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『攻罪ノしをり 』
常塚咲月ja0156)&鴻池柊ja1082


 ちん、
 とん、
 しゃん。

 躱し、
 蹴り、
 打つ。

 たおやかな“華”が二輪、花弁な裾と鼓動をはためかせ。
 美に添わぬ粗野な“悲鳴”が三つ、彼方虚空へと掻き消され。
 戯れる“鬼”が二体――平素に浮かべた微笑のまま、場に甘美を携えていた。

「まあ……ほんまに鮮やかやわぁ。お強いんねぇ、お二人はん」
「いえ、彼らの軽薄さに付け込んだだけですよ」
「にしても、ナンパのタイミングと通りがかった相手が悪かったわね。鬼畜戦闘科目教師のルカとラブドクターのオレだったのが運の尽きだわ。――おら、テメェら道のど真ん中でノビてんじゃねぇぞ」
「あら、学園の先生なん? “ルカ”……? “ルカ”……――ああ、あらあら。なるほどやわぁ」
「――はい?」
「えらい偶然やねぇ。ウチの弟――柊が毎度お世話になってはるんやろ? ああ……写真で見るより男前やないの」
「は?」
「うおッ、まさか鴻池のねーちゃん!? へー、えれぇ別嬪さんじゃねぇか。しかも芸妓」
「ふふ、おおきに。そや、ならずモンから助けてくれはったお礼がしたいわぁ。明日、ウチの置屋――“華色”におこしやす。地図書いてあげるさかい、ちょい待ってぇな」
「――あ、いえ。折角なのですがお断りを。明日は、」
「常塚んとこの咲月ちゃんと逢瀬ですやろ? ふふ、無粋な真似はせぇへんから安心しておくれやす。あ、お部屋とっておきまひょか?」
「いえ、夕食を共にするだけなので」
「つーか何で知ってんのよ」
「ふふ、ウチは代々続く情報屋でもあるさかい。――ほな、これね。待ってるさかい、明日、きっとおこしやすよ? ほなね」
「いえ、あの――ちょっ、と」
「その……姐さんが堪忍どす。面倒見んええ人なんやけど、なんとええまっしゃろか……押しが時折きつぅなってしまうお人で。――ほな、ほんまにありがとうおました」

 藤宮 流架(jz0111)の教え子――鴻池 柊(ja1082)の姉が三味線を抱え、控えめに言と礼を述べた舞妓と二人、石畳の小路をしずしずと遠ざかっていった。
 気の所為であろうか。
 此方へ向けた舞妓の眼差しが、“気の毒”な色を滲ませていたような……そうでないような。

「「…………」」

 意味深な気配。
 二人の佇む足がどうしてか行動を起こせないでいた。――否。それは、鳥肌立つ空気を心得ているから。

「「――嫌な予感しかしない」」

 当たり前だ。
 良いことばかりが人生じゃあないんですよ、旦那方。



 翌日。
 今日という日和。
 古き良き都――京は、春の彩りで鮮やかに咲いていた。

 時は、学園の春休み。
 流架やダイナマ 伊藤(jz0126)と馴染みの深い彼ら、常塚 咲月(ja0156)と柊は出身地である京都へと帰省していた。
 そして今回、この教師達がペアで行動している理由。
 ――と言えば。流架の実家、骨董品店「春霞」の贔屓客が再び京都で個展を開催することになったが故に――、で、意が伝わるであろう。フォローとは形ばかり、がっつりと働かせられた。

「へー。昨日も思ったけどよ、舞妓って昼間でも結構見かけんのね」
「稽古や挨拶回りだろ」
「あら、詳しげ?」
「五月蠅い」

 京都の花街。
 茶屋と置屋が軒を連ねた風情ある町並みと、行き交う芸舞妓の姿が風景を華やかに魅せていた。

「“華色”……此処か。御免下さい」
「こんちわさん」

 伝統美を次代へ伝える柊の実家、老舗置屋「華色」――。
 よく耳にする“一見さんお断り”の世界を跨いで、一時。微風が敷居を邪魔し、桜の花弁が見世前の暖簾から覗く。その様に気を取られていた二人は、足早に足袋裏を擦る音が近づいてくることを耳に忘れていた。

「お待たせしてえろうすいまへん」

 振り向く二人の斜め後方で、膝元の合わせを片手で気にかけながら両膝をつく彼――柊の姿が。
 身形は着物。濃紺の市松文様な纏いを上品に着こなしていた。彼は此の置屋の跡継ぎ。故に、日頃から時間の余裕さえあれば家業の手伝いに勤しんでいるのだと、流架は以前から耳にしていた。

