あ、ごめんなさい。いつの間に掴んでたわね」
 小鉄に声を掛けられ、京香はスピードの速さに驚いた余り、小鉄の腕を思い切り掴んでいたことに気づく。
 色っぽい要素も何もなく、しかも思い切りであった為、地味に腕に痛みがあったものの、小鉄は修行と受け入れ、疾走感を楽しんでいる間も修行が出来たと喜んでいた。
「くふふ、カミナどうだったぁ?」
「悪くなかった」
「その割には楽しんでたみたいだけどぉ?」
「貴様……」
「あ、小鉄さん、手伝って貰っていいでしょうか」
 平介が背後で小鉄に声を掛けている。
 手伝うって何。
 平介の言葉が気になって振り返った2人は、久朗がフラフラしていることに気づいた。
 気絶はしていないが、まともに歩けていない。
「クロさん、大丈夫です?」
「なん、とか……」
 セラフィナの心配へそう答えるのがやっとの久朗。
 仕方ないので、小鉄と平介がフォローに入り、シルミルテが耳をぴこぴこさせながら、「樹、飲ミ物オ願いしテいイ?」と樹にお電話。
 とりあえず、ベンチへ戻ろう。

 久朗がベンチへ到着すると、稲穂が久朗の為のスペースを空けて待っていた。
「苦手だって聞いてたら、氷準備していたのに」
 稲穂が言うには、乗り物酔い関係では氷を長い時間を掛けるようにして舐めるといいらしく。
 一応、今、樹が冷たい飲み物を買いに行っているそうで、それは売店の氷が入ったものへとお願いしたそうだ。
「抜かりないでござる」
 小鉄、自分のおかんの手腕にうんうん納得。
「少し休んでいれば治ると思うから、少しの間、皆乗ってきていいと思うわよ」
「でも……」
「俺は大丈夫だ、セラフィナ。楽しんで来い……」
 稲穂に勧められてもセラフィナは躊躇したが、久朗が勧めるので、「今度無理したら怒りますからね」と言い置いてから、セラフィナはさっきのジェットコースターのファストパスを取得しに行く。
「少し休めばすぐに良くなるから」
「すまない……」
 稲穂に微笑まれ、久朗が稲穂へ礼を言う。
 と、視線の端に見覚えのあるすっきりとした人影。
「くろー、梅昆布茶ミルクと桜餅コーラと納豆茶どれがいい?」
「その恐怖しか覚えないラインナップは何だ」
 樹が紙のトレイに持ってきた3つのジュースを指し示して言うと、久朗は顔を引き攣らせた。
 売店のジュース、紙コップだから中身なんてよく判らないし。
「……納豆茶は嫌だ。あと炭酸も……今はいい」
「じゃ、はい」
 梅昆布茶ミルクという想像を絶するものを覚悟し、久朗が飲み───
「レモンジュースだな」
「くろー、私はこの中身と選択肢が一致するとは言っていなかったけど」
 稲穂が顔を背けて、笑いを堪える中、憎まれ口の応酬が続く。

