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『●絶対に油断してはいけない飲み会 』
矢野 古代jb1679)&青空・アルベールja0732)&亀山 淳紅ja2261)&小野友真ja6901)&マキナja7016)&華桜りりかjb6883

「菓子会社の陰謀なぞ、滅びればいい……」
 周囲を見回し、やさぐれながらチンピラの如く廊下を歩く矢野 古代。
 右を見ればチョコ、左を見ればチョコ。それは自分へのチョコではなく、誰かが誰かに渡しているだけのことである。古代自身、チョコは嫌いではないが、さすがに学園中に漂うチョコの匂いには参っていた。
 普段ならばこれほどやさぐれる事もないかもしれないが、最近、とうとう髪に白いものが混じり始め、「これはこれで格好いいよね」と自分に言い聞かせていたりとか、娘とまた数日会えてなくて寂しいからとか、まあ色々と要因はあったりする。
 先へ進んでも、チョコ。トイレに寄ってもチョコ。教室へ逃げ込もうにも、当然、チョコの匂いが充満している。どこへ行ってもチョコの匂いからは逃れられない。
 そろそろ、「もう勘弁してくれ……」と弱音を吐き始めるが、妙案を閃いたという顔をする。
「……どうせならチョコをつまんで飲むのも、いいかもしれんな」
 さすがに今日はだめだろうが、今日以外の日なら都合のつく人もいるだろうと、スマホを手に取るのであった――
 
「この時期めっちゃチョコいっぱいあって最高。俺は甘いもん大好きです! 買うだけやなく貰えることもあるから、本当にもう皆めっちゃ神様やない……?」
 嬉しそうに一杯のチョコやお菓子を両腕で抱え、廊下を闊歩する小野 友真。そんな友真は廊下の角を曲がったところで、友真以上に上機嫌な青空・アルベールと出くわした。
「青ちゃん、上機嫌やねんな」
「ゆーまくん、こんにちはなのだ! 今年もちゃんともらえて、幸せを感じていたところなんだよ!」
 にこにことして大事そうに両手で抱えていたラッピングしてある箱を友真に見せびらかすと、友真は「おめでたやな」と自分の事のように喜んでくれたのだが、すぐに何かを思い出したように肩を落とした。
「今年は恋人用さえも手作りしてる時間取れへんかったのが残念や……VD、大好きやねんけどなあ、ぐぬぬ……」
「手作りでなくても、喜んでもらえるならいいのだ。それか今日に限らず、なにか手作りしてあげればいいと思うよー。
 こういうのは日付とかそういうのより、想いが大事だと私は思うんだ」
「ああ、せやね――ならあれや、今日っていう日の感動をもっと広めたいと思うんやねんけど……」
 そう言って目を閉じた友真の背中が誰かの平手でばしりと叩かれ、振り返る。そして誰もいない事に一瞬だけ驚いたが、その視線を下げると、そこに亀山 淳紅がいた。
 その手にはやはり、大事な1個があたりまえのようにすっぽりと収まっている。
「今、わざとらしく視線下げたように見えたんけど、気にせんとこ。何の話や?」
 淳紅へ、「淳紅、こんにちは!」と青空は手を振るのだが、友真は淳紅の顔をまじまじと見てはまた目を閉じる――が、閉じていたのはほんの一瞬。
 目を開け、ポンと手を打った。
「そうだ、飲もう」
 そこへ3人同時にメールの着信音が聞こえ、3人それぞれが確認すると顔を見合わせる。その目はそっちにも届いた? と聞いているようであり、誰もが頷いていた。
 そして何か閃いたのか、友真はハッとする。
「酔い潰す、あーんど、甘さで潰すってどうやろ淳ちゃん」
 誰をが抜けていたがそれでも淳紅には通じたらしく、「それや」と友真に人差し指を向けた。
「とりあえず矢野さんを酔い潰そうって魂胆やね!」
 力強く両手の親指を立てる友真、それから淳紅と身長差の著しいハイタッチをぺーんと交わす。
 2人して肩を合わせ何かを話し合い、何度かの思考を繰り返したあと、友真が闇の目標を誰かへメールで伝え、低い笑いを漏らしていた。不思議そうに首を傾げる青空へ身体ごと向け、友真が指を天に向ける。
「今回は甘いお酒をテーマに飲み会や! 逃さへん感じに! そう……逃さへん感じにいこか……これなら甘党の俺のステージな」
「最初の飲み会から1年、ファーストシーズンファイナルとなる今回の飲み会ではこれまでクールな立ち位置を崩さなかった矢野古代にピンチが訪れる所から始まる……」
 きりっと映画の宣伝文句的な物を並べ立てる淳紅が、古代へとメールを返していた。
 2人のやり取りがよくわからなかった青空はまた首を傾げ、不穏な笑みを漏らす2人を不思議そうに見つめていたが、やがて合点がいったのか何度も頷く。
「いつも気を使ってあまり飲んでいない古代に、飲ませてあげようってことかな! 納得!」
 こうして邪心と純真は混じり合い、目的が定まったのであった。