「――って、先生? どうして此処に」
「……どうしてって」
「お前さんのねーちゃんからなんも聞いてねーのかよ、おい」
「はい? 姉がどうかしました?」

 怪訝な表情で窺う柊に、流架とダイナマはちらりと目配せをして沈黙。
 ――情報屋に全然情報伝わってねぇ!!
 どうしたものか、と、二人が言い淀んでいると、

「イケメン……イケメンはいねーかー……」

 四谷で毒を盛られたのか。それとも、番町の皿でも割ってしまったのだろうか。
 奥の廊下からずりずりとナニかが這ってくる。
 青白い肌に振り乱した髪。着物の袖が萎びた蛾の羽のように見えた。声、身形の様子から窺うと、とりあえず女性――みたいなモノ。

「おいおい……ドコの井戸から這い出てきたんだよ」
「柊君、おどき。斬ってくる」
「ちょっ、藤宮先生! 気持ちは分かりますが刀を引いて下さい! ……すみません。恥ずかしながら、アレは俺の姉です」
「「Σえッ、にんげん!?」」

 ソコかよ。

「いやいやいや、どう見ても印象ちげーだろ。昨日の別嬪さんはなんつーか、こう、気品さがあったぜ」
「ダイ先生が姉にどんな印象を受けたのかは自由なので、敢えて訂正はしませんが……少なくとも俺の知っている姉はこうです。まあ、いつもの“耽美要素”が切れたんでしょうが……」

 後半、独りごちるかのように柊は溜息をつく。
 流架とダイナマが瞳を惑わせている内、柊の姉(みたいなモノ)は廊下を抜けてきて、気づけばすぐ目の前に立っていた。

「ふふふ……イケメンみーつけた……」

 ――やばい。
 本気で関わりたくない( by流架&ダイナマ

「ルカ」
「ああ。――去ね」
「――っ!? ですから刀を構えないでと、ちょっ、先生――! 姉なんです……アレでも一応姉なんです……!」

 どったんばったんごろりんちょ。
 どんな奇々怪々(

 結局、収束へと向かったきっかけを生んだのは、安定感が“あり”抑揚の“ない”彼女の音調であった。





「あれ……? 流架先生と伊藤先生だ……どうしたの……?」

 どうもこうもしません。
 京と云えば魑魅魍魎。都と云えば妖怪退治。

 ――というのは半ば本気の冗談。

「いや、みっともへんトコ見られてしもたわぁ。申し訳あらしまへん」

 平静を取り戻し、来訪した流架とダイナマで“耽美要素”を急速に回復させた井戸の住人――ではなく、柊の姉。自らの醜態など大して気にも留めない様子で、嫣然と笑みを浮かべていた。そして、改めて「おこしやす」と、重ね手で一礼。
 柊曰く、姉は“立てば芍薬座れば牡丹歩く姿は女王様”――と云うのだから……女尊男卑が柊の骨身に刻み込まれている原因と理由が実に明白である。

 一同は、欄干の向こうに花街の瓦屋根が一望できる角部屋に案内された。

 そして。
 いろイロ色――と。

 コトが起こるまでの挟まれた間、各々、赴く方角の違う言が戯れるかのように飛来した。

「――いえ、遠慮します。ダイや柊君はともかく、俺にそんな趣味はないので」
「いや、オレにもねーわよ?」
「俺にだってありませんが。……全く、しくじりました。早々に姉の企みに気づいていれば、少なくとも俺は巻き込まれずに済んだというのに」
「助けろよ。オレ達も救えよ。つーか、お前さんのねーちゃんの“礼”って、いつもこんな“仕打ち”なん?」
「時と場合が10%、90%は相手によります」
「殆ど狩りじゃねぇか馬鹿野郎! こえーよ、お前さんのねーちゃんマジこえーわ」
「ひーちゃんの姐さん……いつも逞しいよね……。んと……少し、憧れ……?」
「――咲月君。君は君のままでいて欲しい」
「う……? 流架先生がそう言うなら……そうする……」
「そういえば、月は何しに此処へ来たんだ? 先生らとは夕食の約束だったんだろう?」
「んむ……約束はしてたけど……流架先生達がいるのは、知らなかった……。家で絵、描いてて……仕上がったら暇になって……ひーちゃんちに遊びに来たら……こうなった……さぷらーいず……?」
「常塚って意外とポジティブよね。惚れるわー」
「……」
「あ、さーせん。オレの愛はルカだけのもんだぜ。そう睨むんじゃ――うぎゃッ!?」
「おー……流架先生のプロレス技、決まったー……」
「とりあえず、此処は主力の藤宮先生が出て行って生贄になって下さい……!」
「へえ? ふふ。――あン? どの口が今言った?」
「――って、うおッ!? いやいや、ねーちゃん……全員分用意してるって何よソレ。本気だな、おい」
「は? ああ、ええ……帯も上質ですね。柄も――あ、いえ、縛られるより縛る方が性に合うので」
「先生、性癖の暴露でしたら夜にして下さい」
「う……? 流架先生……縛るの、好き……?」
「月は聞かなくていい」
「おいおい、どーすんのよコレ。……化粧の準備まで始めてんぞ、ねーちゃん」
「伊藤先生……こういうの、なんて言うんだっけ……諦めも肝心……?」
「「「…………」」」

