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『「困ったわね……閉じ込められたわ」 』
アリスjc2226

 脳裏を、焦燥が過る。

「この部屋に入った途端、入り口が閉まる仕掛けだったのね……どうにかして出る手立てを探さないと」

 コツン、コツン。
 暗くじめじめとした遺跡の中に、ヒールが石床を踏む音だけが響いた。
 手にした灯りは間もなく油が切れてしまう。照らし出される長い影が揺らめく先に、見える物はひたすら同じ床、床、床。
 この遺跡には呪いが掛けられているという。でも、私はそんな物を恐れたりしない。

「必ず脱出して見せるわ。それにしても……うう、何だか蒸し暑い……」

 レザーのライダースーツに無理矢理に押し込めた豊満な双丘、その隙間を汗が流れた。緊張と、休まず探索を続けていたせいもあるだろう。服の中はすっかり濡れ濡っていて。

「も、もう我慢できない……誰もいないし、いいわよね……」

 ファスナに手を掛け、其れを臍まで引き下ろす。ぬるり、胸囲120センチのバストが半分ばかり顔を出し、玉肌は陰鬱な遺跡の空気に震えた。

「ふう……少し、楽かしら。さ、探索を続けましょう」

 うなじに張り付く青髪をかき上げ、背中に流す。匂い立つ様な女の香が、ふわりと石室に漂った。
 ――おそらくは、それが切っ掛けだったのだろう。

「?! きゃっ……何?!」

 突如、地響き。部屋の隅、床が石板の擦れる轟音を立てて左右に開く。その下から漏れ出る淡い光に、暗黒は切り裂かれて。

「出口……?」

 駆け寄ると、それは出口ではない様だった。光は蛍の様にふわりと舞い上がり、私の身体の周囲を浮遊する。

「何かしら、これ……綺麗だけど――っあ?!」

 一歩踏み込むと、床が沈み込む。……罠! 気付いた時には、もう遅い。

「あ、あっ……いやぁっ!」

 天井から落ちてきた鎖が細首を絡め取る。その鎖は私を持ち上げ、吊るし上げようとしていた。

「ぐ、うっ……やめ、くるし、」

 手足をばたつかせ、鎖を掴んで抵抗する。身を捩ると、其の度に大きな胸がぶるん、ぶるんと千切れんばかりに振り回されて。けれど絡繰仕掛けに太刀打ちできる程、その力は強くない。瞬間、

「ひぎゃ、あッ?!」

 下腹部に、鋭い痛みが走った。まるで爪と指の隙間に、針を刺し込んだ様な激痛。それが、丁度臍の辺りに。

「な、なにぃ……? 何で……どうなって、」

 痛み。混乱。目端を涙の雫が伝い落ちる。必死で下を見ても、胸に邪魔されて其処がどうなっているのか見えない。唯――

「ひっ――」

 無数の光球は、小蠅の様に下腹部に群がっていた。

「いっ……ぃやぁぁあぁッ!! 痛、っ痛いッ!!」

 最早意識は完全に自我から切り離されて、口は勝手に悲鳴を叫び、裏腹に感覚は否応無く研ぎ澄まされる。想像を絶する苦痛が、冷静な思考を奪い去った。

「なに、これっ……やだ、やだやだっ、入って来ないでぇッ!!」

 みちみちと肉を押し広げる感覚に堪らず天を仰ぐ――光球が齎す光明に照らし出される、遺跡の天井。その光景に、碧眼は凍り付いた。

「……――、」

 足元ばかり見ていて、気が付かなかった。天井は思っていたよりずっと高く、そしてその暗がりには、吊り下げられた無数のミイラ。

「あっ……あっ……な、に……?」

 急に、痛みが和らいできた。代わりに、今まで感じた事のない感覚が襲ってくる。例えるなら、内臓の中で風船が膨らんでいく様な。

「ひっ……ひっ……な……これぇ、」

 見る間に、胸と腹が膨張を始める。圧迫感の余り、口を開けてはふはふと息をする他ない。妊婦の様に張り詰めた丸みを呼吸と共に苦しげに上下させ、屠殺を待つ肥え太った家畜の様に吊るされたまま。

「ゆ、ゆゆるしてっ……こ、こんな呪いだって、知らなかったのっ」

 腹が膨らむ程に、スーツの脇がめりめりと裂ける音をさせる度に、若々しい肌は徐々に艶めかさを帯びてゆく。

「あ、わ、あ……、……いやぁ、」

 間もなく、その姿は成熟した40代女性の其れとなった。頭上に吊り下げられたミイラが何を意味するか、もう分からない筈が無い。しかし、成長はそこで止まった。

「……、……?」

 倦怠感が強い。声も出せないまま、僅かに顔を上げる。一度収束した筈の光が、再び群がって来ようとしていた。

「――い……!!」

 悲鳴は、最早人語を成さない。滅茶苦茶な抵抗も空しく、下腹部は再び光球の侵入を許した。

「っ、う……っ、ふ、ぐ、」

 嫌悪に耐え忍ぶ脳髄に、引き千切られるかの如き痛み。こめかみに噴き出す脂汗。

「――! ぐ、ぎぃ……」

 胸と腹を裂く様な痛みが襲う。食い縛った歯がガチガチと鳴る程だ。そして、憔悴し切ったその瞳は、信じられない光景に見開かれた。
 ――胸が、萎んでゆく。萎びた林檎の様に。

「は……ぁ……」

 ぴったりと身体を覆っていたスーツは、皮の剥がれる様にぺらりと肌を滑り落ちた。
 いつしか、苦痛も感じない。
 あるのは唯、急速に冷え切っていく感覚だけ。

「……、……」

 そして――……
 ――呪われた遺跡の噂が、また一つ増えた。

 BAD END.

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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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アリス(jc2226)
 性別:女
 年齢:20
 職業:大学部2年

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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ご依頼ありがとうございました。元々この系統のクリエーターなので大変楽しく書かせて頂きました。
アリスさんが遺跡にいらした理由、また基礎設定もございません状態でしたので、想像で書く部分が多くどきどきしました。思い描く所に近ければ幸いに思います。
本当は最後に片思いの相手の名前でも呼ばせたかったですので、差し支え無ければこれら是非お書き添え下さい。
この度は清水澄良にご縁を賜り、誠にありがとうございました。
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エリュシオン
2016年04月19日

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