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『―夢と現実と・9― 』
海原・みなも1252)&瀬名・雫(NPCA003)

 人知れず、せっせと資材集めを進め、誰の目にも留まらないであろう辺境の小島でキャンプを張り、来るべきアップデートに備えて造船準備を整えていた小さなパーティーがあった。海原みなも扮するラミアと、パートナーであるウィザードにサポート兼・監視役のガルダ――瀬奈雫の三名である。
 彼らが集めた資材はしっかりと島の一部に見えるよう偽装を施され、上空から偵察されても先ず発見される事は無いであろうと云うほど完璧なクオリティで陸地ソックリに擬態していた。これは模型マニアであり、戦記オタクでもあるウィザードの指示により施されたもので、束ねられた材木に土を被せ、草まで植えると云う徹底ぶりであった。
「完璧な偽装だね」
「それを交代で見張っているのだから、泥棒の心配はまず無いね。尤も、偽装した周囲をウロウロしていたら怪しまれるけど」
 みなもの言葉に、ウィザードが補足を加える。二人は偽装した材木を見下ろせる岩場の上から、海面と上空を交互に見張りながら談笑していた。こうして立っているだけならば、雫を含む三名はアウトドアを楽しむ非戦闘員にしか見えない。しかし、その実は格上の神獣クラスとも対等に渡り合える猛者の集まりであるのだが。
「で? いつになったら船を作り始められるワケ?」
「アップデートが済んだら、スタートできるよ。その合図は……ほら、あそこに厚い雲があるだろう? アレが晴れたらOKだ」
「あの雲は、マップの端っこを隠すカムフラージュなんだね?」
「当たり。つまり今は未だあの先が無い、要するにアップデートが終わってないって事なんだ」
 現状でも近海を泳いだりする事は出来る。現に、みなもなどは時々海に潜って魚を捕り、おやつ代わりに食べている。ラミアに扮している間は、生魚をそのまま食べても『美味』に感ずるようだ。
「ま、アレを目印にしなくても、開発陣からゴーサインが出るよ。どういう形で来るかは分からないけどね」
 目線は海の方へ向けたままで、ウィザードが説明する。それを聞いている間も、みなもはモリモリと魚を食べている。
「……訊いていい? そのお魚、食べてもお腹壊さない?」
「むぐ? ……ん! ええ、美味しいですよ。おひとつ如何ですか?」
「生のままじゃ、ちょっとね」
 流石に、モンスター化していても生きたままの魚を頭からバリバリ食べる事は雫には躊躇われたようだ。彼女はウィザードに同意を求めようとしたが、声を出す前にその行為は彼女自身の意思によって中断された。ウィザードはみなもが捕ってきた魚を捌いて干物を作って非常食として備蓄を始めていて、雫にとっては同じ穴の狢だった事を思い出したのだ。みなもとウィザードは過去にシステム暴走が起こった際、山中でサバイバルを体験しているため、捕まえた獲物を食材とする事に対する抵抗感が薄れていたようである。

