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『真夜中の遭遇戦。 』
緋茉莉 ゆかりaa2534

 プロローグ

『緋茉莉 ゆかり(aa2534)』は巫女さんである。
 その手の家系の次女に生まれ。花も恥じらう高校生。背が小さめでそれがちょっとコンプレックスの女の子。
 そんな彼女が夜道に買い物袋を提げて実家の神社まで帰っている途中に職務質問を受けたところから話は始まる。

第一章 宿敵その名は……

「ち、違います、あたし中学生じゃない。え。身分証明書? 持ってない、そんなのコンビニに行くだけなのに持ち歩かないでしょ!」
 深夜、家から徒歩五分のコンビにに出かけたゆかりは近所を巡回中の警官、つまりおまわりさんに囲まれていた。
 乗っていた自転車を止められ、逃げ場をふさがれ。非行少女と間違われ涙目になるその姿は大変哀れだったが、それも仕方のないことだろう。
 何せ、妹と並んだら妹の方が年上とみられてしまうほどに外見年齢は幼い。
 なので半ばあきらめの気持ちでゆかりは、次からは学生証をちゃんと携帯しよう、そう思って親に電話をかけようとしていた。
 しかしその時。突如、スタスタスタと夜道を足早にかける音が聞こえてきた。
 何事かと全員がその姿を振り返った直後。
 その影は突如跳躍。
 音もなく飛来し、そして。
「だたっしゃああああ! このだぼがあああああ!」
「えええええええええ!」
 警官一人を殴り飛ばした。
「ちょっと! え! えええ!!」
 ゆかりは開いた口がふさがらない、ふさがらない口をどうにかしようともがいているうちに、あっという間にもう一人の警官も倒されてしまう。
「また、よえぇ奴をこの手にかけちまったぜ」
「ちょ! ちょっと! このタイミングでのしちゃったら、あたしが倒したと思われるじゃないの!」
 そう警官に駆け寄りゆかりは抱き起す、しかし警官の意識はない。でも息はある、よかった死んでない。
 そう生存確認をとり、再びその不審人物を見やった。
「へ、変態だ!」
 ゆかりは本日何度目かの叫びをあげる、いい加減ご近所迷惑だがそんなものは気にしていられない。
 何せ目の前の青年は、盛り上がる筋肉を隠そうともしないパンツ一丁のタフガイで、頭に細い紐を巻きつけて、ギュッと止めている、少年漫画に出てきそうな出で立ちをしていた。
「ひ、ひぃ何者だお前」
「手加減したとは言え、まだ息があったのか、お前」
 そう情けない声を駆けたのは二撃目でのされたはずの警官だった。
 その警官は銃を青年に向け、トリガに指をかける。
「まって、それは!」
 震える指はあやまってトリガを引いてしまい、そして、その銃弾は青年の鋼のような胸筋にはじかれる。
 そこでゆかり考えた。
「従魔ね、貴方」
 灰色の脳細胞にぴんときた。間違いない、この変態さんは従魔だ。
 そしてこの変態具合、従魔なら納得である。
「ご明察だ。あんた、ただもんじゃねぇな」
「あたしは緋茉莉ゆかりよろしくね」
「いや、俺は女の名前は覚えねぇことにしてる」
「なんで?」
 その問いかけは聞き飽きたとばかりに従魔は笑った。
「弱いから」
 ほう、と少し面白くない気がするゆかり。
「女ってのはさ、体が弱くて、筋肉が付かなくて、一か月に一回必ず腹が痛くなって、だめだね、ダメダメだ。俺は強い相手と戦いてぇ。だからこいつらに殴り掛かったんだけどよ。あの一撃くらい軽くいなしてくれなきゃな」
 そう吐き捨て従魔は一礼。そして踵を返した。
「ああ、嬢ちゃん警官の後始末よろしくな。じゃあ、俺は強い奴を探しに行くぜ」

