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『言葉の道標 』
ネムリア・ガウラka4615)&バジル・フィルビーka4977



 やまがみさまの おひざもと
 みのりあふれる きんのとち
 すまういきもの かずおおく
 なわばりけんか たえまなし

 切欠はありふれたわらべ歌。スケッチがてらの散策で耳にしたその歌は、バジル・フィルビー(ka4977)の好奇心をくすぐったのだ。顔なじみになったモデルの子供達のたどたどしい歌を繰り返し聞いて、多分こんな内容だろうと、スケッチブックの端に書き留める。
 意味のある言葉だったはずのその詩は、歌い継がれるうちに響きも崩れていった……らしい。だから詳しい情報なんて期待できるわけがなかった。
 けれど、そんなことは問題じゃないのだ。
「金の土地……黄金って、どこか冒険の匂いがしないかい?」
 芸術家の勘だよ、と少しばかり格好つけてみる。幾つになっても男の浪漫というものは心の中で潜んでいるもので、この詩がバジルの中に眠る扉を開いたのだ。
「……浪漫だけど、準備はしっかりしようね」
 いつものように案内役として声がかかったネムリア・ガウラ(ka4615)は、あえて窘める言葉を選んだ。
(浪漫だと思うけど)
 心の中では思い切り同意する。けれど、リアルブルーから来た友人は、どこか夢見がちなところがある気がして。
(危なっかしいって言うのかな)
 良く言えばマイペース。おっとり、と言えばいいのか。口調だけならネムリアも負けていないけれど。バジルのそれは根本が違う気がするのだ
「ね、スズメ、ツバメ」
 ネムリアの足元で身を寄せる二頭の柴犬を見れば、道中は任せろと言わんばかりに尻尾が揺れた。
 なあ〜ん
「クイーンまで、ネムの味方かあ」
 鞄から顔を出した飼い猫にバジルが苦笑いを零す。これが今回のパーティメンバーだった。



「やまがみさまって呼ばれていたのかは、わからなかったけどね」
 子供達の暮らす街から近く、人の手が入っていない区域が多く残っている山……そう絞り込めば、候補の山はおのずと絞られる。ご年配に聞ければ一番だったけれど、知っていそうな者からは、残念ながら詳しい話を聞くことは出来なかったのだ。
「これだけ豊かな場所なら、疑いようがないよ!」
 ネムリアの後に少し遅れて続きながら、バジルの声には喜色が浮かぶ。
 クリムゾンウエストに来てからは、自然の美しさを感じる手段が増えた。マテリアルの存在が、感じとれるものが増えたから。だからだろうか。今歩いている場所は間違いなく『自然』と呼べる。
 自然信仰という言葉を思い出して、改めてなるほどと頷く。文字通り感じとることで、そこに特別な存在が居る可能性を信じる気持ちが強くなる。
「浪漫だよね!」
 ありのままの姿そのままの森、奥へと誘うのは森妖精とも呼ぶべき友人。かつてはただの物語だと思っていた世界が目の前に広がっているのだ。
「ちょっと待ってて、髪、纏めちゃうから」
 ふわふわ広がる髪は森歩きにはそぐわない。手櫛で髪を結いくるりとまとめるネムは、手の動きに迷いがない。同時に頭の中ではこの後どうやって先に向かうかも考えているのだ。その証拠に周囲の色を映しとる銀の瞳には今、森の緑が輝いている。
(ああ、今この瞬間は描かなくちゃ)
 思うだけで、その時すでにスケッチブックは手の中にある。最初に描き始めるのはネムのその特徴的な耳だった。バジルにとって一番身近な浪漫の象徴。揺れる様子、ぴんと張り詰めたように震える様子……存在そのものが興味深い。
 彼女を中心にするだけで、どこも幻想的な世界になる。中でも今は、特別に幻想的な一枚が描けそうな気がした。

(……まただ)
 感激の声が聞こえなくなったと思ったら、バジルの視線が画家のそれになっていた。
 対象を見つめているようで、もっと遠くを見据えているような、正面に立っていても重ならない視線。
(画家さんとしてはすごいことなんだと思うけど)
 だいぶ慣れてきたこともあるだろうけれど、よく森歩きの間に絵を描けるものだと思う。確かにコツは教えたけど。好きなことだからこそ覚えるのも早いのだろうか。
「って、バジル。また私も描いてるの?」
 特に耳ばかり観察されている。ことあるごとにスケッチしようとするバジルはちょっと、いや結構……変な人だと思う。リアルブルーにはエルフはいなかったと聞いてはいるけれど。だったら自分じゃなくて、ドワーフとか鬼とか、他にも居るのに。
 隙なんて見せられないなと思いながら、ジトリと睨む。あまりに何度も同じ視線を感じるものだから、最近では気持ち悪いと思う事も、たまに。
「……」
 じーっ
「あっ」
 景色が変わらない、つまり進むのをやめたことに気付いてやっとバジルが焦点をネムリアにあわせた。
「相変わらずだね」
「だって僕は画家だしね」
 素敵なものに心を動かされたら、絵筆を走らせないわけにはいかないんだ。
「……うーん」
 幾度か繰り返したやり取りだから、ネムリアの視線は変わらない。
(むしろ、言う度に冷たくなってるような)
 これはまずい。今後の僕の画家生活に影響が出てしまう。
「仕事の為だけじゃなくてさ。思い出にだってなるでしょ?」
 今まさに描きとったページを見返して、中でも一番よくかけたと思うページを差し出すように見せる。
「カメラでそのまま切り取るよりもさ。見て感じた時の気持ちも一緒に籠めているしね?」



