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『鬼さん達のバレンタイン 』
鎬鬼ka5760)&マシロビka5721)&瑞華ka5777)&風華ka5778)&ユキトラka5846)&アクタka5860)&一青 蒼牙ka6105


 この広い世界には「ばれんたいん」なるものがあるらしい。

 ばれんたいん、何やらハイカラな響きである。

 ハイカラってなに?
 都会的でセンスが良くて、流行の最先端っぽくお洒落なことだよ、たぶん。

 そうかー、ばれんたいんはナウなヤングのトレンドなのかー。


 旅の途中、そんな話を風の噂で耳にした。
「ばれんたいん? 蒼世界のお宝か?」
 耳慣れない響きの言葉に、一族を率いる齢十歳の若き長、鎬鬼(ka5760)がキラキラと目を輝かせる。
「瑞兄、何か知ってっか?」
 補佐役としても信頼を置く兄貴分、瑞華(ka5777)に尋ねてみる。
 だが、最年長にして一番の物知り、既に長老の風格さえ漂う瑞華も、ばれんたいんなるものの話は聞いた事がなかった。
「役に立てなくて、すまんな」
「そんなことないけどさ、でも瑞兄が知らないってすげーな!」
「だな! きっとなんかすげー何かだぜ!」
 鼻の穴を膨らませたユキトラ(ka5846)が、鼻息も荒く頷いた。
「もしかして、オイラ達すげー秘密聞いちまったとか!」
「秘密か! 世界の存亡に関わるような、すっげー秘密か!」
 何だろう、すごく危ない匂いがする。
「知ったからには生かしちゃおけねぇ、ってヤツだったらどーするシノ!」
「それは拙いぞ、暗殺者とか送り込まれたり――」
 そこで二人はぴったり同じタイミングで互いの背後を指さした。
「「うしろ、うしろー!」」
 そしてこれまたぴったりのタイミングで後ろを振り向き、声を上げる。
「「ぎゃあぁぁ誰かいるうぅぅ!」」
 鎬鬼の後ろには一青 蒼牙(ka6105)が、ユキトラの背後にはマシロビ(ka5721)が立っていた。
「そんなに驚かなくても……俺が鎬鬼様の後ろにいるのはいつものことじゃないですか」
 そうだった、何しろ蒼牙は鎬鬼が大事、大事すぎてストーカーの如く、いつでもぴったり張り付いているのだから。
「あの、私はなんだか賑やかだなあと思って」
 この二人が元気なのはいつもの事だけれど、お世話係としては何となく気にかかるのです。
「それで結局、ばれんたいんとは何なのでしょう?」
 マシロビが改めて尋ねてみるが、風華(ka5778)もアクタ(ka5860)も皆一様に首を振る。
「何だ、誰も知らねえのか」
 鎬鬼は腕組みをして考え込む。
 こんな時、族長としてはいかなる対応を取るべきか。
「よし、皆で調べに行くぞ!」
 ここは古今東西紅蒼の文化が入り乱れる冒険都市リゼリオ、その気になれば必要な情報などあっという間に集まるだろう。
「でも本気でヤバい情報ってこともあるからな、単独行動はするなよ!」


