▼作品詳細検索▼  →クリエイター検索


『白梅の故郷 』
紫 征四郎aa0076)&木霊・C・リュカaa0068

●征四郎の決心
 3月初春のこと。
 紫 征四郎(aa0076)はふと思い立った。
「征四郎が此処に来たのは2年前の今頃でした。思えばあれから実家には帰っていなかったので、久しぶりに里帰りしたいのです」
 ――実家に帰りたい。大好きな父と母に会いたい。
 そう口にしたわけではないが、征四郎の顔にはそう書いてあった。
 だからこそ、彼女の英雄は複雑な心境を抱く。
「駄目ですか……?」
 征四郎の英雄は駄目だと言った訳じゃない。だがいい顔はしていなかった。

 だから、

「むー」
 征四郎は顎に手を置きながら考える。
 ――彼のあの反応は行くなという事なのだろうか、と。
 迷って、迷って。

 なんとなく想い出したのが、白梅の花。
 窓越に見た懐かしい白梅――今頃はもう、美しく咲き綻んでいる頃だろうか。
(やっぱり……征四郎は、)
 そして迷った末に、征四郎の中で答えは決まったようだ。

「征四郎と一緒におでかけ、してくれませんか!」
 親友のように、家族のように、慕う人へ向ける笑顔のお誘い。
 征四郎が一緒に行きたいと思った人は――、
「勿論だよ!」
 二つ返事で征四郎の想いに応えたのだった。

●みんなへのお土産
「お出かけ準備万端、さぁ、でかけようか!」
「はい!」

 今日は柔らかな春空。
 なんだか良い事がありそうな予感を感じる日和。

 ――里帰り、か。
 木霊・C・リュカ(aa0068)はサングラスを掛けながら征四郎と手を繋ぎ、小旅行気分を味わっていた。
 東京から都外にある征四郎の実家へ向かう旅。
 征四郎の実家である紫家は代々剣士の家柄であり、なんでも女児を認めない古いしきたりが今も残っている家らしく、色々と複雑な事情があるという事は、なんとなく聞き及んでいたが……。
「リュカ。この先の右にあるお土産のコーナーに寄っても良いですか? その、手土産になるような物を持って行きたいのです」
「うん。もちろんだよ。ご両親への手土産と、折角だし皆の分も買っていこうか!」
 征四郎の声が何処か嬉しそうだったから、リュカも何処か嬉しくなっていた。
 本当にご両親が好きなんだね。
 帰郷するのも二年ぶりだと言うし、今日がとても待ち遠しく……楽しみにしていたのだろうと思うと、リュカの胸が温かくなる。
 左右をしっかり確認して、優しく手を引いて、リュカをお土産コーナーに案内した征四郎。
 二人は仲良く会話を弾ませながら、みんなへのお土産を選び始めた。
「んー、お土産かー。何がいいかなー」
 リュカと征四郎が立ち寄ったお土産コーナーは、多種多様のお菓子や食品、酒に名物品が豊富に並ぶ大型店舗。
 だからこそ悩ましく、どんなお土産が並んでいるかを征四郎から聴き、リュカは参ったように微笑む。
 すると征四郎はあるものを発見。
「わ。白虎の顔が書いてあるパッケージのお菓子を見付けたのです」
 それは某友人を彷彿する商品だった。
 早速リュカに知らせ、二人は友人の話題で盛り上がる。
 そして『こんなのあったよ』って話のネタになるだろうという理由が決定打になり、先ずはとりあえず購入することにしたようだ。
 更に某友人の分も、
「真面目に考えるならお子さんが喜ぶお土産の方がいいかな? 彼は子煩悩っ子だからね」
「そうですね!」
 彼の為に、彼の息子が喜んでくれそうなお菓子のお土産を選んで、買い物籠に入れる。
 ――こうしてお互いの英雄や友人に送るお土産はバッチリ決定したけれど。
 唯一、未だ悩んでいたのが征四郎の両親へのお土産だった。
「うーん……………」
 征四郎は数々のお土産とにらめっこしながら黙考する。
 するとはっと思い出したように顔を上げ、リュカを見た。
「ごめんなさい! あともう少し……いや、すぐに決めるのですっ」
 申し訳無さそうに云って、慌てた様子を見せる征四郎。
 だがリュカは益々あたたかみのある微笑みを深める。
「ゆっくりでいいんだよ。むしろ沢山考えて、選んであげようよ。ご両親のお土産だもんね」
 征四郎は驚いた顔をした。
 そして素直に、こくりと頷く。
「リュカ………」
「うん?」
「お土産、何がいいか、相談してもいいですか……?」
 征四郎は上目で控えめに訊ねた。
 するとリュカは声を聴いて、自然と表情が優しく緩む。
「うん、俺で良ければ」
 二人は一生懸命悩んで考えながら、お土産を選んでいた。

●二年ぶりの白梅
 ――都外某所。
 紫家の大きなお屋敷に、四番目の子・紫 征四郎が友人を連れて帰郷する。
 ……しかし。

「……」

 7歳の娘が2年ぶりに帰ってきたというのにも関わらず、紫家はあまりにも静かだった。
 お手伝いさんが庭まで通してくれて、お茶も用意はしてくれたけれど。
 それにしたってなんだか冷たいな、とリュカは苦笑しながら感じていた。

「……」

 そして隣に居る征四郎の気配を察する。
 きっと緊張している筈……。
 繋ぐ手をそっと優しく握りこむと、不安げにぎゅっと握る力が返ってきた。

「怖い?」
「……いいえ、大丈夫です」

 征四郎は庭で待っている間、白梅を眺めていた。
 ――やっぱり思っていた通り、花は美しく咲き綻んでいた。
 思わず時間を忘れてしまいそうになるような、繊細な美に見惚れてしまいながら。
 2年前、この白梅の花を目に焼き付けつつ誓った記憶が、改めて鮮明に蘇る。

