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『 』
狒村 緋十郎aa3678
第一章 平和と愛情

 これは十年以上前。彼が運命の吸血鬼と出会う前のお話である。

『狒村 緋十郎(aa3678)』はとある山奥にある農村の生まれだった。
 夏は暑く、冬は雪が積もる。春には花が咲き乱れ。秋には山一面が紅葉する。
 そんな人の手の入らない自然がそのまま残る地に、ぽっかりと開かれた場所がある。
 そこに獣人たちは村を作って生きていたのだった。 
「緋十郎、緋十郎!」
「ん? なんだ?」
 そこには文明など何もなく、不便なことも多かったが、おおむね文句もなく全員が生きていた。
「尻尾出てる」
 そう少女は緋十郎のしっぽの先をつついた。
 「しまう必要もないだろう」
 ここは大猿の住まう村であり全員がその特徴を隠したり隠さなかったりで過ごしている。そして例にもれず緋十郎も獣人であり。その赤い毛におおわれた尻尾がゆらゆら揺れていた。
 ここは村の入り口のぶぶん、左右に高台が見え、向こうには橋。後ろには木造の家々が立ち並ぶ。町の広場部分で、緋十郎は少女に呼び止められたのだ。
「普段から力をコントロールできるようになりなさいって長に言われているでしょ?」
 むっと口をつぐむ緋十郎、彼を見上げてお小言を焼いている少女は、彼の幼馴染だ、と言っても生れは数年違い緋十郎より年下ではあるが。
「で、どこに行くの?」
「この格好を見てわからないか?」
 そう緋十郎は両手を広げて見せる、腰には長刀と短刀。肩には矢筒。明らかに狩りに行く格好だ。
「ふーん、豚肉も牛の肉もあるのにわざわざ鹿を狩りに行くの?」
「熊でもいい」
「えー、私熊は食べられない」
 そうぴょこんと金色の耳を震わせて、幼馴染の少女は首をかしげた。
「早めにもどっておいでよ」
「ああ、わかってるよ」
 そうはじかれたように彼女から視線をそらし緋十郎は端を渡って村の外に出た。
 その顔は赤く染まっている。
 彼女は幼いころから面倒を見ていた、それがいつの間にか対等に物を言うようになり、今では自分の心配をするようになってしまった。
 もはやそこに数年の差などなくなっており、何時しか緋十郎も彼女を保護する対象ではなく、守るべき対象として見るようになっていた。
「……顔が近い」
 野山を駆ける緋十郎、かれの頭には少女の首をかしげる姿が何度も流れていた。
 綺麗になった。そんな風に上の空でも緋十郎は山を歩く術を忘れない。
 幼いころより体に染みついた習性だ。
 緋十郎は小高い岩山の上に上り周囲を見渡す。獣の気配があれば足音を殺し、山を駆ける。
(いつか自分は彼女と、むすばれるのだろうか) 
 それとも別の女性か、だがどうせなら……彼女がいい。そう緋十郎は思う。
 その次の瞬間目の前を横切る影。たくましい四肢、ふかふかの茶色い毛皮。そして雄々しく伸びた角。鹿だ。
 緋十郎はその手に長剣を握る、今ならまだ走って追いつく。完全なる獣人形態となり緋十郎は目標にとびかかる。

第二章 悲劇の口火

 緋十郎は上がってしまった月を恨めしそうに見つめながら山を走った。
 鹿は血抜き具合が大きく味に関わってくる。その場でカットしなければあの幼馴染が食べてもくれない味になることだろう。
 だから時間をかけて丁寧に捌いたのだが。
 気が付けばこんな時間。
 また小言を言われる、そうにやりとしながら緋十郎は橋までたどり着いた。
 その時、緋十郎は異変に気が付く。
 その村には明りがついていなかった。
 そして、ああ、なんということだろう。
 入らなくてもわかるくらいに血なまぐさい。たくさんの血の匂いが混ざり合っている。
 そして。盛大に建物を破壊して、両手を鎌のように変形させた従魔が躍り出てきた。
 その腕に誰かがぶら下がっている。
 まさか、まさか。
 そう緋十郎はあわてて駆け寄る、その姿を見つめる。
 そして気が付いた。金色の愛らしい耳と尻尾。その腕には刺し貫かれている幼馴染だ。
「緋十郎、逃げて!」
 口から血をこぼしそう、幼馴染が呻いた。
「しかし!」
「私はもう助からない! 行って」
「お前を置いて先に行けるか!」
「ばか……」
 幼馴染は緋十郎を見据えて笑みをこぼす。
「生きてよ、お願い。死んだら……やだよ」
 そして涙を流してそう言った。
 次いで、その潤んだ瞳が緋十郎を写したまま見開かれる、幼馴染の彼女、その美しい瞳の瞳孔が完全に開ききった。
 その顔に、緋十郎への笑顔を浮かべたまま。
「おおおおおおおおおおおお!」
 もう緋十郎は何が何だか分からなくなっていた。
 相手が従魔であることも、ここで何が起きたのかもどうでもいい。
 ただ、ただ彼女の体を抱き留めたかった。
 まだ生きているかもしれない、その可能性を確かめるために走った、けれど。緋十郎は無残にも従魔に切り割かれ。橋まで弾き飛ばされた。
 とどめを刺そうと歩み寄る従魔。
 緋十郎は橋の下をみる、はるか下に川。
「あああ、俺が、俺にもっと力が」
 緋十郎は村を見る。そしてその光景を心に焼き付けた、友の死体。両親の死体。そして、まだ思いも告げていない愛する人の死体。
「くそ……。くそ」
 その時橋が崩れ、緋十郎は川に落ちた。

