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『湧きて流るるもの 』
音羽屋 烏水(ib9423)

 天儀の中央部分に位置する石鏡の国。
 精霊が還る場所と言われるそこは、中央の巨大な三位湖の恵みによって支えられた、天儀において最も豊かで、石鏡の賢王と呼ばれる布刀玉が、正室と共に治める国家である。
 石鏡の国は、かつては双子の王が治めていたがそれももう20年余り昔の話。
 アヤカシの被害も護大が去って以降、格段に減り……今では殆ど見られない程にまで落ち着いている。
 そして布刀玉とその正室の子――双子である長男と長女もまた両親と同じ巫女となり、成人を機に正式に王を支える者としての職務につき、両親を支えていた。
 ……退位した妹王の香香背はどうしたかと言うと、天儀一と誉れの高い元開拓者の三味線弾きと結婚。
 その後、夫婦揃って天儀を巡り、石鏡国王の手がける慈善事業に必要とあらば石鏡に舞い戻る生活を送っていたが……色々と考えた末に石鏡国内に居を構え、腰を落ち着けて――。
 それから早いもので、気がつけば10年が過ぎようとしていた。


「…………」
「…………」
 自宅の一室で、向かい合う烏水と香香背。烏水の相棒であるもふらさま……いろは丸の、団子を齧る音だけが響く。
 そんな中、聞こえて来る雲雀の囀り。
 ――そういえば、石鏡に戻って来たのも雲雀が鳴き始める季節だったのう……。
 遠い目をする烏水。
 彼と、彼の妻である香香背が終の棲家として居を定めたのは、かつて瘴気によって汚染された和泉の地だった。
 友人である星見家の当主や、その従者の昭吉も復興に尽力し、石鏡王の全面的な支援を得て村は大分元に戻っていたけれど。
 自分自身が深く関わった地でもあり、思い入れも深く……更なる復興と発展の手助けをしたいと烏水が言うと、香香背もそれに賛同した。
 天儀一の三味線弾きと、元石鏡王が住む村の噂は国内外を一気に駆け巡り、烏水に弟子入りを志願するものが次々とやってきては、ここに住むようになった。
 そんな事を繰り返しているうちに、和泉の地は小さいながらも芸能の村として知られるようになり……。
 そして、香香背がかつてからの夢だったもふらさまの育成に着手し、村の一角に小さなもふら牧場を開設。
 歌ともふらさま溢れる、何とも不思議な村へと進化していた。