「……二年前、家を出る時、征四郎はこの梅を見て―――」

 征四郎はリュカに何かを言おうとした。
「……?」
 静かに征四郎の言葉に耳を傾けながら、リュカは続きを待つ。
 しかし、その刹那。
「申し訳御座いません。旦那様も奥様も、本日はたいへん忙しく、面会は難しいとの事で…………」
 お手伝いさんに声を掛けられ、遮られてしまった。
 ――よりにもよって、そんな哀しい事を告げる言葉で。
「そんな……!」
 リュカは突き返されて、黙っておけなかった。
「せーちゃんは遥々東京から会いに来たんだよ、一目だけでも――」
 征四郎の気持ちを考えると、胸が苦しくて。だが、
「リュカ」
 征四郎はリュカに、力無く首を振った。
「せーちゃん……」

 ――両親と会わせてあげたい。
 そうリュカが思っていたように、
 ――両親と会いたかった。
 征四郎の想いも強い筈だった。
 ――けれど。

「分かりました。お邪魔して、申し訳御座いませんでした」

 征四郎は素直に引き下がり、
 ――そして。

「良かったら……渡しておいてください」

 お手伝いさんにお土産を託すと、深々と頭を下げていた。
 そんな彼女を見つめていたリュカは、複雑な想いを胸に抱いていただろう……。

●父の恐怖
「お帰りになられましたよ」
 ノックをして入室を許されたお手伝いさんは淡々と報告した。
 すると征四郎の父は安堵したように息を吐く。
 征四郎の父は忙しい訳ではなかった――ただ娘に会いたくなかっただけなのだ。

 征四郎は女児――。
 古いならわしが染みつく家柄であるからこそ、彼女を冷遇するのは元々である。
 ……しかし、会わなかったのには他にも理由があった。
 それは上の三人の兄弟を助け、征四郎を置き去りにした日から始まった恐れ――。

『彼女が能力者になり生き残ったことへの恐怖』

 その事実が、征四郎の父を震えさせる。

「――それから、こういうものをお預かりしました。旦那様と奥様に、と」

 そうお手伝いさんは告げると近くのテーブルに、そっとあるものを置いた。
 それは征四郎がリュカと共にいっぱい考えて選んだ、お土産だった。

●やさしい帰り道
「………」
「……せーちゃん」

 ――しょんぼりしている征四郎を、リュカは優しく撫でていた。
 ――実は、幼子……ましてや己の子に対する扱いではないと、征四郎の父に対して憤慨している気持ちもあった。
(彼女の父親の恐怖も理解できなくはないけれど)
 しかし征四郎を撫でる掌は、温かい。

 まるで甘えていいんだよ、と語り掛けてくれるようで。

 征四郎は、リュカの優しさに触れると込み上げていた感情が溢れ出てしまった。
 彼のぬくもりは不思議と心を溶かしてしまう。

「家を出る時あの梅に、強くなって帰ってくると約束したのです。
 でも征四郎は、まだきっと全然、強くない……」

 きっと父は、まだ力を認めてくれていないから――
 だから会ってくれなかったんだ、と。
 征四郎はリュカに零す。
 そしてそれは仕方の無い事なんだと自分自身で語っていた。
 ――だって今も、涙を耐えることができないから。

 リュカは征四郎を見つめ、双眸を細めていた。
 
「今はまだきっと、蕾なんだよせーちゃん。梅は、寒ければ寒いほどその身をぐっとよせて耐えるんだ」

 そして優しい声で語り掛けると、征四郎の頬を包む。
 頬を濡らした大粒の涙を全部、受け止めるように。

「大丈夫、ゆっくりだけど、強くなってる」

 ――リュカの言葉を聞くと、征四郎は安心した。
 そして、柔らかで仄かに微笑みを浮かべながら頷く。

「ここまでリュカと一緒に来られてよかったのです。
 おかげでとても楽しかったし、明日もきっと頑張れる、のです」

 そう、強く。恐れずに、立ち止まらず。
 ――征四郎は征四郎なりに新しいスタートを切りだそうとしていた。
 女に生まれたことを少しだけ申し訳無く思う気持ちはあるけれど、それでも強くなれば実家に戻れると信じて。

 リュカは、‘7歳の子供’が成長しようとする様子を愛おしそうに見つめていた。
 ――征四郎は、リュカにとって歳の離れた大事な友人だ。
 これからも友として彼女を見守り、甘やかしていきたい子。

 そして、

(いつか本当の事実すら全て受け止められる、そんな強さが育つように)

 花を咲かせる未来をゆっくりと待とう。




━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛
【aa0076 / 紫 征四郎 / 女性 / 7 / 白梅の蕾】
【aa0068 / 木霊・C・リュカ / 男性 / 28 / 花待ちの愛で人】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛

 御発注頂きましてありがとうございました、瑞木雫です!
 お待たせいたしました、『白梅の故郷』いかがでしたでしょうか……!
 征四郎ちゃんとリュカさんの仲良しさに心温まり、癒されながら、描かせて頂きました。
 いつか、征四郎ちゃんのお父様が征四郎ちゃんを我が子として愛してくれる日が訪れるといいなと思いつつ……切ないです。
 ですが、リュカさんの愛に包まれ続けるのなら、征四郎ちゃんの強さはこれから健やかに育まれていくのだろうなと感じておりました。
 お二人のこれからの物語が、温かで在りますように。
浪漫パーティノベル -
瑞木雫 クリエイターズルームへ
リンクブレイブ
2016年04月18日

投票はログイン後にできます。

ログインはこちら












©Frontier Works Inc. All Rights Reserved.