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『おやすみの日は特別に 』
宮ヶ匁 蛍丸aa2951

プロローグ
 この話の発端は、ひょんなことから『西大寺遙華(az0026)』の執務室が解放された、イベント期間中までさかのぼる。
『黒金 蛍丸(aa2951)』は遙華の執務室で談笑していた。
 紅茶を片手に、友人が焼いてくれたビスケットなどいただいていた。
「まさか、遙華さんの口から日本探偵小説三大奇書の一つが出るとは……思いもしませんでした……」
「私、本に関しては雑食だから、本棚にあったのを何となく読んだだけなのだけどね。でも推理物は好きだからもっと読んでみたいと思うわ」
 二人の会話は、何気ない任務の話からいつの間にかお互いの生活の話にシフトしていた。
「僕は探偵小説よく読みますよ。推理物は好きなんです」
「奇遇ね、でも私は好きなだけであまり読んだことがないから、おすすめがあれば教えてほしいわ。」
「でしたらおすすめ本、紹介しますよ。えーっとたとえば」
「あー、でも今言われても覚えられないわ、紙にでも書いて……」
 そう遙華は自分のデスク脇の付箋に手をかける。
 その時視界に入ったのはカレンダー。
「そうね……、次の日曜日暇?」
「え? ああ、はい予定は何も」
「なら一緒に本屋にでも行かない?」
「あ、はい、僕もちょうど新しい本を買いたいと思っていたんですよ……」
 そこで蛍丸の思考は止まる。日曜日、遙華さんと、本屋。その単語が頭の中でグルグル渦巻いた。
「じゃあ予定帳に入れておくわね、時間は十一時からでどう?」
「え!? あ、はい問題ありません」
「ありがとう、ふふふ。本が好きな人ってなかなかいないのよね、楽しみだわ」
 その後蛍丸は自分の担当している任務の作戦会議があったため執務室を後にした。
 しかし、その作戦会議でも蛍丸はうわのそらだったそうな。

(日曜日、遙華さんと。本屋)

 それは、それはまるで、デートではないか。
 それに気が付くと蛍丸は顔を真っ赤にして机に突っ伏した。

 
前章 デート当日。
 
 この膨大な人の流れの中に、どのくらい戦える人がいるのだろう。
 蛍丸はわずか一呼吸の間に、何百という人間と場所を共にし、すれ違い、けれども話をすることもなく分かれてしまう。
 それらすべてが自分とは違う命であり、守るべき対象だとするなら。
 自分はここにいる何割の人間を守ることができるのだろうか。
 蛍丸は時計塔に寄りかかりながらそう考えてた。
 手に開かれている本のタイトルは『人間椅子』しかしそのページは先ほどから少しも先に進んでいない、全て物思いのためだ。
 蛍丸は何度目か分からないため息をつく、待ち合わせまであと十五分。
 もしこの間に従魔が現れれば、今日という日は台無しになってしまうだろう。
 そんな風に、日常と戦場を切って考えらえないことに少し違和感を覚えていた。
 いつから自分はこんな風になったのだろう。
 契約してからだったろうか。いや、具体的な敵が定まったのは確かにその時だったが、こんな風にものごとを考えていたのはもっと昔からだった気がする。
 そうだ。守りたい。守らなければならない、そんな風に考えるようになったのは、いったい、何時から……
「お待たせしたわね……」
 その時唐突に背後から声がした。
「遙華さん」
 その声で蛍丸は振り返ると信じられないものをみた。
 そこにいたのは知らない少女、いや、違う。よく見ると遙華だ。
 普段の遙華からかけ離れすぎてわからなかったのだ。
 そう、今日の遙華はおめかししている。
「えっと……。どうしたの? 蛍丸」
 普段の清楚なイメージは変わらないが、白いワンピースに薄手のカーディガンに、髪を一直線に下ろした普段見慣れないスタイルは、とても可愛らしく、少女然として見えた。
「遙華さん、めがね……」
 そう言うと遙華はあわててそっぽを向いた。いつものメガネはそこになく、見えるのは彼女の美しい瞳の色。
「ああコンタクトなの……。きょう蛍丸と遊びに行くって言ったら。ついにこの日が来たのねってロクトが、私をもみくちゃにして。気が付いたらこうなっていたわ」
 ふだん慣れないヒールが気になるのか遙華は靴をこんこんとならし。そわそわとあたりを見渡す。
「いつの間に私の視力や体型まで把握してたのか……。ねぇ、蛍丸。わたし変じゃない?」 
 右を見たまま遙華は視線だけを蛍丸に送った。
「いえ、その、その……。かわ、かわ……」
 不思議だった、やっと慣れてきたと思ったのに普段と違う格好をされると急に話し難くなる、女の子は不思議だなぁと、頭の中で誰かが言った。
「さて、早速本を買いに行きましょう。時間は有限よ」
 そう意気揚々と歩いていく遙華。それを蛍丸は追う。