●気軽に食べて
 絶叫系も一通り楽しむと、お昼にいい時間。
 この頃には久朗も復帰しており、稲穂が事前にオープンテラスのフードコートを見つけていたので、皆でこちらへ。
「……何だ、これは……」
「ライスバーガーね。つくねが挟まってるみたい」
 守凪が戸惑って見ていると、稲穂が教えてくれる。
 興味津々に食べてみると、美味しい。
(吐き出さないようにしないと)
 守凪は帰ったら始まる地獄の時間が御伽噺を壊さないよう心の中で誓う。
 それをカミユが面白そうに見ていたが、同じように見ていた平介に気づく。
(何かおかしいんだよねぇ)
 守凪ではない誰かを見ているような。
「ホットケーキはやっぱりクロさんのものが1番だと思うんですよ」
「それはそうよ。セラフィナの為に作ってるのだから」
「なるほど……!」
「セラフィナー、こッチのピザ、美味シいヨ?」
 ホットケーキを食べる京香へそう言うセラフィナへ京香が笑みを向けていると、全員で食べる用のシーフードピザを切り分けていたシルミルテがすすっと小皿へ乗せる。
「チーズ落トさナいデネー」
 シルミルテがとろっとしたチーズに慌てるセラフィナへ笑顔を向けていると、樹がその笑顔を1枚。
 スマートフォンだと手軽に撮影出来るけど、インスタントカメラで残す1枚の方が思い出深いだろうとのこと。
「美味しい?」
「ウン! 樹モ美味シい?」
「美味しいよ」
 シルミルテはそれを聞いて嬉しそうに笑う。
「手軽に食べられるものが多いでござるなぁ。……真壁殿?」
「いや、何でもない。こういう場所だと、手が込んだものより、すぐに食べられるものの方がいいのだろうな」
「そうですね。気軽に食べられるものが多いかもしれないですが、手が込んだものを出すレストランのような場所もありますよ♪」
 その近くで小鉄が2段のハンバーガーを食べて(稲穂から落とさないよう注意付)感想を漏らしている最中、周囲を見ている久朗へ気づいた。
 久朗は緩く首を振り、小鉄の話へ戻すと、平介が笑ってその話に加わってくる。
 平介が加わったことで話が戻らず、どういうレストランがあるかという話題へと移っていった。
 少しほっとした様子の久朗を見、平介は内心安堵する。
 彼は、家族連れを見ていた。それも、両親と手を繋いで、幸せそうに笑う小さな男の子を。
 エージェントとして初めて友達と呼べる彼が仕舞っておきたい内なのではないかと思い、フォローしたのだ。
 楽しそうに笑って弄る平介の誰にも言わない心遣いは、京香だけが気づいている。

●世界のお化け達
「次お化ケ屋敷! 沢山あルの!」
「お化け屋敷、沢山?」
 シルミルテの言葉を聞いた守凪が微妙に顔を引き攣らせる。
 彼はお化け屋敷が苦手分野である模様。
「日本のお化け屋敷に、ゾンビ病院、ヴァンパイアの城、ピラミッド探検……沢山ありますね♪ 私、ちょっと怖いので、荷物番してます♪ あ、良かったら、守凪さんも一緒にお願いしていいですか?」
 パンフレットを見た平介が笑いながら話を振ってくる。
「し、仕方ないな。乞われて無碍にするなど出来ないからな!」
 守凪はそう言ったが、心の中でお化け屋敷回避に安堵していた。
「じゃあ、パレードの場所取りしてもらおうよぉ」
「そうね。それがいいと思うわ」
 カミユの提案に京香が賛成すると、久朗がジェットコースターでフラフラになった午前中もあるので、誰も反対せず、彼らへパレードの場所取りを依頼して、皆お化け屋敷へ。
「……本当に苦手だったのか?」
 皆が去った後、守凪が平介を見る。
 何故、京香と言わなかったのだろう。
「私、病院系は苦手なんですよね。痛がりなので。守凪さん、平気だったりします?」
「俺もそういうことにしておいてやる」
「お仲間ですね♪」
 平介が笑ってハイタッチを求めたので、仕方ない風を装い、守凪は平介と軽く手を叩き合う。
 この嬉しさがあるから、地獄へ行くと分かっても御伽噺へ手を伸ばす。

 平介と守凪を除いた8人はお化け屋敷へとやってきた。
 まず、と選ばれたのは、あまり聞いたことがないピラミッド探検。
 こちらは4人乗りの前が開いたゴンドラに乗り、必要に応じてゴンドラが動いたりしながら順路を進むタイプのものだ。
「どうしてゴンドラでござろうなぁ」
「……普通逆よね」
「?」
 小鉄は稲穂の言葉に首を傾げた。
 いきなり出てきたお化けを攻撃する英雄を止める能力者の話は珍しくないだろうが、その逆は珍しい。
 稲穂はここでなくとも起こり得る未来を言っているが、小鉄は幸せなことに気づかなかった。

