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『リフィカとカフカのとある1日 』
リフィカ・レーヴェンフルスka5290)&カフカ・ブラックウェルka0794

●レーヴェンフルス家の書庫掃除
 ――古都アークエルスのレーヴェンフルス家にて。
 
 母方の伯父の元へ訪れたカフカ・ブラックウェルを待ち受けていたのは、埃を被った膨大な本が、山のように積み上げられていた部屋だった。
 彼此、書庫の整理を手伝いにやってきた訳だが、それにしてもなんて量なんだとカフカは息を飲む。
 本を整理するだけとはいえ、此処に置いてある全てとなれば、相当骨が折れることだろう。伯父の書斎を眺め見ながら、ただ闇雲に片付けるのではなく、効率よく片付けていかなければとカフカは感じていた。
 伯父のリフィカ・レーヴェンフルスが所有している本は、概ね学術書だ。それも植物学、薬草学、毒草学、音楽学――と、ジャンルは多岐に渡る。それでいてカフカ自身も興味を惹く書物達の背文字(タイトル)ばかりだった。
 うっかり読みたくなってしまうが……。
 カフカは当初の目的を忘れてはいけない、と衝動を抑え、静かに咳払いをする。
「リフィカ伯父さん、手伝いにきたよ」
 すると、
「―――やぁ、よく来てくれた」
 高く山積みにされた本の横から、リフィカが顔を覗かせた。
 そして大らかで優しい人柄が滲む微笑みを浮かべ、甥であるカフカを歓迎する。
 伯父は自分や妹をとても大切にしてくれていて、我が子同様に凄く可愛がってくれる人だ――ただ唯一、父への当たりは少し強いけれど。
「ん? どうしたんだ私の顔をそんなに見つめて……何かついてるかい?」
「……あっ。いいや別に、なんでもないよ。それより、リフィカ伯父さんにお土産があるんだ」
「お土産? カフカが手に持っている薔薇のことかな?」
「うん。これ、ロゼが選んでくれたんだよ」
 カフカが両手で抱えていた橙色の薔薇の花束を手渡すと、リフィカが嬉しそうに受け取って目を細めた。
「ありがとう、流石、ロゼ君のチョイスだな♪」
 橙の薔薇の花束に込められた言葉は、『信頼』と『絆』。
 カフカとロゼから寄せられた想いの花束を抱きしめ、心落ち着く馨を仄かに楽しむ。
 そうして繊細に扱いつつ、一先ず綺麗な机の上へ。
 優しいオレンジは、部屋を一段と明るく彩る色となるだろう。
「そうだ、カフカ。お前の母さんが贈ってくれたカザンディビがあるよ。後でお茶請けに食べよう」
「母さんのお菓子…?」
 カザンディビはもっちり食感のミルクのデザート――カフカは母が作るカザンディビが大好きだった。翡翠色の瞳がきらきら輝き、思わずゴクと喉を鳴らす。
「はは。カフカは本当に母さんの作ったカザンディビが好きだな」
 リフィカは微笑みを浮かべた――甥の様子が微笑ましかったのだ。
「と、とりあえず。早く始めようよ。僕はあっちの方から整理していくね」
 カフカはすこし照れていた。
 そして逃げるように速足で向かい、早速整理整頓に取り掛かる。それを見て、リフィカは密かにくすりと微笑みを浮かべた。
 ――そして。
「さあて。私も続きを頑張ろう」
 ふぅ、と一息つき、リフィカも中断していた作業を再開するのだった。



 書庫の整理は見るからに楽に終わるような状態では無かったが――二人の書庫整理はとても順調に捗っていた。
(利口なカフカに頼んで正解だったな……)
 リフィカは無駄のないテキパキしたカフカの働きに感心する。――しかし、それはそれで。
「そういえば――」
「うん?」
 ずっと言いたかった事をふと思い出したリフィカが、本を一冊棚に戻してからくるりと振り返る。
 そして一体どうしたんだろう――と、首を傾げるカフカに一言。
「成人の儀の時は『ディアルト』と付けてくれると期待したんだがな……」
「……あ」
 カフカはリフィカの反応を見て察した。どうやら伯父はこの件で、拗ねているらしい。

 カフカの家――ブラックウェル家では、成人する際、ミドルネームを“自ら”名乗るという習わしがあった。
 その折、カフカが名乗ったは『ウィルシス』。リフィカの幼名である『ディアルト』ではなく、父のファーストネームだった。
「成人のミドルネームは……候補にはあったんだけど、僕はやっぱり次期村長の可能性もあったし……」
 と、カフカは零す。
 しかし“期待してくれていた”のなら、ちょっぴり申し訳ないなとも思いつつ、話題をそっと変えることに。
「――そうそう。妹も今日、レーヴェンフルス家に行くなら僕について行きたいって言ってたな。用事があって、来れなかったけど……」
「おや、そうなのかい? それは残念だ……。――あ。彼女と言えば、あの幼馴染の二人とは今どうなんだ? 何か進展はしたか?」
「ああ、いや、あの二人とは相変わらずだよ。それに妹も、傍目からは分かりやすい位の二人の想いをスルーしてる」
「はは。本当に相変わらずなんだな」
 判ってとぼけているのか、それとも本当に判っていないのか……。
 姪は一体どっちなんだろうと考えながら笑いつつ、遠い目。
 そんなリフィカの一方、カフカは。
(「――まぁ、僕としては丁度イイけど」)
 この世で唯一の対である双子の妹――。彼女を大事に思うカフカは、たとえ信頼を寄せる幼馴染達と言えど、易々と譲る事はできなくて。
 なんて、胸に秘めながら呟いていた。
 妹への想いの丈は、幼馴染達に全然負けてないのである。
 そして次の棚へと視線を流すと――、
「これ、前に読みたかったヤツ……!」
 カフカは目を丸くしながら、ある本を手に取った。彼は気になる本の誘惑には弱いらしい。片付けていた手を止めて、食い入るように本を見つめていた。すると。
 そんなカフカに、リフィカは微笑む。
「カフカの方も相変わらずのようだな」
 カフカに植物学や魔術知識を教えたのはリフィカである――だからこそ、カフカの知識欲の強さというのは理解しているのだ。
 そんな温かい眼差しを向けられて、カフカは少し照れたように咳払いしているのだった。