中章 穏やかな日

 本屋さんは、にぎわっている街の中で比較的静かな空間だ。
 外からの喧騒も分厚い壁で遮られ、聞こえてくるのはバーコードを読み取る、ピッという音くらい、そんな中二人は現代文学コーナーを行ったり来たりしていた。
「推理物はあまり読まないんですよね?」
「ええ、あまり多くは読んでいないわね」
 ちなみに蛍丸の緊張は、遙華と話しているうちに収まってきていた。今では普通に話せる。
「残酷な描写や性的表現が出てくるのは平気ですか?」
「割と慣れているわ。前に言った本もそんな感じでしょう?」
「そうでしたね……何か好みの系統は?」
「春らしいものがいいわね」
 なかなか難しいオーダーですね。そう蛍丸は苦笑いする。
 そんな風に遙華と蛍丸は並ぶ本の背表紙を眺めながら言葉を交わしていく。
「無難に傑作選なんかどうでしょう、そこで好きな系統なんかが見つかればおすすめもしやすくなります」
「あ、少年探偵シリーズ何かはよく聞くわね」
「児童向けですね、こういうのも読むんですか?」
「春香の影響でね、最近読むわ」
「春香さん(NPC)も本を?」
「文学というよりサブカルチャー寄りだけどね。けっこう本を読む癖に私とは全く好みがかみ合わないの」
「お二人は仲がいいんですね」
「特に意識したことはないけど、そうなのかもね。あ、これなんてどうかしら」
 そう遙華が手に取ったのは、以前蛍丸が好きだと言っていた本。
「これにするわ、あと傑作選。読み終ったら感想を伝えるわね」
「あははは、そうですね、楽しみにしてます」
 そう遙華は大量の本をレジに通すと蛍丸は言った。
「そろそろお腹がすきませんか?」
 読書好きにとって本屋は最強のアミューズメントパークだ、だから二人はここで本選びに二時間程度かけた。
「どこで食べます?」
「カキ以外なら何でも好きよ」
「そうですね、だったら、ちょっと歩きますがいいですか? 本持ちますよ」
 そう言って遙華の大袋を手に持つ、他にもたくさん本を買っていたのでとても重たい。だが蛍丸はそれを軽々ともって見せた。
「ありがとう、蛍丸」
「では行きましょう」