 ということで、久朗と樹がセラフィナとシルミルテを挟む形でゴンドラに乗り、小鉄と稲穂、京香、カミユがゴンドラに乗ることとなった。

「よく出来てるわね。ストーリー形式になっているみたいだから、ここが1番お化け屋敷の色がないのかもしれないわね」
 京香の言う通り、ミイラのサプライズの登場やトラップが偶然発動したという、人の感覚を利用した驚かし方である為、お化け屋敷の分類だがその色は最も薄いのだろう。
「面妖でござる……!」
「こーちゃん、ピラミッドは学校の勉強に出てくるレベルなんじゃないの?」
「授業中は修行していたでござ」
 小鉄は話の途中で稲穂の目が全く笑わなくなったことに気づいて、強制終了。
 そんなやり取りを面白そうに見ていたカミユが隣に座る京香を見た。
「笹山さんってどんな人ぉなのか知りたいなぁ」
「平介? 平介は見たままよ?」
「ふぅん」
 カミユへ京香はくすりと笑った。
 納得した訳ではないが、京香に話すつもりがないことを察したカミユは笑みを崩さないまま引き下がる。
 今日は守凪に合わせているが、お化け屋敷だけ別行動としたのは守凪を誘った平介と話をする材料が欲しかったからだが、どうやら京香はその材料すらくれないようだ。
「奇襲……!?」
「落ち着きなさい」
 小鉄がゴンドラに縋るような動きをしたミイラの出現に苦無を取り出そうとして、稲穂に後頭部張り倒される。
「そもそも、ある意味お化けみたいな英雄と日常的に一緒なんだから怖がる必要ないじゃない」
「誓約交わさないと透けてるしねぇ。お化けに囲まれてるねぇ」
「それとこれは話が違うで……」
「立ち上がったら危ないわよ」
 稲穂の主張にカミユが便乗して「くふふ」と笑うと、小鉄が立ち上がって力強く主張しようとし、京香に止められる。
 立ち上がるのを断念した小鉄の頭を強引に下げさせた稲穂が「迷惑を掛けてごめんなさいね」とおかんよろしくほほほと笑った。

 さて、彼らの前のゴンドラに乗る久朗とセラフィナ、樹とシルミルテはと言うと───
「ミイラの人ってどうやって息をしているのでしょう……」
「(ミイラの人?)いや、ミイラは故人だぞ、セラフィナ」
 セラフィナが包帯ぐるぐる巻きのミイラを見、素朴な疑問を抱く。
 久朗は勿論そのことを指摘するが、そこから何故かセラフィナとシルミルテのミイラ談義が始まってしまった。
「ドーしテ包帯ぐルグるなノ?」
「怪我をしているんじゃないでしょうか」
 久朗と樹はミイラがどういうものか知っているが、ここで詳しく説明してもとそこだけは考えを一致させて、「昔の人は今と違って色々やってた」とだけしておいた。
 ここが忠実にそれを再現している訳でもないだろうし、ガチな回答を出す必要もないだろう。
 が、セラフィナとシルミルテは大いにピラミッドとミイラに浪漫を感じて、想像であれこれ言葉を交わす。
「ここは実際のミイラの人がいる訳ではないですが、本当のミイラの人とお会いした時には、怪我の具合を聞かないといけませんね。故人とは言え、痛いままでは良くありません」
 殺されてみようとした経緯あるセラフィナだからか、そんなことを決意しているが、盛大にズレている。
 セラフィナらしいから、いいか。
 久朗が特にツッコミしないでいると、シルミルテがじっと見ていることに気づいた。
「シリィ?」
「ンー、気ヅいテナいヨネ」
 ここでなら呼んで大丈夫と樹がシルミルテに問うが、シルミルテは久朗を見てうんうん頷く。
 最近いい顔するようになったけど、この人朴念仁だから絶対気づいてない。
「だから、いいんじゃない?」
「ソッか」
 察してそう言った樹の言葉で全てを察したシルミルテが納得したように笑った。
 久朗とセラフィナは顔が顔を見合わせている内、ミイラから無事に逃げられたという設定のピラミッド探索は終わりを告げる。

 この後、ヴァンパイアの城でも同じような考察が出てきたり、お化け屋敷とゾンビ病院で危機感感じた小鉄の臨戦態勢に稲穂が張り倒したりと色々あったが、全て巡る頃にはパレードの時間となり、平介と守凪が待つ場所へと移動していく。

