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『私が生きる意味 』
aa3404hero001)&呉 琳aa3404

 誰かが泣いている。
 目を向ければ池の周囲に数人の人影。
 泣いているのは池に突き落とされた子。
 助けてと泣く様を楽しまれ、棒で池から這い出ようとするその様を嗤われ、水を飲む様を嘲られる。

 私は知っている。
 最近見るようになった夢。
 最初は泣く声しか聞こえなかったこの夢も見る度に判るようになってきた。

 風景が動けば、服を濡らして帰ってきたことを咎められ、乾くまで家に入れて貰えず、膝を抱えて座っている。
 誰も手を差し伸べず、誰も顧みない。

 どこの誰かは判らないが、私のようだ。
 いつも手を差し伸べようとして、目が覚める。
 今日なら、助けられるだろうか。
 今日なら───

「聞いているのか!」

 夢が、霧散した。

 視線を動かせば、両親がいる。
「なん、でしょうか……」
 濤 (aa3404hero001)は、自分の弱々しい声を認識しながらそう尋ねた。
 咽ないよう細心の注意を払って尋ねた両親の目に温度はない。
 彼らの目には、病弱で役に立たない息子がまた体調を崩している。金が掛かるという感情が色濃く出ている。
「いつまで生きていると聞いているんだ」
 父親が持っていた水差しの水を濤にぶちまけた。
 冷たい。
 夢の中のあの子と同じだ。
「あなたの兄上はお金を稼いでくれているわ。国に仕えて武功を重ねている。我が家の誉れ。けれど、あなたは私達に何をしてくれたかしら?」
 母親が父親を咎めることもなく、尋ねてくる。
 幼少から病弱で、医者に掛かることも多かった。
 けれど、身体が丈夫ではない為、親が思うような劇的な改善はない。
「ねぇ、あなたが病弱なのは私の所為ではないかとお父様とお母様は仰ってるのよ。何の落ち度のない私が、あなたの所為で貶められるの。あなたの兄上は戦場に出て多くの武功と共にこの家の名を上げてくれるわ。でも、あなたの存在が貶めるの。判る? あなたがいるから、私達は幸せになれないの」
「せめてもの情けだ。世を儚んで、家の為に命を絶つと記して、自害しろ」
 濤は、目を閉じた。
 私の居場所は、この世のどこにもない。
 必要ともされていない。
 死を待つだけなら、それが今日であったと思えばいい。
「解りました」
 濤は、答えて身を起こした。
 ここから逃げられるなら、生きている必要はない。
 全て解放され、楽になりたかった。

 あの夢の子は、あの後家に入ることが出来ただろうか。
 それだけが少し気がかりだ。
 もし、間際に夢を見ることが出来るなら、あの子が私にならないよう手を差し伸べよう。
 少なくとも、ここに肯定している私がいるのだと伝える為に。

 私は、何の為に生きたのだろうな。

 死を願われ、強要され。
 視界がぼやけ、真っ白い光だけになり、死んでいくのだろうと思った、その瞬間───見たこともない風景に切り替わった。

「……!?」
 濤は、思わず目を見開く。
 ここは、どこだろう。
 が、視界に入るのは、ベッドで横たわる少年。
 何故だろう、この子に呼ばれたと解る。
 見た所大怪我をし、痛みに呻くことも出来ない少年の心が呼んだのだろうか。

 私を、必要としてくれるのだろうか。

 濤は、初めて自分が必要とされている気がした。
 何故初めてなのか……そこに至った時、濤は自分の記憶が幻のようにぼやけていることに気づく。
 呼ばれてここへ来た影響なのか違う何かがあるのか、濤にはよく解らないが、大事なことを忘れていなければいいだろう。
 ふと、扉の向こう、誰かが話す声が聞こえる。

「先生、ただ崖から落ちた傷ではないと思いますが……」
「そうだろうね。日常的にあの子は虐待を受けている。崖から落ちたというのも、突き落とされたと考えていいだろうね。惨い話だ」
「どうするのです? ご両親は連絡しても払う医療費などないと……」
「まずはあの子の傷を治すことを考えよう。長い時間を掛けなければ、あの子の本当の傷は癒えないだろうね。いや、長い時間を掛けても癒えるかどうか……」
「そんな!」
「だから、あの子の記憶が失われているのは、あの子にとってはいいことなのかもしれない。脅かす存在を覚えていないのだから」

 そうか、この子は怯えて生きてきたのか。
 こんな大怪我をして、記憶が失われて尚、それがもしかしたらいいことなのかもしれないと言われてしまう程度に。
 言うなれば、この子は1度死んだということかもしれない。
 かつての自分が失われているのだから。
 けれど、次はないだろう。
 その時は、自分と同じようになるかもしれない。
 あんな思いを、して欲しいとは思わない。
 私を、必要として呼んでくれたのだから。

