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『―夢と現実と・7― 』
海原・みなも1252)&瀬名・雫(NPCA003)

 唐突に送り込まれた、謎の小包み。送り主は『魔界の楽園・開発部』となっている。
 未開封のこれを見下ろしながら、海原みなもと瀬奈雫は、腕を組みつつ唸りを上げていた。
「どう、思います?」
「……アップデートも近いしぃ? もしかしたらそれに関するオプションのテストかもね」
 オプション、ねぇ……と、みなもの表情が曇る。彼女の脳裏には今、以前に送られて来た『ベッド型操作補助装置』の巨体が鮮明に浮かび上がっていた。もしかして、アレの類か? と考えると、迂闊にその包みに手を掛ける事が躊躇われるのだ。
「大きさは……それ程でもありませんね?」
 具体的に言えば、ミカン箱と同じ程度の大きさのそれに、以前のようなベッドが収まっているとは思えない……のだが、何故かみなもには『その包みを開けてはならない』と云う天からの声が届いていたようだ。が、しかし……
「中を見てみないと、ワケ分かんないじゃん! サクッと調べようよ」
「あっ! も、もっと慎重になった方が……」
 前回の『アレ』を体験していない雫が、無造作に包みを開封してしまった。これでもう、受け取り拒否でブツを返送する事は出来ない。
 あーあ、知らないよ……と云った感じで見ているみなもを尻目に、雫は緩衝材に包まれた中身を手際よく外に出していく。
「何これ? ヘッドギア……って言うかバイザー?」
「ゴーグルに、これは……手にはめるんでしょうか? モーション・トレーサーのような……」
 そう、頭部に装着するゴーグル型の装置から数本のケーブルが伸び、それがグローブ型のデバイスに接続されている。どう見てもコントローラーだ。要は、これを使って操作感を試して欲しい、と云う事らしい。
「何か、かっこいー! ね、コレ試してみて良い?」
「え? えぇ、どうぞどうぞ! 心ゆくまで、ごゆるりと!」
 些か過剰とも思えるリアクションを添えて、みなもは『それ』を雫にずずいと差し出した。だが、良く見ると包みはもう一つあるようだ。小さく畳まれたそれは透明なビニールに包まれているが、中には銀色の何かが見えている。
(……!! これって、もしかして……)
 みなもの予感は見事に的中した。そう、もう一つの包みの中身……それは『あの』全身タイツの改良版だったのだ。
「『フィット感向上のために旧タイプより更に薄型とし、装着している事を忘れさせ――』……って! ベッドが無い分、前回より性質が悪いじゃない! 瀬奈さん、やめましょう! 無理に試す事は……」
「えー? せっかくタダで新製品の性能を試せるんだよ? チャンスじゃん!」
 見ると雫は、既に取説を熟読したのか、スーツを着用する為に一糸まとわぬ姿となっていた。慎重派のみなもよりも大らかな性格を有する彼女は、とにかく細かい事には拘らず、一直線に突き進んでしまうイケイケタイプであった。そしてそんな彼女を見て、みなもは『本当に知らないよ?』と、思わず目を覆うのであった。