●庭のお茶会
 香草茶に、カザンディビ――。
 片付けを終えたリフィカとカフカは一緒に、レーヴェンフルス家の庭でお茶会を。ハーブの香りに癒されながら、甘いデザートに舌鼓を打つ。
 やはりカフカの母――リフィカの妹である彼女のカザンディビ。
 その味は絶品そのもので、頬が落ちそうな程美味しくて。
 カフカは思わず心が蕩けてしまうのを、リフィカが微笑みながら眺めていた。

 テーブルの上には花瓶を置いて、上品に誇らしげに咲く、橙の薔薇。

 寛ぐ二人の間に在るは、暖かくて優しいひとときと積もる話。
 家族の事や最近あった事、沢山話していた。
 けれど――。

「カフカには好きな人は居ないのかい?」
「僕の好きな人? どうして急に?」
 突然の話題を振られ、驚くカフカ。
「さっきお前の幼馴染達の話をしただろう? そういえば、お前はどうなのかなぁって思って」
「うーん。僕は――……まだ、分からない」
「……そうか。“まだ分からない”……か」
「でも僕の事より、そういう伯父さんこそどうなの? 結婚をそろそろ考えないと――って前に伯父さんが零してたような気がするけど」
「そうだな……その話は割と、深刻な問題かもしれない――レーヴェンフルス家の後継ぎの問題だからね。どうにも後回しにし続けてきてはいるけど、危機感は感じているよ。私に理解ある良い人がいればいいんだが……」
 リフィカは困ったような微笑を浮かべながらハーブティーを飲んだ。
 そんな伯父を見つめていたカフカは、ふと、ある人物が脳裏に過る。
「……例えばロゼみたいな人は?」
「ロゼ君?」
 カフカが挙げた名に目を丸くした。それからハハ、と笑う。
「カフカ。もしかして彼女のこと、気になっているのかい?」
「い、いや。そうじゃなくて――」
 カフカは仄かに照れたのを悟らせぬよう、視線を逸らす。
 その様子を見て、リフィカは優しい声で紡いだ。
「姪といつも一緒なのは悪くないが、他の女性が気になるのは良い事だ……ロゼ君は素敵な女性だからね」
 ――もしもこのリフィカの言葉を、彼女の弟であるギアンが聞いていたなら。きっと、『ロザリーナが素敵な女性の筈が無い』と即反論する事だろう。
 絶対に反論していた事だろう。
 しかしカフカはというと、リフィカの言葉を受けて、想いを巡らせながら俯いた。
「――……僕は本当に、彼女に対する気持ちがまだ分からないんだ。……ただ、彼女が笑うと嬉しい」
 この気持ちの名を何と呼ぶかを、カフカはまだ知らない。
 姉のように慕っている気持ちの筈だが、本当にそうだと言い切るのも難しくて。
 ただ一つ言えるのは、妹に対する想いともまた別だということ。
 そして。
「――僕はきっと、彼女を守りたいって思ってるんだ」

(彼女を守りたい、か……)
 リフィカはカフカの想いを心の中でなぞりながら、目を瞑った。
 甥の想いがどこに辿り着くのか……それはまだ分からないけれど、これからも、いつだって、彼は優しい気持ちで見守り続けるのだろう。



 ――その頃、ヴァリオスにあるロザリーナのローズガーデンにて。

「ねぇ、ギアン。見て見て、かわいいでしょ?」
「何度も聞いた。何度も可愛いと言ってやっただろう」

 月長石と日長石をあしらった銀チェーンのブレスレットを身に着け、くるくると嬉しそうに回る姉のロザリーナを見て、はぁ、とギアンは重たい溜息を吐く。
 だがしかし、よほど嬉しかったのだろうなぁと思いながら、ほんの一瞬微笑みを浮かべていたのだった。


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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ka5290/リフィカ・レーヴェンフルス/男性/38/優しく導く伯父】
【ka0794/カフカ・ブラックウェル/男性/16/迷える想いの甥】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 たいへんお待たせ致しました……!
 いつもファナティックブラッドでお世話になっております。瑞木雫です。
 温かい家族の関係が大好きですし、お二人の1日をノベルで執筆する事が出来て、とても光栄でした。
 台詞等、言い回しを変えたりアドリブが満載となっておりますが、
 もしもイメージと違っていたりしましたら遠慮なくお申し付けください……!
 いつもいつもお世話になってばかりのロザリーナ(NPC)でありますが、
 リフィカさんもカフカ君も、今後とも仲良くして頂けるととても嬉しいです。宜しくお願い致しますっ。
 御発注ありがとうございました!
浪漫パーティノベル -
瑞木雫 クリエイターズルームへ
ファナティックブラッド
2016年05月09日

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