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『美しき者たちの茶会 』
メーレ・クロイツェルka5626)&エマ・ハミルトンka4835)&クロシア・E・バルカロールka5671

 響く小鳥のさえずりと窓から零れる幾筋かの光。
 穏やかな朝を告げる優しい世界からの囁きに睫毛を揺らすと、メーレ・クロイツェル(ka5626)は緩やかに手を動かして自らの髪に触れた。
「――……あぁ、もう朝なんだね」
 掠れた声を零して瞼が開く。そこにあったのは緑と青の合間を行き来する瞳だ。
 彼は億劫そうな様子を微塵も見せずに起き上がると、ベッドヘッドに活けておいた花束へ目を向けた。
「うん、今日も美しい。世界も、花も、そして僕も」
 ウットリと囁いて伸ばした手に落ちる花びら。
 その儚さに見える美しさに唇を寄せると、彼は窓辺に寄ってカーテンを開いた。
 勢いよく差し込む光は世界がどれだけ美しいかを謳い、目に飛び込む花園は彼の美への成果を現す。
「あぁ、今日も僕の花園も美しくい。おや?」
 ふと何かに気付いたのか、メーレの目が凝らされた。
 花園のほぼ中央。ティータイムに使えるようにと少しだけ開けた場所があるのだが、その辺りに気になる物を発見した。
「これは素晴らしい。僕の花園にこんなにも素晴らしい奇跡が起きるだなんて……これは皆にも知らせてあげなければならないね。だってこんなにも素晴らしく、美しいのだから」
 メーレはそう囁くと、寝間着から着替えてある準備のために動き始めた。

●素敵な招待状
 庭で摘み取った幾本かの薔薇。それを花瓶に生けていたエマ・ハミルトン(ka4835)は鳴り響くベルの音に顔を上げた。
 朝露が落ちきらない内に届いた一枚の封書。
 表にはエマ・ハミルトン様と書かれ、裏には見覚えのある刻印と名前が――
「やっぱり……いったい何のお手紙かしら」
 くすり。そう笑って開いた封筒はエマの髪と同じ橙の混じった赤だ。
 この段階で彼女の好奇心はしっかりと擽られている。その証拠に封書を開く彼女の手が少しだけ落ち着きを欠いているのだが、そこはやはり自分を持った女性だ。
 優雅なしぐさで封筒の中から一枚のカードを取り出すと、緑のインクで書かれたメッセージに目を落とした。
「まぁ、素敵なお誘いね」
 ふふ、と笑みをこぼす彼女の目に飛び込んできたのは美しい文字。

――美しい僕がお茶会をするよ!

 そう書かれたカードはメーレからの招待状だ。
「場所はメーレの花園ね。私も何か持って行きたいわ」
 そう思うのはエマにとって当然のことだった。何故ならこのお茶会はメーレのお茶会だから。
 彼のお茶会は美しいもので溢れ、必ず幸福な時間が訪れる。それはメーレ自身がそうであるからこその世界なのだが、せっかくのお呼ばれだ。エマも彼の世界に美しい花を添えたいと思うのは自然なことだろう。
「そうだわ。確かこの前買った本に焼き菓子のレシピが載っていたわ」
 招待まではもう少し時間がある。
 エマは楽しそうに靴の踵を鳴らすと、書斎にある大量の本からお菓子の本を取り出すとそっと微笑んだ。

   *****

 エマの元に招待状が届いて間もなく、クロシア・E・バルカロール(ka5671)もメーレからの招待状を受け取っていた。
「メーレ、からの……招待状……」
 自らが育てた薔薇の中で開いた封筒。そこから顔を覗かせた薔薇の形をしたカードはクロシアの心をがっちりと掴んでいる。それでも落ち着いた様子で中身に目を通した彼は「ほぅ」っと息を吐いて花園を見渡した。
「……どう、しよう……招待……嬉しいけれど……」
 私が行っても良いのかな。
 そう思案しながらもう1度見た招待状は綺麗だ。
 薔薇の中に落とされたインクは深紅。これは彼の瞳の色を意識しての物だろう。
 しかもカードに鼻を寄せると香るのはメーレが育てた薔薇の香りに違いない。ここにある薔薇たちと変わらない高貴な匂いをしているが、やはり自分の物よりも遥かに濃い香りがする。
「行きたい……」
 きっと昔の自分なら僅かな気後れに負けて外に出なかったかもしれない――いや、出してもらえなかった。と言う方が正しいかもしれない。
 けれど今は自由の身。しかもメーレの招待状にはクロシアの心を最大限に揺さぶる言葉が書かれているのだから。

――美しい僕が美しい僕の友人たちとする茶会。最上級に素敵な茶会に招待するよ!

