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『お掃除物語 』
詩乃aa2951hero001)&宮ヶ匁 蛍丸aa2951

第一章 戦いはこうして始まる

 とある休日の昼下がり。黒金邸。
『詩乃(aa2951hero001)』は割烹着に三角巾。そして箒といういでたちで『黒金 蛍丸(aa2951)』の部屋にいる。
「これは……」
 詩乃はあたりを見渡す、綺麗に片付けられた部屋、蛍丸の几帳面な性格の通り、想像に容易かった光景ではあるが。
 この中に詩乃はわずかな欺瞞が混じっているのを見分けていた。
「隠し事の匂いがします……」
 きゅぴーんと詩乃の目が光る。

 ことの発端はせっかくの休日、大掃除でもしようかと詩乃が張り切り出したところから始まる。
 居間や廊下の雑巾がけから始まり普段使わないものの整理などを行っていた詩乃、それがひと段落し、次はどこの掃除をしようかと考えていると蛍丸が現れた。
「せっかくの休みだから、好きに過ごしていいんですよ?」
 呆れがちにそう言った蛍丸は少しおしゃれをしていた。たぶんどこかに出かけるのだろう。
「いえ、普段お世話になっているのですから、私が掃除しないと」
 そう、詩乃は普段のお礼もかねて今日この日掃除をすることに決めたのだが、こんなにあっさり終わってしまうとなんだか物足りない気もする。
「次は蛍丸様のお部屋ですかね」 
 詩乃はおもむろにそう言った。
「え! 僕の? 綺麗だから掃除するところなんてないですよ」
 そっぽを向きながら頬をかく蛍丸。
「この際だから棚の後ろや、窓の桟や、普段手入をしないところも掃除しましょう」
「いえ、その必要はありません」
「では、綺麗だったら掃除はしません」
「うーん」
 蛍丸は詩乃を見つめる。
「お役に立てればと……」
 そう屈託のない表情で蛍丸に言う詩乃であるが。
 蛍丸はとある理由があって詩乃を自分の部屋に入れたくない。しかしこのまま拒否するのもまた不自然ではなかろうか?
 そう試案を巡らせた結果。蛍丸はその申し出を断る理由が思いつかないまま、用事があったことを思いだした。
「ああ、もうこんな時間だ……。早くいかないと……」
「どこに行かれるんですか?」
「ちょっと本を買いに、あとは人に会いに」
「気を付けてくださいね。何時ごろにお戻りですか?」
「詳しくはわからないけど……。夕方ごろに。夜までには帰ります」
 行ってらっしゃいませー
 そう、そよそよと詩乃は手を振って蛍丸を見送った。
 蛍丸は蛍丸で、大丈夫大丈夫と、何か自分を落ち着かせるように胸に手を当て、道を駆けて行った。


第二章 ハイドアンドシーク

 そして冒頭に話は戻る。詩乃はまず机や本棚など目立つところに埃がないかチェックしていった。
「見事です、蛍丸様」
 詩乃は埃ひとつない、完璧な掃除具合に感嘆の声を漏らす。
 では次に、普段目につかない場所はどうだろう。そう詩乃は蛍丸のベッドの下に視線を移した。

