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『1/100の夢旅人2016 』
矢野 古代jb1679)&ミハイル・エッカートjb0544)&ノーチェ=ソーンブラjc0655


 ――足を滑らせると、そこは夢の国であった。
 桃色の空には虹色のヒヨコが空を舞い、やけに主線のハッキリしている雲がびゅんびゅんと駆け抜ける。足下はカラフルなタイルで構成されており、曲がりくねった道が等間隔に仕切られている。あとなんか既視感のある文章の羅列と、向こうに見えるお山がなんだか見覚えのあるルーレットのような。
「そんな川端じゃあるまいし……」
 目の前に広がる全体的にファンシーな光景に、矢野古代は愕然と独りごちた。いや、かの文豪がこんなファンシーというかファンキーな情景を書くかどうかはともかく、事の成り行き自体はその通りであった。
「……古代、お前の仕業か」
 不意に、隣に友人であるミハイル・エッカートが現れた。
「今度は異世界を用意するとは流石だな」
 ……順応が早かった。あるいは古代との付き合いが長いからかもしれない。

 すると、今度は二人に見覚えのない美丈夫が姿を現した。
「……ここは何処だ?」
 言って、美丈夫ことノーチェ=ソーンブラは興味深そうにあちこちを見回す。
「あんたも巻き込まれた口か?」
 ミハイルが声を掛けると、さらさらと黒髪を流しながらノーチェが振り返る。すわ見返り美人かと思える雅さだったが、しかし体格と声が完全に男のそれである。なんとも色気のない話であった。
「どうやらそうらしい。お二人とは初めましてかな?」
「……そのはずだ。しかしここは一体……」
 とにもかくにも現状確認と、古代は前に進んだ。足下には緑色のタイルが敷き詰められており、いざ右足を目の前の白いタイルへ

 ごちん

「――〜〜ッ!」
 思いっきりぶつかった。見えない壁のようなものに足が弾かれて、何故か的確に小指が痛かった。



 ぶん。
 不意に音がしたかと思うと、三人の目の前にダイアログが現れた。宙に浮いている灰色のモニターにはつらつらと文章が書き連ねられており、試しに触ってみるとさながらスマートフォンやタブレットの操作感である。
「メルヘンなのかSFなのかどっちだコレ」
 ミハイルがそう独りごちると、画面がパステルカラーに変化した。ウサちゃんネコちゃんワンちゃんがあしらわれた壁紙に、丸っこいフォントで良い感じにIQが下がりそうな文体が、
「悪かった。SF風味で頼む」
 元に戻った。ンモー、と空を飛ぶ醜いアヒルの子が鳴いた。
 ……誰のセンスだ、と三人同時に思ったが口には出さなかった。

 気を取り直して三人はモニタに指を滑らせる。そこにはつらつらと格式張った文章が綴られていたが、要するに、
「双六か、これ?」
 読み終わった古代が呟くと、ぶうん、と虚空から球体が現れて三人の足下に転がった。色々こじらせた少年漫画みたいな演出だった。世界観がとっちらかっていることについてはもはやスルーすることにする。
「クリアしないと出られないって言うんなら、楽しまなきゃ損だねえ」
 ノーチェはくつくつと笑うと、手にした扇子を勢いよく開いて口元に当てた。色気のある仕草、だが男だ。
「マス目の指示には絶対従わなければならない、ねえ。面白ければボーナスポイントと来た。いいぜ、俺は乗った。遊びでも勝負事なら手は抜かないぜ」
 ぐっとサムズアップを決めるミハイルであった。
 するとその頭上に青色のリングが現れる。『PLAYER BLUE』と書かれている。
「ふうん? じゃあ、俺も乗ったよ」
 ノーチェが言うと、同じように頭上に赤色のリングが現れる。表記は『PLAYER RED』だ。
「……まるで天使の輪っかだな……」
「言うな。俺も思ってたけど」
 ぼやく古代の手元のダイアログには、『参加しますか? Y/N』と表示されている。『準備完了 2/3』ともだ。
 ……要するに、さっさと宣言しろということだろう。
「分かった分かった。俺も乗るよ」
 ピコーン! とどことなく上機嫌に聞こえる電子音が鳴った。そして古代の頭上に緑色のリングが現れた。『PLAYER GREEN』。

 駒(プレイヤー)は揃った。賽は投げられた。
 こうして、地獄の双六が幕を開ける――。



 古代が空中に現れたダイスを放り投げる。
 ごろごろごろ。……止まらない。そりゃそうだ。ほとんど球体なんだもの。
 双六とか言っておきながら、なにゆえ百面ダイスなのか。普通は六面ダイス、いやそんな単語を使うのは卓ゲー者だけである。もっと一般的なサイコロという言葉がだな。せめて十面ダイスを二つって方法がね?
「あのルーレットの存在意義……」
 いつまでも転がり続ける骨董品を眺めながら、古代はぼんやり呟いた。山のように見える見覚えのあるルーレット。アレも双六には定番で、
『版権的にOK取れませんでした』
 地面からつるはし握ったモグラが現れて、そう言い残して消えた。
「あっそう……」
 いやに現実的な夢の世界である。


