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『『イエネコはひだまりで牙を研ぐ』 』
コルト スティルツaa1741

 週末のショッピングモールは、その一瞬だけ息を呑むような静けさに包まれた。
「あ、これかわいい」
 思わず、と言った様子でこぼれ落ちた声のなんと愛らしいことか。
 独り言をこぼしたあとに、はっとした様子で周りを見渡す姿のなんと幼気なことか。
 真っ白い頬が、徐々に染まって甘酸っぱいチェリーのように色付く様の、なんと艶めかしいことか。
 そうして周囲の視線をかっさらったまま、コルト スティルツ(aa1741)は恥ずかしそうに瞳を伏せる。庇護欲を誘うその姿に、不躾な視線をくれていた者共は慌てて各々あさっての方向に視線を逸らした。同時に、遠ざかっていた喧騒が舞い戻ってくる。
 それでも意識だけは幼気な幼子――コルトに向けたままなのだから、その子供の愛らしさが知れるというもの。
「……あの」
 桜色の小さな唇が、遠慮気味に言葉を紡ぐ。何気なく商品を整えている――フリをしていた店員は、ともすれば周囲の喧騒に紛れて消えてしまいそうな声をしっかりと拾い上げて、緩みそうになる頬を意識して引き締めにかかる。そうしてなんとか営業スマイルにまで引き上げた表情で、お決まりの文句を口にした。
「どうかなさいましたか?」
「お洋服の、試着がしたいのですけれど……あの、お色はこれだけなのでしょうか」
 少しだけ恥ずかしそうに、けれどわくわくと瞳をきらめかせるコルト。店員は意識して丹田に力を込めた。口をついて出そうになったうめき声のような何かを押し留めるためである。可憐なかんばせに浮かんだあどけない表情は、ともすれば己が他者からどう見えるのかを理解した上で、計算ずくで浮かべているようにも邪推してしまうほど。
 そう考えた直後に「まさか」と心中で嘲笑う。だとすれば自分は人間不信に陥るか、この歳でそんな小技を身につけねばならなかった子供に憐憫の情を向けねばなるまい。
「そちらですと、お色はそれだけになりますね。似たようなデザインですと、他にもカラーバリエーションがあるものもございますが……。どうされますか?」
 不細工にならない範囲でできるだけ腰を落とし、小さなレディーに敬意を示す。近付いた視線を、しかしコルトは臆することなく見つめ返した。その眼光の真っ直ぐなこと。店員の口元は知らずほころぶ。育ちがいいんだろうな、と胸中でごちた。
「なら、こちらのもので構いませんわ」
 小さな唇から溢れる言葉は大人びた口調。背伸びをしたいお年頃かな、なんて思いながら、店員は徐ろに立ち上がって15度ほど上体を折り曲げる。
「かしこまりました。それではフィッティングルームへご案内いたします」
 にこり、と人好きのする笑みを浮かべれば、可憐な少女はとても嬉しそうに頬を薔薇色に染めて、こっくりと頷くのだった。


