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『狂乱・狂愛 』
瑞朔 琴葉jb9336)&甲斐 銀仁朗jc1862

 拳ほどの隙間を開けた襖から、瑞朔 琴葉は物音の正体を眺めていた。
 今朝から、とても目障りなほど人々が動き回る音がしていたのだ。
 そのせいで、いつもより早く目が覚めてしまった。
 黒塗りのセダンが何台も家の前に止まって、同じような黒いスーツを着た男が何人も家を出入りしている。
 その中でひとり、目立つアフロ男の姿が目に止まり、くすりと琴葉は笑った。
 あの人々の目的は、議員である親の選挙関係の取引か、それとも金の無心に来た亡者どもか――。
「……ふぅ」
 琴葉の興味はすでに薄れていた。
「私は忙しいの」
 そう呟いて立ちあがった。
 着崩した赤い着物の裾を引きずりながら、廊下をゆっくり移動した。
 すれ違う人々はみな、琴葉の前で頭を下げ、道をあけた。白髪の目立つ初老の男や厳つい剃り込みの男さえも。
 琴葉は離れに移動した。
 離れの出入り口に立っている男は、琴葉の姿が見えると深々とお辞儀をした。琴葉はすれ違いざまに、そっと耳元に呟いた。
『来るわ』
 男は再び、深々とお辞儀をした。


■□■


 甲斐 銀仁朗は建物を見上げた。
 確かに、誰かに見られていたような気配がしたのだが、その者の姿を目で捉えることはできなかった。
「おい、早くしろ」
 立ち止まっていた甲斐に男が注意した。
 甲斐は目上の人には礼儀正しい。すぐに謝罪の旨を伝え、与えられている任務を頭の中で思い出した。その内容も、だが、甲斐は先ほどの目線を感じた時にした震えのせいで、両腕に鳥肌が立っていた。
「武者震いってやつだな」
 これから自分の身に起こるだろう出来事を想像するだけで、さらに震えてきそうだった。
 両腕を押さえている甲斐に、先ほど注意した男が眉間に皺を寄せて怒鳴った。
「おい、早くしろって言ってるだろ!」
「すいません!」


□■□


 離れは、広さは十分にあるが、それらを明るく照らす気のない小さな窓。その窓には飾りっけのない鉄格子が付いている。扉はあるが、基本的に琴葉が出入りするときにしか開かないようなセキュリティーにしてある。常に人も立たせてある。凍えそうなほど寒い朝や、月さえ見えないほど曇った夜空の日でも。
 琴葉は床に乱雑に置いてあった赤い蝋燭を手に取り、ライターで火を灯した。蝋が滴り落ちそうなそれを、傍にいた男に渡した。男の手には、すぐに赤い蝋が滴り、皮膚を伝っていったが、男は恍惚な表情で蝋燭の炎を見つめていた。
 その炎で、ある物を照らすよう命じた。
 男は素直に命じられた通りに動いた。
「ぁ……ぁぅ……ンッ」
 照らされていたのは、床に横たわった人の背中だった。
 琴葉はその青白い皮膚を指先で撫でながら、考えていた。

―――これから凄いことが起こりそうな予感がする。

 背中を撫でていた指を、背中から離した。着物の裾をだらりと床につけ、硬くて鋭い金属を手に持った。
 琴葉は、銀の釘を持っていた。
 釘の尖った先を見つめる琴葉の表情は、実に楽しそうであった。
 その理由を尋ねるほど、気がきく者は、傍には誰もいない。
「さぁ、はじめるわ」
 釘を握りこむと、腕を大きく上にあげて、振り下ろした。
「あっ……うぅん……」
 琴葉に背中を向けていた男は呻き声をあげていた。
 赤い筋が生まれ、床に向かって滴り始めた。
「まだまだ、これからよ」
 熱っぽい吐息のような声で、琴葉は言った。
「おいで」
 また別の男を呼び、赤い筋を指差した。男は目を爛々とさせ、赤い筋に向かって舌を大きく突き出し、ぺろりと舐め始めた。
 背中を舐められた男はビクつきながらも、激しい息遣いのままその場から動かなかった。
 それから、琴葉は何度も釘を刺した。
 琴葉が釘を動かす度に、赤い筋は何本も伸びていった。
 激しく熱い息遣いの中に、唾液が漏れる音が含まれてきた。男は涙と涎を垂らしていた。
 床には、赤い蝋と液体が点々としていた。
「だめよ?」
 男が少しでも動こうものなら、釘を深く深く刺した。


□■□


 赤い蝋燭を持つ手は塊り、まるで赤土の大地にそびえ立つ岩のようになっていた。
 肘まで滴っていた蝋は鍾乳石のようになり、男の腕は動かせなくなっていた。
 そんな状態になっても、男はその場から動くことなく、虚ろな目をして琴葉を見つめていた。
「もう少し……」
 琴葉は釘を動かし続けていた。
 背中の上部は、釘を丸く動かして無数の円を描いた。下部は逆にシャープな線を描いていた。
 特に上部は釘をぐりぐりと動かしたためか、皮膚が赤くただれ、表面が湿潤していた。
「最後の仕上げね」
 それまで握っていた釘に付いた血を着物で拭った。赤い着物に新たな朱が入り、より一層、艶やかさが増した。
 釘を持った腕を振り上げると、背中の中央に突き刺した。
 ビクつき、起き上がった男の背中を突きながら、琴葉は呟いた。
「監視でもする気なのかしらねぇ。そこにいるのは、わかってるのよ」
 琴葉の背後に、あのアフロ男――甲斐が立って、ニヤニヤと笑っていた。
「俺もこんな面白そうな子の監視が出来て、ありがたいこったな。それにしても、これはなんだぁ? もしかして」
「いいの。もう、あなたがここにいるのなら」
 釘で背中に描いていたもの――それは甲斐の顔だった。


 これが琴葉と甲斐の狂愛の始まりだった。

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大木あいす クリエイターズルームへ
エリュシオン
2016年04月18日

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