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『「惨いわね……」 』
アリスjc2226

 ブルーシートを除けると、現れたのはふやけた乾き物の様な死者の皮膚。
 砂浜に横たえられた遺体は、所持品から辛うじて、先日あの海中遺跡の調査に向かった女性と判明した。事件を聞きつけて集まった地元住民が、遠巻きにこちらを見ている。

「……まるでビーフジャーキーみたいに萎びているわ。着ているビキニからして、元々はFカップくらいある、スタイルの良い女性だったみたいね。一体どうしてこんな姿に……」

 だけど、危険なのはいつもの事。それに、私は魔法も使える――大丈夫、お宝は必ず見つけ出す。
 私は立ち上がり、遺跡へ向かう船乗り場へ足を運んだ。

 ――船からはビキニを着て遺跡まで泳ぐ。空気のある場所まで到達し、私は防水バッグに入れていたライダースーツを出して着直した。

「ううん、海水でべたべたして……うまく着られないわ。蒸れるし、このままにしておきましょ」

 ファスナも上げず、着るというより大きな胸とお尻にスーツを引っ掛けた状態で、私は遺跡の探索を始めた。すると、度々耳元で、ぶんぶんという羽音が聞こえる。

「やだ、虫が居るわ……刺すかもしれないし、気を付けなきゃ――痛っ、?」

 顔周りを振り払った直後、胸の裏側にチクリとした痛みが走った。咄嗟に触ってみると、少し腫れている。豊満なバストの為に、虫の接近に気が付かなかった様だ。

「困ったわ、毒が無ければいいけど……早くこの通路から出なくちゃ。――あら?」

 指先に違和感を感じた。何となくその正体を探ろうと、意識を集中すると――

「……っ!! ……」

 虫刺されの様に腫れた其処は――皮膚の下がうぞうぞと、確かに蠢いていた。

「なっ……か、に……?!」

 理解した瞬間、悪寒が背筋を這い上がった。直後、全身から嫌な汗がどっと溢れる。虫は刺したのではなく、体内に入り込んでいたのだ。さらに……

「え……っ?」

 患部は、最初より明らかに肥大化していた。蚯蚓腫れの様な症状は驚くべき速さで胸と腹部の全域に広がり、どくどくと蠢動する。

「あ、わ……」

 とにかく落ち着こうとした。しかし、得体の知れない虫に寄生された生理的嫌悪感で、頭は真っ白で。そんな時、耳元で再びぶん、という羽音が鳴った。

「ひっ……いやぁっ!!」

 我も忘れ、私は遺跡の更に奥へと駆け出した。胸部と腹部の症状はみるみる進行し、今やぱんぱんに腫れあがっている。ビキニとボディースーツは益々脱げ掛け、まるで下品な恰好をした妊婦のようで。

「はぁ、はぁ……、?」

 私は自分が息を切らしている事に気付く。おかしい、普段はこの程度、走ったうちに入らないのに。蠅の様な虫はあっという間に私に追いついて来て、胸や腹は何度も刺されてしまった。

「ううっ……な……んで……」

 重い身体を引き摺る様に走りながら自分の首下を見下ろして、私は再び凍り付く。

「……」

 皺だ。
 腕、指、脚、全身に見られるのは、紛れも無く加齢を示す皺だった。張りを失い、皮膚がどんどん弛んでいるのだ。代わりに、胸と腹だけが際限無く膨張してゆく。
 其処で、私は漸く理解した。
 この寄生虫は、私の魔力を食っている。魔力を糧に、成長している。

「っ……まさか、魔法が使える事が仇になるなんて……!」

 腕を動かせない程、胸は肥大化していた。少しでも動き易くしなければ……。汗の滑りを借りて、私は何とか延びきったレザースーツから身体を引き抜いた。顔に触れてみると、くっきりと浮き出た豊齢線。

「……そ、んな……」

 外見はおよそ40代後半、元来の美貌は見る影も無い。絶え間無く唇から漏れる息、早く逃げなくてはならないのに、なぜか脳内を埋め尽くすのは別の欲求で。

「……ど、して……こんな、ときに……」

 走れなかった。内股を擦り合わせ、もじもじとその場にしゃがみ込む。

「……た、えらない……、……っでちゃ、――あ、あっ……」

 限界まで我慢していたせいで、感覚はひどく間延びして。いつまでも続くのではないかと思える様なその間、私は只ぶんぶんという羽音を聞いている。無抵抗の身体に虫は群がり、更なる寄生を受けていた。

「……、……」

 どのくらい経っただろうか。ゆっくりと顔を上げた女の瞳は、ぼんやりして焦点が定まっていない。ふらりと立ち上がり、誘われる様に遺跡の最奥へ。その部屋は、全ての壁が鏡で出来ていた。

「……」

 天井から触手が伸びて来ても、私は全く反応を示さない。触手は手足に絡み付き、中空へ身体を海老反りに持ち上げる……

「――ッッ!! っあ゛?!」

 脳を侵す毒よりも強烈な痛覚に、私はやっと理性の一部を取り戻した。それはまるで胎児が産まれ出る道をこじ開けようとする様な――そう、陣痛の様な、凄まじい激痛。

「あー、あ゛ーっ! あ゛ーー!!」

 逃げ出そうとしても、とうに齢50を過ぎた身体は全く言う事を聞かない。そればかりか魔力を吸い出された肉体は劣化、ミイラ化を始めていた。この女が最早手遅れである事は誰の目にも明らかだった――そう、鏡に姿を映す、私自身の目から見ても。

「ぎ……あ、」

 自分の身体を見下ろすと、視界いっぱいに肥大した胸。僅かに見えるその向こう側に、血を滴らせる巨大な結晶が顔を出した。

「……」

 胎内で育まれた結晶は、その肉を裂いて外へ。ズ、ずじゅ、と身の毛もよだつ音がする。するすると伸びてきた触手が、出迎える様にその結晶を掴んだ。
 ――そして、

「――ッぎィひいいいいいいイいいいいいい!!??!」

 断末魔を上げ、泡を吹き、眼球は勝手に上瞼の裏を見る。質量を失った胸は瞬時に萎び、全身は急速にミイラ化が進行。意識が暗転する直前、私が見た最後の光景は――伸びきったビキニが、骨と皮だけになった身体を滑り落ちる瞬間だった。

 BAD END.

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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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アリス(jc2226)
 性別:女
 年齢:20
 職業:トレジャーハンター

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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清水澄良でございます。
基礎設定のお蔭で、前回よりアリスさんの事をよく理解する事ができました。お気遣いに感謝致します。
お手紙頂いて、恋愛疎かったりと純真な子なんだということも知る事ができました。
これでもっともっと彼女が嫌がる、陰惨な虐め方をしてあげられます。(黒笑)
この度は清水にご縁を賜り、誠にありがとうございました。
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清水澄良 クリエイターズルームへ
エリュシオン
2016年04月22日

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