 酒場に商店街、ハンターオフィス。
 あちこち回って得られた情報によると、「ばれんたいん」とは正確には「セントバレンタインデー」という、その昔に蒼の世界からもたらされた風習であるらしい。
 なお、ここ西方世界では既に誰もが知っている馴染みのイベントであるようだ。
「なーんだ、世界の秘密でもなんでもなかったのかー」
 ユキトラが少し残念そうに唇を突き出す。
 が、その詳しい内容を聞いて目の色が変わった。
「なに、美味いモンが食えるのか!? それなら大歓迎だぜ!」
 で、その美味いモンって何?
 チョコ?
「聞いたことねーな。シノは知ってっか?」
「俺も知らない、でも甘い菓子らしいぞ。マシロビ姉が詳しく調べて来たって」
「はい、ではご報告させていただきますね」
 コホンとひとつ咳払いをして、マシロビは手元のメモを読み上げ始めた。
「チョコというのは正確にはチョコレート、カカオ豆から作られるお菓子のことです」
「カカオ豆?」
 鎬鬼が苦虫を噛み潰したような顔をする。
「カカオってあれだろ、風邪ひいた時に飲まされた苦い薬!」
「ええ、確かに東方では薬として使われることもありましたね」
 鎬鬼の顔芸に思わず忍び笑いを漏らしながら、マシロビが続ける。
「でも、西方の人々はそれを甘くて美味しいお菓子に作り替えたのですよ」
 一説には蒼の世界から来た人々が、バレンタインの風習と共に作り方を持ち込んだとも言われているが。
「ふーん、そうなんだー?」
 アクタがあまり興味のなさそうな口調で、しかし内心は興味津々に訊いてくる。
「まー、それで? 結局バレンタインって何なの?」
「バレンタインというのは……」
 マシロビは何故かそこで僅かに口ごもる。
「女の子が、好きな男の子にチョコレートをあげる日、なのだそうです……その、告白と、一緒に」
「あらあら。素敵な催しがあるのですね」
 風華が夢見るような、おっとりとした笑みを浮かべた。
 だが、お子様二人――鎬鬼とユキトラはかくりと首を傾げつつ、顔を見合わせる。
「告白って、何の?」
「なんだろ、昨日のオヤツみんなの分まで食べちゃったのオイラです……とか?」
 その告白じゃない。
 と言うか。
「なるほど、犯人はユキトラだったか」
「あっ!」
 しまった、言わなきゃバレなかったのに。
「いや、ちょっと待ってくれよズイカの兄さん、オイラ……っ」
 思わぬところで墓穴を掘ったユキトラは何とか弁明を試みようとしたものの、瑞華の拳は容赦なくその頭上に振り下ろされる――が、それは直撃の寸前にパッと開かれて、白い髪をわしゃわしゃと掻き混ぜることとなった。
「どうせ他にはいないだろうと思ってたよ」
「なんだよそれ、偏見だぞ!」
 二人でじゃれるその様子を見て、風華が困ったような笑みを浮かべる。
「あらあら、兄様は相変わらず皆に甘いですこと」
 まるで孫にデレデレのお爺ちゃんといった風情だが、一族の最年長としてもう少し厳しく威厳ある態度で接してもらわなければ困る。
 などと苦言を呈しても暖簾に腕押しなのはわかっているけれど。
「でもさー、かーのツッコミって不毛だけど、なんか安心するよねー」
 アクタが言った。
「あーいつものパターンだー、みたいなさ?」
 お父さんが子供を甘やかして、お母さんが小言を言う。
 家族ってきっと、そんな感じ。
「あ、他にもお世話になった人に贈ったり、家族で贈り合ったりも、するそうですが……」
 チョコを贈るのは必ずしも女性から男性でなくても良いし、その逆でも、特に告白を伴わなくても構わないとマシロビが付け加える。
「贈られるチョコにも、義理チョコ、友チョコ、自分チョコなど色々あるそうです」
「とにかく、そのバレンタインってやつは甘い菓子が貰えるイベントなんだな? 俺も欲しいぞ!」
 鎬鬼の一言で、一族の行動計画が決定した。
「ふーん、バレンタインやるんだ?」
 蒼牙がいかにも「どうでもいい」といった風情で言う。
「俺は興味ないけど、付き合ってあげてもいいよ」
 だが、その場にいる全員が知っていた。
 蒼牙は大事な鎬鬼のためなら例え火の中水の中、思い込んだら一直線であることを。
「そーってば、かわいー」
「アクタ、大人をからかうんじゃないよ」
「大人だってさ、そーとボク二つしか違わないのにね」
 この応酬も、いつもの光景だった。