「ふぅ」
 小さな身体に余る大荷物を床に並べて、コルトはひとつ息を吐き出す。
 メモリーは偉大なである。容量さえ足りればどんな大荷物もポケットサイズで持ち運べるのだから。コルトは誰とも知らない開発者と異世界の恩恵に数秒だけ思いを馳せ、ふと空腹を自覚して立ち上がる。さて、冷蔵庫には何が残っていただろうか。
 今日は朝からショッピングだった。前々からファッション雑誌で目を付けていた春物の外套を探しに出かけて、結局ふぅわりとしたラインのインナーと、膝丈のAラインワンピース、編上げブーツに春色のロングカーディガン、その他つば広の帽子など細々したものを買い込んで、お目当ての物は買わず仕舞い。
 まぁ買い物というのは得てしてそういうものである。ちなみに、目当てだった外套は現物を見て「何か違う気がする」と思い買わなかった。何が違うのかは不明だ。
一応出先で軽い昼食を食べたのだが、そこは育ち盛り食べ盛りなオトシゴロであるコルト。15時頃になれば小腹も空く。
「よっ、ほっ」
 かわいらしい掛け声と共に皿に盛られたのは、ちょっぴり形の崩れたホットケーキ。まんまる、ではないけれど、つやつやふかふかと湯気を立てるさまは食欲をそそる。あつあつのそれに小さく切ったバターと買い置きしてある練乳を落とせば、見るからに美味しそうだ。指についた練乳は、ちょっとだけはしたないけれど、誰が見ているわけでもないのでぺろりと舐めてしまう。
 冷蔵庫にイチゴがあったので、それも軽く洗って硝子の器に盛りつけた。練乳をたっぷり絡めるのも忘れない。飲み物は冷たい牛乳を大きめのマグカップで。
「いただきます」
 ぱちん、と両手を合わせて神妙な顔をする。妙に真剣な様が一周回って愛らしい。当の本人はそんな気など微塵もないだろう表情でホットケーキをぱくついているが。案外と食べ方は豪快である。
 3枚あったホットケーキをぺろりと平らげれば、お腹もくちくなってまぶたも重くなるというもの。大きめの窓から差し込む日差しはぽかぽかと温かい。くぁ、と噛み殺せなかったあくびが漏れて目尻が潤んでいる。
 しかし、まぁ、食べた直後に寝るのは身体によろしくない。
 というわけで、しぱしぱとまばたきしながら、コルトがふわりとした服の下から取り出したのは――黒光りするオートマチック。ほっそりした指と小さな手、そして無骨な金属のコントラストがあまりにもミスマッチで目眩すら覚えそうだ。
 コルトは見るからに重いそれを手慣れた様子で解体していく。作りからしてなんの変哲もない至って普通の――この際何が「普通」なのかは置いておくとして――何のギミックも仕込まれていない、『ありふれたもの』である様子。先ほどホットケーキの焼き加減を見極めていた時と同じくらい真剣な眼差しで手際よく整備していくコルトを見ていると、何らおかしいところはないような気すらしてくる。
 そう、これはコルトの「日常」なのだ。当たり前のルーチンに組み込まれている行動だから、コルトはどこまでも自然体なのだ。
 そうしてそんな自然体で、当たり前のように、コルトは体型を隠すような服の下に無骨な鉄の塊を仕舞い込む。
 無機質な金属塊を抱いたまま、コルトは日当たりの良いソファーで猫のように丸まるのだった。


 けたたましいバイブレーションの振動と、耳につく電子音で目が覚めた。
 ぱちりと目を開けて上体を起こす。寝起きは良い方だ。2、3度瞬けば思考も視界もクリアになる。ひとつぐぅと伸びをして、コルトは卓上に放置していた端末を手にとった。
 微妙に睨みつけるような表情で画面に視線を這わせれば、ほうとひとつ吐息が漏れる。
 ――幼く、あどけないはずのかんばせが獰猛に歪む様を、何と形容すればいいのだろう。例えるなら、今の今までゴロゴロと喉を鳴らしていたイエネコが、獲物を見つけた瞬間に狩人の顔になるあの瞬間の、何とも言えないもの寂しさか。
 どれだけ可愛がっていても、どれほど愛らしくとも、獣はケモノ。
「おい虫、起きろ」
 遠慮の欠片もない様子で薄暗い部屋の中に踏み込んで、コルトはそこに寝ていた人型の生物を躊躇いなく足蹴にする。
 ギチ、と硬い有機物同士を擦り付けたような音を立てる人影に、ただ面白くなさそうに鼻を鳴らすだけのコルト。花のかんばせは獰猛な色を湛えてただただ凶暴に歪んでいる。
「仕事だ仕事。んだよそのやる気の欠片もネェ顔は」
 ガン、と苛立たしげに人影を蹴りつけて、隠すことなく舌打ちをひとつ。そうすれば億劫さを隠しもしない人影も、ゆらりと立ち上がって首を振るった。
 目の端でそれを確認して、コルトは一声もなく踵を返す。無駄口はいらない。必要な物はすべて身につけたままだ。メモリーとは斯くも便利なものである。
「さァて、愉しませてもらうとするか」
 ちろりと覗く赤い舌が、薄い唇を舐めて暗闇に消えていく。
 小さくとも牙は牙。肉を抉ることなど、息をするのと同じくらいカンタンなのである。

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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【aa1741/コルト スティルツ/性別不詳/9歳/人間/命中適性】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 どうもでっす!
 この度はご指名ありがとうございました! 楽しんでいただければ幸いです。
 ギャップってイイですよね(唐突)。私もキャラクターを作る時はよくギャップを盛り込みます。だって好きなんだもの仕方がないじゃない。
 見た目は儚いのに言動は粗雑とか、そういうギャップが大好物ですはい。何が言いたいかというと、とてもとても楽しかったなって。ええ。はい。そしてこうなりました。ありがとうございます!!
 それではまた、いつかの機会に。
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2016年04月12日

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