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『愛を囁く時 』
レイン・フレックマイヤー3836)&ブランネージュ・オーランシュ(3824)&ローズマリー(3825)

 ブランネージュとローズマリー。二人がレインを一人の男として意識するようになってしばらく経った頃の事だった。
 この日、3人は連れ立って夜のピクニックに出かけていた。
 空には満点の星空。夜になっても穏やかな日中とさして気温の変化はなく、大変心地よい。周りには人気もなく、当然ながら魔物などの気配もない。ピクニックには絶好の夜、と言っても過言ではなかった。
 チカチカと瞬く星空の下、エルザードの明かりが暗い夜の闇にまるでダイヤモンドのように輝いている。そんな街並みを見下ろせる丘の上で、3人はレジャーシートを敷いてお茶を楽しんでいた。
「こうやって見下ろすエルザードの街並みも、なかなか綺麗ですわね」
 ゆるりと吹く風に髪をたなびかせ、僅かに乱れた髪を手で慣らしながらブランネージュは目を細め、キラキラと光る街の明かりを見つめる。そんな彼女の横で、ローズマリーは用意していたお茶をカップに注ぎ、レインはそのお茶に口をつけていた。
 暖かな甘い香りの漂う香茶を一口含み、ほっと小さく溜息を吐きながらレインも頷く。
「こうしてあの街を見下ろす事なんて、なかなかないですからね。昼と違って、夜のこの景色はまた違った意味で綺麗です」
 小さく笑みを浮かべながら見つめてくるレインに、ブランネージュの胸はきゅっと締め付けられるような気持ちになる。
 綺麗、と言う言葉が、まるで自分に向けられているかのように勘違いをしてしまいそうだ。
 にこやかに笑うレインを、こうして一人の男として意識する日が来るなど、誰が想像しただろう。
 僅かに頬を染めて、熱っぽい視線で見つめてくるブランネージュに気が付いたレインもまた、恥ずかしげに視線を逸らした。
「……」
 レインが視線を逸らした先にローズマリーの視線を感じてそちらに顔を向けると、彼女もまたうっとりとこちらを見ている。
 美女二人から熱っぽい視線を向けられ、レインはいよいよどこに目を向けてよいのか分からず、頬を染めながら夜景へと視線を向けた。
 なぜだか、とても緊張する……。
 もじもじと恥ずかしそうにしているレインに、ブランネージュは手にしていたカップを下に置くとじりっと彼に近づく。
「ねぇ、レインさん?」
「うっ……は、はい」
 少し色っぽい声音で近づいてくるブランネージュに、レインは背筋をピンと伸ばし、顔を上げず緊張した様子で返事を返す。
 何もかもが近くて、良い匂いがして……どうしても動悸が激しくなってしまう。
 ガチガチに緊張したレインのその姿が、ブランネージュには堪らなく愛しく、そして可愛くて仕方がなかった。
 じりじりと間合いを詰め、レインの横まで来るとピッタリと寄り添う。
「私ね……。もうどうしようもないほど、レインさんの事が好きみたいなんですの……」
「え……」
 顔を覗き込むようにしながら真っ直ぐ目を見てそう伝えると、レインは僅かに視線だけをそらしながらぎこちなく頷き返す。
 ブランネージュはそんな彼にますます顔を近づけ、胸元で手を組みながらさらに詰め寄る。するとレインはますます顔を赤く染めた。
「こんなに胸が熱くなる事なんて、今までありませんでしたわ」
 ブランネージュは茹タコのように赤くなって俯いてしまったレインを、逃がさないような勢いで詰め寄る。そしてレインの耳元に唇を近づけ、そっと愛を囁く。
「あなたの事……、愛してますわ」
「……っ!」
 レインは彼女のセクシーな囁きに、体中に思わず鳥肌が立ってしまった。と、同時に体の奥底から燃えるように熱い熱がこみ上げる。
 突然の愛の告白に上手く言葉が出てこない。嬉しくないわけじゃなく、間違いなく言いようのないほどに嬉しいわけだが……。
「え、えっと……」
 ローズマリーの手前どう答えてよいか迷っているレインに、ブランネージュは愛しさのあまり彼をぎゅうっと抱きしめた。
「ブ、ブランネージュさん!?」
「!」
 突如きつく抱きしめられ、レインは驚きの声を上げた。そして同時にそれを見ていたローズマリーもまた、ポットを手にしたまま愕然としていた。
 うろたえるレインと、恋心を抱く乙女そのものの顔で抱きつくブランネージュ……。
 まさか主であるブランネージュも、自分と同じ人に想いを寄せていたとは驚きだった。しかも、目の前での熱烈なラブコールに言葉も出てこない。
 どうしよう……。
 ローズマリーは眉根を寄せ、どうすべきかを考える。
 主が想いを寄せる相手を、従者でもある自分が想っていても良いのだろうか……? ここはいっそ、ブランネージュの為にも自分は身を引くべきなのではないだろうか?
