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『隠世ごっこ 』
鴻池柊ja1082


 そこな主夫さんどちらまで?





「――ふぅ。
 ここまで暖かい陽気になるとはな。酒や食材が温くなる前に急ぐか」

 というわけで(?)
 おいでませ骨董品店「春霞」――。

 時刻は正午。
 有名な銘柄の日本酒をたぷんたぷん、厳選した食材をゆらゆら、その振動を大きな掌にぶら提げて、鴻池 柊(ja1082)の足は目的地前で止まった。
 食材の重量を反対の掌へと移動させ、手提げの跡がついた指先で服の胸元を扇ぐ。汗ばんだ首筋に冷を起こして一息ついていると、女性特有の華やかな声音が玄関口から響いてきて、

 がらり。

 柊が羨望する彼の妹――桜香と、もう一人。その彼が暮らす家で居候をする彼女――御子神 凛月(jz0373)の姿が。

「二人共、外出か?」
「柊!」
「あら、こんにちは。兄さんから聞いたけど男子会するんだって? ダイナマさんならもう着いてるわよ」
「そうか。じゃあ、一刻も早く俺もお邪魔させてもらわないとな」

 彼の貞操よりも彼の命の為に。

「遅くなるなら気を付けてな。――そうだ。おばんざいとか作るから、台所借りるぞ。余ったら残しておくから」
「余ったらじゃなくて残しておきなさい」

 やや天上目線の“凛月様”はそう言うと、後ろ髪を引かれる面具合でちらちらと柊を振り返りながら桜香に連れられていった。彼女達の姿が曲がり角で見えなくなると、柊は眉を下げて「やれやれ」。
 吐息で笑んで、戸口の引き手に意識を掛けた。



 とんとんとん。
 とんとんとん、ぐつぐつぐつぐつ……とんとんとん。

 柊シェフによる三分クッキングが始まっております。
 揚げ出し豆腐。
 鯵の南蛮漬け。
 豚の西京漬け。
 明太子ちりめん、里芋煮、青海苔入りの卵焼き……etc。
 え? 三分じゃ出来ないって?
 ……足りない分は愛と気合いで補って下さい。
 尚、提供は藤宮 流架(jz0111)とダイナマ 伊藤(jz0126)となっているとかいないとか。

 その昔、家の中で女性が唯一自由に使えたという場所――自由=勝手、という意味の御勝手。その空間は今、大の男三人に占領されていた。

「――何でつまみ食いしてるんですか」
「いや、うめーわよコレ」
「アレクはともかく、流架先生まで」
「美味しいね、この里芋。味付けはなんだい?」
「ああ、それは白だしと――」
「鴻池。オレ、卵焼きもいーけどオムレツ食いてぇわ。生クリームたっぷり使ったヤツ」
「俺、三つ葉とちくわのおひたし」
「渋いわね、ルカ」
「お前が餓鬼なだけだろう」
「……すみません、俺は貴方達の嫁でも何でも無いんですが。つまみ食いを続けるのなら料理運んで下さい。特にアレク」
「え、オレ名指し?」
「……」
「……流架先生、バレてないと思ってます? 揚げ出し豆腐がっつりいきましたよね、今」
「Σ、」
「ほら、縁側で飲み食いするんでしょう? 早く手と足を動かして下さい。邪魔です」
「「えー」」
「オムレツとおひたし、食べたいんですよね?」

 合言葉は\Go to 縁側!!/
 現金な二人に呆れつつ、手許のフライパンを揺すりながら――ふと。

「(――なんだろうな……この主夫感。彼らと出会ってから板に付いてきているような)」

 もしくは、縁の“賜物”。





 さらさらさら、さら……。

 緑薫る風が抜けるのは、日本の原風景――縁側。
 もてなしの場として、寛ぎの場として、様々な用途で使用される縁側は、自然と心にゆとりを与えてくれる。

 りぃん、りぃん……。

 そして、季節を先取りした夏の風物詩――風鈴。
 香が肌に靡き、
 涼の音が耳へとそよいで、
 瞳に宿した想いを碧空へ馳せる。

 柊は仰いでいた織り色の名の双眸を緩慢に閉ざすと、ふぃ、と首を傾けた。そして、“視野”を正すような流れに委ねた動きは、ふっ、と止まる。睫毛を上げた先に映るのは、二人の“色”。
 煙草盆を傍らに、露骨な顰めっ面と気のない受け答えで紫煙を燻らす流架――そして、そんな彼の態度にココロ害するわけでもなく、猪口片手に響きの良い声音で笑うダイナマ。

 ――本当に、“平素”なとおりで。

 故に、今彩られている“当たり前な日常”。此れこそが“平穏”なのだと、柊は切に感じる。
 ここ暫く、矢継ぎ早に様々な出来事があったのは事実で。
 彼ら、凛月、そして柊や他の友人達が関わった事柄は実に複雑で、心の迷路を辿っているかのようであった。だが、

「(終わり良ければ――……だな)」

 ふと、柊の視線に向いた二人の面。
 意図を汲んだのか、其れとも意思を置いたのか。唯、彼らの表情は各々に応じて――柔和であった。

 収束の兆しは近い。

 柊は唇で薄い弧を描いた後、手許の酒を、くぃ、と飲み干す。
 さて、どんな物語の“ハジマリ”を見せてくれるのだろう――と、柊は自身の心音と想いが愉快そうに弾むのを自覚していた。










 癒しを目に。
 伝統的な日本庭園の美しさを感性の惣菜に、柊の手料理を身体の潤いに、そして、心にも酔いが咲いてきたということで。

 男子会、本領発揮の時間です。

「そういえば、前から聞いてみたかったんですが……」

 と、左な隣を窺えば、オムレツを頬張ったダイナマが次の言葉を待って柊を見ていた。手酌で口を満たす流架の双眸も心持ちな目笑で、先を促してくる。

 柊の唇が、み、と動いて、



「――今、ぱっと頭に浮かんだ異性にキスをするなら、身体の何処にしたいですか?」



 ぶーーーーーーーーーーーーーーーッッッッッ!!!!!