「……行ってみよう。メーレの……お茶会……」
 覚悟を決めれば「そわっ」とした感覚が襲ってくる。
 服装はどうしよう。とか、粗相がないようにしなきゃ。とか、いろいろなことが浮かんでくる。
 きっと彼のことだから普段通りのクロシアで良いと言ってくれるだろう。だから余計なことはしない方が良い。
 それでも。と周囲を見回した彼の目に、慈しみ育てた薔薇たちが飛び込んでくる。
「あぁ、そうしよう……私に、できること……これなら……きっと」
 クロシアはそう零すと、大事に育てた薔薇に手を伸ばした。

●至高のお茶会
 色とりどりの薔薇に囲まれた薔薇園の中央。そこに料理を運んだメーレは、自らがセッティングを施したお茶会のセットにうっとり目を細めた。
 白い木のテーブルに掛けられたレースのテーブルクロス。その上に並べられた料理は全てメーレの手作りだ。
 スコーンもクッキーもパンも、そしてケーキや美しくカットされたフルーツも彼のお手製である。
「素晴らしい……完璧に美しく、完璧に素敵なセッティングだよ!」
 そう零す彼は、アフタヌーンティースタンドの上段に持ってきたマカロンを置いて微笑む。
「さあ、これでいつ皆が来ても大丈夫。僕の最高に美しいお茶会を始めよう――」
「ふふ、張り切っているわね」
 不意に聞こえた声に振り返る。
 そこにいたのはエマとクロシアの2人だ。
 メーレは彼女の声を当然のように受け止めて微笑むと、両手を広げて2人を振り返った。
 その仕草は勿論美しく、そして優雅に。
「美しい僕が主催するのだから当然だよね。さあ、よく来たね美しき僕の友たち。今日は美しい僕について心行くまで語り合おう!」
 完璧に微笑んで繰り出される一礼にエマが淑やかな礼を返すと、クロシアもまたぎこちないながらも丁寧な礼を返す。
「お招きどうもありがとう、メーレ」
「お招き、ありがとう……メーレ……」
 そんな2人に微笑みを深くしてメーレは用意した椅子を引いた。
「エマはこちらへ。クロシアはこちらへ座ってくれるかい? そこに座る方が君たち2人の美しさがより際立つと思うからね」
 そう語るメーレがエマに用意したのは黒塗りで艶のある木の椅子だ。
 繊細に施された彫刻と計算しつくされた骨組みが美しい椅子は確かにエマに良く似合う。
 しかも彼女の背にある薔薇は赤。けれどその赤は深紅ではなく花びらの先は仄かに橙に染まる変わった赤だ。
「素敵ね。あ、そうだわ。これ私から」
 はにかむ様に微笑んで差し出したのは薔薇の花束と焼き菓子を入れた箱。
 焼き菓子は本を見ながら作ったが1つだけ本通りにしていないことがある。
「ああ、これは美しい! エマ、君はこんなにも美しい焼き菓子を作れるのかい?」
「お褒めいただき光栄ね。味の方も保証するわ。後で皆で食べましょう」
 あなたも。そう言葉を添えてクロシアに微笑む。
 そうして椅子に腰を下ろすとメーレは優雅に背筋を伸ばした。
「私も、これを……」
「ああ、こちらも美しい!」
「今年も……美しく、咲いたから……私達のティータイムを、彩るために……ね?」
 冗談めかして笑う彼が用意したのは桃、赤、橙、白の薔薇のブーケだ。
 大事に育て、美しく咲いた薔薇たち。これが自分を外に出してくれたメーレへの最上級のお礼になると考えて。
「まあ、あなたも薔薇を育てているのね。素敵だわ。艶があって華やかで……それでいてとても美しい」
「うん。クロシアの育てる薔薇は美しいよ! 勿論、僕の薔薇も美しいけれど!」
「ええ、メーレの薔薇も美しいわ」
 微笑みながら薔薇を褒めるエマ。そんな彼女とクロシアは初対面だ。
 それでも初めて会う気がしないのはお互いに育てている花が同じ、と言うのもあるだろうが、メーレと言う美しいものを愛する友がいるから、と言うのもあるのかもしれない。
「さあ、クロシア。君も座ると良い」
 そうメーレが勧めたクロシアの椅子は黒と青のグラデーションが施された木の椅子だ。
 装飾は控えめながら華奢な造りの椅子は繊細な見た目の彼に良く似合う。
「さあ、それじゃあ楽しもう、美しい僕たちに、乾杯!さあ、それじゃあ楽しもう、美しい僕たちに、乾杯!」
 上級の茶葉で満たしたカップをそれぞれの前に置き、自らのカップを手に言葉を捧げる。