***

「ひゃー、ピッタリ! これで外歩いたら、確実に通報モンだねぇ?」
「……そうと分かってて着ちゃう、瀬奈さんって凄いと思います」
 もはや、身体のラインが出てしまうどころの話ではない。伸縮性に優れている為か破損する心配は無さそうだが、銀色の素肌を持った人間が裸で立っているような……そんな絵面だったのだ。
「これ、みなもちゃんも着た事あるの?」
「えぇ、コレのひとつ前の試作版でしたけど。でも、こんなに超薄々では無かったですよ」
「んー……動きやすいし、あったかいんだけどさぁ。胸ポチがちょっと気になるかなぁ?」
 胸だけじゃないですよと、みなもはその姿を見て、ただ赤面するだけであった。確かに素肌そのものは隠されているが、最早それはボディペイントと変わらぬレベル。それも、なまじ素肌では無い分だけ『邪な感じ』が強く出ているのだ。
「率直に言うと、昭和の香りがプンプンするね!」
「そ、それだけですか!?」
 雫は『それ以外に何か?』とでも言いたげな目線をみなもに送り、バイザーとモーション・トレーサーを装着して操作テストに掛かる。以前のようにベッドは無い為、安全面を考慮して布団を敷き、その上に寝る格好でプレイして貰う事になった。
(……布団に寝かせると、余計にエッチ……ううん、そんな目で見ちゃダメ! 開発陣の人たちも、きっと真剣にこれを作ったに違いないんだから!)
 自分が着るのは御免被るが、開発陣の熱意も分かる……みなもは、心底から複雑な気分に落とし込まれていた。
「あれー? みなもちゃんに届いた筈なのに、彼女がテストしてるの?」
「ま、魔女さん! さては貴女ですね!? これを送り届けたのは!」
「やだなー、人聞きの悪い。アタシは優秀なテストヘッドを紹介しただけだよー」
「同じ事です!」
 またも唐突に現れた、ガイド役の魔女。彼女の登場にもすっかり慣れて動じなくなっていたみなもが、『また』自分を実験台に選んだ事について文句を言っていた。が、魔女は胡坐をかいた格好で空中に留まり、みなもではなく雫の方に注目していた。
「ふんふん、苦痛は感じていない……とりあえず装着感はクリアってトコね。ま、ちょーっとやり過ぎかな? な感じではあるけどね」
「……一応訊いておきますけど、今回も全身タイツがセットになっていた理由は……」
「えー? 分かってて訊くかなぁ、それ。前にも言ったでしょ? 漢(ヲトコ)の浪漫だ! って」
「コレって、真剣に作ったんですよね? お遊びじゃ無いですよね!?」
「そこは信じてあげてよ、かなりのオーバー・テクノロジーが組み込まれてるんだからさ」
 ハァ……と、溜息を一つ。みなもは、もう何も言いたくないと云った表情で、寝たままの姿勢で指だけを動かしている雫の姿を、ただ見つめるだけだった。

***

 雫がプレイを終えてゴーグルを外すと、先刻は居なかった魔女が来ていた事に驚いていた。
「あ、来てたんですかぁ?」
「んー。実験だ……もとい、テスト結果を克明にリポートしなくちゃならないからね」
 スーツの薄さは気にならないのか、雫はそのままの格好で布団から起き上がり、椅子に腰かけていた。
「ね、それ、着心地はどうだった?」
「え? ……あ、そうだった。存在感まるで無いんで、忘れてたよ」
 その一言が全てだった。つまり『装着している事を忘れさせる』と云う、開発陣の願いは此処に達成されたと言って過言ではなかった。
 しかしその時、雫は……いや、みなもも同じ事を考えていたようで、二人はほぼ同時に、ふとした疑問をポツリと呟いた。
「あの……」
「あ、多分同じ事考えてる!」
「んー……魔女さん、これって……仮に男性が着用した場合、どうなるんです?」
 その一言を聞いた魔女は、珍しく大きく表情を崩して笑い転げた。ローブの裾から下着が覗く事も厭わずに。
「……! だ、駄目……思い出させないで! わ、笑いが……プっ、あはははははは!!」
 少女二人の予感は、見事に的中したようだ。そう、魔女はみなもにこれを送り届ける直前、開発陣の男性が自らこれを装着してテストを行っている様を、目撃していたのである。その様子は……表現しない方が良いだろう。

「だから、毎回必ず女の子が実験台に選ばれるんですね?」
「あ・た・り!」
 そう言って悪戯っぽく笑みを浮かべる魔女に、二人はただ苦笑いを向ける事しか出来なかったと云う。

<了>
PCシチュエーションノベル(シングル) -
県 裕樹 クリエイターズルームへ
東京怪談
2016年04月18日

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