 Sake噴射。

「残念、ルカ。虹は架からなかったわ」

 ダイナマの呑気な声音に重なり、清酒な霧雨が輝きを帯びて地面の糧となった。
 口許を掌で覆いながら噎せる流架。発言がままならない彼を余所に、柊が平然と次いで流架の心を抉る。

「アレクは流架先生でも良いですよ」

 ――御免蒙るわッッ!!! by流架

「針千本並みの殺気が ビ ィ ッ シ ビ シ 伝わってくるから誰かは敢えて回答しねぇけど、まーオレは“唇”だわな」
「直球ですね。アレクらしいと云えばそうですが」
「だろ? そーゆーお前さんはどうなのよ」
「俺ですか? 俺は“足の甲”ですね」
「あら、意外だわ」
「そうですか?」
「跪いて頭を垂れるなんて、まるで隷属じゃ……、って、――あ、なんか聞いたことあんなぁ。確か、」
「ええ、22の部位のキス――ですね。部位ごとにちゃんと意味が存在するらしいですよ。“唇”には“愛情”、“足の甲”には“隷属”。――で、流架先生は何処なんです?」

 話題の対象が移り変わった人物の口は、いつの間にか引き結ばれていた。だが、半ば呆け気味に斜めを仰いでいた面が途端に渋面を宿したものだから、つい――“突きたくなる”のが性(さが)で。

 ちんもく。
 ちんもく……。
 ちんもく…………。

 ――――少々お待ち下さい。





「……………………………………“首筋”?」

 なんで疑問形。
 独り言のような抑えた声量が、ぽつり、流架の唇から零れた。

「首、ですか?」

 頬を傾けた柊が、両脚に腕をかけた前屈みの姿勢をとって彼の様子を窺う。
 ダイナマが平素の表情で流架の猪口へ酒を足すが、流架は新しい酒には口をつけないまま、代わりに煙管の煙草を詰め替えた。一息、ほわ、と紫煙をふかす。しかし、返答の“口”は貝のように閉ざしたままであった。

 いつにない彼の切れ味の悪さに不自然を覚えながら、柊自身も手にしていた煙管に視線を落とす。煙が立たなくなった煙管を煙草盆の灰吹きで軽く叩きながら、目を細くして次いだ。

「――やはり、面白いですね。キスで伝える感情というのも。口付ける相手への隠された気持ちや、自分でも気付かない想いを窺い知ることも出来るでしょうし」
「まぁな。だがよ、場合によっちゃ狂気と紙一重みてーなもんだぜ?」
「へぇ、今度は俺が意外です。経験者は語る、ですか?」
「そいつぁトップシークレット、ってコトで。――で、柊は誰を想像したんよ」
「それこそ秘密事項ですね。流架先生は――って、流架先生? もう潰れたんですか?」

 柊の言と視線にダイナマが首を捻って追うと、目尻を桜色に染めた流架が柱に寄りかかり、しどけない様子で。

「……お黙り。ワクの君らと一緒にしないでおくれ」

 程度の低い歌を詠むような口振りで反論すると、すぅ――浅く息をついて、流架は首を傾けるように俯いた。長い前髪が彼の面に影を差し、邪魔をするなと物語ってくる。

 そんな彼の姿が、柊には“しおらしく”感じとれて。
 口許に人の悪い心の浮きを宿し、柊はくいっと猪口を呷った。

 ――。

 と、そろり。
 文字通り、流架に忍び寄る魔の手。

「……アレク」

 僅かに窘める声音で彼を呼び止めるが、無防備な獲物を目の前にした獣に理性など利くワケもなく――、

「ごっつぁんです!!!」

 その掛け声(?)と同時に全身で跳躍したダイナマの身体は、瞬きの間に急旋回――又の名をトルネードして、庭の苔と土を全身コーティングし(ry 

 ずっっっしゃああああああぁぁぁぁっっっ!!!!!

 ――これも安定な一面で。

「だからやめておいた方がいいって言ったじゃないですか。右ブローだけで済んで良かったですね」
「…………ぃ、…………いってねぇじゃねぇか…………」
「……。だからやめておいた方がいいって今言ったじゃないですか」

 そう、平然と言ってのける柊。

 蒼穹にのぼってゆく紫煙。
 それを追って目に入る色が、今日も美しくて。雲が動くのを何とはなしに眺めて、柊の横顔がゆるりと瞬いた。

「“首筋”へのキスの意味……知っていますか? 嫌われたくない、離したくないという想いが込められているそうですよ。





 貴方の“執着”は一体誰に届くんでしょうね?」

 風に乗って薫るのは、未来の花の匂い。
 彼の前髪が翳に揺れた。


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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ja1082 / 鴻池 柊 / 男 / 24 / 足の甲を伝う隷属な皇帝】
【jz0111 / 藤宮 流架 / 男 / 26 / 首筋に見る執着な隠者】
【jz0126 / ダイナマ 伊藤 / 男 / 30 / 唇へ挿す愛情な太陽】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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愁水です。
平素よりお世話になっております。

野郎達の男子会!
ということで、柊様には主夫って頂きました。主婦はどちらですって?それは極秘事項です(
彼らだけの空間はとても新鮮でした。空気も大人の香りがし、真面目とコメディな描写に気を付けて書かせて頂いた次第です。
ちゅーの部位、面白いですよね(

それでは、此度も素敵なご縁をありがとうございました!
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エリュシオン
2016年05月31日

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