 その時蛍丸の背中に悪寒が走った。

「これは……。ついに詩乃はその部分に触れてしまいましたか」
 喫茶店で珈琲を飲みながら本を読んでいた蛍丸は。本を閉じて手を組む。
 それで口元をかくし、思考を巡らせた。
 そう、抜かりはない。万が一にも抜かりは。ないはず。
(大丈夫です、僕のカモフラージュは完璧です。見つけることなんてできません)
 見つけることができない。
 それは、それは、いったい何がですか。蛍丸さん。
 なぜだろう、そんな声が蛍丸の脳内にこだました。
(それは男の子ならだれでも持っている宝物、詩乃にはボクが隠した秘蔵書なんて見つけられるはずがありません!)
 そう、蛍丸も健全な男子である。
 残念ながら持っている。
 蛍丸はエッチな本を当然のごとく持っている。
 草食系男子は持っていない気がしていましたか? 全国の女性の方々。
 違います、持っているのです、男子は皆120%の確率で、持っているのです。
 それ故に男子すべてに共通した悩みが、その手の本の隠し場所。
 だがしかし、蛍丸はそのあたりも抜かりなく、完璧に誰にとっても見つけがたい場所、というものが蛍丸にはあるのです。
(詩乃には見つけることはできません。まず第一のカモフラージュとして、別の本のカバーがかぶさっているためです)
 詩乃は蛍丸の持っている本にはあまり興味を示そうとしない、その性質を利用し、面白くもない題名の背表紙があれば、一気に発見の危険性は低くなる。
 誰にでもわかる相対性理論とか書かれていれば詩乃は気にも留めない。なのでそのまま掃除を続行するはず。
(そしてその本はブックケースにぴったりと収まっています。さらに刊行順も、気を利かして直されないように、きちんと並べてあります)
 ここまでくればスルーしない方がおかしいというもの。
 完璧、完璧である。
 そう蛍丸は安心して珈琲を口に含んだ。
 
 ちょうどそのころ詩乃は

「あれ? でもこんなに綺麗なブックケースがベットの下にあるなんておかしいですね」
 ベッドの下にあるブックケースを発見していた。
「これはどこかに戻したほうがいいのでしょうか。でも本棚に空きがない……」
 詩乃の手の中でもてあそばれるブックケース。
 この光景を蛍丸が見たら冷や汗が止まらないだろう。
 ちなみに、あのブックケースの中に入っている、男の子の宝物は三冊。
 二巻から四巻にエロ本たちは化けている。
「本棚の整理から始めましょうか、ん? おやあれはなんでしょうか」
 ベットの下を四つん這いになって探していた詩乃は奥の方に紙屑が落ちているのを発見する。
 それを精一杯手を伸ばしてとると。それは本の帯だった。
「めがねっこの、らくえん? 知的な魅力。えっちなおべんきょう?」
 詩乃はその帯に描かれている単語がいまいちわからない。純情少女である。蛍丸は命拾いをした。
「なんですかこれ」
 その意味が分からず、ごみ箱の中にぽいと捨ててしまう詩乃。
(でも、帯とは本の内容を、買い手にわかりやすく伝えるために巻かれている物ですよね?)
 詩乃はなんとなしに机の上に乗せたブックケースを見つめた。
 
