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『変わるもの、変わらぬもの 』
野乃原・那美(ia5377)&川那辺 由愛(ia0068)

「由愛おねえちゃーん。あーそーぼー」
「こんにちは、那美。今日は何して遊ぶ?」
「ボク、由愛お姉ちゃんと一緒ならなんでもいいよ」
「那美はいっつもそういうわねえ」
 いつもの通りに始まるやり取り。
 大きな丸い瞳をきらきらとさせて笑う野乃原・那美(ia5377)に、川那辺 由愛(ia0068)も笑みを返す。
 ――那美は、由愛の家の近くに住んでいる幼子で、由愛とは10歳近く年が離れている。ご飯を済ませてくると決まって由愛の家に、歌いながら現れるのが日課だった。
 年が離れていて、一緒に遊ぶと言うよりは由愛が遊んであげている、という感じが否めなかったけれど。
 それでも、由愛は茶色の柔らかな髪を揺らして駆け寄ってくる小さな友達が可愛いと思っていたし、とても気に入っていた。
「……そうだ。那美。今日はお花摘みをしない?」
「お花摘みー?」
「うん。川原に、シロツメクサが沢山咲いているところを見つけたの。とっても綺麗なのよ」
「シロツメクサ? すきー! 沢山咲いてるなら、花冠作れるね! いきたーい!」
「じゃあ決まりね。折角だし、おやつもって行こうか」
「うん!! やったー! お花摘みお花摘みー!」
 ぴょこぴょこと飛び跳ねる那美。
 彼女もまた、近くに住んでいる心優しくて明るく、楽しいお姉ちゃんが大好きだった。
 那美に兄弟はいないけれど、お姉ちゃんにするならこの人がいい。
 実際、両親に姉が欲しいと無理を言って困らせたこともあった程で――。
 こうやって手を繋いで、一緒にいられることが本当に嬉しくて。小さな那美にも、この感情が『幸せ』というものだということが、何となく理解できた。
「ねーねー。由愛お姉ちゃん、まだー?」
「もうちょっとだよ。そこの階段上がったらすぐだから」
「ホント!? 由愛お姉ちゃん、もっと早く!」
「慌てなくてもシロツメクサは逃げないわよ」
 由愛に手を引かれて、石で出来た階段を登る那美。
 不意に開けた視界。そこには空の青と、光を浴びて反射する川面と……一面に広がる白い綿毛のような花――。
「わぁ……! 本当に沢山だね!」
「でしょー。那美に見せてあげたかったんだよね」
「由愛お姉ちゃんありがと!」
「どういたしまして。ほら。折角だから花冠作ろ?」
「うん! これだけあったら首飾りも作れちゃうね!」
「あはは。そうだね。腕輪も作ろうか」
「あっ! 見て見て、由愛お姉ちゃん! 今バッタがいたよ!」
「本当? どれどれ……」
 きゃあきゃあと騒ぐ那美と由愛。川原に、高らかな笑い声が響く。
 ――こんな楽しい毎日が、ずっとずっと続くのだと思っていたのに。


「ねえ、かかさま。どこにいくの?」
「ちょっとね。遠くに行くのよ」
 母の声に、ふーん……と呟いた那美。
 母がやたらと大きな荷物を持って歩いているのが気になったけれど。
 遠くに行くのはほんの数日で、またすぐに戻って来られるのだろう。
 だって、由愛お姉ちゃんと『また明日ね』って約束したし。
 戻ってきたら、一緒に遊ぼう。今度は何して遊ぼうかなー。
 那美はうふふと笑って――。


 その日を境に、ぱたりと那美は現れなくなった。
 最初は、風邪でも引いたのだろうと思っていた。
 3日経っても現れず、1週間経っても音沙汰もなく。
 心配で、外に出て待っていた日もあったが、幼い友人が顔を覗かせることはなく……。
 不審に思った由愛は、那美の家を訪ねてみることにした。
 ――思えば、いつも遊びに来るのは那美の方からで、由愛の方から訪ねて行くことは殆どなかった。
 那美の家族の顔も知らない。
 突然訪ねて不審に思われないだろうか……。
 期待と不安を抱えて行った先。記憶を元に辿りついた幼い友人の家には……誰もいなかった。
 ……何故? ここは那美の家のはず。
 戸を叩いても何の反応もない。窓から覗くと、調度品や家財が全て消えている――。
 どういうことなの……? 那美はどこへ行ったの……?
 疑問で頭がいっぱいになる由愛。そこに通りかかった老人に、思い切って声をかける。
「あの。すみません。ここの家の子……那美っていう子なんですけど、知りませんか?」
「ああ、ここの家だったら先週引っ越して行ったよ。随分急いだ様子だったけど何があったのかねえ……」


 ……それから由愛は、老人とどんな会話をしたのか、どうやって家まで戻ったのかあまり覚えていない。
 大事なお友達が己に何も告げず、そこにいた痕跡すら残さずに消えてしまった。
 その事実は、年端もいかぬ少女には、あまりにも重い現実で……ただただひたすら、毎日泣いていたような気がする。
 いつしか悲しみは諦めに変わり、そして時と共に忘れていって――。