 咲月の正しい発言に、男衆、意気消沈。
 四匹の蛹は“廓”に囲われ、てんやわんやと羽化の準備が始まった。
 
 しゅっしゅ。
 ぬりぬり。
 しゅるしゅる……、
 ――きゅっ。

 さあ、わいわいやいやい楽しめばそれでいいじゃないか。

 ――いざ!

 \めたもるふぉーぜ☆/

「めたもる……? う……頭、重い……背中……引っ張られる……」

 彼女に芸名があるとしたら“蝶月”。
 涼やかなそよ風を思わせる、柔らかなミントグリーンの着物。
 涼しげな印象の中にも赤い差し色――牡丹の柄が華やかさとレトロ感を溢れさせ、すっきりとした白のだらり帯には魂の象徴である蝶が。彼女の清楚さが際立つには充分であった。
 化粧師(けわいし)が面と首筋に白粉を塗り、目尻に赤い縁取り――厄除けを施す。
 唇には、紅。
 髪結いは流石にかつらであったが、印象がガラリと変化するのは言うまでもない。
 そして“今年も一年、稲穂のように頭を垂れ、謙虚に生きます”という意を持つ、花簪。最も顔に近く、顔映りを良くしてくれる髪飾り――つまみ細工のそれは、花薬玉。しかし、彼女の生まれ持っての端整な顔立ちには不要なものであるのかもしれないが。
 繊細な指先で触れる前衿の合わせには、流架の店で譲渡した蝶のつげ櫛を。

「ん……でも、新鮮……? おー……ひーちゃんの舞妓さんも……んと、綺麗……だよ……?」
「……月、フォローならいい」

 彼に芸名があるとしたら“柊扇”。
 深い藍色と黒のぼかしの地に、流水の如き流れで輝きを放つ辻が花が神秘的な纏いで。帯は真白に、朱な椿が咲いていた。まるで、彼の芯を表現しているかのように凛と響いている。
 花髪飾りには上品な花々を集めた洋花の物を。勿論これは、彼の姉のテイストを反映させた結果だ。しかし、そのセンスはプロの芸妓様様。メインのダリアやガーベラが見事に和と調和している。
 ――が、当人には詮無いこと。言い方を変えれば、

「……どうでもいい。ああ……間違いなく今日という日は俺の一生の中で、何としても忘れなくてはならない一日になるな」
「忘れられない一日、の間違いだろう……柊君」
「あ、そうなん? 着てみりゃけっこーサマになってんじゃねーの? 美人よ、お前さんら」
「「……」」

 彼らに芸名があるとしたら“叶架”、そして――……、……、……“Unknown”?(
 洗練された着物姿が似合う流架の地は、白。そして、大人の象徴の黒が袖と裾に活かされていた。紫や薄紅の枝垂れ桜の柄が彼の世界に映え、帯は黒地に金糸刺繍の唐草柄。
 対して、ダイナマの世界はブリリアントブルー。白地に映える柄は黒と青の薔薇。大輪の花が実にクールな印象を与えるが、裏を返せば遊び心が控えているようにも感じさせる。帯の色には彼の瞳と同じ色をあしらい、柄はシンプルに檜垣。
 花髪飾りは、春の色合いが柔和な美を映し出す花――桜とダリアを流架に、色合いの異なる紫を真白と共にアレンジしたアンティークな花々――それを、ダイナマの髪へ。

 ――髪。
 そう。舞妓のかつら、そして、白塗りをしたのは咲月のみ。男性陣は唇に紅を差す程度であった。それ以上は彼らの硝子のハート木端微塵(又の名を再起不能)確率が高いであろうが故。姉のせめてもの情けだ。