後章 ランチタイムは特に優雅に

 近くによくいく喫茶店がある、そう蛍丸は遙華の前を歩く。
 その喫茶店に入り二人はコーヒーとパスタを頼んだ。
「あら、蛍丸オムレツがあるわよ」
「ええ、ここのオムレツおいしいですよ」
「そう言えば蛍丸の卵焼きもおいしかったわね」
 お花見の時の話である。あの時ちゃっかり遙華も食べていたのを蛍丸は思い出した。
「練習不足ですみません、あの子が作ったほうがおいしいんですけど、どうしてもやりたくて」
「どうしてあやまるの? おいしかったし、何よりあわあわする蛍丸をみて楽しめたしね」
 少し意地わるげに遙華は視線を細めた。
「そう言えばお花見には春香さんがいましたよね」
「いたわね。でも話してない」
「何でですか?」
「春香、私がお花見呼ばなかったからすねてたのよ」
「ちなみになんで呼ばなかったんです?」
「お花見自体、リンカーのためのねぎらいの意味が強かったしね。まぁ半分忘れていたのだけど……」
 そう遙華は珈琲に口をつけた。
「そう言えば蛍丸はその後、春香と会っているわよね翼の実験の時に、どうだった?」
「うーん、どうだったと言われましても。底抜けに明るい人だなとは思いましたけど。春香さんて明るいだけじゃないのですか?」
「あの子最近までふさぎ込んでいたからね、たまに無理してはしゃいでいることがあるし」
 蛍丸は、その時の彼女の姿を思い出す。
「ああ、たしかに。この前のプールでは終始テンション高めでした。楽しい人だなと思ってみていたんですけど……」
 もしかしたら、あの笑顔の裏に何か秘めていたのかもしれない。
 それをさしてあげらなかったことを蛍丸は少し悔やんだ。
「もっとお話ししたかったな」
「にしてもプール大丈夫だったのね。女の子が圧倒的に多い空間だから、緊張で動けなくなるんじゃないかと思っていたわ」
「内心、心臓バクバクでしたけど。なんとかなりましたね。表に出さずに済みました」
「おかげでデータも取れたし、助かったわ。ありがとう」
 そう遙華がテーブルの上のスマホをどけると、店員さんがそこにパスタの皿を置いた。
「おいしそうね。どうしてこんなお店知ってるの?」
「この前僕の英雄に町を紹介している時に見つけたんです、それからちょくちょく本を読みに来ていました」
「いいお店ね、珈琲がおいしいわ」
「喜んでもらえたならよかったです」
「私も昔はこういうお店よく来ていたわ」
 遙華は窓の外を眺めながらそう言う。
「朝目が覚めて、家から出て、喫茶店でコーヒーを飲んでグロリア社に行って、自分の執務室で機械やコンピューターをいじって、夜になると自宅に帰って」
 蛍丸はここで気が付いた。
「学校は?」
「行ってないわ、ちょっといろいろあってね」
「私は物をずけずけと言ってしまうところがあって、それに笑わないし、愛想もないからそれで嫌われてしまうのね。最近はなくなったけど、今でもたまに思うわ」
 遙華はフォークをさらに置き少し首を傾けて蛍丸を見た。
「私、気に障るようなこと言ってしまったんじゃないかって」
 あなたは大丈夫? そう遙華の目が言っていた。
「これがね、何もきっかけもなしに、ふと突然頭によぎるの、すると、もうその人と話をしたくなくなる、逃げ出したくなるのよ」
 その瞳を見据えて蛍丸は言った。
「大丈夫ですよ」
 蛍丸は微笑んで見せる。遙華にまるで微笑み方を教えるように。
「遙華さんの素直なところはとてもいいところです、少なくとも僕らはそれで遙華さんのことを嫌いになることはありませんよ」
「でも、感じるのよね。ふとした拍子に相手の温度が冷めるというか……うまく言えないわね。ごめんなさいなんだか暗い話になってしまって」
 あわてて話題をたたむように遙華は言葉を並べた。
 その頬が赤く染まっているのが、蛍丸には見えなかった。夕暮れがそれを隠してしまったから。
「いけない、もうこんな時間、食べ終わってからけっこう経つわね。そろそろ帰りましょうか」
「はい」
 そう二人は会計を済ませて外に出る、その時だった蛍丸は何か思いついたように手を打った。
「遙華さんに今日は見せたいものがあるんです、この前、僕の英雄と町を歩いていた時に偶然見つけて。ちょうどいい時間ですから」
 そう蛍丸が先導して歩きはじめる。目の前には坂。確かこの上には寺院があるはずだ。
「ここを上るの?」
「はい」
「えー」
 遙華は嫌そうな表情を見せるも、蛍丸が昇り始めるとそれに続く、そこまでひどい角度の坂ではなかったが運動が嫌いな遙華にとっては苦行だった。
そして慣れないヒールなんて履いているから、遙華は足を滑らせ体制を崩す。
 その瞬間に蛍丸は反応。遙華の手を取ってそして、遙華はバランスを取り戻す。
「大丈夫ですか?」
「ええ、ありがとう。私の手汗っぽくない?」
「いえ、そんなことは……って」
 蛍丸の顔が一気に赤くなる、あわてて手を離しそして頭を下げた。
「ごめんなさい!」
「だいじょうぶよ。問題ないわ、それより行きましょう、あとすこしなんでしょう?」
 この町でも小高い位置にある寺院。そこの坂からは燃えるような夕陽がよく見えた。
「……すごい」
 小さな町並みを染め上げる茜色に遙華は言葉を失い、目をいっぱいに開けて町を見下ろす。
 遙華は一通り町を眺め渡すと、すぐに振り返って蛍丸に言った。
「すごいわ蛍丸! とても綺麗ね、全部が宝石みたいよ」
 そんな遙華を見て蛍丸は微笑んだ。
「大丈夫ですよ、遙華さん」
 蛍丸は言った。
 その時風が駆け抜ける。
 まるで表情を隠す髪を払うようにそれは遙華に吹き付け。
 そして。
「あなたは笑えてる」
 蛍丸は遙華の笑顔を見た。
 夕陽を受けて煌く街、それを背景に、心の底から楽しそうに笑う少女がそこにいた。
「え? なに? 蛍丸、もう一回言って?」
 遙華は髪を抑えながら蛍丸に聞き返した、風で声が聞こえなかったようだ。
 だがそれでいいと蛍丸は思った。
「きっとこれからもっと、笑えるようになりますよ」
 いつの間にか離れてしまった遙華を蛍丸は追いかける。
「また明日から頑張るわ」
「まず何をするんですか?」
「沢山のことを知りたいわ、たくさんの物を作りたい。みんなのことをもっと知りたいわ」
 そう輝く瞳で伝えた遙華。それを見つめ蛍丸は胸の中に二つの色をみつける。
 甘い優しい思い。そして後ろめたい。突き刺すような何か。
 言葉にしがたいその感情の正体を、蛍丸が突き止める前に。
 坂を車が昇ってきた。紫色の高級車、そこから降りてきたのは。
「こんなところにいた」
『ロクト(az0026hero001)』だった、車でお迎えにきたのだ。
 だが遙華はそんなロクトを無視して話を続ける。
「今度は蛍丸の話をききたいわ。学校はどう? とか英雄とはうまくやれている? とか。うれしいことや、楽しいことは? とか もしよかったらなんだけどね」
「たのしそうなところ悪いけど、あなたスケジュールぶっちぎって何を遊んでるの? 強制連行よ、乗りなさい」
「え……」
「スケジュール管理はきちんとしなさいと日ごろあれほどに……。ああ蛍丸君。今日は遙華をエスコートしてくれてありがとう。乗って、家まで送るわ」


