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『海のことり 』
御子神 藍jb8679


 頬を撫でるのはインディゴブルーの風。
 心に触れるのは、



 ――貴方の音。



 太陽の光に色彩が透ける。
 仄かにグリーンがかる透明なブルーは、澄んだ海の唄。

 そう。
 聞こえてくるのは懐かしい調べ。
 海の女神の贈り物。
 優しく微笑みかけ、哀しみを包みこんでくれるのは――……。

「流架先生、綺麗な貝殻見つかりました?」

 姿勢を前傾に、掌を膝上へ置いて。
 木嶋 藍(jb8679)は癖のない長髪な髪束を耳の横で押さえながら、彼の様子を傍らから覗き込んだ。
 白砂へ片膝をつき、漂流物からの宝探しを試みていた彼――藤宮 流架(jz0111)が首を傾げるようにして仰いでくる。

「ああ。ほら、見ておくれよ。こんなに」
「わあ! すごい! たくさん集まりましたね。あ、このパステル調な色加減の貝殻とか可愛いなぁ」
「ふふ。しかし……貝殻の他に珊瑚やヤシの実、外国製のライターや瓶なども流れ着いてくるものなのだね。ビーチコーミングというのは初めての経験だが、ハマってしまいそうだ。とても楽しい」

 藍の双眸に視線を置いたまま、翠玉の瞳に喜びが弾む。

「ありがとう、藍君。君との時間は惹かれる」

 ――。
 何処か幼いような――そんな色合いを見つめて、藍の優美な顔立ちが、ふにゃ、と猫のように綻んだ。

「えへへ、そう言ってもらえて嬉しいです。本当に。やっぱり思いきってお誘いして良かったなぁ」

 すとん。
 と、
 ――とくん。
 流架の横へ腰を下ろすと、鼓動を抑えるかのように両膝を抱いた。

 砂浜へ据えた想いは、ひと時、昨晩に交わした出来事を揺り起こしていた。
 電話の相手は藍の祖母。現在(いま)に存在する、彼女の唯一の身内である。“あの時”、独り残された藍の心を優しく掬い、今も尚、慈しんでくれている。そんな祖母を、藍も心から愛していた。

 昨晩も平素と同じく祖母との会話を楽しんでいたのだが、
 ふと。
 今回のきっかけが波のように耳へ届く。
 どうやら、祖母が愛用していた読書灯が壊れてしまったらしい。ここ最近調子が悪く、点滅しては消えてが続いていたようだが、遂に、うんともすんとも云わなくなってしまったとのこと。

 ならば手作りで!

 ――と。
 思い立ったら実行あるのみの藍。
 とことこ流架宅へ赴き、さらさら経緯を説明して、てくてく共に海へ――という砂浜での現状(いま)。

「私ね、今日の日和に恵まれてよかった。……ううん、今日を逃がしたくなかったのかもしれない」

 だって、

 晴天がこんなにも暖かい。
 眼前に広がる自然がこんなにも美しい。

 海鳥が泳いで、
 澄み渡った海面は月白を紡ぐ。

「独りで探すのも楽しいけど、好きな人にあげるものは、好きな人と造りたいな、って」

 唯、交わしたい。
 唯、重ねたい。

 コトバを。
 ココロを。
 オトを――。

「だから、」

 藍が語りを続けようとした矢先、慕いの色で弛んでいた彼女の目許と口許が、さっ、と表情を変えて、ぷしゅぅ。面から蒸気が噴出。流架が瞬きする間に色付いたのは、彼女の可愛らしい“恥じらい”。

「あ、ち、ちがいます! あの、その、えーと……あ! たち、です! “達”! 先生と凛月さん、ふたりあわせて、っていう意味ですよ!」
「え?」
「だから、その、二人はわたしの大切な人達って意味で……!」
「……? ……あ。ああ……なるほど。君が“好きな人”と、と言ったことか」
「Σ……!!? せ、せんせ、その……あー、わたし、こういうの恥ずかしくて……!」

 コンポートのような甘さと、熱。
 ちょうど食べ頃な林檎の両頬へ掌を添えて、藍は顎を引いて俯く。
 故に、

「……そんなに必死な釈明をされてしまうのか、俺は」

 微かに零れた苦笑と呟き。
 砂の海へ沈ませた彼の表情を、藍が知ることはなかった。

 ――そこへ、

「藍ー!」

 風に流れてくるのは小鈴な響き。
 心にうつろひを湧かせ始めている少女――御子神 凛月(jz0373)が二人の許へ駆け寄ってきた。藍は少しばかりの朱を目尻に残したまま顔を上げると、双眸を弓形にして白い歯を見せる。