 ピンク色のコマにミハイルが止まる。足下の文字を確かめる。
『ここから全員50マス進むまでGO! 全裸! は倫理的にどうかと思うのでパンツいっちょ!』
「おいおいこれは、」
 パァン! リアクションする暇も与えてはくれない。破裂音と共に、全員の服がはじけ飛んだ。
「いやーん! 古代さんのエッチ!」
 お約束とばかりに国民的ヒロイン源さん的リアクションを取ってみるミハイルさん。何がアレって、声真似が完璧なのが恐ろしい。
「なんで俺に振った!?」
「いや、ノーチェがこういうの許容出来るかまだ分からんしな」
「うーふーふー、お取り込み中だよ」
 答え代わりにうなじをアピールしながら声真似をキメるノーチェである。でも青ダヌキはそんなこと言わない。誰の物真似だ。
 ちなみにそろそろ十年、今の子供達には通じないネタであるということを我々は真摯に受け止めていかねばならぬ。


 ノーチェの手番。出目は49。ギリギリ服は戻らない。
 もっとも男同士で恥じらいなんぞあるわけもなく、この状況にいきり立つ趣味の人間もいないのである。裸の付き合い大いに結構。歴戦の撃退士ならではの美しい筋肉がそろい踏みだ。
 足下の水色のマスには『水だばぁ』。
 ざっぱーん。ノーチェが認識するより早く、頭から大量の水が振ってきた。
 いや、ぬるま湯だ。38度くらい、ちょっとしょっぱい。いわゆる一つの生理食塩水。
『ショックが起こらないよう、吸い込んでも痛くないよう、管理をさせていただいております』
「それはなんとも気の利いた話だねえ」
 なんで所々現実的なんだろう。パンツ一丁ですらっとした細マッチョの美男子は、水も滴るいい男としてそれはもう綺麗なイベントCG回収を、

 ぼぉん。

 水も滴るいい狼へと変貌した。まさにイケメン。自慢の毛並みがぺしゃってはいるが、きりっとした顔立ちは元の面影を残している。
「まさに悲劇!?」
「水を被ると狼になっちゃうふざけた体質!?」
「お姫(ひい)の世話係……いや、そんな泉に飛び込んだ記憶はないんだけどねえ?」
 だってそんな設定を持ち込まれたからにはしょうがない。仕方がない。やむなしのことなのです。


 ともあれさっさと服を着たい。古代が出した出目は――53。よし、服が戻る!
 止まったマスには、なんだか象徴的なマークが描かれていた。そう、なんていうか、有明の海に浮かぶ国際的な展示場のシルエット。年二回のまんが祭りを筆頭に、様々なイベントが展開される聖地が、
『Let's costume play! お好きな服を選んでね♪』
 目の前に浮かぶダイアログ。カタログ的なそこには、
「なんで女性ものばかり!」
 制服、ナース服、体操服、魔法少女――いやちょっと待って。本来の服装が戻ってこないんですけど。
「受け入れろ古代。最近は男も魔法少女になる時代だ。いっそ揃えるか?」
「この流れだと、俺はマスコット枠かねえ?」
「じゃあケルベロスを名乗るか? 確かあったろ、そういうアニメが」
「悪くないが、俺が仕えるのはハデスじゃあないんでねえ。名乗るとしてもマカミだな」
 ミハイルとノーチェの選択が異様に早い。いい男がフリフリドレスを着ている絵面は精神的になかなかクるものがある。でもノーチェが狼姿のままなのは誰の趣味だ。すいません。
「ありのままを受け入れすぎじゃないか!?」
 というか基本的に連帯責任なのはどういうことなの。


 ミハイル・エッカートは絶望した。必ずかの邪知暴虐のダイスを除かねばならぬと決意した。
 ミハイルの目の前には緑色をしたナス科の果実が置かれている。実はトウガラシと同じ品種であり、甘い――辛くない果実という分類になるのだ。英語ではスウィートペッパーと呼ぶことからもそれが分かるだろう。
 近年ではカラフルで形が似ているパプリカなる食材もあるが、実は学術的な違いは曖昧なのだという。一般的に出回っているそれは未成熟な果実だからであり、成熟すると瑞々しい赤や黄色の実を付けるという。
 味は独特の苦みがあり、子供の嫌いな食材の筆頭とされる。70年代にはテレビのヒール的存在だった野球選手と相撲取りの名前と同列に並べられる程だった。昨今では研究が進み、その栄養価が高く評価され、苦みの少ない品種が開発されているという。