***

 数日後、彼らが揃ってログインしてみると、例の厚い雲が晴れて遥か向こうに水平線が覗いていた。漸くアップデート処理が終わったのだ。
「おー……翌獣たちは一足先に新天地へ、か? 慌てる事もあるまいに」
「まぁ、ガツガツしてる人たちはああ云うものでしょう。あたし達はのんびり、マイペースで事を進めればいいよ」
 我先にと当てもない海の向こうへと飛び去って行く翌獣の一団を見上げたウィザードが呆れたように呟き、それに呼応してみなもが苦笑いを作る――が、ガツガツした人は此処にも一人いた。海の向こうの世界に強い興味を示す、雫である。
「ちょっと、何をノンビリ見てるのよ! 先を越されちゃうよ?」
「落ち着きなよ。こういう時は、ちょっと臆病になるぐらいで丁度いいんだよ」
「そうですよ、瀬奈さん。海の向こうは未知の世界、何があるか分からないんですよ? あの人たちがどうなるか、それを見てから出発しても遅くは無いです」
 一瞬ではあるが、雫はみなもの表情が氷のように冷たくなるのを垣間見た。流石に踏んできた場数が違う、と云う処だろうか。それを横目で見ながら、ウィザードも頷きながらニヤリと笑みを浮かべている。
(怖……この二人は敵に回したくないわ。今、背中に氷を入れられたような気分だったよ、こんなに暑いのに)
 雫の頬には、汗が伝っていた。それは炎天下に立っているが故の汗ではなく、紛れも無く冷や汗だった。味方のやり取りを聞いて、背筋が寒くなるのだ。これほど恐ろしい事は無いだろう。
 ともあれ、雫の知り合いの線から造船に詳しい技能者が呼び寄せられ、その指揮の下で漸く彼らの船出の準備が始まった。
 夜間に作業を進めると明かりが漏れて怪しまれ、完成前の船を破壊されるか、完成したところを強奪されるかと云った危険があった為、作業は専ら昼間に行われた。
 大型船ならば岩場の間をドック代わりとして造船を進めるところだが、彼らの船は船室と倉庫を含めても三名が一週間程度の船旅を行える程度の小型船であるため、島の上に船台を拵えての造船作業となった。無論、工作途中を襲われては大変なので、船台の周囲は偽装網で覆われ、その上に木の葉や枯れ枝を乗せて徹底的に目隠しを施しての作業となった。
「この間までとは違うからね、火の気は厳禁だよ」
「煙が立ち上ったら、それが目印になっちゃうからね」
 勿論、食事の支度をしたりしない限りは火を焚く必要は全く無いのだが、この注意には『周囲に気取られるな』と云う意味が込められていた。いや、例え襲撃されても返り討ちにするだけの力量は備えた彼らではあるが、数を揃えた敵に囲まれれば彼ら自身は無事でも、折角の船が壊されてしまう。それでは堪ったものではない。依って、全力で隠蔽しつつ急ピッチで作業は進められた。
「大砲とかは積まないの?」
「え? 要らないでしょ、そんなもの」
 雫が、組み立て途中の船を見ながらポツリと漏らす。が、それをみなもが抑える。どうも雫は『冒険の旅に出る』と云った趣の考え方に偏りがちになっていたようだが、みなもとウィザードの考えは少し違っていた。彼らはゲームクリアやクエスト攻略が目的ではなく、飽くまで『拡がった世界がどのようなものか』を確かめつつ、船旅を楽しむと云った趣向であったようだ。
 無論、降りかかる火の粉は払い除けなくてはならないが、その為に物騒な武器などは必要ない。海面の護りはウィザードが、海中の防御はみなもがそれぞれ担当し、上空哨戒は雫が飛べば事足りるのだ。が、しかし、万が一の事を考慮して、船体そのものは頑丈になるよう設計してあった。船底は二重になっており、海中からの攻撃で穴が開いても簡単には浸水しないよう考慮してあったし、そもそも外郭を成す板がかなり分厚く作られていた。実際の船舶を模して金属の装甲を施す案もあったが、かなりの重量になる割には大した効果が期待できないという試算が成り立ったため、それは却下されて総木造の船となった。

***

「はあぁっ!」
「ダメダメ、無駄に力が入り過ぎだよ」
 船が出来るまでの間、パーティーで最もレベルの低い雫の特訓が並行して行われていた。コーチ役はウィザードである。
「一応、自分の身は自分で守ってもらうのが基本だからね」
「何気に厳しいよね、それ」
 尤もな指摘ではあった。が、それを否定する事が出来ないのも事実だった。

 ともあれ、船の完成まであと僅か。彼らの船出も、間もなく実現するに至ったのである。

<了>
PCシチュエーションノベル(シングル) -
県 裕樹 クリエイターズルームへ
東京怪談
2016年05月16日

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