エピローグ
 ロクトは蛍丸の家を目指す最中。車のミラーで二人を見ると、寄り添って眠っている可愛らしい姿が見えた。
「まだまだ子供ね」
 そう微笑むロクト。
「これからも遙華をよろしくね、蛍丸君」
 

 少年は英雄と契約してからというもの駆け抜けるように生きてきた。
 自分が戦うことで誰かの笑顔を守れるなら、そう思って戦い続けてきたけれど。
 戦わなくても誰かを笑顔にできると、少年は知った。
 けれどきっと少年は戦うことはやめないのだろう。
 失いたくないものの存在が大きくなる一方の少年は、もっともっと強くなりたい、そう願い明日を夢見た。




━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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『黒金 蛍丸 (aa2951) 』
『西大寺遙華 (az0026) 』
『ロクト(az0026hero001)』
『三船 春香(NPC)』

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 ノミネートお待たせしてしまってすみません、やきもきさせてしまったと思います。ごめんなさい。
 そして改めまして鳴海です。いつもお世話になっております。
 今回は遙華とのデート回ということで和やかな感じに書かせていただきました。
 でも、物語としてのメリハリはつけてみました。お気に召しましたら幸いです。
 蛍丸さんにはいつも遙華を気にかけてもらっているので、依頼を受けた際にはとてもうれしかったです。
 お花見でも本人は感情表現がうまくないので、あれですが。助けてもらえてとても喜んでいたと思います。
 それでは、本編が長くなってしまったので、ライター通信はここまでに。
 次はホラーの依頼ですね。いつも参加していただいてありがとうございます。
 今回も優しく頼りがいのある蛍丸さんと一緒に冒険させていただけてうれしく思います。
 それではまたお会いしましょう、鳴海でした、ありがとうございました。


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2016年05月06日

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