「まって、あたしを譲ちゃんって呼んだわね」

 ゆかりからあふれ出る霊力。
「あたしを子供扱いしたわね」
(いや、別にそう言うわけじゃないんだけどな……)
 だが、ゆかりは別にその言葉だけに反応したわけではない。
 目の前で実際に被害が出たまま見過ごすことはできない、というのもあるし。
 何よりバカにされたまま、はいそうですかと帰るわけにもいかない。
「あたしなら、あなたの攻撃見切れる」
「ほう言ったな?」
 従魔は不敵にわらい、そのほとばしる霊力を心地よさ気に受けて見せた。
「俺の名は、ハント。ゆかり。さっそくやろうぜ、俺の拳がうずいて仕方がねぇや」
「待ってよ、そう焦らないで」
 ここで争えば、また第二第三のお巡りさんが出かねない。
 なのでゆかりは落ち着いて戦える場所にハント(NPC)を案内することに決めた。
「ちょうどいい舞台があるわ」

第二章 戦いのゴングがなる。

 何度も言うようだがゆかりは巫女の家系である。それ故に彼女の家には大きな社やら境内があるが。
 ゆかりはなぜかそこで戦おうと思ったらしく。彼を家に連れこんだ。
「さぁ、入って」
「大丈夫なのか?」
「うちの親は自慢じゃないけど」
 そしてゆかりは買ったものを境内の端っこに投げ捨て身軽な格好になっていった。
「雷が社に落ちても起きない」
 それはそれで問題ではあるが、心配する必要もなさそうだ。
「おいリンカー。お前武装はねぇのか」
「君が拳一つ、身一つだというのなら、あたしも同じ条件で戦うわ」
「そうかい」
 そう二人はお互いの拳が、一歩踏み込めば届く距離で見合った。
 ハントの顔を見上げるゆかり、相手の身長はおそらく180センチ。対して自分は150。筋力的にも、体格的にも不利。
 そうなると立ち技系の武術体格でほとんど実力が決まってしまう。
 はたして本当に倒せるのか。自分に。
 そんな不安がゆかりに一瞬の怯えをもたらした。
 しかし、自分の弱さに負けるゆかりではない。
「いかねぇなら、こっちから行くぞこら!」
 先に動いたのはハント。その拳が唸るような速度で伸びてくる。
 それをゆかりは必死にかわした。
「ほう」
 ゆかりは自分の小柄さと素早さを生かし懐へ。カウンターのパンチを決める。
 そして即座に飛びずさる。
 もともとゆかりがいた場所をハントの腕が通過していた。
「一度うったら攻撃圏外に逃げるか。戦い方をしってるなぁお前」
「お前じゃない、ゆかりだ!」
 そしてゆかりは地面をける。ジグザグに跳ねまわり。その二つの眼から逃れようと動く。
(拳でダメなら、その四倍の威力で)
 つまりは足。一般的に腕の四倍の力が出せると言われているが、そのキックはハントの膝ガードで防がれる。
「くっ……」
 じんと痛む膝。そしてにやりと笑うハント。足を攻撃に使ったことによってすぐに移動に移れないのだ。
「ブットべ!」
 ハントのえぐるような突き。それをゆかりは両腕でガードする。
 あえて地面を離し、拳の加速度を移動に利用、すこし後退したところで両足を地面につけて、また境内を走り回る。
 幸いなことに、速度でゆかりは勝っていた。そして動体視力でも。
 現にハントはゆかりの全力駆動を目で追えていない。
 しかし、攻撃力と防御力は相手の方がはるかに高かった。
 何度当てても、攻撃がきいている気配がない。対してこちらは相手の反撃がかすっただけでも。骨に残るような苦痛を味わうことになる。
 さらに、徐々に息が上がってきた。
 今の速度を維持できなくなったとき。
 その時がゆかりの敗北の時。
「おい、ゆかり」
「なによ」
 ゆかりはだから賭けに出た。 
 顔面回し蹴りからの両足を太ももで固定。そこから全体重を乗せて相手を引き倒し。頭をぼこ殴りにする。
 プロレス技へと目標をシフトした直後。ハントは不敵なことをつぶやいた。
「甘いな、俺はキックの鬼でもあるんだぜ」
 その瞬間、閃くハントの蹴り。それは腰を入れることによってさらに伸び、つま先を伸ばすことによってさらに飛距離が伸び。
 ゆかりにはまるで蛇がこちらに伸びてきたように見えた。
 その蹴りを空中で受けたゆかりは、まるで水切りの石のように硬い床の上をバウンドし。そして柵に突っ込む。
 ゆかりは口から血を吐いた。 
 視界が明滅し、前後左右もわからなくなる。
 そのゆかりにハントはゆっくりと歩み寄った。
「この程度か?」
 返事をしようとゆかりは口を開く、しかし、それはうめき声となるばかりで人語とならない。
 もしかしたらアバラが折れているのだろうか。息をする度に、じんと胸が痛む。心なしか呼吸に合わせてパキパキという音すらする。
「おい、もう終わりか?」
 違う、終わっていない、ゆかりは首を振る。
「…………よ」
「なんだって?」
 まだ終わっていない、だってだって。
「まだ、負けてない」
「何言ってんだよ、骨折れてるぜ、絶対」
「それじゃ負けたことにならない」
 そうゆかりはハントに笑って見せた。
「ああ、そうかい。だったらいいぜ殺してやる。お前は確かに強かった、来世で会おうぜ」
 そう脇を閉め引き絞った拳、それをハントは真っ直ぐ。ゆかりに突き立てようとした。
 しかし。
「いったよね?」