「凛月さん! どう? 小瓶は見つかった?」
「ええ。形は少し不揃いだけど、三つ。瓶口の大きいのがなかなか見つからなかったんだけど、頑張って探したわ。はい、藍にはこの色ね」
「わー! ありがとーう!」

 小脇に抱えたアンティークな小瓶を一つ、藍の掌へ。
 彼女の肌色に映えるのは、ガラスの透明感にティファニーブルーを零した明度。流架へはアップルグリーン、自身へはアイボリーの小瓶を。

「やや? これは?」
「凛月さんが提案してくれたんですよ! 収集した貝殻とか珊瑚とかを入れておくのがビニール袋じゃ味気ないから、って。ふふ、流架先生の色も凛月さんの色も素敵だなぁ。もしかして、皆のイメージで選んでくれたの?」
「え? そ、それは……ん、――んん! そんなことより、藍。シーグラスは見つけたの? 集めたの? ランプを作ってお祖母様に贈るんでしょう?」
「あ、うんうん。もちろん! 綺麗なの探すよ。探す探す!」
「……じゃあ、ほら。あっちに沢山あったわ。流架様は暫く一人で遊んでなさい」
「え、泣くよ」
「泣けば? 藍、行くわよ」
「え!? あ、えっと、先生行ってきます!」
「はい、行ってらっしゃい」

 凛月に手を引かれて、藍達は金銀砂子な浜の川を走っていった。
 手の届く範囲から遠ざかってゆく後ろ姿を、流架はぼんやりと眺めて。ふと、未練のような感覚が胸を過ぎったけれど、何故そんなことを考えたのかさえ分からなかった。

 唯、燦めく“光”の反射に。

「……眩しいな」





 海の宝石――シーグラス。
 元々の形(すがた)は海に捨てられた空き瓶やガラスなのだが、長い年月をかけて波にもまれ、角がなくなり、丸く曇りガラスのような風合いが特徴なものとなる。

 容器に入れて飾るだけでノスタルジックな雰囲気が楽しめるというのだから、手製のランプはどのような幻想的灯しを魅せてくれるのだろう。

「えへへ、気に入ってもらえたらいいなぁ……」

 祖母の喜びを思い描いて。
 薄く唇を綻ばせて願った声音が自然と、砂を攫う掌に力を籠めた。

 さらさら。
 ざざん……ざざん……。
 さらさら。
 ざざん……ざざん……。
 
 白砂の奏で。
 細波の唄。

 姿のない“詩声”が、其処に息づく藍の頬を擽る。
 その声に耳を傾けて空を仰げば、晴天の“海”に、羽が逆光で真黒に映った鳥が視界を横切っていった。何とはなしに、目で追う。青空を自在に滑るその様は、華麗な舞。
 藍の隣で、凛月も同じようにして空を仰いでいた。

「……空の表情に反射している所為かしら。海って、こんなにも青いのね」 

 眩しそうに目を細くして顎を引き、凛月の桃染な瞳が海原の色と重なる。

「青の中に青が入ったような輝きで……濃いのに、鮮明だわ」

 吹きつけてくる風と戯れる長い髪。
 凛月の黒瑪瑙と藍の瑠璃――その流れはまるで、時の中を揺蕩う羽衣の如き柔らかさだった。

「ん、綺麗でしょ? 海ってね、その時の天気や時間、眺める人の心の置き場によっても表情を変えるんだよ」
「表情を……?」
「うん。人と同じだよね」

 藍が囁くように言った。
 そう。一瞬でその印象さえも変えてしまう輝きは、人の機嫌――感情な表しとよく似ていた。だからだろうか、時々、藍には分からなくなる。
 偽っているつもりはない。
 夢ばかりを語っているつもりもない。
 しかし、
 重くて、苦しくて、
 楽しくて、嬉しくて、
 握り締めた手に想いを滲ませても、指先を解いてしまえば泡沫の夢のようで。

 けれど、

「私ね、今日はこの広い海岸でたった一つの宝物を見つける為に来たんだ。でも、……でもね、凛月さんの表情もたくさん見れたらな、って思ったの。勿論、これからも」

 自身の“不変”を信じ続ければ、絆を重ねてゆける。
 ――きっと。

「凛月さんは私にとって大切な“一人”。……うん。だから、“もう一人”の大切な人の表情も同じくらい見たいなー……なんて。あはは、なんか変だな。その、んー。……へ、変かな、私」
「……」
「……」

 どきどき。

「馬鹿ね」
「Σ!!?」

 がーん!!!