 そして時は流れ……。
 色々とあって家を飛び出し、開拓者となった由愛。身長や体型は残念ながら10年経っても変わらなかったけれど。開拓者としての経験は彼女に年相応の落ち着きを与えていた。
「……盗賊が出るっていうのは、この辺りかしら」
 道を覆うように立ち並ぶ木々。葉の間から、太陽の光が降り注ぐ。
 その日、開拓者ギルドからの依頼を受けてとある街道にやってきていた。
 最近、この街道に道行く人を狙って追い剥ぎを働く盗賊が現れるという。
 人々の安全を脅かす不届き者は、さっさと捕まえてギルドに突き出してやらねばなるまい。
 ……なーんてね。
 心の中で、ぺろりと舌を出す由愛。
 これは建前で、本当は早々に用事を済ませて帰りたいだけだったりする。
 その為にも、さっさと出て来い盗賊ーーー!!
 彼女がそんな事を考えた刹那。感じた視線。
 向けられる、刃物のような真っ直ぐな殺意。
 考えるより先に、身体が動いて……身を翻して飛びずさる由愛。
 襲ってきた賊は、腰下まである茶色の髪を靡かせたうら若い乙女で……驚きに目を見開く。
「……へえ。ボクの不意打ちを避けるなんてなかなかやるね」
「不意打ち? 良く言うわ。不意を狙うならもうちょっと殺意を隠した方がいい……」
 言い終わる前に、跳躍するシノビ。
 閃く白刃。再び飛びずさる由愛。すんでのところを通り過ぎたそれは、彼女の長い黒髪をほんの掠める。
 少し切られて風に舞う黒髪。次の瞬間、感じた空気を裂く気配。
 由愛はとっさに白い壁を召還してそれを避ける。
 突如現れた壁。シノビの少女は咄嗟に刀を翻す。
 ぶつかり合う目線。シノビの少女は由愛と同じ赤い瞳を細めて笑う。 
「結界呪符……! 陰陽師か。盗賊の手下にしては上等な職業じゃない。いい加減逃げ回ってないで縛につきなよ!」
「誰が盗賊の手下よ! あたしは開拓者だってーの! そっちこそ盗賊の手下のくせに偉そうじゃないの?」
「ハァ!? ボクはここの近くの村に住んでる人に頼まれて盗賊をやっつけに来たの!!」
「へっ? じゃあ、盗賊の手下じゃないの……?」
「えっ……? あなた、同業者?」
 キョトンとする2人。しばし見つめ合ったあと、乾いた笑いを浮かべてため息をつく。
「あーあ。勘違いか! 変だと思った。どおりで盗賊にしては腕が立つと思ったのよ」
「それはこっちの台詞だよ! こんな強い盗賊がいたら世も末だよね!」
「良く考えてみたらそうよね。勘違いしてしまってごめんなさいね。怪我はない?」
「大丈夫だよ。確認もしないで襲いかかったのはこっちだし。敵を見るとどうしても切れ味を試したくなるんだよね。ごめんね」
「勘違いはお互い様よ。気にしないで。それにしても、あなた素直ないい子ね。気に入ったわ」
「ありがと。おねーさんもいい人だね。何か懐かしい感じがする」
「あら。偶然ね。あたしもそう思ってたとこ」
 えへへへと笑い合う由愛とシノビの少女。
 ちょっと考えた後、同時に口を開いて……。
「「お詫びと言ってはなんだけど、この後開いてたら飲みに行かない?」」
 ぴったりとハモった声。
 2人は再び顔を見合わせると、ぷっと吹き出す。
「あなたとは気が合うみたいね……!」
「本当だね。この近くの街にモツ煮込みが美味しい酒場があるんだ! そこにしない?」
「あら素敵! ……そんな話聞いたらすぐにでも行きたくなったわ。早々に盗賊を退治しましょ」
「了解! じゃあ、おねーさんは北を探して。ボク南側を探すよ」
「分かったわ」
 頷き、散会する2人。
 まもなく盗賊を発見し、あっさりと始末を終えて――。
 そして由愛とシノビの少女は意気揚々と酒場に向かい、酒を酌み交わした。
「あなた随分と強いけど、どこでシノビの修行したの?」
「それはねー。色々とあってさー。おねーさんこそ、陰陽師の腕確かだよね」
「あたしは家を飛び出してから、陰陽師に弟子入りしたのよ。追っ手をあしらう為に色々やってたら、気がついたら強くなってたわ」
「追っ手って……おねーさん何か悪いことしたの?」
「あー。違う違う。あのねー……」
 他愛もない話で盛り上がる2人。
 こんなに話し込んでいてもなお、このシノビの少女が、遠い昔に別れた幼い友人……那美であることに、由愛は気付くことはなく――。
 無理もない。長い年月はお互いの姿をすっかり変えてしまっていたから。
 それでも――再び出会えた。重なり合う2人の運命。
 お互いがお互いの正体に気付くのは、もう少し先の話となる。

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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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ia5377/野乃原・那美/女/15/戻りたかった妹
ia0068/川那辺 由愛/女/24/待ち続けた姉

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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お世話になっております。猫又です。
お届けまで大変お時間を戴いてしまい申し訳ございません。

すれ違う2人のお話、いかがでしたでしょうか。
好き勝手色々書いてしまいましたが、話し方、内容等気になる点がございましたらお気軽にリテイクをお申し付け下さい。

ご依頼戴きありがとうございました。
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2016年04月22日

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