 で。何故、烏水と香香背が無言でにらめっこをしているのかと言うと。
 突然手土産を持ってやってきた甥と姪がこんなことを言い出したからである。
「叔父上、叔母上。僕達が従妹弟達を見てますから、2人でゆっくりしてきて下さい」
「家と牧場のことはお弟子さん達に頼んでおきましたから。どうせなら1泊して温泉にでも行っていらしたらどうですか?」
「お、お前達。仕事はどうしたんじゃ!?」
「そうよ。お兄様もお義姉様も忙しいでしょ!?」
「「大丈夫です! お休み貰って来ました!」」
 驚く烏水と香香背に、きっぱりと言い返す甥と姪。
 さすが双子、息もピッタリ……などと関心している場合ではないのだが。
 横に目線を移すと、娘と息子は大好きな従兄姉の出現にすっかり大喜びしてしまっていて――。
 ――石鏡に戻ってからそう時を経ず、烏水と香香背は2人の子宝に恵まれた。
 9歳になる長女は、父譲りの黒髪に蒼い瞳に母譲りの気風の良さを。7歳になる長男は、香香背曰く、『お兄様の小さい頃そっくり』で……黒髪に黒い瞳と、思慮深い性格を持っていた。
 石鏡に本格的に居を構えてまもなく始まった育児。
 そして一人、また一人と増えて行った弟子達の指導や稽古、もふらさまの世話に加え、復興の一環として星見家や王都への顔出しと、この10年どたばたしているうちにあっと言う間に過ぎて行って……。
 確かに、2人でゆっくり過ごす時間なんて、ここに住み始めてからずっとなかった気がする。
 甥達の気遣いはとてもうれしいのだけれど。
 いざ、『ごゆっくり』と言われてしまうと、何をどうしたらいいのか……。
 いつもだったらいろは丸がいるし、何かしら喋ってくれて場が和んだが、今回は早々に姪に回収されてしまったのでそれも叶わず。
 香香背は、目の前にいる夫をちらりと盗み見る。
 ……出会った頃はお互いにまだ子供で、年下である烏水は己より背が低いくらいだったのに。
 すっかり背が伸びて、いつしか追い越されて……身体も筋肉がついて逞しく、そして大人の顔つきになり、今では年相応の貫禄も持つようになった。
 変わらないのは、ずっと優しく、自分には甘すぎるくらい甘いことで――。
 妻の目線に気付かず、ごほん、と咳払いした烏水は頭をぼりぼりと掻きながら続ける。
「……あの子達にも困ったものじゃな」
「そうね。でも、優しい子達だわ。折角だし、お言葉に甘えない?」
「そうじゃな。して、香香背はどこぞ行きたい場所はあるかの?」
「え? うーん……。急に言われても……。烏水とはあちこち巡ってるし。もう一度行ってみたいと思ったところ遠いのよね……。あなたは?」
「むう。近場と言われてもの……」
 再び続く沈黙。腕を組んで考え込む2人。何かを思いついたのか、香香背が顔を上げる。
「そうだわ、烏水。一緒にお昼寝しましょ!」
「……は? え? なんじゃと?」
「だから、縁側にお布団敷いて、並んでお昼寝するのよ。日向ぼっこしながら寝るなんて最高に贅沢じゃない?」
「いやあの。折角の休みじゃぞ? どこぞに出かけなくていいのかの?」
「あら。出かけるだけがお休みじゃないわよ?」
 目をぱちくりさせる烏水に、輝くような、満面の笑顔を向ける香香背。
 年を重ねても、彼女はとても健康的で美しいし、突拍子もないことを言い出しては烏水を驚かせてくれる。
 ただの昼寝を贅沢だ、なんていい切る香香背は愛らしいし、誇らしい。
 言っている傍から敷布団を引きずり出し、縁側に豪快に敷いた彼女。
 そのまま布団に倒れ込んだ香香背に、烏水は笑いを噛み殺す。
「ほら! 烏水も! 早く早く!」
「ほいほい。お隣失礼するぞい、と。……さすがに1枚の布団じゃ狭いのう」
「ふふ。そうね。でもたまにはこういうのも良いわよね」
 くすくすと笑い合う2人。布団が狭いので、どうしてもくっつかねばならず……烏水は香香背の首の下に手を入れて、腕枕をする格好になる。
「ねえ。烏水」
「……ん?」
「明日は一緒にお出かけしましょ。銀泉に、国立孤児院出身の子が甘味処を開いたそうなの。美味しいって評判なんですって」
「ほう。それは初耳じゃの。どうせ銀泉に足を伸ばすなら、隼人にも挨拶をするとしようかのう」
「そうね……」
 ふぁ……と欠伸をする香香背に釣られる烏水。彼も欠伸をして目をこする。
「……香香背」
「んー……?」
「ありがとうの」
 烏水の口から自然と出た感謝の言葉。
 ――香香背は元々王位にあった者だ。色々な贅沢なものに触れて来たであろうに。
 質素な生活を好み、力仕事や家事を嫌がることもなく。
 気風の良さと繊細さを兼ね備え、些細なことを喜び幸せだと笑う妻に、烏水は長いこと支えられてきた。
 ありがとう、なんていう言葉では足りない程なのだが――。
 返事の代わりに聞こえてくるのは規則正しい寝息。
 早々に眠りに落ちた妻の髪を、烏水は優しく撫でて――。
 明日は、香香背に何を見せてやろうか……。
 そんな事を考えながら。烏水もまた、微睡みの中に沈んでいく。


 ――天儀一と謳われた三味線弾きは、いくつもの楽曲を後世に遺すこととなるが、その中でも有名なものが2つ。
 一つは、世界の歴史を歌にした語り物──『舵天照』。
 もう一つは――己の人生を語った『和泉』。
 妻や子、弟子達との何気ない日常を綴る歌。
 泉から湧いて流れる水のように、想いが湧いて、人の絆が繋がっていく様を歌ったそれは、多くの者の心を慰めるものとなる。

━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━・・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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ib9423/音羽屋 烏水/男/16/天儀一の三味線弾き

香香背/女/17/石鏡国王(NPC)

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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お世話になっております。猫又です。

納品まで大変お待たせしてしまい、申し訳ございませんでした。
和泉の村の未来と、奥様との休日、いかがでしたでしょうか。
和泉の村は不思議な方向へ進化を遂げましたが、楽しい村になっていくことと思います。
好き勝手色々書いてしまいましたが、話し方、内容等気になる点がございましたらお気軽にリテイクをお申し付け下さい。

ご依頼戴きありがとうございました。
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舵天照 -DTS-
2016年04月21日

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