『フィーリングマッチ 』

ブランネージュ・オーランシュ（3824）＆フィール・シャンブロー（3783）＆レイン・フレックマイヤー（3836）

　綺麗な星空が広がり、薄く儚げな三日月が昇る夜。
　酒場を除き、夜の街はとても静まり返っていた。吹く風はどこか冷たく、肌寒い。そんな夜にブランネージュとレインは連れ立って歩いていた。
　人通りはほとんどなく、この街の中で完全に二人きりだと断言しても良いほど周りには誰もいなかった。通るといえば、野良猫ぐらいなもの。
　鼻歌交じりにご機嫌な様子のブランネージュに対し、レインはそわそわとしながら隣を歩くブランネージュに視線を投げかけていた。
「こ、こんな夜に呼び出して、どうしたんですか？」
　隣を歩くレインが俄かに赤らんだ顔のまま戸惑いを隠しきれない様子でそう問いかけてくる。それに対しブランネージュは人差し指を顎にあてがい、「んー」と考える素振りをみせ、ニッコリと笑って見せた。
「そうねぇ……散歩ってところかしら」
「さ、散歩？」
　拍子抜けしたように目を丸くして思わず立ち止まったレインに、ブランネージュは数歩前まで歩き、くるりと振り返りながらいたずらっ子のような笑みを浮かべる。
「そう。散歩。夜の散歩は気持ちがいいんですのよ？」
「そ、そうなんですか」
「えぇ。人がほとんどいなければ街を賑わす雑踏もない。昼間には聞こえなかった物が夜には聞こえてくるものがある。虫の鳴き声や風の音、木々の葉が風に擦れるざわめき……。夜は神聖な時間なんですわ。ほら、心なしか空気も澄んでいるように思いません？」
　ニコニコと笑いながらそう言うブランネージュに、レインは目を瞬きながら僅かに緊張感を緩ませながら微笑んだ。
　日中の人々で賑わう街も嫌いではないが、やはり夜の時間が一番落ち着くのだと付け加えると、レインも頷く。
　そっと目を閉じて自然を体中に感じながら、静かに口を開いた。
「確かに、夜の散歩も気持ちが良いですね」
　そう答えるレインに、ブランネージュは笑みを浮かべたまま目を細めて彼を見つめた。
　こんな夜に彼を誘い出したのは気まぐれというところだろうか。何となく、今夜はレインを連れ出してみたくなった。
　一人で照れたり、慌てふためいたり。かと思えば突然いつもの彼らしい大人っぽい姿を垣間見せたり……。
　そんなレインがブランネージュには可愛くて可愛くて仕方がなく思っていた。だからこそ、隣を歩くなら彼が良いとそう思ったのだ。
　二人は他愛ない話をしながら歩いていると、街の広場に出た。
　広場の中央には大きな噴水が、夜になっても止まることなく水を噴き上げてサラサラと流れ、星と月の明かりを受けてキラキラと輝いていた。
　それが何とも幻想的で、二人は揃って足を止める。
「へぇ。夜の広場ってこんなに綺麗ですね。夜はほとんど出歩かないのでボク、知りませんでした」
「本当ですわね。月明かりを受ける噴水が何だか幻想的で、吸い込まれそうですわ」
　レインが目の前の噴水を感激したように見つめている傍らで、ブランネージュはさりげなく視線だけを周りに向けていた。
　広場の一角。どこに出るかは分からず、いつ出るかも分からないもの……。
　さ迷わせる視線の先に、ふとある卓が目に止める。それが探しもので、しかも出たばかりなのか人が誰もいない。
　これはなかなか運が良い。そう思ったブランネージュは、ふと悪戯を思いつく。
「レインさん」
　ブランネージュは微笑みながらレインを振り返ると、彼は不思議そうに目を瞬きながらこちらを見つめ返してきた。
「あそこに、有名な占い師の卓が出てますわ。ちょっと、私たちの事を占ってもらってみません？」
「え……？　う、占い、ですか？」
　二人の事を占ってもらう。本当にちょっとした悪戯のつもりだった。
　こう言えばどんな反応を見せるのだろうと気になり、二人の事を占ってもらったとしても大した結果は出ないだろうと思っていた。
　ブランネージュは戸惑うレインの腕に手を絡めて、卓の傍へと近づいていくと占術師であるフィールがチラリとこちらを見上げてきた。
「……あら。お客さん？」
　椅子に座って微動だにせず上目遣いに見上げてくるフィールに、腕を組まれて赤くなっているレインと何事もないかのように微笑んでいるブランネージュがいる。
「えぇ。私達の事を占って貰おうかと思って来てみましたわ」
「……どうぞ」
　フィールは抑揚のない声で卓の前にある二つの椅子を勧めると、二人は促されるままにそこに腰を下ろした。
「二人の事を占えばいいのね？」
「えぇ、お願いしますわ」
「ブ、ブランネージュさん……っ」
　腕を絡められたままのレインは、気恥ずかしさと困惑に慌てふためきながらブランネージュを見つめてくる。そんな彼の事などお構いなしに、フィールはタロットカードで占いを始める。
　三枚のカードが卓の中央に置かれ、フィールはそれを一枚ずつめくり、全てのカードがオープンになるとおもむろに口を開いた。
「あら……。これは凄いわ」
　その言葉に、二人は互いに顔を見合わせてフィールを見た。するとフィールはニッと口元に笑みを浮かべカードを指差す。
「見て。これはそれぞれ、現在、過去、未来を表しているわ。出たカードは女帝、法王、運命の輪……しかも全部正位置で出てる。二人のフィーリングはピッタリよ。他にはなかなか見られない抜群の相性ね」
「え……」
「……」
　思いがけない言葉に、瞬間的にブランネージュとレインは言葉を詰まらせた。当然ながら、レインも思わずぽかんと口を開きその場に固まってしまった。
　フィールは意外そうにしている二人を見つめて顔の前で手を組み、その手の上に顎を乗せてニッコリと微笑みながら追い討ちをかけるかのように言った。
「結婚するなら彼しかいないわ」
　サラリとそう告げられ、ブランネージュは自分でも驚くほどに真っ赤になってしまった。その隣にいるレインはもともと赤らんでいた顔が更に赤らみ、夜風の冷たさの中頭から蒸気が上がるほど真っ赤になる。
　言葉無く赤くなった二人に、フィールはおかしそうに笑い出した。
「やぁね。あなたたちが自分たちの事占って欲しいって来たんでしょ？　こんな結果になるかもって予想ぐらいしてこなかったの？」
　クスクスと笑うフィールに、二人は恥ずかしそうに顔を俯けてしまうのだった。