 古代からのメールを受け取り、返事をと思っていたところに受信のあったマキナは、送信する前に受信メールを読みあげ、口角が思わず釣りあがっていた。
「なるほど……前は少しはっちゃけが足りなかったし、今回は目標もあってずいぶん楽しく飲めそうです――もちろん、流れ弾があってもそれは仕方のないことでしょう?」
 戦闘中に見せる粗野な笑みを一瞬だけ浮かべ、自分達も標的にされていると気づかずにのほほんとしているであろう1人の先輩と1人の同級生の顔を思い浮かべるマキナだった。


 同時刻、古代からのメールを開いた華桜りりかは普段は少し伏せがちな目を輝かせていた。
「チョコ、です? お酒はやはりちょっとまだ得意でないですけど、チョコは大好きなので嬉しいです」
 日付を確認し、メールを返したところで今度は闇の目標メールが届き、内容を確認するなり頬に人差し指を当てながらそのメールの意味を理解しようとする。
 横を向いた視線が再びメール本文に戻った時、小さくこくりと頷いた。
「今回は矢野さんの酔ったところを見てみたいと思うの――せっかくなので、皆さんにチョコの贈り物なの、です」
 そうしてりりかは軽い足取りで、何かの買い出しに出かけるのであった。


 送ったメンバーから順次返信が来るのを確認していた古代は、最後に来た淳紅のメールに思わず眉をひそめていた。
「え。飲み代、今回は亀山君と小野君がもつって……?」
 今年1年世話になったからとか、たまにはとか、そんなもっともらしい理由の文面で飾られているメールだが、素直にその親切を捉えることができない。
 これは直感でしかないが、こういう時の悪い予感は何となくでも当たる物だと知っていた。
 だからそのメールに関しての感想。
「怪しい……いや、俺の心が汚れているだけか。歳を取ると疑い深くなるというのは本当だな――素直に好意を受け取っておこう。
 さて、甘いものと甘い酒のある店だと帆立ないけど、小野君は大丈夫だろうか」
 怪しんだもののそこで止まり、結局、闇の目標に気づく事もなく古代はさてどの店にしようかなどと考えるのであった。