 そして鬼達のバレンタインが始まる。
「せっかくですし皆には手作りで送りましょう」
 わりとマニアックなこだわり派である風華の提案により、カカオ豆から作り始める本格仕様だ。
「ええ、もちろん普通に売られているチョコを買って来ても良いのですけれど、これは異国の文化ですから」
 形を真似てさらっと表面をなぞっただけでは、そに込められた想いなど大切なことを本当に理解したとは言えないと思うのです。
「ですから、面倒なようでも最初から手順を踏んでいきましょう」
「まあ、豆を栽培するところから始めましょう、などと言い出さなかっただけマシだな」
 瑞華が小声で呟きながら、くすりと笑う。
「それは良いが、作り方はわかるのか?」
「はい、それは私が……」
 マシロビはバレンタインのことを調べるついでに各種レシピまで調べて来たようだ。
「おぉ、さすがマシロビ姉だ、よく気が付くな!」
「あ、ありがとうございます鎬鬼さん……ちょっと、くすぐったいですね」
 鎬鬼に褒められ、マシロビはほんのり頬を染めた。
「だが少し働きすぎだな。もう少し周りの皆を頼っても良いんだぞ?」
 甘やかし好きのお爺ちゃん的ポジションを自認する瑞華がその頭を撫でる。
 が、背中から風華の声が突き刺さった。
「最も頼りにされるべき兄様にやる気が見られず、何かにつけてさぼってばかりいるからではないでしょうか」
 瑞華がボケて風華がツッコむ兄妹漫才はいつものこと、兄が皆から頼りにされていることは風華も知っている。
 風華だって頼りにしているけれど。
 なのに顔を見ると小言を言いたくなるのは、全幅の信頼を寄せていることの裏返しかもしれない。
「お互い遠慮なく言いたいことが言い合えるってのは、大事なことだよな!」
 鎬鬼が族長らしく締めたところで――
「そうそう、オイラとシノみたいにな!」
「ユキトラ、せっかく俺がカッコ良く決めたのに、混ぜっ返すなよ!」
「えー、なんで!? なんでオイラ怒られてんの!?」
 そんな二人の様子に総ツッコミが入る。
「ゆーはいっつも楽しそう、しーと一緒で無邪気なとこが可愛いよねー」
「お二人とも元気いっぱいで良いですよね」
「ユキトラはただうるさいだけだろ、ガキンチョが」
 実はそれでもまあ可愛いかな、とは思ってるけど口には出さない。これ絶対。
 なお同じくらい騒がしくても鎬鬼様は尊い。これも絶対。
「よしよし、皆可愛いな」
 そんな子供達の頭を撫でまくり、瑞華はすっかり好々爺モード。

 ……あれ、何の話してたんだっけ。
 そうそう、バレンタイン。

 カカオ豆とココアバター、砂糖、生クリームなどの材料を買い込んで、ボウルやすり鉢を用意して。
「カカオ豆騒動大変だったみたいですけれど、こういうのもいいですよね」
 マシロビが調べたところでは、ついこの間まではカカオ豆が品薄で手に入りにくかったのだそうだ。
 ハンター達の協力がなければ、今年のバレンタインは中止になっていたかもしれない、という話も聞いた。
 カカオ豆確保の為に尽力してくれたハンター達に感謝を捧げつつ、一同は作業を開始した。
 一同と言っても実際に手を動かすのはマシロビと風華、それにアクタを入れた女子三人。
 あれ、今ナチュラルに何か間違えた気がするけれど、気のせいだったかな。
 だって三人とも白いフリフリエプロンが良く似合うし。
 そこにもう一人、蒼牙を加えて合計四人。
「こう見えても料理は結構得意なんだよ」
 なお彼も真っ白なフリルのエプロンを身に着けていた。
 ちょっと周囲の視線が痛い気もするが、これしか手に入らなかったのだから仕方ない。
「でも作り方は知らないんだ。マシロビ、教えてくれる?」
「あ、そういえばボクも知らないや。まー、よろしくねー」
 マシロビを先生に、初めてのチョコレート作りが始まった。

「説明されてもどーゆー行事か今イチ分かんねえけど、美味いモンが食えるなら大歓迎だぜ!」
「早く食いたいな! いつ出来るんだ? あと10分くらいか?」
 食べる専門のユキトラと鎬鬼が、四人の周りをウロチョロしながら今か今かと待ち構える。
「うるさいよガキンチョ、少しは大人しく待てないのか……あ、鎬鬼様はそのままでいいよ?」
 蒼牙、流石のブレない差別待遇だった。
「でも調理中は危ないから静かにね、出来れば少し離れてたほうが良いな。後で味見させてあげるから」
 そう、ここは危険地帯なのだ。
「今、風華が作業してるから……」
 その一言で、二人は理解した。
 何も言わずに部屋の隅まで退避する。

「あらあら、そんなに怖がらなくても大丈夫なのに」
 にこにこと穏やかに微笑みながら、風華はオーブンから出したばかりのカカオ豆を大きなすり鉢に移し替えた。
 買って来たのは生の豆、それを焙煎するところからチョコ作りは始まる。
 良い具合に熱を加えたら、今度は豆を荒く砕いて皮と胚芽を取り除くのだ。
 風華は今、その作業を始めようとしているところだった。
「これを潰せば良いのですよね……」
 すりこぎを手に、ぐっと力を入れる。
「風華、やりすぎて作業台粉砕しないでよ?」
「大丈夫、です……!」
 茶々を入れる蒼牙に言葉を返し――

 がごん!