第三章 この世界の隅っこで

 緋十郎は目覚めると。浜辺に打ち上げられていた。
 川から海に出て、奇跡的に砂浜に運ばれていたのだ。
 傷は、まだふさがりきってはいないが流血も少ない。
 幸運か体の丈夫さゆえか、彼は生き残った。
「そうだ、まずは助けを……」
 緋十郎はすぐ先に会った人間の町を見つめる。
 彼は全く外界のことを知らないということはなかった、だから人間の町にどんな設備があって、どういうルールで動いているのかくらいはわかる。
 まずは警察へ、そう思った。
 だが緋十郎はそれが叶わないと、町に入った直後に知ることになったのだ。
「従魔じゃない?」
 ひそひそと聞こえる話声。
「こわい、きっと、私たちを殺す気だ」
 当然だ、このころはまだワイルドブラッドは認知されていない。
 だから緋十郎へ石を投げるものがいても当然だった。
「そんな、俺はただ助けを」
「来るな! 従魔!」
「愚神かもしれない。誰か連絡を」
 緋十郎は悟る。この世界で自分を、自分たちを救えるものはいない。
 そう緋十郎は町を出た。熱もつ体に鞭打ってそのまま山の中へ移動する。
 ここは緋十郎の知る山と何もかもが違った。だが街よりは安心できる。
 ここでしばらく暮らそう、そう思った矢先。幸運にも緋十郎は山小屋をみつける。
 今は打ち捨てられて炭焼き小屋のようだ。
 緋十郎は中に入る。
 そこには必要最低限の生活設備が整っていた。
 そして緋十郎はここで長い時間生活をすることになる。

第四章 死と再生

 季節は巡った。
 春夏秋冬。それが何度も。
 それは村にいた時よりも薄く、早く、味気なく、さみしかった。
 緋十郎はそれを孤独に過ごしたのだ。
 当然だろう、緋十郎はその生涯で自分の村以外のワイルドブラッドに会ったことがない、人間社会に溶け込めない以上、孤独に過ごすしかなかった。
 人に触れる機会は、山で採れた砂金や獣の皮などをうりに行くときくらいで、その金で、文明人らしい暮らしを送れるように必要最低限の物を買った。
 そして、緋十郎はその日、ある程度たまった売却物を鞄につめ、町へと降りる。
 季節は冬、雪が積もる山を緋十郎は無心で降りた。
 すぐに町にたどり着く、すると緋十郎は何か月かぶりに見る町がライトアップされていることに気が付く。 
 訊けばクリスマスというらしい。たくさんの家族連れが町にあふれかえっていて。
 とても幸せそうだ。
 その光景を見て緋十郎は思い出す、幼馴染の、あの笑顔を。
 緋十郎は叫びだしたい症状に駆られた。
 足早に、息をひそめるように、迫害された時とは別種の疎外感を感じて緋十郎は家に戻った。
 後ろ手に扉を閉める、暗い部屋、冷たく冷え切った部屋が緋十郎を迎えた。
 電気をつけると、そこには何もない、帰りを待ってくれている人も誰も。
 緋十郎はふと思った。自分はなぜ生きているのだろう。
 緋十郎はテレビをつける。
 孤独を少しでも癒せるかと思ったけど違った。
 孤独は増すばかりだ。
「なぜ、自分は生きているのだろう……」
 そう誰かから借りたような無機質な言葉を緋十郎はつぶやく。
 しかし、本当にその通りだと緋十郎は自分の言葉に頷いた。
 仲間を殺され、孤独で、迫害されて。このまま老いていく人生なら。
 今ここで終わらせてしまってもいいだろう。
 そうおもむろに緋十郎は包丁の刃を、自分の胸に当てる。
 しかし、その時だった。
 テレビから。明るい歌声が響いてきた。
 反射的に緋十郎はテレビに目を移す。そしてその視線はテレビの中で踊る少女にくぎ付けになった。
 長い髪を巻き上げて、大和撫子然とした少女が歌って、踊っている。
 その目は緋十郎が見たことのない輝きを帯びていた。
 希望と、生きる楽しさと、未来への期待と。理性と意志の光。
 初々しくも懸命に歌い舞う少女の姿に心奪われ、緋十郎は包丁を台所に戻す。
 緋十郎は自殺をやめた。死ぬことなどいつでもできる。
 ならその前にもっとやるべきことがあるのではないか、そう思った。
 たとえば彼女に会いに行くとか。
 緋十郎は笑みを浮かべた。村から出て初めて浮かべる笑みだった。 





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『狒村 緋十郎(aa3678) 』


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 いつもお世話になっております、鳴海です。
 そして遙華といつも親しくしていただいてありがとうございます。
 今回は緋十郎さんのビギニングということで、村での悲劇そして立ち直りまで描かせていただきました。 
 どうでしょう、イメージ通りにかけておりますでしょうか。もし変更した方がいい点があれば気軽にお申し付けください。
 ちなみに最後に出てくる歌手は、あの方なのかなぁとかちょっと思ったりしてます。
 
 さて、本編が長くなってしまったのでこのあたりで。
 今後リンクブレイブ本編が忙しくなってくると思います、お二人の活躍見守らせていただきたいと思います。
 それではありがとうございました。鳴海でした。
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リンクブレイブ
2016年05月12日

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