●最後まで楽しく
 パレードも終わり、皆でメリーゴーランドへやってきた。
「ここのメリーゴーランドは楽しそうですね♪」
「期間限定でプロジェクトマッピングがあるんでしたっけ」
「3Dで色んな童話のお姫様と王子様が舞踏会のように踊るそうですよ♪」
 撮影担当の樹へ平介が楽しそうに答える。
 その横顔は自分が楽しむ以上の何かがあるような気がしたが、その目は優しく綺麗過ぎて、樹にはよく判らない。
「俺も、乗るのか?」
「……楽しみましょう」
 守凪へ声を掛けるのは京香。
 彼らは少し恥ずかしい組。
「くふふ、カミナが乗るなら乗らないとねぇ」
「どう考えても楽しんでるだろう」
「どうだろうねぇ、くふふ、くふふ」
 カミユの反応に守凪がこめかみピクピク。
 仲良しとも信頼しているとも言えない英雄はそんなことお構いなしだけど。
「こーちゃん、大丈夫? さっき、着ぐるみに硬直してたみたいだけど」
「着ぐるみでないなら大丈夫でござる」
「それはよく解る」
 稲穂へ小鉄が頷いていると、久朗が同調している。
 乗ることへの抵抗はないらしい。
「くろーは平気そうだね」
「ゆったりしているからな」
 樹が久朗へ顔を向けると、久朗は自身の乗り物の好みを口にする。
「……こういうの、乗ったことあるのか?」
「ないな。連れて来られた記憶もないし。あの時は一緒に遊園地へ行きたいとも思わなかったからいいけど」
 久朗が問うと、樹は大したことないように返す。
 樹の両親との関係がどのようなものであったか。
 少なくとも、彼女の中でどうでも良くない存在ではないということが判る言葉だ。
 だから、半身のシルミルテがいて、樹は樹でいられるのかもしれない。
 漠然と思う久朗は、呼ばれてメリーゴーランドへ歩いていった。

 メリーゴーランドを楽しめば、そろそろ帰る時間が近づいてくる。
「えーと、購入分は、と」
「まだ買うのでござるか?」
 稲穂が購入リストを手に小鉄が持つ買い物籠へお土産のお菓子をぽんぽん入れていく。
 流石おかん、来れなかった人へお裾分けを忘れない。
 樹とも話し、重複がないようにしている稲穂の選択に迷いはない。
「あと、ゼミの連中にも買っておくか。教授もこの前お世話になったし。おじさんも買っておくか」
「風邪ノ時車出しテくレタしね」
「お礼を言ったら、泣いて逃げたけどね」
 樹はシルミルテの言葉に軽く肩を竦める。
 逃げたのは、ありがとうおじさんと言ったからだが、その辺の真相は語るまい。
「あと、大家さんと、空き地の地主さんと、近所の猫さん……」
「近所の猫さんは飼い主が困るから大丈夫だ」
「それもそうですね」
 お土産に悩むセラフィナへ久朗が微妙に軌道修正しておく。
 それらを平介が微笑を零して見。2人で食べるようにと選んだお菓子を籠の中へ入れた。
「カミユさん? 守凪さんはどちらへ」
「くふふ、外で待っているって言ってたよぉ」
 平介が自身の進路にいたカミユへ声を掛けると、カミユはそう言って笑った。
 不思議な、掴み所がない子だと思う。
「カミナと仲良くしてくれてるみたいだけどさぁ……カミナを見てるのかなぁ?」
 カミユの猫を連想させる目が平介を見る。
「誰かと重ねたり、してないよね?」
 笑っているようで、笑っていない。
「今日、皆が楽しそうに笑っていた。私もそれを見て楽しかった。それでいいと思いますよ♪」
 カミユの笑みはそのままで、平介は自分と同じで、そして正反対であると感じた。
 けれど、カミユも多くは語らず、「それならいいやぁ」と守凪がいるであろう店の外へと歩いていく。
(話さないなら、それでいいかなぁ。でも───)
 あんまりカミナをつまらなくされると困るかなぁ。
 その言葉の意味は、カミユの胸の中だけ。
 言葉として語られることはなく、笑みの中に全て隠されていく。
「もう少し掛かるみたいだねぇ」
「そうか。俺は買わないが」
 カミユが言葉を投げた先、皆を待っている守凪はそう言った。
 全力で楽しんだ御伽噺もそろそろ終わり、地獄が始まると知っている横顔はライトアップが始まる遊園地を見ている。
 無意識にカフスを弄っている様を見、カミユはただ、笑んだ。
 カフス弄りに気づかない守凪は視線の端でカミユの笑みを見ていたが、特に何も言わない。
 利用し合う間柄であるが、裏切られたら痛いと思う程度のものはある。
 けれど、笑みに隠れたものを見通すことが出来なかったから。