 なんだか鈍い音がした。
「あらあら、まあ……」
 見事、粉砕されていた――すり鉢が。
 そして肝心の豆は、潰される直前に脱走していた。
「滑って飛んだと表現するのが正しいだろうがな」
 キッチンの隅で本を読んでいた瑞華がふらりと立ち上がり、妹の手に一粒のカカオ豆を置く。
「この豆はずいぶんと活きが良いようだ」
 顔を見れば目の上に赤く小さなアザが出来ている。
 もしかして飛んで来た豆の直撃を受けたのだろうか。
「ごめんなさい兄様、大丈夫ですか?」
「ああ、大丈夫だ」
 その頭を撫でて、瑞華は再び隅の席に戻る。
「贈り物をする日、か……ふむふむ」
 どうやらバレンタインについて詳しく書かれた本を読んでいたようだ。
 もっとも、妹の様子が気になってあまり身が入らない様子だったけれど。

「今度はこちらを使ってみてはどうでしょう……」
 気配りの出来る子、マシロビが鋼鉄製のすり鉢を差し出してみる。
 ついでにすりこぎも鋼鉄製、これならそう簡単に割れたりしない、はず……はず!
「ありがとうございます、では使わせていただきますね」
 今度は大丈夫と、風華はすりこぎを手に再挑戦。
「あ、あら?」
 やっぱり豆がツルツル逃げます!
 今度はすり鉢までゴロゴロ逃げ出しました!
「あの、すり鉢は私が抑えてますから……」
 マシロビに手を貸してもらいながら、もう一度――

 がごん!

 今度は調理台が真っ二つになりました。
「風姉、すげー……」
 遠く離れた隅っこで戦慄の族長様、そのパワーにはちょっと憧れるかも。
「どうしてこんなに上手くいかないの」
 しかし当人は半分涙目になりながら、がっくりと肩を落として深い深い溜息を吐く。
「やれやれ……俺の可愛い妹殿は、変なところで器用さを発揮するな」
 本を閉じて立ち上がり、瑞華は妹の肩にそっと手を置いた。
「どれ、少し手伝ってやるとするかな」
 これを砕けば良いのだろうと、見よう見まねでやってみる。
 皮と胚芽を取り除き、残ったものを更に細かく砕き、ゴリゴリ擦ってペースト状にして。
「力仕事はこんなもんか、後は出来るだろう?」
 難なくこなし、颯爽と去る兄の背中に、風華は羨望の眼差しを向ける。
 あれ、でもどこに行くの?
「ん、ちょっと出かけて来る。出来上がった頃に戻るから、後はよろしくな」
 またサボリか。
 でもまあ、ここまで手伝ってくれたのだから良しとしよう。

「まだ出来ないのか? もうさっきから10分以上経ったぞ?」
「オイラもう腹ぺこぺこだぁー」
 お子様二人がぶーたれ始めるが、まだまだ作業は始まったばかりだ。
「出来上がるまでに12時間くらいかかると聞きましたが……」
「「そんなに!?」」
 マシロビの言葉に、二人の心は砕け散る寸前。
 こうなったら味見で間を持たせるしかない。
「この白いのは何だ? 美味そうだな!」
 鎬鬼が白い塊に手を伸ばして来る。
「ああああ、それバターです!」
「バターなら普通に食えるよな?」
「それは、そうですが……味とか、ありませんよ?」
 バターはバターでもココアバターだから。
「ただの油で、無味無臭だと聞きました。美味しくないと思いますよ?」
「それにつまみ食いで量が減っちゃったら、完成したチョコの味に問題が出るかもしれないね?」
 蒼牙が釘を刺した。
 二人に窘められてぶーたれながらも、鎬鬼は素直に引き下がった。
(「俺、知ってる。マシロビ姉だけは怒らせちゃいけないって」)
 がくぶる。
 だが一方のユキトラは人の言葉を右から左に聞き流し、茶色いペースト状のものに手を伸ばす。
「じゃあこっちは? これチョコだろ? なんだ、もう出来てるならそう言えよな!」
 しかし。
「って、ダメですよ! そちらはまだ……っ」
 混じりっ気なしの純カカオ100%だ。
 つまり。
「にっがあぁぁぁっ!!」
 ほーら言わんこっちゃない。
「完成したらあげるから、ジャマしないでー」
 頬をぷくぅっと膨らませたアクタに背中を押され、マシロビに口直しの砂糖水を貰って、ユキトラは若干しょんぼりしながら引き下がる。