 足音が遠ざかり、更に暫くして、少年が呻いた。
 濤が見ている前で少年の目が開く。
「だ、れ……?」
 痛いのだろう、口を動かすのもやっとといった様で少年は濤へ問う。
 目に映るのは、警戒心。
 濤は自分の手を見、気づく。
 その姿は透けていて、幽霊が迎えに来たと思っても不思議はない。
 それも見知らぬ男なら、警戒しない方がおかしいか。
 だが、と濤は心の中で呟く。
 私はその先へ向かう必要がある。
「私が判らないか? お前は自分が何をしたかも解らないか」
「……な、んだ、よ……」
「そう、お前は弱いのだ。だから私が誰かも判らない」
 畳み掛けるような言葉は警戒に加え、敵愾心を煽るのに十分であった。
「いきなり、何、言い出して……やがる……。突然、現れた幽霊野郎が……ッ!」
「だが、解らないだろう? お前は無力だ。恨む相手が違うな。お前が恨むのは、自分の力の無さだ」
 その眼に、力が蘇る。
 そう、それでいい。
「悔しいか? だが、お前は何も出来まい」
「この……ッ!」
 今なら、言える。
 濤は確信して、言葉を紡いだ。
「だが、お前が力を求めるなら、鍛えてやらないこともない。力が欲しいか?」
 心の中で、苦笑する。
 何が、鍛えてやらないこともない、だ。
 何が、力を求めるなら、だ。
 それは、お前自身だろう、濤。
「いつの日か、私を超えてみせろ」
 少年の手が伸びてくる。
 濤も、少年へ手を伸ばした。
 誓約は成立し、濤は実体を得る。

 少年の名は、呉 琳(aa3404) 。
 少年は、人間ではなかった───

 濤は、琳の横顔を見た。
 あれからどの位の時が経っただろう。
 誓約を交わし、自分を超えると宣言する琳は真剣に吟味している。
「何がいいと思う?」
「見舞いの定番は、フルーツの盛り合わせだぞ」
「! そうなのか、ならこれにするか」
 琳は濤の言葉に驚くも、その言葉を聞いてフルーツ盛り合わせを選ぶ。
 教えてくれと言えば、濤はふざけないで教えてくれると知っている。
 たまに適当というか雑というものは感じるが、嘘は言わない。
 人を知らなかった自分へ多くを教えてくれている。
(……言えないけどな)
 最初は何もかも見透かしているようで嫌いだった。
 本心からその嫌いの感情をぶつけていた。
 でも、今は、違う。
 こいつはいい奴だと判っている。
 だから───言ってはいけない気がする。
(俺がもし、本当に超えてしまったら……消えそうな気がするから)
 何となく、こいつはそういう奴だと思う。
 超えるとは何を指すのか解らないし、超える努力をし続けることが濤と自分を繋ぎ止める誓約である。超え続ける努力はし続ける。
 だが、超えた時に消えていいということではない。
「が、本当に喜ぶんだろうな。見舞いとは言え、女相手だからな」
「当たり前だ。私を信じたまえ☆ ハーッハッハッハゲホッ」
 濤が大笑いし、その後咽る。
 いつもの光景だ。
 琳は会計してくるとフルーツの盛り合わせを買いにレジへと向かう。
 安堵したことなんて、絶対口にしない。

 見送る濤は、小さく呟いた。
「いい奴と悪い奴の区別が出来るようになれば、お前は思い出すだろうな」
 失われた記憶にある身近な恐怖。
 それはいつか思い出さなければならないものだ。
 『いつか』が来ても逃げ出したりしないよう。
 自分の足で立って生きていけるよう。
 そう願うからこそ、人を克服してほしい。
 それ故に、私はお前の苦手な人間を演じ続けよう。

 琳。
 お前は、私になるな。
 お前は、『生きろ』───それが、きっと、私がお前の英雄になった意味。生きる意味だ。
 いつか記憶が蘇り、いつか私を超え、いつか私が死んでも。
 お前が生きて、私が出来なかったことをなしてくれれば、私は『生きていた』と思えるだろう。

 濤はやっと収まった咳に苦く笑む。
 いつかがいつなのか解らない。
 その日まで、私は演じよう。
 ぼやけた記憶にある『自分』を生み出さないように。
「差し当たっての問題は、女性への接し方か」
 これから見舞う相手も女性、いや少女だ。
 実は女性経験を思い出せない。なかったかもしれない。故に接し方が本当は解らない。
 見舞ってくれることを感謝し、太陽の花のように笑うであろう少女への接し方の教えはどうすればいいものか。
 解らないから、照れてなどいないかのように笑うしかないが、本当は私だって知りたい。
 ふと、窓の外の木々が風に揺れた気がした。
 木々には、花が美を競い合っている。
「もう春なんだな」
 濤は、小さく呟いた。

 いつかが来るのは、いつだろう。

 私はいつまで、こう呟けるのだろうな……?

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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【濤 (aa3404hero001) / 男 / 27 / ジャックポット】
【呉 琳(aa3404) / 男 / 16 / 能力者】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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真名木です。
この度は、ご発注いただきありがとうございます。
今回は、賑やかな日常ではなく、本心成分多めとさせていただいてます。
語られない本心の向こうにも明日がありますように。
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2016年04月04日

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