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『左の薬指に互いを抱く 』
サクラ3853)&エスメラルダ・ポローニオ(3831)

 さざ波が月光に照らされ青白く光り輝く。波音のゆらぎに紛れ水が打たれ、跳ねる音がする。
 誰もいない波間でサクラはそっと本当の姿に戻る。陸が息苦しいわけでも人の姿がつらいわけでもない。しかし、こうして誰にも知られずひっそりとした海で波と戯れると不思議と心が落ち着いた。それは波音のゆらぎのせいかもしれないし、本来海で生きる者としての本能にも似たもののせいなのかもしれない。

「……」

 小さなため息がこぼれる。一人は安心する。でも、ここに愛しい人がいたらいいのに。そんな事を思ってしまう。それはかなわない願いだと分かっているのに。


「かなわないと思っていたのに、ね」
「何か言った?」
「やっぱり綺麗ね。って言ったのよ?」
「サクラの方が綺麗だと思うわ」

 ウェディングドレスに身を包んだ二人がいつも逢瀬を重ねている海岸に立っている。かつてはここにいたのはサクラ一人だった。しかし、今は隣に愛しい人がいる。そのことにサクラは素直に喜びを感じるのだった。
 目の前には聖獣セイレーンを祀った祠。
 二人は向き合うと互いに見つめあい微笑んだ。そして、

「エスメラルダちゃんは今もこれからも私の大切でかけがいのない存在よ。だからいろんな時間を一緒に過ごしてきたことは凄く幸せなの。ここに立っていられることもね。これからもずっと一緒に生きてくれないかしら?」
「サクラ。今までいろんなことがあったわね。私はサクラが今まで経験した出来事を少ししか知らない。でも今こうして貴女と一緒にいられることは凄く幸せな事だと思うの。これからも一緒に過ごしましょう」

 改めて告白するように二人はこれからも共に生きることを誓う。サクラが誓いの言葉を考える事も出来たのだが、互いに何か違う気がして辞めた。すきな相手なりの言葉で愛を誓い合いたかったのだ。
 そっと、指輪を交換する。互いに自分が人魚になった時の身体を飾るサンゴで作った指輪。自分の体の一部ともいえるそれを交換しようと提案したのはエスメラルダった。
 最後に誓いの言葉を体に留め繋ぎ止める為のキス。

 見守るのはセイレーンの祠だけの参列者のいない結婚式はこうして幕を閉じた。

 二人はそっと海へと歩き始める。一歩歩く度にドレスが空気に溶ける様に薄くなっていく。ドレスはサクラの魔法によるものだったのだ。
 陸と海の境目。あと一歩踏み出せば海中へと出ていける岩の上で、二人は立ち止まる。どちらからと言う事もなく抱き合い口づけを交わすとサクラは海へと身を投げた。エスメラルダはその場に腰を下ろし目を閉じる。
 そして、波の音を伴奏に響くサクラのセイレーンの歌。地上へ、限りある生へ別れを告げエスメラルダがサクラと同じセイレーンへと変わる為の儀式を告げる歌が消えた頃、そこに人影はなかった。


それから数年後、エルザードの街外れ。

「行きましょう」
「そうね。また戻ってくればいいわ」

 手に持てるだけの荷物を持ち二人は街道を歩き始める。儀式の後、エスメラルダの黒い瞳は海の様な青に、明るい茶の髪には一房金の髪が混ざっている。それがセイレーンの証。
 セイレーンは人にしか見えない。しかし人とは違い、老いる事も寿命もない。それ故に暫くすると日々の手入れやそういう体質といったものでは誤魔化せなくなる。周りの人々が明らかな老いを感じる中二人だけはずっとそのままなのだから。
 そうなれば必ず種族を探ろうとする人間が出てくる。妬みと興味と好奇心。そう言った衝動にも似たなにかのせいで、セイレーンの呪われた過去は作られ、結果彼女たちは人を避けるようになったのだ。
 二人は数年ごとに遠くの街へと旅立つ事にした。互いを失わない為に。

「この街に帰ってくるのはいつかしらね」
「きっとこの街の人が私たちを見たことが無い人で満たされた頃ね。嫌?」
「いいえ。サクラと一緒なら構わないわ。名前も種族も関係ないもの。私はサクラと一緒にいたいだけよ」

 エスメラルダはそのうちその名さえ捨てなくてはならなくなる。見たことがあるものがいなくても名前からばれてしまう事もある。それを防ぐために。 
 サクラは思っていた。そんな苦難しかないような道を自分が告白したがために選ばせてしまったのではないかと。しかし、エスメラルダはそんなものを気にする様子はない。
 エスメラルダの馬に乗った二人はゆっくりと街道を歩みながら口づけを交わす。

 二人でいれば、何も怖くない。たとえどんな苦難がやってきても二人なら大丈夫。

 そんなことを言葉ではなくキスと絡めた視線で伝えあう。
 夕暮れに飲まれるように街を去るその影は長くのびる。これからの長い時を暗示するように



━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【3853/サクラ/女性性/27歳(外見)/月夜の人魚】

【3831/エスメラルダ・ポローニオ/女性性/20歳/朝焼けの人魚】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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再度のご依頼ありがとうございました。

サクラ様の静かで頑な愛とエスメラルダ様の真っ直ぐで強い愛を描けたなら幸いです。
お二人の前途に祝福がありますように。

お気に召すと大変うれしく思いますが、もしご納得いただけない部分がありましたらお申し付けください。

今回はご縁を頂き本当にありがとうございました。
また、別の世界でお会いできることを願っております。
これからも仲睦まじくお元気で。
PCシチュエーションノベル(ツイン) -
龍川 那月 クリエイターズルームへ
聖獣界ソーン
2016年04月18日

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