 そして待つこと更に数十分。
 カカオ100%のペーストにココアバターと砂糖、生クリームを加えて練る。練る、練る、練る。
 温度を調節しながらひたすら練って、漸く基本のチョコが出来上がった。
 まだ柔らかいそれをスプーンですくい、蒼牙は待ちくたびれて溶け始めた二人のところへ持って行く。
「約束だからね、はい味見」
「「うおぉ! 出来たぁー!」」
 そっくり同じ叫びを上げた鎬鬼とユキトラは、バネ仕掛けの人形のように飛び起きた。
「美味い!」
「あっまー!」
 幸せそうな笑みが、二人の顔いっぱいに広がる。
「もっと! もっと食いたい!」
「いや食わせろ!」
 しかし、迫る二人に蒼牙は首を振る。
「まだこれで完成じゃないんだよ。ね、マシロビ?」
「ええ、今度はこれを使ってガトーショコラを作ります」
「がとー……なんだそれ?」
「チョコケーキのことだよ、しー。ボクはトリュフを作るよー」
 簡単に出来るって聞いたからね。
 このままで良い、寧ろこれが良い、質より量だろ……などという色気のない意見は放置して、と。
「まー、次は何するのー?」
 マシロビの教えを請いながら、アクタは丸めたチョコにココアパウダーをまぶしていく。
 蒼牙は中にナッツやオレンジピールを入れて、型に入れて氷で冷やしてみた。
「二人とも、女子力高いな……」
 意外な特技に感嘆の声を上げる鎬鬼。
「うん、マシロビは元々料理上手だけど、アクタやソウガも料理できんだなー」
 なんだか、ちょっと羨ましい。
「オイラにも出来っかな?」
 見てるだけなら簡単そう、なんだけど。
「今度やってみようかなっ」
「俺もやってみたいぞ!」
 自分で作れば誰にも文句を言われずにチョコ食べ放題だ!
「そこなのですか?」
 二人のやりとりを聞いて、風華がふわりと微笑む。
 マシロビのケーキ作りを手伝っていた風華は、その後は大きな失敗もなく順調に作業を進めていた。
「いくら食べても文句なんて言いませんよ?」
「そうそう、ただ……お腹を壊しても責任は取らないけどね?」
 マシロビと蒼牙が、そう言って笑った。


 全ての準備を終えたら、食堂のテーブルを囲んでお茶会だ。
 真っ白なテーブルクロスをかけて、小皿を並べて、お茶のセットを用意して。
「それにしても瑞兄は遅いな、どこまで飛んで行ったんだ?」
 と、そのタイミングを見計らったように、瑞華がふらりと帰って来る。
「人を鉄砲玉のように言うなよ、鎬鬼」
「あ、瑞兄!」
「お疲れ様だな。楽しそうで、何よりだ」
「どこへいらしていたのですか、兄様?」
 思わず立ち上がり駆け寄った鎬鬼と、手伝いもしないでと唇を尖らせた妹の頭を撫でて、瑞華は後ろ手に隠していた花束をテーブルに置いた。
「皆が頑張っているさまを見て、俺も、お返しをせねば……と思ってな」
 それに緑茶も買って来た。
「チョコレートに合うかどうかはわからんが、やはり東方の味が良いかと思ってな」
「瑞兄も女子力高かった……!」
 花瓶に活けられた花を見て、鎬鬼は尊敬の眼差しを向ける。
「俺も瑞兄みたいなカッコ良い大人になりたいぞ!」
「はは、それは買いかぶりすぎだが……なれるさ、鎬鬼なら俺などよりずっと格好良い大人に、な」
 もう一度その頭を撫でて、瑞華は席に着いた。
「さて、始めようか」