 泉に集まる小動物、鳥の羽ばたき。穏やかな景色だったのははじめのうちだけだ。高みへ、深い場所へと向かうほどに、木々の密度は高まっていく。申し訳程度の獣道はあるものの、ネムリアがほんの少し屈む必要がある程度の狭さ。流石にバジルも悠長に絵は描けなくなって、案内人の後を追うのに必死になってくる。
(早いうちに昼食にしておいてよかった)
 そうは思うが、先が見通せないせいで、帰りがいつになるかも読めないのが現状だ。
 スズメが小さな体を生かして幾度となく先行し、戻ってからネムリアも前へと進む。ツバメはその後ろを確かめるように進んで、バジルの足場を確保する。クイーンは時折気紛れに鞄の中から顔を出した。見えるのはバジルの背中と、今まで歩いて来た獣道だ。
 なぁん
 ちょいちょいと、身を乗り出してすぐ上の蔦へと手を伸ばす。
 ぐいっ
「……ん? クイーン、寝床からお目覚めかい?」
 ザザッ!
 背負った鞄の重みが変わった気がして振り向くバジル。不幸にもバランスを崩された樹上の『材料』たちが、無防備な彼に向かって落下してくる!
 バササササァアアアア!!
「えっ? バジル……っ!?」
 ネムリアが振り向いた時、そこには土砂崩れがあったかのような小さな山が完成していた。
「なんだいこれは」
 どれも特に重いものではないおかげで、難なく這い出して来るバジル。だけれど、状況はそれほど簡単なものではなかった。
 わうわうっ!
 ばうっ!!
 二匹の吠え声。それは警戒を示す響きを持っていて。
 ブゥウウウウウウウウウ……!
 すぐに大量の羽音が彼等へと近づいてくる。蜂だとは思う。その大きさを除けばバジルも普通に見たことがあった。
 人の拳程度の大きさの蜂の群。それが、バジルの頭にひっかかって帽子のようになっているモノを、そしてバジルをじっと見据えている。勿論複眼である。
(もしかしなくても、あれって作りかけの巣、だよね)
 届かないそれを手にすることもできず、せめて話し合いが出来たらといちるの望みをかけて一歩踏み出すネムリア。
「ねえ」
 ザッ!
 何対もの複眼が一気にネムリアの方を見たような気がした。実際にはそんなことはないのだが。
「ちゃ、ちゃんと返すから、許して貰えたりなんか」
 正直怖い。虫だって動物の一種だと考えれば、もしかしたら……その思いだけで言葉を紡ぐ。
 シャッ! ブゥゥゥウウウウウン!
「逃げよう、ネム!」
「でもあれおうちの材料で、手伝ったりとか!」
「どう見ても敵対行動だからっ!」
 友好的だったら僕もスケッチさせてほしいくらいだけどね! 叫びながらネムリアを抱え上げるようにして走り出すバジル。道は狭い、けれど逃げられる方角は一つ。迷う余裕さえもなかった。
「しっかり捕まってて!」
「前が見えないっ……どこに行くの?」
「逃げるのが先に決まってるよ!」
「それはそうだけど!」
「舌噛まないようにね!」
 わふわふっ! がうー!
 後ろ向きに抱えられたまま、ネムの視界は遠くに向かって景色が流れていく。二頭の愛犬が先導しているらしいと気づいて、それならなんとかなるかもしれないと、少しだけ安堵の息を漏らした。
(私、自分で走れるよ? ……って、言ったら混乱させちゃいそうだよね)
 せめて虫の羽音が聞こえなくなるまで、このままバジルに任せた方がよさそうだ。
(帰り道、少しでもわかるようにしないと)
 それまでは景色を覚えることに専念しよう。