 ……。
 …………。
 ………………。

 まるで時が止まったかのように詩乃は動かない、ブックケースと詩乃の間に緊張した空気が流れた。
 そしてたっぷり30秒考えたのちに、詩乃はがしっとブックカバーを抱き寄せて、そして相対性理論三巻を抜き取るべく力を入れる。
「硬い、硬いです。外れない、むむむむ」
 スポンと軽快な音がして、それが抜けると。勢い余って本はとある一ページが開かれたままベットに着地。
「こ、これは!」
 詩乃は思わず口に手を当てた。
「そんな! 蛍丸様!」
 ああ、悲しきかな、本というものは折れ目が付くもので、折れ目が付くのは頻繁に見るページで。無造作に本を開こうとすると、その折り目のついたページが開かれやすくなるのは道理で。
 そこに広がっていたのは、メガネの女性があられもない姿で写りこんでいる場面だった。 
「きゃあああああああああ!!」
 絹を裂くような、うら若き少女の悲鳴が黒金邸にこだまする。
 本に枕をかぶせる詩乃。
 息を整えながら詩乃は考える、今のはいったいなんだろう。
 メガネ。肌色の方が多かった女性の姿。
 これを、蛍丸がもっている?
 いや、そんな馬鹿な、そんなわけは、きっと何かの見間違い。
 そう少し枕をどけてみると、やっぱり見間違いじゃない。
 また、枕で蓋をしてみる。
「蛍丸様が、こんな……」
 こんな物を持っていることは衝撃的だったが、だがこれはチャンスなのではないかと詩乃は思い始めた。
 蛍丸の好みを知ることによって、それに近づき、そして、やがては、きっと。
「であれば、これもお勉強」
 決して詩乃自身が興味があるわけではない、断じてない。
 これはあくまでも蛍丸研究の一環。
 そう拳を握りしめて詩乃は枕をどけた。
 その紙面上には未知の光景が広がっている。
「これ、恥ずかしくないのでしょうか」
 ぺらぺらと紙をめくる音が、無音の部屋に響く。
 詩乃は何ページか本を開いていて気が付いた。この本に載っている女性たちにはある特徴がある。
 メガネ、ということは明白だが、もう一つだけあった。
「これ、ここに写っている女性全て、胸が、大きいじゃないですか!」
 再び衝撃を受ける詩乃。
「あああ、蛍丸様はこういう女性が好みなんですね」
 へたり込んで自分の胸に手を当てる詩乃。
「ううう、うー」
 涙目で項垂れる詩乃。
 今日はもう疲れた、と謎の脱力感に支配され動けなくなってしまった。
(英雄とは成長するのでしょうか)
 そんなことばかり考えながら雑誌を見つめていると、聡い子詩乃は気が付かなくてもいいことにまた、気が付いてしまう。
「ひょっとして、蛍丸様は、巨乳でメガネの女性がすき?」
 しかもここにいる女性たちは皆お姉さん的雰囲気を纏わせている。
 メガネ、知的、巨乳、お姉さん。
 この条件を満たす女性を、詩乃は一人しか知らなかった。
「まさか、蛍丸様の好きな女性は……。ロクトさん?」
 ちなみに、『ロクト(az0026hero001)』はグロリア社にいる時はメガネをかけている。
 豆知識である。
「そんな…………。勝てる気がしない。大人の魅力にやられてしまったんですね……」
 更なる衝撃に布団に突っ伏してしまう詩乃だったが、突然のチャイムの音に驚き顔を上げる。
「詩乃、カギをあけてください」
「え! 蛍丸様! 夕方まで帰ってこないって言ってたのに」
 突如蛍丸の帰宅にあわてて本を元通り戻し玄関まで迎えに行くと詩乃は扉を開けた。
(あれ? 鍵かかってない?)
「ただいま、詩乃」
「おかえりなさい蛍丸様。お早いですね」
「はい、予定がなくなってしまって」
 実のところは予定をキャンセルして帰ってきたのだ。涼しい顔をしながらも額に汗をかいているので走って帰ってきたのだろう。
「何か異常はありませんでしたか?」
「え? あ、何も、何もないです!」
 そう、蛍丸は一つ忘れていたのだ。昨日詩乃が自分の部屋にやってきたときにあわてて隠した、宝物が、きちんと元の場所に戻されていなかったこと。
「というわけで、あとの片づけは僕がやります」
「あ、はい、では私は別のところを掃除しに……」
 なんだかお互いの間に気まずい雰囲気が漂っているのをお互いが気にしつつ。
 その空気を引きずったまま、蛍丸は自分の部屋の戸を開けると。
 自分が出る前とあまり変わらない様相の自室に胸をなでおろす。
「ちなみに、詩乃。本棚の上に……」
 その時だった、蛍丸の耳に詩乃が大きく空気を吸い込む音が聞こえた。
「蛍丸様はロクトさんのことが好きなんですか!」
 そして詩乃が上ずった声でそう言った。
 蛍丸が振り返ると顔を真っ赤にした詩乃が拳を握りしめたポーズのまま固まっている。