「「いっただっきまーーーす!」」
 最初に切り分けられたガトーショコラは、あっという間にお子様達の飢えた腹の中に消える。
「「おかわり!」」
 ここまで、鎬鬼とユキトラの動きはぴったりシンクロ、皿を差し出すタイミングまで同じだった。
「もう少し味わって食べてもらいたいものですが……」
 苦笑いを浮かべながら、マシロビは二人にケーキを切り分ける。
 いや、どんな食べ方でもいい。美味しく楽しく食べてもらえるなら、それが一番の幸せだ。
「「おかわり!」」
 それが更に二回続いて。
「「おかわり!」」
「あ……ごめんなさい、もう……」
「では、わたしのを差し上げましょうか?」
 二人の食べっぷりに圧倒されたのか、風華はまだ自分の分に口を付けていなかった。
「ありがとう、でもそれは風姉の分だ。マシロビ姉と頑張って作ったんだから、ちゃんと食べてくれよな!」
「そんでまた作ってくれよ! オイラいっくらでも食えるぜ!」
「それじゃ、足りない分はこれでどうかな」
 蒼牙が綺麗な紙で包んだチョコを差し出す。
 大事な鎬鬼様にはもちろん一番出来が良かったものを、感謝の気持ちをめいっぱい込めて。
「他の皆には、まあ残ったものを適当に?」
 いやいや、そんなに差はないと思うけどね、多分。
「ありがとう蒼兄」
 さっきまでチョコくれくれ星人だったのに、鎬鬼はその包みをなかなか開けようとしなかった。
 自分のために作ってくれたのだと思うと、すぐ食べてしまうのが勿体なくて。
「へへ、ありがとよ!」
 一方のユキトラは、貰ったものを片っ端からポイポイ口に放り込んでいく。
「シノ、そんな大事に抱えてたら溶けちまうぜ? いらねーならオイラが食ってやろうか?」
「ユキトラはもう少しデリカシーってものを学んだほうが良いと思うぞ」
「でりかしー? 俺の知らない菓子か!? 美味いのか!?」
 あかん。
 そんな騒ぎをよそに、アクタはのんびり和気藹々とチョコ交換。
 綺麗な箱に並べられたトリュフチョコは、大きさがきっちり揃って形もまん丸、見た目は完璧に仕上がっていた。
「まー、はい、あーんして?」
「え、あ、あーん……ですか?」
 ちょっと恥ずかしいけど、あーん。
「美味しー?」
「はい、美味しいです」
 うん、まあ、元のチョコを丸めただけだから、普通に美味しくは出来てると思うけれど。
 なお男性陣には「あーん」しない、代わりにちょっと媚を売ってみる。
「お返し、楽しみにしてるねー」
 にこっ。
「何? アクタ」
「そー知らない? お返しは三倍が基本なんだよ?」
「って今俺のチョコあげたじゃん」
「ちがうちがう、ホワイトデーだよ」
 一ヶ月後に、そういうお返しイベントがあるんだよ?
「チョコをあげて終わりじゃないのか……」
 バレンタイン、奥が深い。
「三倍返し?」
 それを聞いた鎬鬼の頭にピコーンと明かりが灯る。
「じゃあ俺も皆にでっかいチョコ作る!」
「オイラも!」
 三倍でっかいチョコ! ついでに三倍甘いやつ!
「……物理のお話では、ない気がするのですけれど……」
「まあ良いさ、好きなようにさせてやろう」
 くすくすと笑う風華に、瑞華が言った。
 楽しければ、それで良し。

 ともあれ、来月もまた皆で楽しい時間を過ごせそうだ。



━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ka5760/鎬鬼/男性/外見年齢10歳/漲る男子力・大関】
【ka5721/マシロビ/女性/外見年齢15歳/みんなのお姉さん】
【ka5777/瑞華/男性/外見年齢29歳/頼れる気配り紳士】
【ka5778/風華/女性/外見年齢26歳/ドジっ娘パワー系淑女】
【ka5846/ユキトラ/男性/外見年齢14歳/漲る男子力・横綱】
【ka5860/アクタ/男性/外見年齢14歳/あざとかわいい女子力】
【ka6105/一青 蒼牙/男性/外見年齢16歳/クールな女子力】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛
お世話になっております、STANZAです。
この度はご依頼ありがとうございました。

鬼さん達のバレンタイン、楽しく書かせていただきました。
口調等、齟齬や気になるところがありましたら、ご遠慮なくリテイクをお願いします。
浪漫パーティノベル -
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2016年05月09日

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