 悶々とした思いがローズマリーの胸中を渦巻く。
 あからさまに動揺してしまったローズマリーは、視線を下げて持っていたポットをそっと下に置くと、膝の上に置いてあった両手にぎゅっ拳を作る。
 元気をなくし黙り込んだ彼女を横目で見ていたブランネージュは、不思議そうに小首を傾げた。
「マリー?」
「え? あ、はい」
「もう、マリーったら。私が知らないと思っていたの?」
 くすくすと笑いながらブランネージュがそう言うと、ローズマリーは目を瞬いて彼女を見た。
「マリーは? 彼の事、好きなんでしょう?」
「そ、それは……」
 ローズマリーはその言葉に頷いて良いのかどうか、躊躇いの色を濃くする。だが、自分にも嘘はつけない。それに、ブランネージュはすでにこちらの想いを看破しているのだから、隠しても仕方がなかった。
 赤い顔をして僅かに泣きそうになりながらこくりと頷き返すと、ブランネージュはパタパタと手を招く。
「じゃあ、あなたも告白するべきですわ」
「……」
 ブランネージュに抱きしめられたまま二人の様子を見ていたレインは、おずおずと歩み寄ってくるローズマリーを見て心臓が破けそうなほどバクバクと脈打つ。
 ブランネージュの告白だけでも頭の中はパニック状態だと言うのに、ローズマリーまでも告白してきたら一体ボクはどうなってしまうのか……。
 緊張した面持ちで真っ赤になりながら、近づいてくるローズマリーを見上げると彼女は真っ直ぐにこちらをみつめたまま口を開く。
「わ、私も、レインさんが好きです。大好きです」
「ロ、ローズマリーさん……っ!?」
「お嬢様に負けないくらい、私もレインさんが大好きですっ!」
 ぎゅっと目を閉じて思い切り抱きついてきたローズマリーの勢いに圧され、3人はその場に揃って倒れ込んだ。いずれも、女性二人に押し倒される形になってしまったレインは大パニックだ。
「ちょ、ちょっと、待って下さい! そ、そんな2人揃ってボクが好きって……」
「あら、私は全然問題ないですわ」
「私も、大丈夫です」
 きょとんとした顔ですんなりと認め合う2人に、レインは完全に陥落した。いや、せざるを得なかった。
 レイン自身も、まさに2人の事が意中の相手であることは間違いない。しかも2人が同時に一人の男を愛する事に問題がないと言うのなら、もうその流れに身を任せるべきだと思った。
 真っ赤になった顔を片手で覆い隠しながら、レインは一度溜息を吐き、観念したように告白する。
「……ボ、ボクも、2人の事が大好きです」
 吐露すると、ブランネージュもローズマリーも嬉しそうに微笑んだ。
「そう言ってもらえて嬉しいですわ」
「えぇ、私も」
 心底嬉しそうにそう語る2人に、顔を覆い隠していたレインが手を外すとブランネージュがぐっと顔を寄せてきた。
「ブ、ブランネージュさん!?」
「せっかく気持ちが通じ合ったんですもの。ね?」
 当然でしょう? と言わんばかりに唇を重ねてくる。そしてブランネージュの顔が離れると今度はローズマリーが恥ずかしげに唇を寄せてきた。
 レインは完全に女性二人のペースに飲み込まれてしまっていた。
 2人から立て続けにキスをされ、力の抜けてしまったレインは赤い顔のままその場に倒れ込んで身動きが取れない。
 そんな彼の姿を見た2人は顔を見合わせるとクスクスと笑い出す。そして二人揃ってレインの腕を掴むとぐいっと引き起こした。
「大丈夫ですか?」
「これぐらいで参っていたら、この先続きませんわよ?」
 心配そうに声をかけるローズマリーと、いたずらっ子のように微笑むブランネージュ。2人はレインの腕を掴んだまま、ほぼ同時に彼の頬にキスを贈る。
「ふふふ。ね、もう一度しても構いませんこと?」
「……え?」
 熱烈に迫られて頭がぼうっとし始めたレインが答えると、問答無用でブランネージュは彼の顔を挟むように両手を添えもう一度キスをする。するとそれを見ていたローズマリーはきゅっと眉根を寄せた。
「お嬢様、私も……」
 ぐっとレインの腕を引っ張り寄せると、ローズマリーもキスを贈る。
 美女2人に迫られるキスに翻弄されるレインは、大変なようで幸せな気持ちに包まれるのだった。
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聖獣界ソーン
2016年04月27日

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