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『Eureka! 』
矢野 古代jb1679)&稲田四季jc1489


 羽根突きという遊びの意味が問い直された、先日の大会。
 参加者の殆ど全てがモノトーンに沈んだその中で、ただひとり稲田四季(jc1489)だけが、その顔に鮮やかな色を残していた。

 羽根を落とせば顔に墨を塗られ、板を折れば服に模様を描かれるという特殊なルールの下に行われたその大会で、四季だけが無敗だった――というわけではない。
 その着物は何が描かれているのか全くわからない程に真っ黒に染まっていたし、両手も墨でベタベタになっていた。
 だが、顔は。顔だけは。
「顔はオトメの命だもん、やっぱガードは堅くしないとね!」
 厚化粧のウォータープルーフにより完璧に守られた。
 墨を弾くから負けても安心!
「すごいな、そんなに効果があるとは思わなかったが」
「でしょ、あたしもビックリだよ!」
 この家の主にして羽根突き大会の主催者、矢野 古代(jb1679)が隣の洗面台で顔を洗い始める。
 だが、何度洗い流しても排水溝に渦を巻いて吸い込まれていく水は真っ黒で、なかなか透明にならなかった。
「次にやる時は、古代のおじさんもお化粧するといいよ!」
「いや、流石にそれは遠慮しておこう」
「なんで? 今は男の人だってお化粧する時代だよ?」
「いや、そうかもしれんが、うん」
「そっかぁー。でも、やってみたくなったら遠慮なく言ってね、あたしがばっちり教えてあげるから!」
 道具も貸してあげるよ!

 しかしいくら防水加工が完璧でも、墨汁がたっぷり付いた筆で何度も擦られては、それなりに綻びも出る。
「このままじゃ帰れないから、お化粧直しさせてもらうね」
 あ、お化粧中は覗いちゃだめだよ、見たら呪うよ、出刃包丁持って追っかけるよ、しないけど。
 クレンジングで全てを洗い流し、下地を塗って、その上に何層もの防水加工を施して。
「メイクって時間かかるのがネックだよねー」
 もっとこう、一度にビシっと決まる簡単な方法ってないのかな。
 例えばパックみたいに顔に貼り付けるだけで完成、とか。
「おかげでいつも学校に遅刻しそうになっちゃうしー」
 でも健康のために朝ご飯はしっかり食べる、例え一時間目を捨てたとしても。
 え、それならあっさり薄化粧にすれば良いって?
「ありえないよ、そんなのシマのなくなったシマウマだよ、ただのウマだよ」
 例えがよくわからないが、要するに厚化粧は四季のアイデンティティなのである。

 そして漸く顔の修復が終わり、四季は皆が集まっている筈の部屋に向かったのだが。

「あれ、誰もいない?」
 待って、羽根突きが終わったらみんなで何か温かいものを飲んで、ついでに鍋パするって……ええっ!?
「もしかして、あたしハブられた!?」
 密かに嫌われてた!?
 空気読めてなかったとか!?

「いや、そうじゃない」
 背後からの声に振り返ると、古代が立っていた。
 たった今、台所での洗い物を終えたところらしく、捲った袖を元に戻しながら、古代はすまなそうに頭を下げる。
「いや、すまん。声をかけても返事はないし、出て来る気配もなかったもんでな」
「えーーー」
 何しろ洗面所に籠もって三時間、流石に待てなかったよ。
「うん、まあそうだよねー」
 わかる。
 わかるけど、素直に認めたら負けな気もする。
「お詫びと言っては何だが、何処かでお茶でもどうかな」
「え、なに? ナンパ? ナンパなの? きゃーやっだーおじさんのえっちぃー☆」
「い、いや、そんなつもりは……!」
 娘に怒られるし!
 怒られるなんてレベルじゃないし!
「うん、わかってる。ちょっとからかってみただけだよー」
 でも奢ってくれるって言うなら素直に甘えちゃおうかな。
「で、どこ行くの? 超高級レストラン?」