 まさか、あんな事になるとはつゆ知らずに――



 今回は場所もわかりやすく、建物も目立つからと古代は1人、先に来て煙草をふかしていた。
 小洒落た店内に小上がりはなく、大きめのこれまた小洒落たテーブルでおっさん独りだとどうにも落ち着かないと、何となく視線をあたりに彷徨わせていた。
 圧倒的に女性の比率が高く、チラチラ見られているような気がするというか、実際、見られている事には気づかぬふりをして、ただ平静を装って煙草に没頭するだけである
(こんなしょぼくれたおっさんだけだと、目立つよな……)
 自分のおっさんぶりを再確認している古代の耳には、渋いとかカッコイイとか囁かれている言葉までは届いていないらしかった。
 そんな自ら作り上げた針のむしろに耐えつつ、ひたすら待ち続ける事、数分。救世主達が姿を現す。
「古代、こんばんはだよ!」
「さすがやなぁ、矢野さんは――ちゅうても、道にさえ迷わへんかったら先に来れてたのに。なあ友真君?」
「俺のせいにするのはあかんて。人ごみに流されてった淳ちゃんにだって、なんや、アレ……責任? あるんちゃうんかな。まっきーいなかったら、たどり着けんかったなあ」
 友真と淳紅に火花が散り、お互い両手を合わせ力比べの様に押し合いを始めたところに、マキナが間へと入る。
「まあまあ、無事に到着したんですから。お待たせしました、矢野さん」
 軽く手を上げ会釈する好青年的なマキナの態度に、古代は安堵の笑みを浮かべ会釈し返すと、煙草を灰皿でもみ消した。
 そして入ってきたメンバーを一瞥すると、「あとは華桜さんだけだな」と呟いた――その直後、おずおずと4人の後ろから顔を覗かせるりりかがいた。
「う……こんばんは、です」
「お、華桜さんも一緒か。こんばんは」
 安らげる顔にほっとした古代は、すぐにりりかの手にあるちょっと彼女の手には大きめな箱に目を向け、少しだけ気になった。
(少し遅れのバレンタインで、誰かに渡すのだろうか――人見知りがだいぶ改善できてきたようで、おっさんとしては嬉しい限りだ)
 感慨深げにうんうんと頷きはするが、それの話題には触れず、5人に向けて手招きするのだった。
 すると淳紅と友真が差さっと動き、正方形にやや近く、華奢なテーブルに3人3人が対面になれるような椅子の配置だったのを、どちらからもひとつずつ動かして、両端にも並べた。
 そしてすでに座っていた古代の前からお冷と灰皿を回収し、上座とも呼べるところへと動かす。
「ささ、矢野さんはどうぞこちらに」
「ん? どういう風の吹き回し――」
「ま、ええからええから」
 淳紅に手を引かれ、友真に背を押される古代は結局されるがまま、用意された上座に座らされる。あとは矢野から見て左側の席に淳紅、友真と座り、右側にマキナ、青空と座る。古代から見て正面はりりかであった。
 友人であっても男性と近い距離での隣り合わせで座るのは酷そうなりりかに気を利かせた席の配置なのかな、なんて思っている古代だが、実のところ、その考えは甘々であった。
 まさかどの席からでも酒を注ぎやすいようになんて策略だとは、知る由もない。そもそも自分が狙われているだなんて、これっぽっちも思っていなかったのだ。
 やっと全員の腰が落ち着いたタイミングを見計らい、古代がドリンクのメニューをテーブルへ広げる。
「さて。ここは『甘いものにあう酒』か、もしくは『甘いお酒』しか置いていないから、ビールはないわけだが、みんなの注文はどうする? 俺が適当に選ぶかい」
「いやいや、矢野さんはどーんとゲスト気分でいたらええんや。そろそろ自分で飲めそうなもんもわかってきたんやし、自分で選びますって」
「それに甘い酒か甘いものにあう酒しかないって、これなら甘党の俺のステージやん。もう片っ端から甘いモン飲むで!
 ところで、甘いモンいえば娘ちゃんやけど、どうなの」
 何気なく問いかけた友真の言葉に、古代が静止したかと思うと、泣き真似なのかガチ泣きなのかわからないが、顔を両手で覆った。
「まだ、帰って来てなくて父さん、寂しい……」
 露骨にしまったという顔をすると、友真は明るい方向に向かわせるためにも淳紅へと顔を向けたが、聞くまでもないというか、受け取っていたのを知っているのを思い出して、青空に視線を変更する。
 だがそちらもまた、甘々な事を十分に知っていたので、残ったマキナへと視線をスライドさせた。
「まっきーは妹ちゃんの殺人チョコ、もろたんやん?」
「それ、私も気になる。マキナ、どうだった」
「あー……今年は失敗続きだからもう少し待ってと言われてまして。もしかしたら失敗作のままになるかもしれないから、とも言われました」
「そっか、いつもは失敗作だったんやな」
 食べて苦しむ様を思い出して1人納得する友真だったが、マキナは苦笑いを浮かべて手を横に振った。
「いえ、いつもので成功くらいです。失敗作になると、もっと……」
「……これ、俺からのプレゼントな……よう効く胃薬や」
「どうもありがとうございます」
 観念したような苦笑いを浮かべたまま、マキナが友真の優しさを受け取ると、「おふたりはどうなんです?」と尋ねる。
 友真は「まあまあやな」と答え、青空は「毎年きちんと覚えててくれてありがたいのだ……!」と、天然の惚気が独り身でしかも娘からすらもらえなかった父親に突き刺さっていた。
 それから友真は「さて」と、座る部分が狭い椅子の上で正座してりりかに正面から向き合った。
「手作りとか、今年もしたん? や、もう、りりかちゃん可愛いし、3倍返し上等なので……」
 器用にテーブルへ三つ指を突くと、額を擦りつけて「甘いもん下さい」と懇願する。
「あの……大丈夫、です。皆さんに食べてもらおうと、チョコケーキを作ってきました、なの」
 りりかがテーブルの上で箱を開封し、立派なチョコのホールケーキがお披露目となった。
 それを見た古代がここで持ち込みは大丈夫だったかなと思っていると、案の定、店員が寄ってきた。そしてメンバーを一瞥すると古代に耳打ちする。
 驚いた古代だが笑みを浮かべ、「お願いするよ」と店員へ軽く会釈した。店員が来たついでに飲み物を頼んだあとすぐ、ナイフに人数分の取り皿とフォークを運んできてくれる。
 親切なお店だと感謝しながら切り分けると、りりかに断りを入れてから余った分を店員に渡し、小さく切ってもらって他の客へ幸せのおすそ分けという事で配ってもらった。
 そしてみんなでまずはいただく事にするが、手作りに若干の恐怖があるのかマキナがほんのちょっとためらいをみせている。
「……いただきます」
 ゆっくりと口に運び、一瞬の逡巡。そして口の中に入れると、思わず「うまっ」と漏らしていた。