 が。

「デジカメデジカメ! これは最大級の萌えやわぁ!」

 双眸をうっとり。
 フラッシュフラッシュ。
 閃光の中、柊の姉の趣味が爆発していた。四匹の蝶が羽ばたくことを忘れ、浮世の水に浸らされているこの状況。柊は死んだ魚のような半目を据わらせて、ゆるりと起こした首を流架へ向けた。

「先生の所為で俺までコスプレする羽目になったじゃないですか……――って、先生、一人でさっさと紅を落とさないで下さい」

 正確には落としたのではなく、落ちたのだが。
 小腹が減ってしまったのもまた事実で、流架は茶菓子にと用意されていた八ツ橋を紅ごと頬張っていた。しかし、そんな腹事情などお構いなし。どうしてくれるんだ、と、言わんばかりの彼。
 だが、どうか思い出して欲しい。そもそも、事の発端は? 本を正せば? 根源は? 元凶は――?(
 流架は微笑みの頬を凍らせたまま、柊に優しい声音で“手向けた”。

「その“勇気”は称えるがね。――本当に、良い度胸だ」

 抜刀。
 愛刀片手に身形は時代劇。
 だが、気配は殺陣の予感。

「っわ……! ――っ!?」

 柊は反射的に防御の構えを取るが、いかんせん、五〜六mを結んだ帯のバランスと裲襠の長い裾に慣れているはずもなく。畳を擦り、揺れ、踏み――乱れた。

「、」

 酩酊したかのように足許がぐらついた柊の腕を、流架は波打ちのない表情でとる。しかし、肩幅や胸板の厚みなど、筋骨の差がある二人。予想した以上の重厚感に、流架の掌の力は奪われ――結局は懐で受け止める他なかった。

 だが、それは単なるオマケな“結果”となってしまう。

「あー……。ちゅー……ひーちゃんと流架先生、ちゅーした……」

 ――そう。

 柊の頬が流架の懐に預けられるまでの順、ふとした拍子で柊の唇が戯れた。
 咲月が平素の音調の流れに僅かな不満をのせた“言”の通り――彼女の幼馴染の唇は彼女の教師の唇へ。その証拠に、流架の唇には紅がうっすらと移っていた。

「むぅ……ちゅー、した……」

 咲月の目が“彼”に焦点を絞る。

「……咲月君?」
「月、誤解するな。――分かってるだろう?」
「う……。んむ……」

 諭すような柊の声音に、咲月は縋るような目を流架に置いたまま顎を引いた。そして、すいと裲襠の歩を進ませて流架の傍へ。咲月は中指の腹で彼の唇を撫でるようにして紅を拭き取った。

「ん……これで、いい……」

 吐息を零して囁いた咲月の双眸は“歓び”で微動し、細くする。
 そろりと顔を動かして咲月を窺う流架の表情が、なにもかもを見透かしているかのような――柊は彼の脇を過ぎる間際に感じた。それが如何に“末恐ろしい”か。柊は咲月を見て苦笑する。



 と、いうわけで(?)



「――うっし。
 じゃ、オレはちょい出かけてくるわ」

 状況を眺め終わったダイナマが片目を細めて、にたり。
 こざっぱりとした表情で掌を扇のようにひらひら泳がせた後、襖に指先をかけようとして――「ちょっと待て」と、制される。眉を顰めた流架に続いて、柊。

「その姿で何処に行く気ですか?」
「ドコって、外に決まってんだろ。練り歩くついでにちょい焼き鳥買って来るわ」

 柊と流架は等しく全力で彼を押さえ止めた。
 何故なら、





 ――彼は間違いなく明日の朝刊を飾るだろう、最悪の意味で。



 それは、嘗ての日本の社交場。
 故に、客がいて初めて成り立つもの。花街が京の地で長く愛され続ける理由は、“対話”なのかもしれない。

 ちん、
 とん、
 しゃん。

 三味線の音色が扇子と共に戯れる。
 彼ら――柊達の遊興の賑わいは暫く衰えることがなかった。
 柊が三味線を弾き鳴らし、
 流架が手持ちの扇子で舞を披露し、
 咲月が華やいだ袖を羽ばたかせ、
 ダイナマが太鼓持ちの如く彼女を追いかける。
 教師二人の銚子が何本か空き、彼らのほろ酔いが弦歌にのって、咲月と柊の意識を心地良く桜色に染めた。