「私なら、かわせるって」

 その拳をゆかりはすれすれのところで転がって回避。
 そして石畳に突き刺さる。
「なに!」
 石畳にはまってしまった拳を抜こうと力を入れてもうまく外れない。
 そのわずかな隙を狙ってゆかりは動いた。
「はぁ!」
 まず顔面に膝蹴り、そしてそのまま膝を折った状態で着地、逆の足でハントの足を払い伸び上がって肘鉄を入れる。
「ごは!」
 そのまま倒れ込んだハントの後頭部へ踵落とし。
 その衝撃で境内の石畳に、ひびが入った。
「ぐおおおおお、えげつないことしやがる」
「まだしゃべれるの?」
 上がった息を整えながらゆかりは言った。
「喋れるが、しまいだ」
 そう言うとハントの体から光の粒が立ち上り始めた。
「君、消えるの?」
「ああ、最後にゆかりみたいに強い奴と戦えて楽しかったぜ」
 そう微笑んで消えた、暑苦しい男、ハント。
 その好敵手は石畳に刻まれた傷を残して消えてしまった。

エピローグ

 その戦闘のあった日は、肋骨が痛かったが共鳴状態でしばらくいると怪我は治ったようなので、ゆかりは普通に眠りについた。
 後日、境内に開いた穴のおかげで、神がどうとか、怒りがどうとか、一悶着あったようだが。
 それはまた別のおはなし。


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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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『緋茉莉 ゆかり(aa2534)』
『ハント(NPC)』
ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 どうもこんばんは、おそらくは初めまして、鳴海です。
 この度はOMCご注文ありがとうございました。
 可愛い女の子と、暑苦しいマッチョメンの戦闘描写、楽しんでいただけたら幸いです。
 鳴海は戦闘シーンがとても好きなので、ねっとりしがちで、今回も字数大目になってしまったことご容赦ください。
 また、もしキャラクターのイメージが違う、このキャラクターがしないようなことをしているなど、描写ミスがありましたらお気軽にお申し付けください。
 そして今回はおまけもご注文いただいているんですよね。ありがとうございます。
 次はそちらでお会いしましょう。
 ありがとうございました、鳴海でした。
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2016年06月01日

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