 そうして柔らかで芳醇な香りのお茶に舌鼓を打つと、エマの方から微かな笑い声が聞こえてきた。
「乾杯はおかしい? でもそんな事はないさ、この美しい僕がそう言ったんだもの」
 くすくすとした笑い声は納まらない。
 それは納得と、彼らしいという愛情を込めての笑い声。それをメーレもわかっているのだろう。
 穏やかに微笑んでカップを口に運ぶ。そしてエマの持ってきた焼き菓子に手を伸ばすと、彼はうっとりとした表情でそれを見詰めた。
「この焼き菓子は本当に美しい。まるで美しい僕に食べてもらうために生まれたかのようだ」
「そのために生んだのだから間違いないわ」
「すごく、綺麗だね……今にも……風に、そよぎそう……」
 ありがとう。クロシアの声に目元を緩めたエマ。
 彼女が作った焼き菓子は薔薇の形をしている。きっと造形を作るだけでも苦労しただろうその姿を微塵も見せない彼女は心根が高く美しい。
 メーレとクロシアはエマの微笑みに敬意を示して焼き菓子を掲げると、彼女の目の前で口にした。
「あぁ、素晴らしく美味しいよ、エマ」
「うん……すごく、美味しい……私も……作ってみたい……」
「それなら作り方を教えるわ。美しいメーレと、美しいクロシアのために」
 エマはそう微笑むと、メーレが淹れた紅茶に唇を寄せた。
 そして和やかな雰囲気でお茶会が進む中、今までエマとクロシアが気になっていた物にメーレが触れた。
「それでは今日のお茶会の準主役を紹介しよう」
 主役は美しい僕だよ。そう片眼を瞑って開けたのはクロシュだ。
 茶会が始まる前からテーブルの中央にあったソレは目についていた。だがメーレがいつか教えてくれると信じていたから2人とも触れなかったのだ。
「まぁ、美しいわ!」
「……美しい……」
 2人が声を揃えて言うのも無理はない。
 メーレとてこの薔薇を目にしたとき、その美しさに歓喜し、思い付きで茶会を開いてしまったくらいなのだから。
 開かれたクロシュから現れたのは七色の薔薇。
 虹をそのまま映したかのような薔薇はクリムゾンウェストにおいても珍しい。
 一生の内で1度見れるかどうかの品種。しかもこれだけの薔薇の中から1本発見できたというのは奇跡に近い。
「この薔薇は僕たちの友情を祝福しているように見えてね。ぜひ君たちとこの花の美しさを愛でながらお茶を飲みたいと思ったんだよ」
 色彩豊かな花弁はエマやクロシアのような美しさと個性を放っている。
 勿論自分もその中に含まれるが、そんな自分たちを1つにまとめたかのような存在にメーレは歓喜した。
 そしてそれはエマやクロシアも同じだったようだ。
「素敵ね。本当に素敵ね」
「もう1度、乾杯……しよう……?」
「美しい私たちに」
「美しい花に……」
「美しい僕に――乾杯!」
 鳴り響くカップの音。その音に笑顔を零す彼らは今しばらく薔薇園のお茶会を楽しむだろう。
 そしていつか再びこの場所で開くに違いない。
 美しい茶会を。

―――END...


登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【 ka5626 / メーレ・クロイツェル / 男 / 18 / エルフ / 聖導士 】
【 ka4835 / エマ・ハミルトン / 女 / 20 / エルフ / 猟撃士 】
【 ka4835 / クロシア・E・バルカロール / 男 / 17 / エルフ / 符術師 】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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こんにちは、朝臣あむです。
このたびはご発注、有難うございました。
かなり自由に書かせて頂きましたが如何でしたでしょうか。
何か不備等ありましたら、遠慮なく仰ってください。

この度は、ご発注ありがとうございました!
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2016年05月27日

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