 見送った平介はと言うと───
「平介?」
「……今行くよ。お土産のお返しを買わないとね」
 周囲に京香だけしかいないことを確認し、彼女だけに向ける言葉遣いで応じた平介は京香と共にお返しを求めて歩いていく。

 守凪が店から出てきたカミユと待っていると、まず稲穂と小鉄が店から出てきた。
「沢山あると大変よね。皆缶に入ってたりするから嵩張るし」
 日持ちするお菓子を選んだという稲穂は小鉄と手分けして持っているようだ。
「落としちゃダメよ? 割れちゃうから」
「修行になるでござる」
 そういう会話には温かみがある。
 続けて、久朗とセラフィナ。
 こちらもかなり大荷物。
「クロさん、僕に持たせてくれないんです」
「纏めて持った方がいいだろう」
 セラフィナの不服へ久朗がそう言い、これに関しては譲らない姿勢を見せる。
 そこへ、樹とシルミルテが。
「笹山さん達はあと少し。さっきレジに並んでた」
「待ッテテくダさイッテ言ッテター」
 樹が大きな紙袋、シルミルテが小さな紙袋を持っている。
 と、そこへ平介と京香が店から出てきた。
「今日はありがとうございました♪ これは私達からです♪」
 笑顔の平介が配ったのは、2切れのガトーショコラが入ったお菓子の箱だ。
 日持ちもするものらしいそれは、この遊園地限定のものだとか。
「これ、俺が貰っていいのか。ありがとう、平介……あ、笹山!」
 守凪がはしゃいで思わず平介を名前で言ってしまい、慌てて訂正、真っ赤な顔を背けた。
 ガトーショコラは一旦幻想蝶の中に入れろと押しつけてくるだろうとカミユは確信する。
 地獄の先、自ら入る檻の中のご馳走として。
「先を越されましたね」
「ワタシ達かラー!!」
 シルミルテが耳をぴこぴこさせながら、自分が持っていた紙袋から小さな箱を取り出し、皆へ配る。
 春の季節限定らしい、桜の味がした金平糖。
 今日の記念に、と選んだものだ。
「本当に、今日はありがとう。シルミルテ」
 京香が受け取り、シルミルテの頭を慈しむように撫でる。
「私達から、シルミルテとセラフィナへ」
 手招きしてやってきたセラフィナとシルミルテは、京香からキーホルダーをその手に置かれた。
 月モチーフのシルミルテ、星モチーフのセラフィナ。
 このサプライズに、2人はパレードを見た時よりも顔を輝かせ、はしゃいだ。

 やがて、皆、それぞれの帰路へ着く。
「楽しかった?」
「ウン!」
 樹と手を繋ぐシルミルテは満面の笑みで返した。
 この間お寿司をご馳走になったから、一緒に楽しいことをと思って、遊園地を楽しもうというのが本当の理由。
 お礼は内緒にしたけど、でも、またお礼を言う必要が出来たかもしれない。
「樹モ楽シかッタ?」
「楽しかったよ」
 樹はシルミルテへそう返すと、シルミルテがその笑みを満面とした。
 今日撮った写真全てが、宝物。
 写真にしたら、皆へ配らないと。
 手を繋ぐ樹とシルミルテは、ゆっくり、ゆっくり、家へと帰っていく。

━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛
【シルミルテ(aa0340hero001)  / 女 / 9 / ソフィスビショップ】
【佐倉 樹(aa0340) / 女 / 19 / 能力者】
【真壁 久朗(aa0032)  / 男 / 24 / 能力者】
【セラフィナ(aa0032hero001) / ? / 14 / バトルメディック】
【小鉄(aa0213)  / 男 / 24 / 能力者】
【稲穂(aa0213hero001) / 女 / 14 / 英雄(ドレッドノート)】
【笹山平介(aa0342)  / 男 / 24 / 能力者】
【柳京香(aa0342hero001) / 女 / 23 / ドレッドノート】
【賢木 守凪(aa2548)/ 男性 / 18 / 能力者】
【カミユ(aa2548hero001)/ 男性 / 17 / ドレッドノート】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛
真名木です。
この度は発注ありがとうございます。
楽しい1日になるよう執筆させていただきました。
浪漫パーティノベル -
真名木風由 クリエイターズルームへ
リンクブレイブ
2016年04月06日

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