「ちょっと洋酒が多い気もしますけど、美味いです」
「あう……ありがとうございます、です」
 素直すぎる称賛の声にりりかは照れたのか、顔を赤くしてかつぎを深く被って顔を隠してしまう。そこに飲み物と甘いものが運ばれてくる。
 透明な氷に琥珀色の液体が注がれているグラスが古代の前に置かれ、この1年でそれがブランデーだと分かるだけの知識をつけた淳紅は目を光らせ、立ち上がる。
「そんじゃ、本日は飲み会を始めてはや1年ちゅーことで、かんぱーい!」
 淳紅の音頭に合わせ、各自がグラスを高く掲げると古代を抜かした男子勢が「かんぱいなのだ」「かんぱーいいえーい!」「乾杯!」と思い思いに応えると、淳紅とグラスではなくハイタッチをして乾杯の代わりにしていた。
(グラスをぶつけないあたりも、成長の証かな)
 初めて淳紅と一緒に飲みに来た時の事を思い返しながら、感慨深げに古代がグラスを傾ける。
「矢野さん、こいつは結構飲みやすいですし、そんな量じゃすぐ飲みきっちゃうでしょう?」
 マキナがしれっと断りもなく、ジョッキで頼んでいたブランデーをまだ入っている古代のグラスになみなみと注ぎ、そして目ざとく甘い酒だからと一気に飲み干した友真と青空のグラスにも注いでいた。
 青空は注がれた分も気にせずに飲み干して次を頼むが、友真はちびりと舐めて顔をしかめる。
「きっついやんな!」
「でもこれは一応、果実酒ですからね。ほのかにちゃんと甘いですよ」
「そんなもんなん?」
「そうですよ。それにチョコにも合うから、こうやって一口かじって、一気にあおる……ん、いけますって」
 実演してみせたマキナに、「そか」と軽い気持ちで納得した友真がチョコを食べ比べていたりりかお勧めのチョコを一口、そしてマキナに倣ってグイッと一気にあおり――崩れ落ちた。
 甘い酒であれば自分のステージだなんて思っていた時点で、負けは確定していたのかもしれない。
「ゆーまくん、死んじゃだめだ!」
 青空がすでにグロッキーと化した友真を起こし、水を飲ませるのであった。
(友真君……仇をとりたいとこやけど、マキナ君を酔わせるのって戦闘時のあれ見てると怖いモンあるし……)
 腕を組んでどうしようかと悩んだのも一瞬、これは犠牲なのだと言い聞かせて半分になった古代のグラスに、淳紅も頼んでいた琥珀色の液体が入ったジョッキから注ぐ。
 ペース配分を壊されてはいるが、注がれて嫌な顔をするわけにはいかないのが大人。ありがとうと古代はグラスを傾ける。
 そんな古代はすでにわずかな酔いがあるせいで気が付かなかったというか、混ぜられたからわからなかったのだが、淳紅が注いだのは度数がさらに高いものだった。
(おかしいな。久しぶりにペースが上がっているとはいえ、今日はちょっと酔いが早いな……)
 おかしいとは思うが、陰謀に気づけなかった古代は青空からなみなみと入ったワイングラスを受け取っていた。
「これ、チョコに合うワインなんだって」
「ワインにあうかわかりませんが、これが美味しい、です」
 青空のお勧めワインに、洋酒の香り漂うりりかのお勧めチョコも貰って、いよいよ古代の感覚も壊れてきてしまう。しかも、りりかはりりかまでもが頼んでいた、この店で一番度数の高いブランデーを古代のグラスに注ぐ。
 闇の目標に非協力的なのかと思えば、りりか自身も、古代の酔ったところが見てみたいという想いに動かされていた。実はあげたチョコにも、かなりアルコールが量が含まれていたりもする。
「ほら、淳紅もどう?」
「食べますか、です」
「あー……いや、自分、ワインは苦手なん。あとな、チョコは今口に入れとるから、青空君に渡したってな」
 ワイングラスをひっこめる青空へ、こくりと頷いたりりかがお勧めのチョコを渡す。見事に標的を逸らしたと心の中でガッツポーズを取るのだった。
「青空さん、それ、俺がいただいてもいいですか? かわりにこいつなんかどうです」
「いいよー。それでマキナのそれ、もらうよ。
 あれ、古代ー。さっきからあんまり減ってないな、それ美味しくなかったか?」
 マキナが青空へと標的を変え、青空もマキナと古代に意識が向いた事に一安心する淳紅。2人ともハイペースで飲んでいる割に、顔色を変えない事に淳紅は戦慄しつつも、りりかが2人のグラスへドンドン注ぎ続けるという事実に、別の戦慄を覚えていた。
 しかしこの間に古代さえ潰せばと淳紅が古代へ目を向け直した時、すでに古代の目は座っていて、ブランデーをボトルで頼んで自分のグラスに注いでいた。
 ひっそりではあるが、もはや完全に酔っぱらいのスイッチが入っている――それが経験を積んだ淳紅の出した答えであった。
(矢野さん、限界はそれなりに高いけど、限界超えたらすぐ酔うタイプなんやな……)
 度数の高い酒で速攻勝負が吉と出たかと、淳紅は自分の作戦勝ちに優越感すら抱いていた。
 だが。
「亀山くーん……君ももっと飲みなよー……」
「あ、自分の限界はそんな高く――」
 言い終わるよりも早く古代はボトルを傾け、淳紅のグラスを琥珀色に染めていく。横から伸びた手が傾けたグラスからも、琥珀色の液体が流れ込んでくる。
 見ればマキナがにっこりと笑っていた。
「今夜は無礼講ですよね」
 そしてマキナに視線を外したその一瞬に、りりかも淳紅のグラスに注いでいたし、その前にチョコを置いていく。
 さらにはやはり飲んでもらいたいと言わんばかりの青空が、「先輩! このお酒甘くておいしかったよ!」とぐいぐいグラスを押し付けてくる。
 それが度数の高いカクテルだと、メニューで確認済みの淳紅は何とかやんわり押し戻していると、肩を掴まれ、身体ごと向きを変えさせられる。強制変更されたその先には、淳紅の肩をがっちりと押さえた古代が待ち構えていた。
「亀山くーん……いいかーい、俺がいかにして褌にはまったかというとだねぇ……おっとぉ、マキナ君も減ってないよお、もっと飲まなきゃ。青空君も、もっといろいろ飲んでみようよ」
 聞いてもいない事を語りだし、さらには全員を潰さんとばかりに注ぎまわる。
 こうなったら潰すか潰されるしかないのかと、珍しくシラフに等しい淳紅は冷静な頭で理解し、先に潰れた友真の幸せそうな顔を恨みがましく睨み、チョコを食べて幸せそうな顔をしているりりかに助けを求める視線も通じず、そして結局、虎となった古代、笑う魔人青空、水の様にブランデーを飲み干していくマキナへと視線を戻し、己の犯したミスを悔やむ。
(人間、ほどほどに飲んでほどほどに呑ませるのが一番なんやな……!)
 それが亀山 淳紅、1年で学んだ飲み会の作法であった――