 まあ、要するに。

「これはなかなか。野菜の刺身というのは粋だねえ」
 何も知らない(ようやく人間の姿、ただし魔法少女コス)ノーチェはぽりぽりと美味しそうに食んでいる。
「……無理をする必要はないんだぞ」
 一方で古代は事情を理解しているため、そう声を掛ける。だがこの双六のルールは非情だ。『マス目の指示には絶対服従』。そうしなければ先へと進めない。

 ミハイルは絶望していた。
 目の前に並べられた、生ピーマンスティックに。これを全部食えと、ダイスの女神様はお導きになられた。ファッキン。
 果実一つ分なのは温情か。しかし臭いと見た目が既に吐き気を催すのだ。
 そう、致命的な『ピーマン嫌い』。子供っぽいと言うなかれ、大人になっても残った好き嫌い(トラウマ)は、早々拭えるものではない。
『がんばれがんばれ(はぁと) できるできる(はぁと)』
 ファンシーなうさぎさんとかえるさんによるチアリーディング。うるせえ黙れ。気合でなんとかなるならこの世にアレルギーは存在しない。
 しかも生というのがえげつない。せめて火を通していれば誤魔化しが効くものを、ケチャップやマヨネーズでディップ程度では気休めにもならない。

 十数分後、そこには見違えるほどに窶れたミハイルがテンションを著しく落としていた。



 地獄の双六と描写した。
 そう、その地獄の釜の蓋は、ゴール間近になって開いていたのだった。


「今時ぴたりじゃないとゴールじゃないのか!?」
 煮詰まっていた。
「うおお、一足りない……」
 妖怪が笑う。
「1/100ってそんな、ねえ……」
 ナンセンスギャグの行き着く先は、完全に苦行であった。

 アガリのマスは一つだけ。ぴったりの出目を出さないと上がれない仕様の双六だが、忘れるなかれ、使用しているのは百面ダイスである。
 もはやコマのネタも尽きた。
 コスプレ、シチュエーション再現、一発ギャグ、物真似、好き嫌いを無くしましょう、ゲームをクリアするまで帰れません、アフレコ体験、カラオケ、クイズ、リアクション芸――もはや恥も外聞もない。
 ありとあらゆる無茶振りに答え続けた勇者達に待ち受けるのは運試しであった。
 確率百分の一、時間制限なし、成功するまで試行しなければならない、ひたすらに時間と気力を消費するクソゲー状態。
「責任者はどこか! 責任者を出せ!」
 もはや誰の声かもどうでもよくなってくる。新しく振ってくるコマのネタ振りを、半ギレ状態で流して行く。今更全裸がどうだというのだ! むしろ服が邪魔まであるわ! まあどうやってもパンツは残るけどな!

 残るマス目が2と4と11かと思えば、72だったり91になる。33と4だったり、もうなんでもいいから早く出て。
 その願いが通じたのか、はたまた単なる理論値通りなのか。
「お、おお、おおお――――ッ!」
 ようやく。数えるのも飽きた試行回数の末、古代の出目がぴたりアガリを引き当てた。
 万感の思いを込めて、古代はアガリのマスを踏みしめる。ぱんぱかぱーんと安いファンファーレが鳴って、『WINNER GREEN!』と電光掲示板が煌めく。
「まさか全員上がらないと終わらないとかないよな!?」
「そういうのは野暮って言うんだ責任者!?」
 ミハイルとノーチェの悲鳴じみた叫びに、『だいじょーぶ、だよ』と青ざめた馬が走り抜ける。なんでここでホラーが入った。撃ち倒してやろうか。

『でも、罰ゲームはあるんだよ』と電光掲示板。
「いいから!」
「早く!」
「終われ!」

『ではご要望に応じまして』
 どうせ夢オチなのだからと誰かが言った。そもそもが漫画の神曰く禁じ手なのだから、ここでベタベタをぶちかまそうが文句はないよね? と誰かが言った。
 ぽちっとな、と音がした。


 どかーん。
 どこかで見たことのあるルーレット火山が爆発し、辺り一面は焦土と化した。


『爆発オチなんてサイテー!』
「自分で言うなァーッ!」
 ツッコミもそこそこに、男達は古式ゆかしい演出と共に煌めく星となる。そしてこの世界における撃退士座を刻んだとかなんとか。

 ちゃんちゃん。


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【jb1679 / 矢野 古代 / 男 / 39 / インフィルトレイター】
【jb0544 / ミハイル・エッカート / 男 / 31 / インフィルトレイター】
【jc0655 / ノーチェ=ソーンブラ / 男 / 27 / 鬼道忍軍】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 大変お待たせいたしました。そしてご発注ありがとうございました!
 夢の世界の不条理すごろく、折角なので徹底的に悪ふざけさせていただきました。
 また爆発オチか。『全裸と爆発はいつまで経っても色褪せない』と某K谷H史氏が言っていたと某S田T和氏が昔のラジオ言っていたので私は悪くねぇ。
 ご縁がありましたら、またよろしくお願いいたします。
■WTアナザーストーリーノベル(特別編)■ -
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エリュシオン
2016年05月30日

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