 滝の奥に洞窟を見つけたのは偶然で、おかげで怒った虫達をまくことに成功。それまでずっと全力疾走だったバジルは大の字になってのびている。
「せっかく可愛く編めたのに……」
 まとめた髪には木くずや葉っぱが絡みついている。仕方なく髪を解いて、ネムリアは身だしなみを整える。その様子はバジルにとってスケッチするに値する神秘的な様子にも見えたはずだけれど、肝心の画家は体力切れで気付いていない。
(あんなに大きい蜂とか、人里が近くなくてよかった)
 視線の邪魔も入らない分、考え事も静かにできる。詩の通り、美しい自然。生き物ものびのびと暮らしていて、だからこそあれほど大きく育ってしまったのだろうか。体の大きさにあわせて凶暴性も高く、ちょっとしたモンスターレベルだと思う。二人で対応するのは難しいと思うくらいに。
 ……だから、縄張り争いも激しいのかも。それが詩の後半部分の意味だったのかな?
(もっと皆が仲良くてもいいのに)
 せっかく綺麗な森なのにな。歪虚でもないわけだから、一緒に暮らせれば楽しそうだと思うのに。
「不幸な事故だったねー」
 起き上がってきたバジルの呑気な台詞にため息をつくべきか少し迷って、彼のせいではないと思い出す。
「クイーン、気になるのはわかるけど……知らない場所で勝手しちゃだめだからね?」
 なぁん
 わかった、の意味かどうかは読み切れないけれど、いい返事。
「ネム、君の愛犬たちはどこに?」
 満足気に頷いたところで、バジルの声がネムリアを慌てさせてくる。
「洞窟の奥を見てきて、ってお願いしたんだけど……」
 戻ってくるのが遅いなあ。そんなに奥深くはないと思ったんだけど。
 首を傾げたネムリアの、おろしたままの髪がふわりと揺れる。
「……もしかして」
 その様子に小さく目を輝かせたバジルは、二匹を追いかけようと立ち上がった。



「わぁあああ!」
 見下ろす先に広がるのは、夕焼けの橙に染まった森の木々達。
 真っ赤とも違うその色は、確かに黄金のようにも見える。
(だから、金の土地になったんだね)
 早くに山を登り始めて、夕方に辿り着くくらいの距離、という細かいいとまであるのかは、わからないけれど。
 ネムリアの歓声を聞きながら、バジルは改めてスケッチブックを開いている。今いる高台は十分な広さがあったから、色を付ける道具も広げながら。
 洞窟の中なのに風が吹いていることに気付いてからは、早かった。既にツバメとスズメが進んだ後の洞窟は、危険らしい危険もなかったのだ。緩やかな勾配を登った先、分かれ道もあったけれど。その頃には出口からの光が感じとれて迷う必要もなかったのだ。
 出口で待っていた2頭は、二人と一匹の姿に気付くとすぐに迎えに駆け寄ってきた。そうしてネムリアと一緒に出口へと駆けだして、今に至る。
 その後ろ姿も思い出しながら。また一枚、スケッチブックのページが埋まっていく。勿論見下ろす景色もこの後描くつもりだった。
「描いてばっかりで、疲れない?」
 逃げる時に体力使い果たしたんじゃなかったの、大丈夫?
 様子を伺うネムリアに、バジルはいつも通りの柔和な笑顔を浮かべた。
(あ、いつもの台詞かな)
 いつも、この笑顔と一緒に言うから、ネムリアもすぐにわかるようになっている。
「だって僕は画家だしね」
 描かずにはいられないよと、言いながらも手は止まっていない。
「ネムは疲れていない?」
「子供扱いしないでって、言ってるのに」
「そうだった……それじゃあ、これを一緒に描いてくれる?」
 差し出されるのは切り離された一枚。まだ未完成のそれは、見覚えのある花や虫、滝が描きこまれていて……
「地図、ってことでいいのかな?」
 絵が描かれているあたりバジルらしい。
「わたしが描いてもいいものなの?」
「勿論。だって二人で冒険した宝物の地図だからね!」
 ほら、ここ。バジルが指さすのは宝物を示す光のマーク。今、二人がいる場所だ。
「未完成のまま、どこかに隠してみるのって、面白いと思わないかい?」
 空白部分が多いのは、わざとだよと微笑む。
「それじゃあ、あの詩も書いておかないといけないね?」
 ネムリアが目を輝かせれば、そういう事だねとバジルが頷く。
 誰かが見つけて。きっと自分達とは違う冒険をして、そうして少しずつ本当の地図になっていく……という、計画。
「この場所にも、何か目印を……メッセージとか! かかないといけないんじゃない?」
「うん、その相談にも乗ってくれるかい?」
「当たり前だよ!」

 やまがみさまの まくらもと
 えがおあふれる たからもの
 まよいあるいた みちすじを
 えがいたちずは つぎのてに

━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ka4615/ネムリア・ガウラ/女/14歳/霊闘士/笑顔の案内人】
【ka4977/バジル・フィルビー/男/26歳/聖導士/宝物の伝え人】
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2016年05月10日

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