「矢野さんは酔うとあんな風になるですなの」
 古代の褌から目を逸らすと、古代をカッコイイとか言っていた客も落胆した表情を浮かべているのが見えた。
 今やすでに青空とマキナの一騎打ちのようなものだが、どちらも潰れる気配はあまりなく、友真と同じくテーブルの友達になった淳紅を尻目に、頬を赤くしたりりかはチョコを口に放り投げ、そしてチョコのカクテルで流し込み、恍惚の笑みを浮かべていた。
「うん……おいしくいただくのが、一番なの」




━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【jb1679 / 矢野 古代     / 男 / 39 / がっかりフンドシブメン 】
【ja0732 / 青空・アルベール / 男 / 20 / 幸せの笑顔魔人 】
【ja2261 / 亀山 淳紅     / 男 / 21 / 今回得るべき教訓はほどほどだ 】
【ja6901 / 小野 友真     / 男 / 20 / ステージには奈落がつきものである 】
【ja7016 / マキナ        / 男 / 21 / 実は要注意人物かもしれない 】
【jb6883 / 華桜りりか     / 女 / 20 / 最強の刺客にして傍観者 】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛
今回もお待たせして申し訳ありません、楠原です。
バレンタイン当日ににチョコを受け取っているのかもしれませんが、話を合わせるのに少しだけ改変させていただきました。これはあくまで史実ではなく、事実と異なっていてもそこはご容赦ください。
それではまたのご依頼をお待ちしております
浪漫パーティノベル -
楠原 日野 クリエイターズルームへ
エリュシオン
2016年04月05日

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