「えぇぇぇえ!?」
「? なに勘違いしてるのよ。少しも変じゃないわ。だって、そういうものなのでしょう?」
「うん?」
「だから貴女は知りたいんじゃないの? 分かりたいんじゃないの?」

 ――いつか、聞こえるだろうか。

「藍の瞳に映るものが藍の世界なら、それを大切にしようとするのは当然じゃない」

 ――いつか、聞いてくれるだろうか。

「だから……私も、私の世界を大切にしていきたいわ。ありがとう、藍。きっと、“彼”も貴女との関わりを望んでいる」

 わたしのオト。





 次第に赤く染まるのは、“空と海”。





 茜色な砂浜。
 寄せた三つの背中を、すとん、と三角形の位置に下ろして。

「わー! みんなの小瓶にたくさんの色!」
「藍君も頑張って集めたようだね、シーグラス。ランプの作製には足りるかい?」
「はい! 先生達も手伝ってくれたから大丈夫! んー、綺麗な色や形がいっぱいで。ふふ、どれ使おうかって迷っちゃう」
「……ん、素敵よね。でも、涼しげな風合いなのにあたたかい感じがするのはどうしてかしら」
「凛月ちゃん、知恵熱?」
「うるさい」
「ぷはっ!」
「……あぁーいぃー?」
「Σあ、わ、えーと……えへへ」
「こらこら。藍君を苛めては駄目だ。泣くよ」
「誰が?」
「俺が」
「馬鹿じゃないの?」
「……ぷっ。あ――、んっと、あ! たくさん探したらお腹すいちゃいましたね!」
「そういえば、そろそろ夕餉の時間ね。藍、寄っていったら? 藍の好きなもの作ってくれるわよ」
「……誰が作るのかな?」
「流架様」
「そうだと思ったよ。まあ、構わないけどね。――ということで、藍君さえ良ければいらっしゃい」
「えっ、えっ? あ、……良いんですか?」
「勿論」
「わ、嬉しい……! はい、ご馳走になりたいです!」

 満足そうな二人の微笑みが藍の面で留まり、そして、海へ流れた。
 凛月が切れ長の目を更に細くして、囁く。

「この時間はあっという間に世界を変えるのね。茜色が濃い藍色に溶け込んで……まるで、夢路に迷うみたい」

 傾いた陽が移ろひ光を零す。
 きらきら、きらきら、と。
 包容の帳に目隠しをされ、一日の終わりを告げる“はじまり”。そんな海の表情は、安らぎの“音”で響いていた。

「――誘ってくれてありがとう、藍。楽しかったわ」

 藍へ向いた凛月の表情は、唯、穏やかに。
 そして、凛月はそのまま彼女の横を通り過ぎていった。安堵した息を漏らし、微笑みを返す藍を見届けてから。

 流架が小さく笑う気配がした。

「俺からもありがとう。君といる凛月ちゃんは本当に……ん、“少女”だった。これからも仲良くしてあげておくれ」
「先生……はい! もちろんですよ! 私、凛月さんや流架先生との繋がりがすごく嬉しいから。だから、知りたいです。もっと」

 流架が藍の瞳に意識を映して、間を置く。
 奏で鳴り吹く、唄。
 二人の間を風息が結び、彼の頬が傾いて、彼女の心の音を察したかのように言笑した。

「そうだね……知ってほしいよ、俺の音」

 彼の指先が一瞬、戸惑って。
 行こう、と。
 歩き出す流架。
 その背中を見つめて、藍は重ねた掌を胸元へ寄せる。

「(今、私の中で育ってる音。いつか……上手く奏でられるかな。この海みたいに)」

 深い深い心の淵で。
 海の擁きを覚えながら、祈ろう。















 ランプの灯火にメロディを乗せたら、きっと大丈夫。


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【jb8679 / 木嶋 藍 / 女 / 17 / 息づく結び海】
【jz0111 / 藤宮 流架 / 男 / 26 / 微動し繋ぐ風】
【jz0373 / 御子神 凛月 / 女 / 19 / 移ろふ空】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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愁水です。
平素よりお世話になっております。

此度のご縁、誠にありがとうございました。
お心の場が海――ということで、非常に楽しく書かせて頂きました。海の色彩は一瞬一瞬が絵画のようですよね。流れる音も、目に映る世界を変えるようです。
そして、今回の三人の色々な表情も楽しんでもらえましたら嬉しいです。
どうか、彼女の呼吸が穏やかな音となりますように。
またのご縁、楽しみにしております。
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エリュシオン
2016年05月23日

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