　フィールの元を離れて、再び静かな夜の街を歩く二人。違うのは、先ほどのような他愛ない会話がほとんどなく、黙り込む時間が多くなった事だった。
　先ほどの占いで予想外の結果が導き出され、さほど意識をしていなかったブランネージュは完全にレインを恋愛対象としてしか見られなくなってしまっていた。
　常日頃から可愛い坊やだと思ってはいたが、それは恋愛対象として見ていた訳ではなく自分を慕ってくる者達の一人として見ていただけだ。ただ、彼は自分の事を恋愛意識で見ていたことは気付いていたのだが……。
　思いもかけず自分までもが彼を恋愛対象として見てしまうとは思いもしなかった。
「び、びっくりしましたね、さっきの占いの結果……」
　長い沈黙が耐えられなくなったのか、緊張した面持ちのままレインがそう言うとブランネージュもぎこちなく目を逸らしながら頷く。
「そ、そうですわね……。ほんとに、びっくりしましたわ」
　そこで会話が途切れると、二人の間に緊張感が走った。
　自然と高鳴ってしまう胸を何気なく押さえ、ブランネージュは逸らしていた視線をレインに向ける。すると彼も同じタイミングで目線を向け、バッチリと視線がかち合った。
「！」
「……っ！」
　目があった瞬間、落ち着き始めた熱が再び蘇り、弾かれたように二人が同時に視線を逸らす。
　いつまでも鳴り止まない胸の鼓動に、息切れさえしてしまいそうだった。
　通りの分かれ道まで来ると、ブランネージュが先に口を開く。
「じゃ、じゃあ、今日はここでもうお別れにしましょう」
「え、あ、は、はい。そ、そそ、そうですね」
「で、では、おやすみなさい」
「お、おやすみなさい」
　ぎこちない挨拶を交わし、二人は背を向けて互いに違う方向へと歩き出す。
　背後にお互いの気配を感じながら、苦しいほどの胸の高鳴りを引き連れて帰宅への道を辿るのだった。

PCシチュエーションノベル（グループ３）

りむそん

聖獣界ソーン

2016年04月08日