 しとしと。
 雨が降り始めた夕刻。
 宵闇に沈んでいた桜が提灯の明かりで柔らかな白さを浮かび上がらせ、花街の世界を赤くする。

「ふー……コスプレも面白かったけど……やっぱりいつもの服の方が、落ち着く……」

 肩の“荷”を下ろした咲月が、琥珀色の髪を手櫛で梳かしながら座敷に戻ってきた。
 その広い空間は先程の空気とは打って変わり、開いた雨戸からささやかな夜風が忍び込んでいる。窓辺には浅く腰を下ろす流架がいた。温んだ吐息に紫煙を燻らせ、煙管をふかしている。その表情はまるで、浮世を忘れた顔(かんばせ)のようで――咲月は、ほぅ、と、吐息を零し、睫毛が震えるのを感じた。

「流架先生……花街の明かり、見える……?」

 咲月は目許を弛めながら畳に歩を進め、流架の傍らに腰を下ろした。
 彼がいつもの穏やかな面で彼女に頬を傾けると、流架は手許の煙管をさり気なく煙草盆の灰吹きで軽く叩いて灰を落とす。

「君が着替えている間に柊君なら一階へ下りていったよ。忙しい時間帯に入ったようだからね、家の手伝いの方へまわるってさ」
「そっか……。伊藤先生は本当に焼き鳥食べに行っちゃったしね……ちゃんと着替えて行ったから大丈夫だと思うけど……」

 ふふ、と、視線を結んだまま、流架の肩に引っ掛けてあるだけの羽織が風で揺れる。当の流架は未だに着物姿であった。前衿をはだけさせ、帯を自分流に締めたその身形は実に様になっている。

「やや? どうかしたかい?」
「ぅ……?」

 反射的に小さな声が零れてしまった。
 流架が酔いに揺れる瞳で咲月を凝視している。男の色香を漂わせているその表情――。咲月は声を呑みながら少しずつ目線を落としていき、かぶりを振った。

「んん……んと……流架先生、お疲れ様……ちょっと休んでから、夕食行く……? あ、膝枕する……? それとも――……」

 流架の左膝に咲月はそっと両手の指を置く。
 そして顎を上げ、

「ちゅー……する……?」

 首を伸ばした。
 もう少し近づけば、口づけが叶うくらいに。

 彼女を見つめ返す顔から微笑みが消える。
 だが、その瞳に微動はなく。
 互いに。

 ふっ、と。
 流架は意地の悪い笑みを口の端に灯し、両脚に腕をかけた前屈みの姿勢をとって問うた。

「俺と?」
「ん……んむ……」
「うそつき」
「う……? 嘘、じゃないよ……?」
「出来もしないことを言うものじゃない。特に、酔った男の前ではね」
「むぅ……出来る、もん……。だって……私、先生になら……首だってなんだって――……」
「ああ――、知っているよ」

 咲月の細い顎に流架の指先がかかった。
 くい――と、瞬間、咲月の視界が影に覆われる。

 不意に、咲月は瞳をいっぱいに開いた。





 …………ゆるゆるゆるゆるゆる、





 ――ぽふっ。

「んぅ……? 流架先生……?」

 咲月に安堵を寄せたのか、流架は彼女の膝に頭を落ち着けていた。
 そろりと彼の顔を覗き込むと、そこには端整な寝顔。色めいた気配が一瞬で夜風に攫われたかのような。

「(やっぱり……酔ってたのかな、先生……。なんだろう……私、ほっとした……? んん、なんか……違う……)」

 咲月は様々な感情が入り組む心境を覚えるが、今は“とりあえず”――、

「おやすみなさい……」















 雨音に添う鼓動の音が二人の熱に反応して、甘く奏でているようであった。


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛
【ja0156 / 常塚 咲月 / 女 / 21 / 蝶月は鬼さんこちら】
【ja1082 / 鴻池 柊 / 男 / 24 / てのひら合わせ柊扇】
【jz0111 / 藤宮 流架 / 男 / 26 / 待ちびと囲い叶架】
【jz0126 / ダイナマ 伊藤 / 男 / 30 / 追えどもUnknownみえぬ】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛
愁水です。
いつも素敵なご縁とご発注をありがとうございます。

ご要望の通り、アドリブ盛り盛り字数いっぱいで書かせて頂きました。有り難いです!
芸名や着物は当方の趣味です(きりっ)お気に召して頂けましたら幸いなのですが……どきどき。
コメディ部分はテンポ良く、ココロが絡む部分は情緒深く書かせて頂いたつもりです。

少しでもお心に、彼女の鼓動に添えましたでしょうか――?
■WTアナザーストーリーノベル(特別編)■ -
愁水 クリエイターズルームへ
エリュシオン
2016年04月26日

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