「え?」
 あまりに突拍子もないセリフに蛍丸は思考が停止する。
「これ、見たんです! この、この本」
 詩乃の手の中にあったのはブックケース。そしてそれに収められた本を取り出そうともがく詩乃。
 しかし本はさっきよりもぎちぎちに詰め込まれており、一筋縄では抜けない。
「あれ、おかしいです、えっと」
 それをひやひやしながら眺めている蛍丸。
「抜けないなら、無理しなくても」
 そして蛍丸は、中身を観ましたか? と言ってもいいのか悪いのかを考え始める。
「蛍丸様、私見たんですからね」
「え!」
 あ、終わったばという謎の脱力感が蛍丸を支配した、その直後。
 スポンと本はぬけ、勢い余って詩乃は後ろの本棚に倒れていってしまう。
「危ないですよ」
 それを蛍丸は抱き留めた。詩乃が痛くないように本棚との間に体を滑り込ませ、手の甲が本棚にぶつからないように右手を沿えて。
 しかし勢いを殺し切れずに蛍丸は本棚にぶつかってしまったのだが……
「大丈夫……ですか?」
 詩乃は気づく、これではまるで自分が抱き留められているみたいではないか。
「きゃああああああ!」
 顔が近い、ちかいちかい。そんな心の声がこだまして詩乃は今日何度目かのパニックを起こす。
「ちょっと待ってください、暴れないで。詩乃、危ない」
 がたがたと部屋全体が揺れるほどに詩乃は暴れる。
「離して、蛍丸様ぁぁぁ」
「だったらまず落ち着いて」
 その時である。本棚の上から、ばさりと一冊の本が降ってきた。
 青ざめる蛍丸。これはまずい。
 そもそもこの本を隠すのを忘れていて戻ってきたことを、すっかり忘れていた。
「またですか!」
 詩乃は反射的に叫んだ。
 そこに写りこんでいたのは、あられもない女性の写真。
「違います、これは、これは……。そう、いわば教材です!」
「嘘です! 不健全です! ひどいです。全部処分しましょう!」
「え! それは!」
 詩乃は蛍丸の拘束を振りほどき、その本を手に取る。
 しかしそこには先ほど詩乃が見た女性とは別のタイプの女性が写っていた。
 どこか、癒し系のおっとりした感じの女の子の本。
 その本をあわてて奪いとる蛍丸。
「これは、その、えっと……」
 詩乃は思った、どことなく自分に似ている気がする。
 その時詩乃の中にあったささくれ立った感情が、スッと収まっていくのを感じた。
「蛍丸様」
「え、あ、はい。何でしょう」
「今日はこれくらいにしておきましょう、掃除」
「え?」
 さっきまでの怒りはどこへやら、詩乃は落ち着いた様子で本を机に置き三角巾を解いた。
 美しい髪が流れるように、解放された。
「ご飯の準備をしましょう、手伝ってくださいませんか蛍丸様」
 なぜ? そうはてなマークを浮かべる蛍丸であったが、ここで下手につついて蛇が出てもかなわない、大人しく詩乃に従うことにした。
「え、はい、いいですよ、詩乃がいいなら」
 そう二人は仲良く台所へ向かう。
 今日は何にしようかなんて笑いながら、相談しながら。

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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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『詩乃(aa2951hero001)』
『黒金 蛍丸(aa2951) 』
『ロクト(az0026hero001)』

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 納品が遅れてしまい申し訳ありません、鳴海です!
 この度はOMCご注文ありがとうございます。
 今回は日常風景ということで、二人のおちゃめな一面を描けたらなぁと思い物語にしました。
 普段から仲のよさそうな二人の一面に少しでも触れられていたら、幸いです。
 そしてお気遣いありがとうございます。
 鳴海は自由にやらせていただくのも楽しいので、今回も楽しんで書かせていただきました。
 今後蛍丸さんが、どのような選択をするのが楽しみです。
 では、本編が長くなってしまったのでこれくらいに。
 鳴海でした、ありがとうございました。
 またお会いしましょう。
 
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2016年06月03日

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