 いいえ、近所の喫茶店です。

「四季さんみたいな若い子は、こんな古いタイプの店には入った事ないかもしれないな」
 店の中にジャズなんかが流れてて、マスターがこだわりのコーヒーを淹れてくれるような、いわゆる純喫茶。
「うん、でもかえって新鮮かもー。ちょっと大人になった気分?」
 でも注文は大人の味には程遠いジャンボパフェだけどね!
「この寒いのに冷たい物か、しかもそんな大きな」
 まるでバケツのようなグラスにこれでもかというほど盛られたアイス。
 トッピングにはイチゴやメロン、バナナなどのフルーツに、コーンフレークとナッツ、そしてたっぷりのチョコソース。
 そこに更にチョコプレッツェルとウェハースがザクザク突き刺さっている。
 おじさんとしては見ただけで胸焼けがしそうなボリュームと、嗅いだだけでお腹が一杯になる甘すぎる匂い。
 だが女子にはこれがちょうど良いようで。
「ほら、甘い物は別腹って言うでしょ?」
 これくらい楽勝楽勝。
「それにね、寒い時にアイスなんてって言うけど、アイスの消費量が多いのはフィンランドとかスウェーデンとか、寒い国なんだよ?」
 寒い時に暖かい部屋で食べるのが通の楽しみ方なんだから。
「ほう、博識なんだな」
「見かけによらず、とか思ったでしょ、今」
「そんなことはない」
 真顔で答えた古代に、四季は「いいのいいの」と笑いながらパフェを頬張る。
「こんな見た目だしチャラいって思われても仕方ないよねー」
 なんだかんだ言って、結局は人なんて見た目で判断するものだし。
「でも、古代のおじさんはちゃんと見ててくれそうだよね、あたしのこと♪」
「そうでありたいと、願っているが……出来ているだろうか」
「うん、合格だよ(はぁと」

 それから暫し、四方山話に花が咲く。
 会話のズレには流石に年齢の差を感じるが、それが興を削ぐどころか却って興味が湧くような。
 噛み合っているようで噛み合わない、けれどそこに違和感を感じない、妙な心地よさ。
 
 なるほど、たまには娘以外の年の離れた女の子と話をするのも悪くないものだ。
 ジェネレーションギャップというやつで、おっさんとJKで差し向かいに座ったまま、お通夜になったらどうしよう、などという心配もあったが、それは全て杞憂であった。
 これからは寧ろ積極的に、若い子とお付き合いをするべきではないのか――いや、あくまで合法的に、そして娘に殺されない範囲で。

 ところでお嬢さん。
 ご自慢のウォータープルーフに若干の敗北が見られるのですが……特に口の周辺が。
 どうやらアイスの乳脂肪分が防水バリアを突破したようで。

 しかし、これは言って良いのか。
 言うべきなのか。

 どうなんでしょう、全国の女子高生の皆さん。

 もしかして、これは指摘されると恥ずかしいけれど、気付かずにいるともっと恥ずかしいことになるやつ、ですか。
 例えば……男性にとっての社会の窓のように。

 そして古代は、はたと閃いた。
 次いで確信を得た。

 曰く――化粧は社会の窓である、と。

 Eureka! Eureka!



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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【jb1679/矢野 古代/男性/外見年齢39歳/我、発見せり】
【jc1489/稲田四季/女性/外見年齢16歳/防水加工に三時間】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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お世話になっております、STANZAです。
ご依頼ありがとうございました。

完成まで三時間とか特殊メイクかよ、と、ひとまず自分で突っ込んでおきますね。
そして発注文から若干のアレンジを加えさせていただきましたが、如何でしょう。
って言うか殆ど丸投げでしたよね(

はい、こんなことになりました、なってしまいました。
口調等、リテイクはご遠慮なく!
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エリュシオン
2016年05月18日

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